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イカ料理の並ぶ宴会
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「おう、帰ってきたか」
戻って来たオレたちに石工の棟梁が野太い声をかけた。
他の面々も気付いてこちらを見る。
「首尾はどうだった」
すぐモリもやってきて訊く。
「上々だ」
答えたのはヤムトだ。
モリと拳をコツンとぶつける挨拶をした獣人の元には、ルシッドやレミックたちパーティの仲間もすぐに集まってきた。
「コカトリス獲れたんすか?」
ハンクが食いつくようにオレに訊いた。期待に目を輝かせている。
なかなか手に入りにくいコカトリスの肉は、料理人からすれば垂涎の食材だろう。
「ああ、獲れたぜ。だけど今日はイカだ」
オレがそう答えると、ハンクは怪訝な顔になって首を45度傾けた。
「イカっすか。たしかカキプロル山へ行くって言ってませんでしたっけ。
けっきょく海まで行ったんすか?」
「いや淡水に棲むイカなんだ」
ハンクと並んで調理小屋へと向かいながら、話をする。
「そんなのいるんすね。干したイカならこの街でも入って来るんですけど、オレはたぶん海のイカしか見たことないっすね」
「オレだって初めて見たんだよ」
そもそもあれをイカと呼んでいいのかも微妙なところではある。
「一応油の用意はしてあるんすけど、どうしますか?」
「もちろん油も使うさ。とにかくイカの身がたくさんあるから色々な料理で食おうかと思ってさ」
トヨケに捌いてもらったイカの身は樽にして十五個分あった。
ここの面々がいくらよく食べるとはいっても一食で樽一つもあれば十分なように思える。
だがシルバーがいる。昨日のフライドチキンの食べっぷりからすると、気に入った物ならば無限の食欲をみせる可能性がある。
迷った末、樽三つを持ち帰ることにした。
残り十ニ樽のうちとりあえず一つをトメリア食料品店に寄進する。あとはシルバーの異次元収納だ。
ところがカノミとトヨケが固辞した。たとえ手数料の代わりとしても貰いすぎだというのだ。
けっきょく手数料の代わりにということでなんとか話がついた。なかなか納得しない二人に「トメリア食料品店特製の干物や燻製が店頭に並ぶのを楽しみにしてる」と言って何とか受け取ってもらった。実際のところ、どんな料理になるのか今から楽しみだ。
オレとしてはこれはプレゼントで、もちろん手数料は別で支払うつもりでいた。皮算用ではあるが素材を売った分のお金も入る予定だし。
だけどトヨケが
「手間賃なんてくらべものにならないくらいの貴重な食材をたくさん別けてもらっちゃったんだから、これ以上は受け取れないわ」と言い、
シルバーが
「物やお金をあげたからって女性の心が手に入るだなんて、キャバクラ通いのおじさんみたいなことは考えない方がいいよ」などと言いやがるから、それ以上は強く言えなかったのだ。
イカの身が詰まった樽を見たハンクは絶句した。
「これ、全部使うんすか……?」
「当然だ。今晩はイカづくしだぞ」
胸を張ってそう答えた。
とはいえ、この量を二人で調理するのはとてつもない重労働だ。
「なあヤムト、よかったら料理手伝ってくれないか?」
一緒に樽を運んでくれた獣人に訊いてみた。
「別に構わんが」
「助かるよ」
「え、ヤムトさん料理なんてするんすか?」
オレと獣人とのやり取りを見て、ハンクはすっとんきょうな声をあげた。
「料理などやったことはないが、どのみち我に複雑なことなどやらせないだろう」
「さすが、よくわかってるな。とりあえず適当にでいいんで一口大に切っていって欲しいんだ」
「心得た」
レミックがオレとヤムトとのやり取りをぽかんとした顔で見ていた。
エルフのこんな顔を見る機会はあまりなかったが、これはこれで愛嬌があって可愛いらしい。でも一体なんで呆けているんだ?
イカづくしの料理たちが並んだ。
パン粉衣のフライ。塩やタレで味付けした串焼き。柑橘酢を効かせたカルパッチョ。根菜類と一緒にトマトスープで煮込んだ煮物。ニンニクの風味が薫るバターソテー。
もちろん珍味と言われる口の身もトヨケがくちばしを取り除いてくれていたので、一口大に切って塩と胡椒をして串に刺して焼いてある。これぜったいエールに合うやつだ。
オレとヤムトを苦しめた二本の長い触腕以外はどの部分の身も柔らかくて美味かった。
特に殻で守られていた胴部分はもっちりと柔らかくて甘みもあり、火を通さなないカルパッチョでもおいしく食べることができた。
触腕だけは吸盤の歯を取り除いても身自体が固く、加熱してもゴムのようだった。
だがこれも干してみれば案外いけるのではないかと思っている。
本来今日の献立としてはコカトリスを期待されていたはずだ。不服の声があるかと思ったが、どちらかというとこの街では肉より魚介の方が高級食材として扱われるため、皆は大喜びだった。
「こんなバカみたいな量の新鮮なイカを使った料理なんて、例え貴人でも用意できないよな」
ルシッドのパーティのハーフリングはそう言ってはははと笑った。
ヨールという名の彼は、いかにもハーフリングらしい性格をしている。つまり軽口を叩かなければ会話が成立しないと思い込んでいるのだ。それに加え、定期的に揶揄するような笑い声を上げなければ酸欠にでも陥るのだろう。
だがこの数日間仕事を共にしたオレは、実際のとこらヨールは、心根が優しいやつなんじゃないかと思い始めている。自分の仲間だけでなく近くにいる者に対してそれとは分からなような自然な気遣いをしているようなのだ。
今のセリフも、そうは思えないがオレとヤムトに向けた賛辞であることは間違いない。
「明日はコカトリスが食べれるのよね」
と言ったのはエルフのレミックだ。
先ほどから串焼きイカの塩味とタレ味を交互に口に運んでいる。
「へえ、エルフってのは食べることに興味がなくて花の蜜でも啜ってれば十分みたいなイメージがあったんだが」
オレが言うと、
「それは偏見ってものよ。エルフにだって色々な趣味嗜好があるの」
と射るようなキツイ目で睨まれてしまった。
オレの言葉は彼女の趣味嗜好には合わないようだ。
「これサクサクしててすごく美味いっすね」
フライドチキンのために油を用意していたハンクが、その油で揚げたイカフライを食べながら言った。
イカを油で揚げる料理自体はこの世界にもあった。だが、パン粉を衣に使う料理方はなかったので、その食感に感動したらしい。
もっともモリや石工連中は味に感動しているのか量に感動しているのか分からない勢いで、豪快に料理を平らげていった。
次から次へと料理をするのに忙しくて録に味見もしていなかったオレは、ハンクの差し出した皿のイカフライを一つ摘まんで口に入れてみた。
たしかにかなり美味い。身が柔らかくサクサク歯切れが良い。ほんのりと甘みもあって塩コショウぐらいしか下味をつけていないのに、噛むほどに魚介の旨味が口の中に広がる。
だがオレは少し意外な気がしていた。イカの味というよりも貝の味、例えばホタテやアサリなどに近い味をしているように感じたのだ。
頭足類と貝類の味の違いを説明しろといわれてもオレには上手くできないが。もしかするとシェル・クラーケンは貝殻も持っているし、イカよりも貝に近い生物なのかもしれない。
まあ美味ければどちらでも良いのだが。
「これ美味い」「俺はこれが好きだ」「その料理を取ってくれ」
あちらこちらで声が上がっている。
すべてイカではあるが色々な料理を試した事もあって、場はさながら宴会のようだ。エールやワインもガンガン消費されていく。
工期はあと二日あるが、実質予備日のようなものらしく明日からはほとんど片付けのような作業らしい。完了の目処が立っているから、みなもリラックスして酒と食い物を楽しめるのだろう。
オレ自身は長旅から戻ってきてすぐにこれだけの料理をしたのでもうクタクタだ。
それでもとりあえずエールは美味いので、狩りに行ってきて良かったと思った。
『どうしてロック鳥を狩ったんだ?』
傍らのシルバーに、疑問に思っていたことを尋ねてみた。ズルズルではあるがまだ喋れることを隠しておきたいらしいシルバーに気付かって、心の中でだ。
シルバーの返事は簡素だった。
『まあ色々事情があるんだよ』
トメリア食料品店でシルバーからロック鳥の話が出なかったので、食べるために獲ったのではなかったのだろうと、オレはなにも言わずにいた。
あれだけ巨大な鳥を狩るのはいくらシルバーといえども大変だっただろうし、ドラゴンにはドラゴンのなにか強い理由があったのだろう。
シルバーの答えにオレはただ頷いてみせた。
昔からの相棒とはいえ、再会?してまだ数日だ。いつかコイツの抱える色々な事情とやらを教えてくれる日がくればいいなと思う。
戻って来たオレたちに石工の棟梁が野太い声をかけた。
他の面々も気付いてこちらを見る。
「首尾はどうだった」
すぐモリもやってきて訊く。
「上々だ」
答えたのはヤムトだ。
モリと拳をコツンとぶつける挨拶をした獣人の元には、ルシッドやレミックたちパーティの仲間もすぐに集まってきた。
「コカトリス獲れたんすか?」
ハンクが食いつくようにオレに訊いた。期待に目を輝かせている。
なかなか手に入りにくいコカトリスの肉は、料理人からすれば垂涎の食材だろう。
「ああ、獲れたぜ。だけど今日はイカだ」
オレがそう答えると、ハンクは怪訝な顔になって首を45度傾けた。
「イカっすか。たしかカキプロル山へ行くって言ってませんでしたっけ。
けっきょく海まで行ったんすか?」
「いや淡水に棲むイカなんだ」
ハンクと並んで調理小屋へと向かいながら、話をする。
「そんなのいるんすね。干したイカならこの街でも入って来るんですけど、オレはたぶん海のイカしか見たことないっすね」
「オレだって初めて見たんだよ」
そもそもあれをイカと呼んでいいのかも微妙なところではある。
「一応油の用意はしてあるんすけど、どうしますか?」
「もちろん油も使うさ。とにかくイカの身がたくさんあるから色々な料理で食おうかと思ってさ」
トヨケに捌いてもらったイカの身は樽にして十五個分あった。
ここの面々がいくらよく食べるとはいっても一食で樽一つもあれば十分なように思える。
だがシルバーがいる。昨日のフライドチキンの食べっぷりからすると、気に入った物ならば無限の食欲をみせる可能性がある。
迷った末、樽三つを持ち帰ることにした。
残り十ニ樽のうちとりあえず一つをトメリア食料品店に寄進する。あとはシルバーの異次元収納だ。
ところがカノミとトヨケが固辞した。たとえ手数料の代わりとしても貰いすぎだというのだ。
けっきょく手数料の代わりにということでなんとか話がついた。なかなか納得しない二人に「トメリア食料品店特製の干物や燻製が店頭に並ぶのを楽しみにしてる」と言って何とか受け取ってもらった。実際のところ、どんな料理になるのか今から楽しみだ。
オレとしてはこれはプレゼントで、もちろん手数料は別で支払うつもりでいた。皮算用ではあるが素材を売った分のお金も入る予定だし。
だけどトヨケが
「手間賃なんてくらべものにならないくらいの貴重な食材をたくさん別けてもらっちゃったんだから、これ以上は受け取れないわ」と言い、
シルバーが
「物やお金をあげたからって女性の心が手に入るだなんて、キャバクラ通いのおじさんみたいなことは考えない方がいいよ」などと言いやがるから、それ以上は強く言えなかったのだ。
イカの身が詰まった樽を見たハンクは絶句した。
「これ、全部使うんすか……?」
「当然だ。今晩はイカづくしだぞ」
胸を張ってそう答えた。
とはいえ、この量を二人で調理するのはとてつもない重労働だ。
「なあヤムト、よかったら料理手伝ってくれないか?」
一緒に樽を運んでくれた獣人に訊いてみた。
「別に構わんが」
「助かるよ」
「え、ヤムトさん料理なんてするんすか?」
オレと獣人とのやり取りを見て、ハンクはすっとんきょうな声をあげた。
「料理などやったことはないが、どのみち我に複雑なことなどやらせないだろう」
「さすが、よくわかってるな。とりあえず適当にでいいんで一口大に切っていって欲しいんだ」
「心得た」
レミックがオレとヤムトとのやり取りをぽかんとした顔で見ていた。
エルフのこんな顔を見る機会はあまりなかったが、これはこれで愛嬌があって可愛いらしい。でも一体なんで呆けているんだ?
イカづくしの料理たちが並んだ。
パン粉衣のフライ。塩やタレで味付けした串焼き。柑橘酢を効かせたカルパッチョ。根菜類と一緒にトマトスープで煮込んだ煮物。ニンニクの風味が薫るバターソテー。
もちろん珍味と言われる口の身もトヨケがくちばしを取り除いてくれていたので、一口大に切って塩と胡椒をして串に刺して焼いてある。これぜったいエールに合うやつだ。
オレとヤムトを苦しめた二本の長い触腕以外はどの部分の身も柔らかくて美味かった。
特に殻で守られていた胴部分はもっちりと柔らかくて甘みもあり、火を通さなないカルパッチョでもおいしく食べることができた。
触腕だけは吸盤の歯を取り除いても身自体が固く、加熱してもゴムのようだった。
だがこれも干してみれば案外いけるのではないかと思っている。
本来今日の献立としてはコカトリスを期待されていたはずだ。不服の声があるかと思ったが、どちらかというとこの街では肉より魚介の方が高級食材として扱われるため、皆は大喜びだった。
「こんなバカみたいな量の新鮮なイカを使った料理なんて、例え貴人でも用意できないよな」
ルシッドのパーティのハーフリングはそう言ってはははと笑った。
ヨールという名の彼は、いかにもハーフリングらしい性格をしている。つまり軽口を叩かなければ会話が成立しないと思い込んでいるのだ。それに加え、定期的に揶揄するような笑い声を上げなければ酸欠にでも陥るのだろう。
だがこの数日間仕事を共にしたオレは、実際のとこらヨールは、心根が優しいやつなんじゃないかと思い始めている。自分の仲間だけでなく近くにいる者に対してそれとは分からなような自然な気遣いをしているようなのだ。
今のセリフも、そうは思えないがオレとヤムトに向けた賛辞であることは間違いない。
「明日はコカトリスが食べれるのよね」
と言ったのはエルフのレミックだ。
先ほどから串焼きイカの塩味とタレ味を交互に口に運んでいる。
「へえ、エルフってのは食べることに興味がなくて花の蜜でも啜ってれば十分みたいなイメージがあったんだが」
オレが言うと、
「それは偏見ってものよ。エルフにだって色々な趣味嗜好があるの」
と射るようなキツイ目で睨まれてしまった。
オレの言葉は彼女の趣味嗜好には合わないようだ。
「これサクサクしててすごく美味いっすね」
フライドチキンのために油を用意していたハンクが、その油で揚げたイカフライを食べながら言った。
イカを油で揚げる料理自体はこの世界にもあった。だが、パン粉を衣に使う料理方はなかったので、その食感に感動したらしい。
もっともモリや石工連中は味に感動しているのか量に感動しているのか分からない勢いで、豪快に料理を平らげていった。
次から次へと料理をするのに忙しくて録に味見もしていなかったオレは、ハンクの差し出した皿のイカフライを一つ摘まんで口に入れてみた。
たしかにかなり美味い。身が柔らかくサクサク歯切れが良い。ほんのりと甘みもあって塩コショウぐらいしか下味をつけていないのに、噛むほどに魚介の旨味が口の中に広がる。
だがオレは少し意外な気がしていた。イカの味というよりも貝の味、例えばホタテやアサリなどに近い味をしているように感じたのだ。
頭足類と貝類の味の違いを説明しろといわれてもオレには上手くできないが。もしかするとシェル・クラーケンは貝殻も持っているし、イカよりも貝に近い生物なのかもしれない。
まあ美味ければどちらでも良いのだが。
「これ美味い」「俺はこれが好きだ」「その料理を取ってくれ」
あちらこちらで声が上がっている。
すべてイカではあるが色々な料理を試した事もあって、場はさながら宴会のようだ。エールやワインもガンガン消費されていく。
工期はあと二日あるが、実質予備日のようなものらしく明日からはほとんど片付けのような作業らしい。完了の目処が立っているから、みなもリラックスして酒と食い物を楽しめるのだろう。
オレ自身は長旅から戻ってきてすぐにこれだけの料理をしたのでもうクタクタだ。
それでもとりあえずエールは美味いので、狩りに行ってきて良かったと思った。
『どうしてロック鳥を狩ったんだ?』
傍らのシルバーに、疑問に思っていたことを尋ねてみた。ズルズルではあるがまだ喋れることを隠しておきたいらしいシルバーに気付かって、心の中でだ。
シルバーの返事は簡素だった。
『まあ色々事情があるんだよ』
トメリア食料品店でシルバーからロック鳥の話が出なかったので、食べるために獲ったのではなかったのだろうと、オレはなにも言わずにいた。
あれだけ巨大な鳥を狩るのはいくらシルバーといえども大変だっただろうし、ドラゴンにはドラゴンのなにか強い理由があったのだろう。
シルバーの答えにオレはただ頷いてみせた。
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