63 / 100
勘
しおりを挟む
だいたい、おおよそ、このぐらい
感覚だけが働いていた。
体が動いたの無意識にだ。
本当に風切り音が耳へ届いたのだとしても、オレがそれに反応できるはすもない。
矢がレミックに向かって射かけられたのだと認識した時にはすでに、剣はレミックの胸の前の空間を斬っていた。
手応えがあった。飛来した矢を斬った手応えだ。
オレは剣の達人か何かなのか?
いやいやいや、おかしいだろう。そもそも矢が飛んできたことすら気付けてないのだ。
「あ、ありがとう」
レミックがか掠れた声でそう言った。自分に飛んできた矢をオレが斬り落としたことに気付いたらしい。
「とにかく移動するぞ」
なんとかそう言った。
自分に何が起きたのかが理解できない。
だがすぐに次の矢が飛んでくる可能性が高い。レミックを促して木と藪の陰になる位置に移動する。
「敵の後衛が出てきてるの?」
「分からない」
ルシッドの光の攻撃で敵前衛は全滅した。
その後でオレたちは矢に狙われた。洞窟から敵の第二陣が出てきたと考えるのが妥当なところだ。
だけど、そうではないようにオレは感じていた。
改めてオレが斬り落とした矢と、それが飛んできたであろう方角を見る。滝の方からだったはずだ。
手応えを思い出してみる。角度的に上の方からから飛んできたような気もする。
滝の背後の崖を見る。岩棚の幾つかには葉の茂る灌木が生えている。身を隠して洞窟の入口を見張るにはうってつけの場所だ。
「あの辺りに魔法を撃てるか?」
オレが言うと、
「分かってる」と返ってきた。
振り返ると、オレの視線の先を追ったらしくレミックも崖の方を見上げていた。
「繁みを順番に潰していくわ」
言葉には力が戻っていた。
礼の声が弱々しかったので戦意の喪失を心配したが、杞憂だったようだ。
流石はギルドナンバーワンパーティのメンバーといったところだろうか。
「最初にあの滝の左側の上から三番目の茂みを狙ってくれ」
「あんまり大きくないやつね。でもどうして?」
「なんとなくの勘だよ」
「勘ね、まあいいわ。あなたは私が全く気付いてない飛んでくる矢を防いでくれた。その勘は信じるに価する」
「いや、ほんとにただの勘だからな」
「テウ・キテガ・イギソ・テブツレコレコ・イース」
レミックが魔法言語を口にした。
ワンドの先が宙になにかの絵を描くかのように踊る。
「シュウ」
小さいが鋭い声を響かせながらレミックはワンドを突き出した。
が、なにも起こったようには見えない。
「失敗?」
そう訊くとレミックは首を横に振った。
「肉眼では確認できないけど、魔法は発動してるわ。何も起きないのはあの繁みがハズレだったからよ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、件の繁みから男が一人ふらりと立ち上がった。そのままよろよろと歩を進めたかと思うと、足を踏み外すして岩棚から落ちていった。
「お、当たりだ。何か呪いみたいなやつなのか?」
オレがそう言うとレミックはくすりと笑った。
「まさか。
水の礫を撃つ魔法よ。滝から小石ぐらいの礫を十数発作ってあの繁みに撃ち込んだんだけど、ここからじゃ小さくて見えないのよ」
「なるほど。水でできてるならなおさら見えないよな」
滝から繁みは直線で繋ぐことはできない。礫は術師の意思でその軌道を操れるのだろう。
さらには単発ではなく複数の礫を同時に放てるという。
まるでコントロール自在の散弾銃だ。心強いといえば心強いが、恐ろしい魔法だ。
「一発目で当たりを引くなんて、やっぱりあなたの勘は当てになるわ」
「いや、あの一人だけどは限らない。撃ってみたら全部の繁みに敵が隠れてたってことになるかも知れないぞ」
「それは今から確かめてみるわ」
言うとレミックは再びワンドの先端を虚空に走らせ始めた。
感覚だけが働いていた。
体が動いたの無意識にだ。
本当に風切り音が耳へ届いたのだとしても、オレがそれに反応できるはすもない。
矢がレミックに向かって射かけられたのだと認識した時にはすでに、剣はレミックの胸の前の空間を斬っていた。
手応えがあった。飛来した矢を斬った手応えだ。
オレは剣の達人か何かなのか?
いやいやいや、おかしいだろう。そもそも矢が飛んできたことすら気付けてないのだ。
「あ、ありがとう」
レミックがか掠れた声でそう言った。自分に飛んできた矢をオレが斬り落としたことに気付いたらしい。
「とにかく移動するぞ」
なんとかそう言った。
自分に何が起きたのかが理解できない。
だがすぐに次の矢が飛んでくる可能性が高い。レミックを促して木と藪の陰になる位置に移動する。
「敵の後衛が出てきてるの?」
「分からない」
ルシッドの光の攻撃で敵前衛は全滅した。
その後でオレたちは矢に狙われた。洞窟から敵の第二陣が出てきたと考えるのが妥当なところだ。
だけど、そうではないようにオレは感じていた。
改めてオレが斬り落とした矢と、それが飛んできたであろう方角を見る。滝の方からだったはずだ。
手応えを思い出してみる。角度的に上の方からから飛んできたような気もする。
滝の背後の崖を見る。岩棚の幾つかには葉の茂る灌木が生えている。身を隠して洞窟の入口を見張るにはうってつけの場所だ。
「あの辺りに魔法を撃てるか?」
オレが言うと、
「分かってる」と返ってきた。
振り返ると、オレの視線の先を追ったらしくレミックも崖の方を見上げていた。
「繁みを順番に潰していくわ」
言葉には力が戻っていた。
礼の声が弱々しかったので戦意の喪失を心配したが、杞憂だったようだ。
流石はギルドナンバーワンパーティのメンバーといったところだろうか。
「最初にあの滝の左側の上から三番目の茂みを狙ってくれ」
「あんまり大きくないやつね。でもどうして?」
「なんとなくの勘だよ」
「勘ね、まあいいわ。あなたは私が全く気付いてない飛んでくる矢を防いでくれた。その勘は信じるに価する」
「いや、ほんとにただの勘だからな」
「テウ・キテガ・イギソ・テブツレコレコ・イース」
レミックが魔法言語を口にした。
ワンドの先が宙になにかの絵を描くかのように踊る。
「シュウ」
小さいが鋭い声を響かせながらレミックはワンドを突き出した。
が、なにも起こったようには見えない。
「失敗?」
そう訊くとレミックは首を横に振った。
「肉眼では確認できないけど、魔法は発動してるわ。何も起きないのはあの繁みがハズレだったからよ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、件の繁みから男が一人ふらりと立ち上がった。そのままよろよろと歩を進めたかと思うと、足を踏み外すして岩棚から落ちていった。
「お、当たりだ。何か呪いみたいなやつなのか?」
オレがそう言うとレミックはくすりと笑った。
「まさか。
水の礫を撃つ魔法よ。滝から小石ぐらいの礫を十数発作ってあの繁みに撃ち込んだんだけど、ここからじゃ小さくて見えないのよ」
「なるほど。水でできてるならなおさら見えないよな」
滝から繁みは直線で繋ぐことはできない。礫は術師の意思でその軌道を操れるのだろう。
さらには単発ではなく複数の礫を同時に放てるという。
まるでコントロール自在の散弾銃だ。心強いといえば心強いが、恐ろしい魔法だ。
「一発目で当たりを引くなんて、やっぱりあなたの勘は当てになるわ」
「いや、あの一人だけどは限らない。撃ってみたら全部の繁みに敵が隠れてたってことになるかも知れないぞ」
「それは今から確かめてみるわ」
言うとレミックは再びワンドの先端を虚空に走らせ始めた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる