ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

たっすー

文字の大きさ
上 下
64 / 100

リーダーの判断

しおりを挟む
 確認作業はすぐに終わった。
 レミックが全ての繁みに水の礫を飛ばしたが他の敵は潜んでいなかった。

「あの繁みだけだったようだな」

「あなたやっぱり何かのスキルを使ってるんじゃないの?」

「いや、ほんとにただの山勘やまかんだよ」

 ルシッドとヨールを肩に担いだヤムトも、草木の密集する繁みに退却していた。

 合図を送り合ったわけではないが、向こうもこちらの位置を把握していたようで、森の中をぐるりと回ってオレたちが身を潜めている場所を目指しているようだ。

「一度引くべきだな」

 オレは言った。

「繁みに見張りまで配置して襲撃に備え、武器も揃えている。あれはただの野盗の群れじゃない。訓練された組織だ」

「その方がいいわね」

「崖を登る魔法なんてないよな?」

「ええ、ないわ」

 やはり下りる魔法はあっても上がる魔法はないのだ。
 レミックの落下制御ドロップ・プロップで降りた崖を見上げる。とても登れそうにない。

「どうやって戻るつもりだったんだ? ロッククライミングなんてできねえぞ、オレ」

 そこまで言ってオレは気付いた。

「ああ、そうか。野盗が使っている登り口がどこかにあるはずだよな」

「そんなものを使うのは、敵に撃ってくれといってるようなものだ」

 背後から不機嫌そうな声がした。

「ルシッド、大丈夫だった?」

 レミックが飛びつかんばかりの勢いでルシッドの元に駆け寄る。

「問題ない」

「ヤムトとヨールは矢で射られてたよな」

 オレが言うと、ルシッドはアゴを動かして自分の横を示した。

 ヨールが呪文を唱えながらふくらはぎに刺さった矢に手を添えていた。
 傷口がほのかに白く発光しているのは回復魔法が発動している証拠だろう。

 矢が刺さった場合、安易に抜くことでかえって重症化することもあると聞く。
 しかし回復魔法を使える術者がいる場合は別だ。魔法をかけつつ瞬時に矢を引き抜くことで、重症化を防げるうえに痛みもほとんど感じないらしい。
 それでもオレなら自分で矢を抜く度胸なんてとてもないが。

 矢が抜かれる際、オレは目を背けたが治療は一瞬で済んだらしい。すぐに軽快な動作でヨールは獣人の背側にまわった。矢の刺さったとおぼしき箇所を手で探る。

「かすり傷だな」

 ヤムトは軽傷だったらしい。その剛毛と筋肉に阻まれて矢は皮膚に深く刺さることができなかったようだ。軽い手付きでヨールが抜く。

「だけど毒が塗られている可能性もある。治癒と解毒の魔法をかけておくよ」

 傷口に手をかざしてヨールは再び呪文を唱えた。

「で、どうやって上にあがるつもりだったんだ?」

 ヤムトの傷口に魔法の光が染み込んでいくのを横目に見ながら、改めてルシッドに訊いた。

「上がる必要はない。退却時には川を下ればいい。レミックは浮力を得られる魔法が使える」

 ルシッドが言うとレミックも頷いている。
 予めそういう作戦だったのだろう。これもまたオレにだけ知らされていなかったらしい。別にいいんだが。

「なるほど、その手があったか。ん?」

 ルシッドの言葉に引っ掛かりを覚えた。

「退却時はって、退却するんだよな?」

「いいや、しない。
 今退却をするとやつらを取り逃がすことになる。今回のことでさらに防備を固められれば、次はものすごく大掛かりな準備と人数が必要になる」

「今だってやつらは十分に防備を固めてるし、オレたちの戦力じゃ攻めきれないって」

 無表情で何を考えているか分からない剣士を、オレは初めて怖いと思った。
 勝算のあるなしや、安全かどうかで考えているんじゃない。ただミッション達成のための効率だけをみて作戦を決めているのだ。
 頭がおかしい。いや、なんちゃって冒険者のオレには理解できないだけで、冒険者というのはみんなこうなのだろうか。

 救いを求めるようにオレはヤムトを見た。ああ見えてあいつは常識人だ。
 だがヤムトはルシッドの言葉に深く頷いている。自身の肉体に絶対的な自信を誇る獣人だからどんな無茶な作戦でも無茶と思わないのだろう。

 レミックはダメだ。さっきはオレの退却した方がいいという意見に同意したが、ルシッドが言うことなら何でもうんうんと受け入れてしまう。
 二人がそういう関係なのはレミックの表情を見ていて気付いてしまった。ふだんなら死ぬほど羨ましいし、絶対に許せなくて何らかの嫌がらせをするところだが、今はそんなことをいっている場合じゃない。

「よ、ヨールはどう思う?」

 最後の頼みの綱だ。
 身体が小さくて力も弱いヨールならばこんな無茶な判断にノーと言ってくれるかもしれない。

「ん? オレ?」

 名前を呼ばれたことが意外だったのか、ヨールはぽかんとした顔でオレを見返した。
 それから肩をすくめてこう答えた。

「そんなのリーダーの判断に任せるに決まってるだろ?」

 オレは天を仰いだ。
 もうダメだ。こいつらみんな狂信者だ。ルシッドを教祖としたカルト集団みたいなもんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...