90 / 100
パーティ・パーティ
しおりを挟む
「いや、入りたくはない、かな」
前回の依頼は、ルシッドの無理やりの勧誘で同行しただけなのだ。その事はここにいる皆にも説明している。というよりもあの時はここにいる面々に背中を押されて、あのパーティーに同行することにしたのだ。
「あの時は私が無理に勧めちゃったからね」
トヨケが少ししゅんとした面持ちで言った。
オレがリッチに遭遇したことを気に病んでいるのだろう。
「そりゃあ仕方ないさ。女としちゃ、旦那になる男の出世を望むのは普通ってもんだろ」
ハンガクが言い放った途端に、うつむき加減だったトヨケの顔が赤く染まる。
「やめとけよ、ハンガク」
オレは思わず言った。
ハンガクなりに場を和ませようとしているのだろうけど、これじゃ逆効果だ。
まるでお詫びにオレと結婚しろと要求しているように感じられて、いたたまれない気持ちになる。これに乗っかれるほど図太くも悪どくもないのだ。
保存食を多く扱うトヨケの店に来る客の大半は冒険者だ。そして誰にでも分け隔てなく親切に接するトヨケに惚れている野郎は多い。笑顔で糧食の相談に乗ってくれて、依頼や冒険の心配までしてくれるトヨケに、みんな良妻や賢母を見るのだろう。中には自分にだけ優しくしてくれると勘違いしているヤツもいるだろうし。
かく言うオレ自身がそういうやつらの一人なのだ。だからこそ勘違いしないようにと、日々自制を重ねているのだ。
「たしかにトヨケは、オレのことを思ってルシッドのとこに入るのを勧めてくれたんだろう。でもトヨケが親切なのはみんなに対してだ。いくらオレだってそんなことで勘違いしたりしないぜ」
あれ、なんだろう。言っていて涙が流れそうになってきた。
「そうですよハンガクさん。その言い方はトヨケさんが否定しづらいですよ。
そうするとまるで、怖い目にあったカズさんが、アドバイスしたトヨケさんの引け目に付け込んで卑劣に結婚を迫っているような卑劣な状況みたいに見えてしまいます。いくらカズさんだってそんなことはしませんよ」
おっとりとした口調で紡がれるツルの言葉がなかなかひどい。そのまるで雪の妖精のような清楚な見た目とは裏腹に、傷口に塩を塗るというか水に落ちた犬を打つというか死体を蹴るというかそういうことを無自覚でやるところがあるらしい。一番質の悪いやつだ。
「そ、そうだ。いくらオレでもそんなことはしないぜ」
しぼり出すように何とか言った。
複雑そうな顔をしたが、ハンガクは何も言わなかった。
肝心のトヨケがどんな顔をしているのか、怖くてオレは見ることができなかった。
「でも疾風の剣に入る気がないのでしたら、私たちと一緒にくればいいんじゃありませんか?」
ツルがにっこりと笑った。
「私たちとってどういうことだ?」
「だから、私たちのパーティーと一緒にシージニアに行きませんか?」
「ん? ツルもシージニアに行くのか?」
「もちろんです」
「シージニアに行くのはハンガクだけじゃないのか?」
「そりゃパーティーリーダーのあたしが行くんだから、みんな行くに決まってるだろ」
「って、ことはトヨケも?」
オレが訊くとトヨケはコクリと頷いた。
それぞれがソロで依頼をこなすことも多いが、ハンガクのパーティーといえば、ハンガク、トヨケ、ツルの三人だ。
考えてみれば当たり前の話だ。他州まで行く隊商の護衛なんて任務は、信頼できるパーティーで引き受けるものだろう。
「カノミは連れていってもらえないけどね」
拗ねたような口調でカノミが言った。
小さな胃袋にはすでにギョウザを詰め込むキャパが残っていないらしく、ずいぶんと前から彼女はハチミツ漬けにしたナッツをポリポリと齧っていた。
「もう少し大きくなったらね。今はカノミにはお店をお願いするね」
トヨケが言うと、カノミは渋々といった感じではあるが頷いた。
「モリも自分とこのパーティーで参加だぜ」
ハンガクが言う。
そういえば倉庫整理をしていた時には依頼の詳細までは聞いていなかったが、モリも自分がリーダーを務めるパーティーで依頼を受けているのだ。樹海の魔獣という名前の、城壁修理の依頼にも来ていたベテラン勢で構成された実力派パーティーだ。
「モリさんもいらっしゃるんですから、ぜひカズさんも来てください」
ツルが言った。
オレはハンガクの顔を見た。
意見を求めているわけじゃない。
パーティーで請け負った仕事なのだから、参加人数が増えれば一人当たりの報酬が減る。必須でない人員は増やすべきじゃない。的なことを、リーダーなら言うだろうなと思って水を向けたつもりだった。ようするに「お前はダメだっていうだろ?」という感じだ。
そもそもオレはこの依頼をやりたいわけじゃない。そりゃあ、トヨケが行くんならオレだって同行したい気持ちはなくはない。だけど隊商の護衛なんて依頼でオレが何の役にも立てないことは自明なのだ。何をしたらいいのかも分からないし。
ところが何をどう受け取ったのか、ハンガクはまるでパス回しをするかのように、そのままトヨケの顔を見た。
「わたしは、その、カズさんが一緒に来てくれたら……嬉しい、かも」
さらに深々と俯いて、途切れ途切れの言葉でトヨケは言った。それから消え入るような声で言葉を付け足す。
「ごめんね、カズさん。シルバーさんがいつ戻ってくるか分からないから街は離れたくないよね」
「いや、全然まったく」
反射的にオレはそう答えていた。
「よし、じゃあカズも参加決定だなっ!」
勢いよくそう言い、ハンガクは指を鳴らした。
前回の依頼は、ルシッドの無理やりの勧誘で同行しただけなのだ。その事はここにいる皆にも説明している。というよりもあの時はここにいる面々に背中を押されて、あのパーティーに同行することにしたのだ。
「あの時は私が無理に勧めちゃったからね」
トヨケが少ししゅんとした面持ちで言った。
オレがリッチに遭遇したことを気に病んでいるのだろう。
「そりゃあ仕方ないさ。女としちゃ、旦那になる男の出世を望むのは普通ってもんだろ」
ハンガクが言い放った途端に、うつむき加減だったトヨケの顔が赤く染まる。
「やめとけよ、ハンガク」
オレは思わず言った。
ハンガクなりに場を和ませようとしているのだろうけど、これじゃ逆効果だ。
まるでお詫びにオレと結婚しろと要求しているように感じられて、いたたまれない気持ちになる。これに乗っかれるほど図太くも悪どくもないのだ。
保存食を多く扱うトヨケの店に来る客の大半は冒険者だ。そして誰にでも分け隔てなく親切に接するトヨケに惚れている野郎は多い。笑顔で糧食の相談に乗ってくれて、依頼や冒険の心配までしてくれるトヨケに、みんな良妻や賢母を見るのだろう。中には自分にだけ優しくしてくれると勘違いしているヤツもいるだろうし。
かく言うオレ自身がそういうやつらの一人なのだ。だからこそ勘違いしないようにと、日々自制を重ねているのだ。
「たしかにトヨケは、オレのことを思ってルシッドのとこに入るのを勧めてくれたんだろう。でもトヨケが親切なのはみんなに対してだ。いくらオレだってそんなことで勘違いしたりしないぜ」
あれ、なんだろう。言っていて涙が流れそうになってきた。
「そうですよハンガクさん。その言い方はトヨケさんが否定しづらいですよ。
そうするとまるで、怖い目にあったカズさんが、アドバイスしたトヨケさんの引け目に付け込んで卑劣に結婚を迫っているような卑劣な状況みたいに見えてしまいます。いくらカズさんだってそんなことはしませんよ」
おっとりとした口調で紡がれるツルの言葉がなかなかひどい。そのまるで雪の妖精のような清楚な見た目とは裏腹に、傷口に塩を塗るというか水に落ちた犬を打つというか死体を蹴るというかそういうことを無自覚でやるところがあるらしい。一番質の悪いやつだ。
「そ、そうだ。いくらオレでもそんなことはしないぜ」
しぼり出すように何とか言った。
複雑そうな顔をしたが、ハンガクは何も言わなかった。
肝心のトヨケがどんな顔をしているのか、怖くてオレは見ることができなかった。
「でも疾風の剣に入る気がないのでしたら、私たちと一緒にくればいいんじゃありませんか?」
ツルがにっこりと笑った。
「私たちとってどういうことだ?」
「だから、私たちのパーティーと一緒にシージニアに行きませんか?」
「ん? ツルもシージニアに行くのか?」
「もちろんです」
「シージニアに行くのはハンガクだけじゃないのか?」
「そりゃパーティーリーダーのあたしが行くんだから、みんな行くに決まってるだろ」
「って、ことはトヨケも?」
オレが訊くとトヨケはコクリと頷いた。
それぞれがソロで依頼をこなすことも多いが、ハンガクのパーティーといえば、ハンガク、トヨケ、ツルの三人だ。
考えてみれば当たり前の話だ。他州まで行く隊商の護衛なんて任務は、信頼できるパーティーで引き受けるものだろう。
「カノミは連れていってもらえないけどね」
拗ねたような口調でカノミが言った。
小さな胃袋にはすでにギョウザを詰め込むキャパが残っていないらしく、ずいぶんと前から彼女はハチミツ漬けにしたナッツをポリポリと齧っていた。
「もう少し大きくなったらね。今はカノミにはお店をお願いするね」
トヨケが言うと、カノミは渋々といった感じではあるが頷いた。
「モリも自分とこのパーティーで参加だぜ」
ハンガクが言う。
そういえば倉庫整理をしていた時には依頼の詳細までは聞いていなかったが、モリも自分がリーダーを務めるパーティーで依頼を受けているのだ。樹海の魔獣という名前の、城壁修理の依頼にも来ていたベテラン勢で構成された実力派パーティーだ。
「モリさんもいらっしゃるんですから、ぜひカズさんも来てください」
ツルが言った。
オレはハンガクの顔を見た。
意見を求めているわけじゃない。
パーティーで請け負った仕事なのだから、参加人数が増えれば一人当たりの報酬が減る。必須でない人員は増やすべきじゃない。的なことを、リーダーなら言うだろうなと思って水を向けたつもりだった。ようするに「お前はダメだっていうだろ?」という感じだ。
そもそもオレはこの依頼をやりたいわけじゃない。そりゃあ、トヨケが行くんならオレだって同行したい気持ちはなくはない。だけど隊商の護衛なんて依頼でオレが何の役にも立てないことは自明なのだ。何をしたらいいのかも分からないし。
ところが何をどう受け取ったのか、ハンガクはまるでパス回しをするかのように、そのままトヨケの顔を見た。
「わたしは、その、カズさんが一緒に来てくれたら……嬉しい、かも」
さらに深々と俯いて、途切れ途切れの言葉でトヨケは言った。それから消え入るような声で言葉を付け足す。
「ごめんね、カズさん。シルバーさんがいつ戻ってくるか分からないから街は離れたくないよね」
「いや、全然まったく」
反射的にオレはそう答えていた。
「よし、じゃあカズも参加決定だなっ!」
勢いよくそう言い、ハンガクは指を鳴らした。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。


転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。


異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる