ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

たっすー

文字の大きさ
上 下
85 / 100

もぬけの殻

しおりを挟む
「なんだコレ!?」

 我ながら間の抜けた声が出た。ないのだ。リッチの家財道具一式全てが。

 無意味に豪華な装飾が施された重い木の扉を押し開けて入った部屋はがらんどうだった。
 部屋といっても一つの空間ではない。大広間のような広い空間から続く細い道に、扉こそ嵌っていないがそこに面する幾つかの部屋があった。通路の奥にはさらに半階分ほどの高さを上る階段があり、その上にも通路と幾つかの部屋があった。ここだけでひとつの屋敷のようだ。

 そしてその屋敷の中には何一つ物が残されていなかったのだ。
 いや、完全に家具が残っていないわけではない。人が生活するために掘削によって造られた部屋なのだろう。壁や地面の岩肌から削り出して造られた机や寝台はそのままだ。いわゆる作り付けの家具だ。って、当たり前だ。こんなのは洞窟の一部だ。

 皆で手分けをして全ての部屋をひと通り調べたが、持ち去れる物は食器から布製品に至るまで何一つ残されていなかった。

「やはりもぬけの殻だな」

 ヤムトが感心したように言った。

「一体どういうことだ?」

 リッチはここに住んでいたのではないのか。
 アンデッドになったからと、生活用品の何もかもを処分したのだろうか。
 いくらストイックな生活を送るにしても魔術の研究に関するものぐらいは置いておきそうなものだが、オレが調べた限りでは書棚らしい棚も倉庫に使っていたと思しき部屋も全てが空っぽだった。

「どこかに隠し部屋でもあるのかしら」

 レミックが岩肌を削って造られた棚に手を触れながらいう。
 棚はつるりとしており、離れたところからみてもとても滑らかに整えられていることが分かる。

「いや、絶対とはいえないが、我が調べた限りではおそらくそんな空間はなさそうだ」

 ヤムトがそう応じた。それからオレの方を見て言葉を付け加えた。

「ヨールには叶わぬが、我も一応は罠や仕掛けを見破るすべの心得はあるのだ」

 オレは頷いた。
 ヨールやヤムトのようなレンジャー的な技能はまったくないが、オレも棚の最下段や光の届いていない部屋の隅など、色々な場所を調べてはみたのだ。もちろん何も発見できなかった。

 ふと見ると、ルシッドが壁の上方を見上げていた。そこにはトヨケの店の作業部屋にあった物に似たガラス瓶が等間隔で吊り下がっていた。魔石を利用した照明器具だ。ガラス瓶からはどこか緑掛かった独特の明かりが落ちている。

 部屋が明るかったことにオレは今さら気付いた。
 照明があるのを当たり前に思っていたのだが、魔石照明だってけっこう高価なアイテムだ。しかもランタンの火を併用せずにそれだけでこの明るさを維持するなんて、オレたち一般人からするとちょっと考えられない贅沢さなのだ。腐っても貴人サマってところか。アンデッドだけに。
 とりあえずあれだけでも収穫には違いない。

 レミックが「さっきの仮面の男かしら」と誰にいうでもなく呟いた。
 その声には明らかに怒りが含まれていた。

「そうとしか考えられん。リッチが負けるとふんだ時点で回収を始めたんだろう」

 ルシッドの言葉からは、感情の動きは読み取れない。油揚げをかっさらわれて悔しくないはずはないが、少なくとも怒りに打ち震えたりはしていない。

「あ、そうか、異次元収納ポケットか!」

 唐突にそれに思い当たった。
 シルバーが使っていた超便利スキルだ。
 仮面の男はここにあった物すべてを異次元収納ポケットに入れ、それから何食わぬ顔で部屋から出てきたのだ。
 異次元収納ポケットは使う人間の能力次第で容量はまちまちだとシルバーがいっていた気がする。ここにあった家財道具一式をパクッていったのなら、仮面の男の異次元収納ポケットにはかなりの容量があることになりそうだ。まあシルバーなんてロック鳥まるごとを入れてやがったが。

 何にしても急激に腹が立ってきた。
 オレたちのことを悪辣非道呼ばわりしていたくせに、あいつこそが火事場泥棒だったのだ。   
 いや、リッチの協力者をしておきながら、リッチがやられそうになっても手助けもせずに、財産を根こそぎパクりやがったのだから、なんかもっとすごい悪いヤツだ。なんて言葉が相応しいのかは思いつかないが、とにかく悪党だ。

「ふむ、照明だけが残っているのは回収作業に明かりが必要だったからか」

 ヤムトが得心したように言った。こいつだけは全く悔しさを感じていなさそうに見える。

「関心してる場合じゃないでしょヤムト。あいつを許すつもりはないんじゃなかったの!?」

 レミックが声を荒げた。
 女性が荒ぶっているのが何となく苦手なオレは、心持ちレミックから離れる。今はヤムトに噛みついているがいつ飛び火してくるか分からない。

「そ、そうだぞヤムト。騎士団にはチクらないとか言っておきながら、あいつこそ泥棒だったんだぞ」

 別にビビったわけではないが、やんわりとレミックに追従しておく。
 自分自身の怒りがすでに薄まっていることに気が付いていた。

「当然許すつもりはない。次に会った時にはきっちりとカタを付けるつもりだ」

「だけど、きっともう見つけらんないだろ」

 言いながら、最終的に手も足も出ず逃がしたのは自分だったことを思い出したが、そこは気にしない。

「いや、ヤツの臭いは覚えた。我が必ず探し出してみせよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...