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告白、これから

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 ミゼル王子が密やかに笑った気配がする。

「申し訳、ございません」

「謝らないでください。結婚式の時からずっとあなたが対応していると解っていたのに、言わなかった私も意地が悪い」

 姫の為、とはいえ長く欺いていた事実は変わらない。
 しかしミゼル王子ははじめから私が成り代わっていたことを知っていて、逢瀬を続けていたことになる。
 どうして、はじめに糾弾されなかったのだろうか。

「私はね、スフィア。きみと話がしたかったんだ」

 どうか、顔を上げて。
 そう促されて、見上げたミゼル王子の顔には、柔らかい笑みが浮かべられていた。

「私は、“見破りスルー”が勝手に発動してしまうために、幼い頃から、見たくなくても人の建前と本音が見えた。良い顔をしている裏で、悪巧みをする人間ばかりに触れて、人を信頼する意味を見失っていた。見えなくて良いことばかり見えてしまう、このスキルがあることを何度呪ったことか」

 否応無しに人の心の中が見えてしまうのは、どれ程つらいことだろうか。
 ましてや王族であれば、若くとも様々な陰謀や策略に巻き込まれることが一度や二度では済まされなかっただろう。
 美しいエルフの王子の瞳の中に、悲しみが見えた気がしてツンと胸が痛む。
 しかし、私の目を見て王子はくすりと小さく笑った。

「スフィア。きみは優しいね。幼い頃から諜報や暗殺を生業としていたと言うのに、どうしてそんなに真っ直ぐでいられるのかな。リヒリトルできみを見たときは鮮烈だった。“全員助ける”そう強く心に念じていて、私の心まで動かされた」

「勿体ないお言葉です……」

 ミゼル王子の手のひらに頬を触れられて、ドクリと心臓が大きく跳ねた。

「きみの心は清らかで、安心してそばにいられる。君のそばにいると、とても心地良かった。逢瀬を重ねてそれが良くわかった」

「そんな……」

 何だか、告白を受けているようで頬に熱が集まる。勘違いだと解っているのに。

「私はどんな罰でもお受けします」

 たとえ寛大なミゼル王子が許しても、ラディナの姫が影武者と入れ替わって王子をずっと欺いていたことをグルニア国民はよく思わないだろう。そう思って進言した。
 しかしミゼル王子は私の発言を聞いて少し吹き出した。

「罰……罰か……困ったな」

 笑った時に目尻に浮かんだ涙を指で拭って、ミゼル王子が思案する。
 そして視線を巡らせた後、それなら、と私に片目を瞑って見せた。

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