70 / 100
剣の切れ味
しおりを挟む
洞窟の入り口方向へ意識を集中するが、ゾンビたちは一向に現れない。
迷いが生まれる。ルシッドたちの加勢をするべきか。
隣を見ると、硬い表情のレミックがそれでも洞口の入り口に向かってワンドを構えていた。ルシッドたちのところで戦いたい気持ちを抑え込んで、後方を警戒しているのだ。
数体のゾンビを相手取って戦うなんてオレ一人では荷が重い。正直なところレミックがいてくれるのがありがたい。
「来るよな」
独り言が口から零れ落ちる。
それに応えたわけではないのだろうが、レミックが強く短い声で「来たわ」と言った。
エルフは耳が良いと聞いたことがある。たぶんオレにはまだ聞こえていない足音が聞こえたのだろう。
とか思っているうちに、オレの耳にもドタドタとした音が届けられた。
コントか何かで大げさに走りまわる演技をしているかのような音だ。
「なあ、愚か者の火ってもう一個出せないか?」
今さらながらに、戦闘を行うには明るさが乏しいことが不安になってきた。
先ほどまで一行を先導していた魔法の明かりは今、ルシッドたちの近くにある。レミックは夜目が効くといっていたので平気だろうが、オレの前方三メートルほど向こうはもう暗闇に呑み込まれている。
「はい」
レミックはすでに鬼火を用意していた。指先を振ってそれをオレの頭上に飛ばす。
ゆらゆらと揺れるオレンジ色の明かりがオレの周囲の闇を追い払った。
「ありがたい」
スポットライトに照らされているような形なので、普通ならば格好の的になるところだが、どのみちアンデッドは視力に頼ってターゲティングしてきているわけではないだろうう。
「火炎弓撃」
短い呪文の詠唱。同時に狙撃銃のように構えたレミックのワンドの先から炎の矢が放たれる。
炎の矢は暗闇を切り裂いて飛び、こちらに駆けてきていた敵に命中した。
炎が爆ぜ、敵が後ろに飛ぶ。
洞口の外にいた敵のように見えた。だが炎の矢に照らし出されたの首と左腕があらぬ方向にねじ曲がっていた。やはり生きている人間ではない。
「すごい威力だな」
「有効なのは今の距離だけよ。これ以上接近されたら魔弓撃系は使えないわ。ここからは魔撃系で戦うから、あなたは私の盾になりなさい」
人に盾になれと躊躇なく命令できるメンタリティはある意味尊敬できる、気もする。
もともと呪文を詠唱するレミックの盾役になるのがオレの役割だ。
洞窟の外でルシッドが倒した敵は七人いた。まだあと六人との近接戦闘が待っているのなら、オレが無事でいられるはずがない。
それでも泣き言をいってグダグダしているとかえって生存確率を下げてしまうことになるのも分かっている。
「ルシッドみたいな必殺技があればなあ」
愚痴りながらもオレはミスリルの刃を脇に構えつつ前に出た。
頭上の鬼火が照らし出した敵は二体。洞窟が狭いため三人以上は横並びになれないのだろうが残りもすぐ後ろに続いているだろう。
と、右側の敵を炎の矢が撃った。小さな爆発とともに敵が吹き飛び横の壁にぶつかって崩れ落ちた。
「今のでホントに終わり」
レミックがそう言った時には、オレは左側の敵に斬りかかっていた。
金属同士のぶつかる不快な音が鳴り響く。
オレの攻撃が敵の剣で受け止められたのだ。
「ゾンビのくせに器用な」
気を取り直して、二撃、三撃と打ち込むも全て受け止められる。というか弾き返される。
すごい力だ。こちらの打ち込み以上の威力で弾かれている。
そういえばアンデッドは理性がある人間に比べて、リミッターが働かない分力が強いと聞いたことがある。
「にしても、こんな風に剣を使えるなんてゾンビらしくないな」
四撃目はフェイントを入れた。
敵の正面に踏み込むと見せかけてクイックターンで側面に入り込む。と同時に太腿の外側を斬りつける。
深々とした手応えがあった。すぐさま抜き、傾いだ敵の首に向けて全ての体重を乗せて剣を振り下ろした。
バスケットボールが転がるかのようにごろりと敵の首が転がった。
自分でやっておいてなんだが、トラウマものの光景だ。心臓が動いていないからか血が噴き出さないのだけがまだ救いだ。
「もともと死んでる。もともと死んでる。もともと死んでる」
声に出して自分に言い聞かせる。
左側に剣を振るう。
次のゾンビが迫ってきているのは目の端で捉えていた。
切っ先が掠っただけの空振り。だがすぐにこの場を離れる。
別の一体がレミックの方へ向かっていたからだ。
「炎撃」
レミックのワンドから炎の塊が放たれた。
礫ほどのサイズだがそれを正面からもろ顔にくらった敵は体勢を崩してよろめいた。生きる死者に痛覚はないはずだが火に対しての反射は残っているのかもしれない。
そこに斜め後ろから背中に追いすがる形で斬りつけた。
ミスリルの刃は右肩から腰の中央あたりまでを易々と切り裂いた。敵の上半身の右側三分の一ほどがぶらんと下がり、その断面には切断された骨や筋が見えた。
「すごいわね」
レミックが言った。声が引き攣っているような気がする。
「いや、こんな残酷なことするつもりは……」
オレは口ごもった。
つもりのあるなし以前に、そもそもオレにこんなことをする技量はない。シルバーがくれた剣の切れ味が異常なのだ。
迷いが生まれる。ルシッドたちの加勢をするべきか。
隣を見ると、硬い表情のレミックがそれでも洞口の入り口に向かってワンドを構えていた。ルシッドたちのところで戦いたい気持ちを抑え込んで、後方を警戒しているのだ。
数体のゾンビを相手取って戦うなんてオレ一人では荷が重い。正直なところレミックがいてくれるのがありがたい。
「来るよな」
独り言が口から零れ落ちる。
それに応えたわけではないのだろうが、レミックが強く短い声で「来たわ」と言った。
エルフは耳が良いと聞いたことがある。たぶんオレにはまだ聞こえていない足音が聞こえたのだろう。
とか思っているうちに、オレの耳にもドタドタとした音が届けられた。
コントか何かで大げさに走りまわる演技をしているかのような音だ。
「なあ、愚か者の火ってもう一個出せないか?」
今さらながらに、戦闘を行うには明るさが乏しいことが不安になってきた。
先ほどまで一行を先導していた魔法の明かりは今、ルシッドたちの近くにある。レミックは夜目が効くといっていたので平気だろうが、オレの前方三メートルほど向こうはもう暗闇に呑み込まれている。
「はい」
レミックはすでに鬼火を用意していた。指先を振ってそれをオレの頭上に飛ばす。
ゆらゆらと揺れるオレンジ色の明かりがオレの周囲の闇を追い払った。
「ありがたい」
スポットライトに照らされているような形なので、普通ならば格好の的になるところだが、どのみちアンデッドは視力に頼ってターゲティングしてきているわけではないだろうう。
「火炎弓撃」
短い呪文の詠唱。同時に狙撃銃のように構えたレミックのワンドの先から炎の矢が放たれる。
炎の矢は暗闇を切り裂いて飛び、こちらに駆けてきていた敵に命中した。
炎が爆ぜ、敵が後ろに飛ぶ。
洞口の外にいた敵のように見えた。だが炎の矢に照らし出されたの首と左腕があらぬ方向にねじ曲がっていた。やはり生きている人間ではない。
「すごい威力だな」
「有効なのは今の距離だけよ。これ以上接近されたら魔弓撃系は使えないわ。ここからは魔撃系で戦うから、あなたは私の盾になりなさい」
人に盾になれと躊躇なく命令できるメンタリティはある意味尊敬できる、気もする。
もともと呪文を詠唱するレミックの盾役になるのがオレの役割だ。
洞窟の外でルシッドが倒した敵は七人いた。まだあと六人との近接戦闘が待っているのなら、オレが無事でいられるはずがない。
それでも泣き言をいってグダグダしているとかえって生存確率を下げてしまうことになるのも分かっている。
「ルシッドみたいな必殺技があればなあ」
愚痴りながらもオレはミスリルの刃を脇に構えつつ前に出た。
頭上の鬼火が照らし出した敵は二体。洞窟が狭いため三人以上は横並びになれないのだろうが残りもすぐ後ろに続いているだろう。
と、右側の敵を炎の矢が撃った。小さな爆発とともに敵が吹き飛び横の壁にぶつかって崩れ落ちた。
「今のでホントに終わり」
レミックがそう言った時には、オレは左側の敵に斬りかかっていた。
金属同士のぶつかる不快な音が鳴り響く。
オレの攻撃が敵の剣で受け止められたのだ。
「ゾンビのくせに器用な」
気を取り直して、二撃、三撃と打ち込むも全て受け止められる。というか弾き返される。
すごい力だ。こちらの打ち込み以上の威力で弾かれている。
そういえばアンデッドは理性がある人間に比べて、リミッターが働かない分力が強いと聞いたことがある。
「にしても、こんな風に剣を使えるなんてゾンビらしくないな」
四撃目はフェイントを入れた。
敵の正面に踏み込むと見せかけてクイックターンで側面に入り込む。と同時に太腿の外側を斬りつける。
深々とした手応えがあった。すぐさま抜き、傾いだ敵の首に向けて全ての体重を乗せて剣を振り下ろした。
バスケットボールが転がるかのようにごろりと敵の首が転がった。
自分でやっておいてなんだが、トラウマものの光景だ。心臓が動いていないからか血が噴き出さないのだけがまだ救いだ。
「もともと死んでる。もともと死んでる。もともと死んでる」
声に出して自分に言い聞かせる。
左側に剣を振るう。
次のゾンビが迫ってきているのは目の端で捉えていた。
切っ先が掠っただけの空振り。だがすぐにこの場を離れる。
別の一体がレミックの方へ向かっていたからだ。
「炎撃」
レミックのワンドから炎の塊が放たれた。
礫ほどのサイズだがそれを正面からもろ顔にくらった敵は体勢を崩してよろめいた。生きる死者に痛覚はないはずだが火に対しての反射は残っているのかもしれない。
そこに斜め後ろから背中に追いすがる形で斬りつけた。
ミスリルの刃は右肩から腰の中央あたりまでを易々と切り裂いた。敵の上半身の右側三分の一ほどがぶらんと下がり、その断面には切断された骨や筋が見えた。
「すごいわね」
レミックが言った。声が引き攣っているような気がする。
「いや、こんな残酷なことするつもりは……」
オレは口ごもった。
つもりのあるなし以前に、そもそもオレにこんなことをする技量はない。シルバーがくれた剣の切れ味が異常なのだ。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる