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滝裏

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「で、どうするんだよ」

 腹をくくるしかない。もしも一人で別行動を取れば、かえって生存率を下げてしまう。ような気がする。

「洞穴に入る」

 ルシッドの説明がシンプル過ぎる。

「だからどうやって入るのかを訊いてるんだ。  
 目くらまし的に魔法を撃ち込んでから入るとか、あそこに転がってるヤツらの装備をぶん取って変装して入るとか、そういうのがあるだろ」

「ふつうに入る。今度は全員で行く。ヨールとヤムトが前衛、その後ろにオレ、レミック、それからお前の順だ」

「脳筋か」

「お前の役割はさっきと同じだ。レミックを守れ」

「こういう場合って、潜んでいた敵に背後から襲われて挟撃されるってのが一番危険なケースで、しんがりって重要な役なんじゃないのか」

 正直いってビビッている。訓練された多数の敵が待ち構えている根城に少人数で乗り込もうというのだから誰だってビビるシチュエーションだろう。
 前衛をやれといわれないだけマシかもしれないが。

「重要というなら皆が重要だ」

 そう言い放つとルシッドはくるりと背を向けた。これ以上のディスカッションは不要だという強い拒絶が見て取れる。
 たしかにここで時間をかけていては敵に余裕を与えてしまうだけではある。

 滝付近の岩場にはルシッドの剣気フォースで弾き飛ばされた敵たちがまだ転がっていた。全部で六人。ルシッドとヨール、ヤムトが手早く確認を行う。

「死んでるな」

「こっちも息してるのはいねえ」

 どうやら全員が絶命しているらしい。たったの一撃で飛来する矢と六人の敵をほふってしまうとは恐ろしい技だ。ルシッドと敵対することはそうそうないと思うが、なるべく怒らせないように心がけよう。

「敵の残りが少なかったらいいんだけどな」

 希望を込めてオレはそう言った。

 ルシッドが倒した六人とレミックが水のつぶてで落とした一人。合わせて七人も減ったのなら敵の戦力は半減していると信じたい。むしろこれで全員であってほしい。

「少ないと仮定して良いことは何もない」

 ルシッドがそう返した。

「そんなことは言われなくも分かってるし、別に共感して欲しかったわけでもないけど、リーダーならもう少しこう何というか和みたいなものを考えてもいいじゃないか」

「そうだな。敵が少ないといいな」

 すげえ適当にあしらわれてるな。

「クロスボウをもらっておくか?」

 敵の使っていた武器が目に留まり、オレはそう言った。
 ルシッドはこれも首を振った。

「慣れない武器を使うべきではない。それに狭い洞穴内で飛び道具を使えば同士討ちの可能性もある」

「そっか。なんかもったいない気もするけどな」

 その言葉にはヨールが反応した。

「帰りに回収して武器屋で売り払おうぜ」

「ああ、そうだな。そうしよう」

 オレは強く頷いた。
 クロスボウだけでなく、よく見ると野盗たちはなかなかの装備を身に着けていた。それらもまとめて回収すれば良い稼ぎになりそうだ。

「行くぞ」

 ルシッドが号令をかけるとヨールとヤムトは軽い足取りで岩棚を跳び移り滝へと向かった。それにルシッドとレミックが続く。
 オレも慌てて後を追おうとしたが、岩棚が濡れてぬるぬるとしており、普通に歩くだけでも滑りそうになる。
 転ばないように姿勢を保ちつつ歩き、跳ぶ時には気合をいれて跳ぶ。オレが滝に到達した時にはもう、他のみんなは滝の中へ飛び込んだ後だった。
 近くで見ると水量が多く、向こう側は少しも透けて見えない。思った以上に滝だ。落水の音が大きくて、滝裏どころか他の音がまったく聞こえない。
 着地点が視認できないジャンプってむちゃくちゃ怖いんだが、これホントに飛び込んで大丈夫なのか?
 向こうに岩壁があってぶつかって落下するとか、予想以上の高さがあって着地に失敗して足の骨を折るとかないか?
 逡巡していると、突然レミックが跳び出してきた。

「よ、よお」

「よおじゃないわよ。何かあったのかと思って戻ってきたのよ。何してるの? みんな待ってるんだけど」

「いや、心の準備体操とかそういう感じのあれでだな」

「ワケわかんないこといって、みんなの足を引っ張るんなら次はもう置いていくからね」

 そう言い捨てるとレミックはぷいと背を向けて再び滝の中に跳び込んだ。
 飛んでくる矢から助けたことで、少しはオレの株も上がったかなと思っていたが、もう元通りになったようだ。元より悪いか。

 ため息を吐きながら、オレもレミックが跳び込んだのと同じところに思い切って跳びこむ。
 滝裏にはもちろん岩壁はなかった。広い岩棚になっていて、表とはほとんど高低差もなく出入りに難しいところはなかった。

「行くぞ」

 オレの姿を認めると、ルシッドは何を言うでもなく洞穴の奥を指し示した。
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