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大きな食材
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「で、コレを僕に仕舞えというわけだね」
今さらながらにやってきたシルバーは、水際までいって前輪でちゃぷちゃぷ水に触れながら、めんどくさそうにそう言った。
「異次元収納ならでかさは関係ないんだろ?」
オレは地面に座り込んでいた。疲労で太ももやふくらはぎが震えていて、もうただの一歩も歩ける気がしない。できることなら横になりたいぐらいだ。
シルバーのいうコレというのは、もちろんボスイカのことだ。
ひと目見るなりシルバーが「シェルクラーケンだね」と言ったからそうなんだろう。
実際に見たことはないが、クラーケンという巨大イカの魔物の存在は知っている。殻を持っている巨大イカだからシェルクラーケンとはそのままじゃないかと思ったが、まあ呼び名なんてものは分かりやすいのが一番いい。
「たしかに異次元収納に入れるのに大きさは関係ないし、保冷も効くよ。だから持って帰るのはやぶさかではないんだけど、これ内臓の処理とかもしてないよね」
「そりゃそうだ。こちとら戦うだけで精一杯だったんだぞ。っていうか胴の中に腕ごと剣をつっこんで掻きまわしたから、ワタなんてどれも潰れてると思うぞ」
「なんでそんなことしたのさ。塩辛作れないじゃん」
「逃げられそうだったから、そんなこと気にしてる余裕はなかったんだよ」
シルバーはオレの方を振り返った。
「え、ということはこのシェルクラーケンはカズが倒したの? ヤムヤムじゃなしに?」
「誰だよヤムヤムって。オレがというわけじゃない。たまたまトドメを刺したのはオレだったけど二人で戦ったんだ」
オレがそう言うと、ヤムヤムは首を振った。
「戦ったのはカズだ。我は助けられただけでなんの役にも立てていない」
「ふーん、カズってケンカできたんだ。でも魔物殺すの嫌なんじゃなかったの?」
「避けれるものは避けたいさ。戦うのも得意じゃないしな。だけどこいつから襲い掛かってきたから仕方なくだよ。それになかなか美味そうだったし」
我ながらダブルスタンダードというか勝手な話だとは思う。だがヤムトもけっこうやられたし、せめて食材として役に立ってもらわないと割りに合わないと思ったのだ。
「美味そうねえ。でも大きいだけあって大味なんじゃないの?」
「クジラとか大きくても美味いのは色々といるし、一概にはいえないんじゃないか。
これだけ大きかったら、ゲソの唐揚げとかリングフライとかカルパッチョとか色々楽しめそうだろ」
色々言っても、やはり量があることが嬉しい。
様々な料理が楽しめるのも魅力だが、これだけの嵩があればみんなが腹いっぱい食えるのだ。
食費に関してケチなことをいわれているわけではなかったが、大所帯の食事を担当している者としては、やはり抑えられる経費は極力抑えたいと思ってしまう。
「人が通り抜けられるくらいのイカリングになるね」
「料理は例えばだよ。スルメでもイカ焼きでもいいし」
「塩辛は作れないけどね」
「こだわるな」
「冷酒に一番合うのは塩辛でしょ」
「ここに冷酒はねえよ。シルバーっておっさんくさいよな」
「美味しい酒と肴を追求するのに、年齢とか性別とかは関係ないでしょ」
「いや、とりあえず年齢は関係ある。未成年はダメだろ」
「この世界でも未成年者の飲酒は禁止されてるの?」
「そんなことはないけど……。そういえばお前の年齢って幾つになるんだ?
前の世界で製造されてからの年数と、こっちに来てからの半年を足しても完全に未成年だよな」
「上位ドラゴンには人間の年齢なんて概念はあてはまらないんだよ。霊格があがることが成長で、それには時間は関係ないんだよ」
「そういうものなのか」
分かったような分からないような話だが、シルバーが酒を飲んでも、こちらとしては別に困ることはない。
「まあとにかく頼む。本当だったら豊富に水があるここで捌くほうが良いんだろうけど、晩飯の支度に間に合うように戻らないといけないしな」
「分かったよ」
シルバーはボスイカの方に近づいて顔(カゴ)を触手のあたりに寄せた。
次の瞬間にはもうボスイカの姿は影も形もなくなっていた。
「じゃあ行こうか」
言いながらオレは立ち上がるために地面に手を突いた。足がもう使い物にならないので、腕の力頼みのつもりだった。だがその腕にも力が入らず、こてんと地面に突っ伏してしまった。
「そういえば、カズはともかくヤムヤムはケガしてるんだよね」
オレの様を見て嫌味のひとつも飛ばしてくるかと思ったのだが、シルバーはオレなど目に入ってない様子でそんなことを言い始めた。
「魔法薬を使ったので大丈夫だ」
ヤムトはそう応じたのだが、返事も待たないうちから、シルバーはこちらに白く発光する息を吹きかけてきた。癒しの息吹だ。
あたり一体が柔らかな光に包まれる。その光を受けてオレの体全体が温かさに包まれた。
温もりが行き渡るとともに足や腕に力が戻ってきた。
「じゃあ帰ろうか。二人ともとっとと乗ってね」
今さらながらにやってきたシルバーは、水際までいって前輪でちゃぷちゃぷ水に触れながら、めんどくさそうにそう言った。
「異次元収納ならでかさは関係ないんだろ?」
オレは地面に座り込んでいた。疲労で太ももやふくらはぎが震えていて、もうただの一歩も歩ける気がしない。できることなら横になりたいぐらいだ。
シルバーのいうコレというのは、もちろんボスイカのことだ。
ひと目見るなりシルバーが「シェルクラーケンだね」と言ったからそうなんだろう。
実際に見たことはないが、クラーケンという巨大イカの魔物の存在は知っている。殻を持っている巨大イカだからシェルクラーケンとはそのままじゃないかと思ったが、まあ呼び名なんてものは分かりやすいのが一番いい。
「たしかに異次元収納に入れるのに大きさは関係ないし、保冷も効くよ。だから持って帰るのはやぶさかではないんだけど、これ内臓の処理とかもしてないよね」
「そりゃそうだ。こちとら戦うだけで精一杯だったんだぞ。っていうか胴の中に腕ごと剣をつっこんで掻きまわしたから、ワタなんてどれも潰れてると思うぞ」
「なんでそんなことしたのさ。塩辛作れないじゃん」
「逃げられそうだったから、そんなこと気にしてる余裕はなかったんだよ」
シルバーはオレの方を振り返った。
「え、ということはこのシェルクラーケンはカズが倒したの? ヤムヤムじゃなしに?」
「誰だよヤムヤムって。オレがというわけじゃない。たまたまトドメを刺したのはオレだったけど二人で戦ったんだ」
オレがそう言うと、ヤムヤムは首を振った。
「戦ったのはカズだ。我は助けられただけでなんの役にも立てていない」
「ふーん、カズってケンカできたんだ。でも魔物殺すの嫌なんじゃなかったの?」
「避けれるものは避けたいさ。戦うのも得意じゃないしな。だけどこいつから襲い掛かってきたから仕方なくだよ。それになかなか美味そうだったし」
我ながらダブルスタンダードというか勝手な話だとは思う。だがヤムトもけっこうやられたし、せめて食材として役に立ってもらわないと割りに合わないと思ったのだ。
「美味そうねえ。でも大きいだけあって大味なんじゃないの?」
「クジラとか大きくても美味いのは色々といるし、一概にはいえないんじゃないか。
これだけ大きかったら、ゲソの唐揚げとかリングフライとかカルパッチョとか色々楽しめそうだろ」
色々言っても、やはり量があることが嬉しい。
様々な料理が楽しめるのも魅力だが、これだけの嵩があればみんなが腹いっぱい食えるのだ。
食費に関してケチなことをいわれているわけではなかったが、大所帯の食事を担当している者としては、やはり抑えられる経費は極力抑えたいと思ってしまう。
「人が通り抜けられるくらいのイカリングになるね」
「料理は例えばだよ。スルメでもイカ焼きでもいいし」
「塩辛は作れないけどね」
「こだわるな」
「冷酒に一番合うのは塩辛でしょ」
「ここに冷酒はねえよ。シルバーっておっさんくさいよな」
「美味しい酒と肴を追求するのに、年齢とか性別とかは関係ないでしょ」
「いや、とりあえず年齢は関係ある。未成年はダメだろ」
「この世界でも未成年者の飲酒は禁止されてるの?」
「そんなことはないけど……。そういえばお前の年齢って幾つになるんだ?
前の世界で製造されてからの年数と、こっちに来てからの半年を足しても完全に未成年だよな」
「上位ドラゴンには人間の年齢なんて概念はあてはまらないんだよ。霊格があがることが成長で、それには時間は関係ないんだよ」
「そういうものなのか」
分かったような分からないような話だが、シルバーが酒を飲んでも、こちらとしては別に困ることはない。
「まあとにかく頼む。本当だったら豊富に水があるここで捌くほうが良いんだろうけど、晩飯の支度に間に合うように戻らないといけないしな」
「分かったよ」
シルバーはボスイカの方に近づいて顔(カゴ)を触手のあたりに寄せた。
次の瞬間にはもうボスイカの姿は影も形もなくなっていた。
「じゃあ行こうか」
言いながらオレは立ち上がるために地面に手を突いた。足がもう使い物にならないので、腕の力頼みのつもりだった。だがその腕にも力が入らず、こてんと地面に突っ伏してしまった。
「そういえば、カズはともかくヤムヤムはケガしてるんだよね」
オレの様を見て嫌味のひとつも飛ばしてくるかと思ったのだが、シルバーはオレなど目に入ってない様子でそんなことを言い始めた。
「魔法薬を使ったので大丈夫だ」
ヤムトはそう応じたのだが、返事も待たないうちから、シルバーはこちらに白く発光する息を吹きかけてきた。癒しの息吹だ。
あたり一体が柔らかな光に包まれる。その光を受けてオレの体全体が温かさに包まれた。
温もりが行き渡るとともに足や腕に力が戻ってきた。
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