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火球
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火球の魔法。
アニメ、ゲームなんかでもわりにメジャーな魔法ではないだろうか。
要するに火の魔法だ。球になっているところがポイントで、火炎放射器のように炎を吹き出すわけではなく、球の状態で攻撃対象のところまで飛ばし、そこで爆発させる。炎属性なので爆発のあとに炎上させる効果もある。
高い攻撃力を誇る代わりに、おいそれと発動させられる魔法ではない。
その理由のひとつめとして、魔素消費がとても大きいことがあげられる。
それなりのレベルの魔術師であっても、全魔素のうちの大半を消費してようやく発動できる魔法なのだ。
ふたつめの理由としては危険だということがあげられる。爆発・炎上はその効果範囲も広く、ともに戦う味方を巻き添えにする可能性が常にある。
しかしこの魔法が多用されないのは三つめの理由が一番大きい。
つまり使える者が少ないのだ。
宮仕えや、魔術研究所所属の魔術師は別として、在野では大きな街の冒険者ギルドに一人習得者がいるかいないかといったところだろう。
実際、オレもまだこの魔法が使われるところを見たことがなかった。
「メロマ・ケ・メシヒレ・ヨーヨ・レマウ・ヨーノ」
深い息とともに、レミックの口から意味の分からない魔法言語が紡がれていた。
水平に構えたワンドの先に、唐突に紅蓮の球が現れた。バスケットボールぐらいの大きさだ。内部ではぐるぐると炎の対流が起こっている。
空恐ろしいほどの熱量を感じる……はずなのだが、シルバーのブレスを見慣れてしまってるせいか、さほど危険な魔法には思えない。
「ベート!」
ひときわ強い発声とともに、火球はそれ自身が意思を持つかのように飛び出した。
野球のスライダーのような鋭い軌跡を描いて、滝の裏側へと回り込む。
たしか、術者の意思によってのある程度軌道の操作が可能だったはずだ。
でも滝の裏に入って見えなくなってしまった火球をどう操るのだろうか。
浮かんだ疑問の考察を行う間もなく、大きな爆発音が響いた。滝が弾けて水しぶきが辺り一帯を覆った。
「とりあえずは成功ね」
レミックがふうと息を吐いてからそう言った。
「見えないのに、よく操れるな」
「まあ、勘ね。そもそも魔法ってイメージすることがすべてだから、私は細く伸びた洞窟内を奥に進んでから爆発する火の玉をイメージしただけ」
さらりと言ってのけるが、オレにはそのイメージすることすらイメージできない。本人の適性によるものか種族の特質によるものかは分からないが、レミックが優れた魔術師であることは間違いなさそうだ。
「妙じゃないか?」
違和感を覚えてオレが言った。
返事こそしないが、レミックも気付いたようで、緊張した面持ちで滝とヨールを交互に見る。
ヨールは首を横に振った。眉根を寄せて、彼らしくない表情をしている。
「生体反応は減ってない。火の玉が効いてないみたいだ」
「それなりに奥まで飛ばせたから、地形的な問題ではないと思うわ。それに爆発も起こった。魔法障壁で魔法が打ち消されたわけでもない」
「なら耐火の魔法か?」
「いいえ、いつ来るかも分からない敵のために、それなりに魔素消費の大きい耐火魔法を使い続けるなんて現実的ではないわ」
「だったらあらかじめ土嚢でも積んで火の魔法対策をしてたとか」
「それはあり得るわね」
「もう一発いくか?」
「対策をされてるんなら、何回撃っても同じだわ」
滝近くで待機していたルシッドとヤムトが振り返った。
「魔素は温存しておいてくれ。予定通り、オレとヤムトが突入する」
ルシッドが言うと、ヨールはひとつ頷いて二人の所まで進んだ。
そこで身振りを混じえながら、小声の短いやり取りを行う。
滝のしぶきで知らないうちに頬やあごが濡れている事に気付いた。手の甲でぐいと拭く。
ヨールが先に立つ形で三人は滝へと進み始めた。
戦闘になっても前衛の二人でカタがつくだろうというのが、皆の一致した考えだった。
先制の魔法はそれをより楽に成し遂げるためのものであり、地形的な理由で不発に終わっても問題はないと話は纏まっていた。
だが本当にそうだろうか。
たかだか野盗が火の魔法を想定した対策をしておくものだろうか。
コボルトの群れを壊滅させたがこの野盗団だとすれば、かなり組織立った行動ができる集団なのではないだろうか。
慎重に気配を探りつつ滝の脇にある岩棚を跳び移る三人を見ながら、自分の中で急速に不安が膨れ上がるのを感じた。
ルシッドたちは様子を窺いながら、流れる滝に向かって一人ずつ飛び込んでいく。誰も滝つぼに落下しない。滝のすぐ裏に足場になる岩棚があるのだろう。
「たとえ罠があってもヨールがいれば安心よ」
オレの不安を見抜いたようにレミックが言った。
「魔法の罠やどれだけ巧妙に仕掛けられた罠でもヨールが見落とした事はないわ」
「心強いな」
そう応じながらもオレは、固唾を飲んで滝を見守った。
アニメ、ゲームなんかでもわりにメジャーな魔法ではないだろうか。
要するに火の魔法だ。球になっているところがポイントで、火炎放射器のように炎を吹き出すわけではなく、球の状態で攻撃対象のところまで飛ばし、そこで爆発させる。炎属性なので爆発のあとに炎上させる効果もある。
高い攻撃力を誇る代わりに、おいそれと発動させられる魔法ではない。
その理由のひとつめとして、魔素消費がとても大きいことがあげられる。
それなりのレベルの魔術師であっても、全魔素のうちの大半を消費してようやく発動できる魔法なのだ。
ふたつめの理由としては危険だということがあげられる。爆発・炎上はその効果範囲も広く、ともに戦う味方を巻き添えにする可能性が常にある。
しかしこの魔法が多用されないのは三つめの理由が一番大きい。
つまり使える者が少ないのだ。
宮仕えや、魔術研究所所属の魔術師は別として、在野では大きな街の冒険者ギルドに一人習得者がいるかいないかといったところだろう。
実際、オレもまだこの魔法が使われるところを見たことがなかった。
「メロマ・ケ・メシヒレ・ヨーヨ・レマウ・ヨーノ」
深い息とともに、レミックの口から意味の分からない魔法言語が紡がれていた。
水平に構えたワンドの先に、唐突に紅蓮の球が現れた。バスケットボールぐらいの大きさだ。内部ではぐるぐると炎の対流が起こっている。
空恐ろしいほどの熱量を感じる……はずなのだが、シルバーのブレスを見慣れてしまってるせいか、さほど危険な魔法には思えない。
「ベート!」
ひときわ強い発声とともに、火球はそれ自身が意思を持つかのように飛び出した。
野球のスライダーのような鋭い軌跡を描いて、滝の裏側へと回り込む。
たしか、術者の意思によってのある程度軌道の操作が可能だったはずだ。
でも滝の裏に入って見えなくなってしまった火球をどう操るのだろうか。
浮かんだ疑問の考察を行う間もなく、大きな爆発音が響いた。滝が弾けて水しぶきが辺り一帯を覆った。
「とりあえずは成功ね」
レミックがふうと息を吐いてからそう言った。
「見えないのに、よく操れるな」
「まあ、勘ね。そもそも魔法ってイメージすることがすべてだから、私は細く伸びた洞窟内を奥に進んでから爆発する火の玉をイメージしただけ」
さらりと言ってのけるが、オレにはそのイメージすることすらイメージできない。本人の適性によるものか種族の特質によるものかは分からないが、レミックが優れた魔術師であることは間違いなさそうだ。
「妙じゃないか?」
違和感を覚えてオレが言った。
返事こそしないが、レミックも気付いたようで、緊張した面持ちで滝とヨールを交互に見る。
ヨールは首を横に振った。眉根を寄せて、彼らしくない表情をしている。
「生体反応は減ってない。火の玉が効いてないみたいだ」
「それなりに奥まで飛ばせたから、地形的な問題ではないと思うわ。それに爆発も起こった。魔法障壁で魔法が打ち消されたわけでもない」
「なら耐火の魔法か?」
「いいえ、いつ来るかも分からない敵のために、それなりに魔素消費の大きい耐火魔法を使い続けるなんて現実的ではないわ」
「だったらあらかじめ土嚢でも積んで火の魔法対策をしてたとか」
「それはあり得るわね」
「もう一発いくか?」
「対策をされてるんなら、何回撃っても同じだわ」
滝近くで待機していたルシッドとヤムトが振り返った。
「魔素は温存しておいてくれ。予定通り、オレとヤムトが突入する」
ルシッドが言うと、ヨールはひとつ頷いて二人の所まで進んだ。
そこで身振りを混じえながら、小声の短いやり取りを行う。
滝のしぶきで知らないうちに頬やあごが濡れている事に気付いた。手の甲でぐいと拭く。
ヨールが先に立つ形で三人は滝へと進み始めた。
戦闘になっても前衛の二人でカタがつくだろうというのが、皆の一致した考えだった。
先制の魔法はそれをより楽に成し遂げるためのものであり、地形的な理由で不発に終わっても問題はないと話は纏まっていた。
だが本当にそうだろうか。
たかだか野盗が火の魔法を想定した対策をしておくものだろうか。
コボルトの群れを壊滅させたがこの野盗団だとすれば、かなり組織立った行動ができる集団なのではないだろうか。
慎重に気配を探りつつ滝の脇にある岩棚を跳び移る三人を見ながら、自分の中で急速に不安が膨れ上がるのを感じた。
ルシッドたちは様子を窺いながら、流れる滝に向かって一人ずつ飛び込んでいく。誰も滝つぼに落下しない。滝のすぐ裏に足場になる岩棚があるのだろう。
「たとえ罠があってもヨールがいれば安心よ」
オレの不安を見抜いたようにレミックが言った。
「魔法の罠やどれだけ巧妙に仕掛けられた罠でもヨールが見落とした事はないわ」
「心強いな」
そう応じながらもオレは、固唾を飲んで滝を見守った。
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