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白骨死体
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シルバーとヤムトはそれぞれ谷へと下っていった。
コカトリスも水を飲むだろうから、沢を探す方が発見できる可能性は高いだろうとのことだ。
オレは尾根のなだらかな勾配を上がった。
一番見晴らしの良い場所へ行き、辺りを眺めてみるつもりだ。
目指した山頂にはすぐについた。
しばらく四方を観察する。動くものはないかと目を凝らすが、地上には特になにも見つからない。
遠くの空には鳥が一羽飛んでいた。ゆっくりと山々の上を旋回している。なかなかの大きさのようだ。
もちろんコカトリスではない。コカトリスはドラゴンに似た羽こそ持っているが、飛ぶのは得意でないと聞く。そもそもシルエットが違う。あの空の鳥はおそらく鷹や鷲などのような猛禽類だろう。
風がびゅうびゅうと吹いて鼓膜を叩く。
自分の腕を抱いて身震いした。山の上は寒い。ここまで自分の足で上がってきたわけではないので身体も温まっていない。
動いていないと凍えてしまいそうだ。ふたたび歩く事にする。向こうに見える頂きまで尾根伝いに行ってみよう。
ゆるやかに下り、また上がる。
北に続く山脈に目を転じればここよりも高い山がひしめいている。まるで神々の住まう場所のようだ。下に目を向ければまだら禿の山肌が広がる。これはこれで絶景だ。
コカトリスが出現する危険さえなければ、優雅なハイキングコースだ。
コカトリスよ出てくるなと念じながら歩いたが、そういうのはかえってフラグになるようで、
「なんだ、あれ」
次の頂に立ったところで、眼下の尾根から少し下った斜面にコカトリスを見つけた。
ただしそれは生きて動いている個体ではなく、死んで白骨化した元コカトリスだった。
日の光を浴びて白々とした骨は、地面の砂礫や辺りに転がる石の中でひときわ目を引いた。
斜面から下まで落ちていかなかったのは、ちょうど地面から突き出した岩に引っかかっていたからだ。
岩はそのひとつではなく、大小様々な形の岩がその辺り一帯に並んでいて、岩の林と呼べそうな地形になっていた。
「珍しいな、こんなきれいな形で骨が残っているなんて」
もちろんコカトリスにも骨はある。
死んで野ざらしにされれば白骨化だってするだろう。
だけどオレはこれまで、魔物の骨なんて物は見たことがなかった。
魔物の死体はなにからなにまで資材となる。
肉だけでなく、骨や皮や羽毛にいたるまでが、売ればそれなりの値段がつくのだ。
冒険者に討伐された魔物は解体され、文字通り骨すら残らず持ち去られる。
他の魔物や野生動物の犠牲になった場合は、もう少しお行儀の悪い解体が行われ、これまた骨まで捕食者の栄養となる。
「降りられそうだな」
尾根を歩くのに比べれば急な斜面だが、所々石が顔を出していて足を置く場所には困らない。
降りるのに、さほど苦労はしなさそうだ。
慎重に斜面を降りてコカトリスの白骨死体の所まで行った。
近くで見ても立派な白骨だ。
肉や内臓は動物に食われたりしたのだろうが、骨はあまり乱されていない。
鶏に比べるとバランス的にはやや大きめの頭骨。クチバシが立派だ。
やや長い頚椎を乗せる胸郭は大きく発達していて、そこから生える翼部はいわゆる手羽のような形ではなく、長い指を広げたようなコウモリの翼のそれだ。
腿から鉤爪のある足にかけての発達具合も、鶏よりもダチョウなどの地を走る鳥に近いようだ。
背骨は骨盤を過ぎたところで尾骨にはならずにそのまま長く伸びている。これは蛇の胴から尾にかけての部分だろう。ここは無数の肋骨が生えていて、まるでムカデのようで控えめにいっても気持ち悪い。
もっとも特徴的なのはそのサイズで、鶏とは比べものにならないくらい大きい。
鳥車を引くモア鳥よりもさらに大型だ。
やはり動いているこいつには絶対に遭いたくない。
ふと目を転じて死骸がひとつだけでないことに気づいた。
目の前のものほどには形を保っていないが、岩と岩の間にもいくつか見られる。
いや、つぶさに観察をすると、あちらこちらにバラバラになっている骨が発見できる。二羽、三羽といった数ではなさそうだ。
「コカトリスの墓場なのか?」
象の墓場のような物がコカトリスにもあるとは聞いたことがない。
それに墓場と呼ぶほどに死骸が集まっているわけでもない。
「そうか、上でくたばったコカトリスの死体が落ちてきたら、ここの岩に引っ掛かるのか」
しばらく観察をしていて、オレはそう結論づけた。
引っ掛からなかった死体はそのまま谷はまで落ちていくのだろう。
「それにしてもなんでわざわざ山頂で死ぬんだ?」
考えても分かるはずはないのだが、疑問は次々と湧いてくる。
コカトリスが普段どこに棲んでいるのかは分からないが、こんなに目立つ場所でくつろいでいるとは思えない。
「でも、このあたりにはもうコカトリスいなさそうだな」
白骨死体があるのに腐乱死体やフレッシュな死体がないということは、もう生きているコカトリスがいないということだろう。
「とりあえずシルバーと合流するか」
谷ならばコカトリスはいなくても、他の獲物を見つけられるかもしれない。
川で魚を釣ってもいいかもしれない。
斜面をくだることにした。
思念伝達でシルバーを呼んでも良かったのだが、コカトリスの驚異がないのなら、とりあえずあのママチャリには狩りに専念してもらおう。
コカトリスも水を飲むだろうから、沢を探す方が発見できる可能性は高いだろうとのことだ。
オレは尾根のなだらかな勾配を上がった。
一番見晴らしの良い場所へ行き、辺りを眺めてみるつもりだ。
目指した山頂にはすぐについた。
しばらく四方を観察する。動くものはないかと目を凝らすが、地上には特になにも見つからない。
遠くの空には鳥が一羽飛んでいた。ゆっくりと山々の上を旋回している。なかなかの大きさのようだ。
もちろんコカトリスではない。コカトリスはドラゴンに似た羽こそ持っているが、飛ぶのは得意でないと聞く。そもそもシルエットが違う。あの空の鳥はおそらく鷹や鷲などのような猛禽類だろう。
風がびゅうびゅうと吹いて鼓膜を叩く。
自分の腕を抱いて身震いした。山の上は寒い。ここまで自分の足で上がってきたわけではないので身体も温まっていない。
動いていないと凍えてしまいそうだ。ふたたび歩く事にする。向こうに見える頂きまで尾根伝いに行ってみよう。
ゆるやかに下り、また上がる。
北に続く山脈に目を転じればここよりも高い山がひしめいている。まるで神々の住まう場所のようだ。下に目を向ければまだら禿の山肌が広がる。これはこれで絶景だ。
コカトリスが出現する危険さえなければ、優雅なハイキングコースだ。
コカトリスよ出てくるなと念じながら歩いたが、そういうのはかえってフラグになるようで、
「なんだ、あれ」
次の頂に立ったところで、眼下の尾根から少し下った斜面にコカトリスを見つけた。
ただしそれは生きて動いている個体ではなく、死んで白骨化した元コカトリスだった。
日の光を浴びて白々とした骨は、地面の砂礫や辺りに転がる石の中でひときわ目を引いた。
斜面から下まで落ちていかなかったのは、ちょうど地面から突き出した岩に引っかかっていたからだ。
岩はそのひとつではなく、大小様々な形の岩がその辺り一帯に並んでいて、岩の林と呼べそうな地形になっていた。
「珍しいな、こんなきれいな形で骨が残っているなんて」
もちろんコカトリスにも骨はある。
死んで野ざらしにされれば白骨化だってするだろう。
だけどオレはこれまで、魔物の骨なんて物は見たことがなかった。
魔物の死体はなにからなにまで資材となる。
肉だけでなく、骨や皮や羽毛にいたるまでが、売ればそれなりの値段がつくのだ。
冒険者に討伐された魔物は解体され、文字通り骨すら残らず持ち去られる。
他の魔物や野生動物の犠牲になった場合は、もう少しお行儀の悪い解体が行われ、これまた骨まで捕食者の栄養となる。
「降りられそうだな」
尾根を歩くのに比べれば急な斜面だが、所々石が顔を出していて足を置く場所には困らない。
降りるのに、さほど苦労はしなさそうだ。
慎重に斜面を降りてコカトリスの白骨死体の所まで行った。
近くで見ても立派な白骨だ。
肉や内臓は動物に食われたりしたのだろうが、骨はあまり乱されていない。
鶏に比べるとバランス的にはやや大きめの頭骨。クチバシが立派だ。
やや長い頚椎を乗せる胸郭は大きく発達していて、そこから生える翼部はいわゆる手羽のような形ではなく、長い指を広げたようなコウモリの翼のそれだ。
腿から鉤爪のある足にかけての発達具合も、鶏よりもダチョウなどの地を走る鳥に近いようだ。
背骨は骨盤を過ぎたところで尾骨にはならずにそのまま長く伸びている。これは蛇の胴から尾にかけての部分だろう。ここは無数の肋骨が生えていて、まるでムカデのようで控えめにいっても気持ち悪い。
もっとも特徴的なのはそのサイズで、鶏とは比べものにならないくらい大きい。
鳥車を引くモア鳥よりもさらに大型だ。
やはり動いているこいつには絶対に遭いたくない。
ふと目を転じて死骸がひとつだけでないことに気づいた。
目の前のものほどには形を保っていないが、岩と岩の間にもいくつか見られる。
いや、つぶさに観察をすると、あちらこちらにバラバラになっている骨が発見できる。二羽、三羽といった数ではなさそうだ。
「コカトリスの墓場なのか?」
象の墓場のような物がコカトリスにもあるとは聞いたことがない。
それに墓場と呼ぶほどに死骸が集まっているわけでもない。
「そうか、上でくたばったコカトリスの死体が落ちてきたら、ここの岩に引っ掛かるのか」
しばらく観察をしていて、オレはそう結論づけた。
引っ掛からなかった死体はそのまま谷はまで落ちていくのだろう。
「それにしてもなんでわざわざ山頂で死ぬんだ?」
考えても分かるはずはないのだが、疑問は次々と湧いてくる。
コカトリスが普段どこに棲んでいるのかは分からないが、こんなに目立つ場所でくつろいでいるとは思えない。
「でも、このあたりにはもうコカトリスいなさそうだな」
白骨死体があるのに腐乱死体やフレッシュな死体がないということは、もう生きているコカトリスがいないということだろう。
「とりあえずシルバーと合流するか」
谷ならばコカトリスはいなくても、他の獲物を見つけられるかもしれない。
川で魚を釣ってもいいかもしれない。
斜面をくだることにした。
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