ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

たっすー

文字の大きさ
上 下
36 / 100

吊り橋は落ちるもの

しおりを挟む
 うねうねとつづらに折れ曲がる山道は勾配を増していき、上りきったところで木々が晴れた。
  眼下には九十度よりもさらにえぐた岩肌むき出しの崖。ショウエマ峡谷だ。
 真っ青な空が近く、涼しげなせせらぎの音ははるか下。
 左右に目を転じれば、切り立った山々の間を幾重にも曲がりながら川が流れていく。
 対岸は遠く、あちらへ渡ることなど不可能に思える。

「吊り橋ってどこだ?」

 ヤムトに訊いた。

 シルバーに乗っているだけのオレとは違って、ヤムトの息は流石に少し上がっている。
 っていうか、山道を走って登るだなんて一体どんな体力をしているんだ。

「少し上流に行く。ここからはちょうど岩に隠れて見えないが、すぐ近くだ」

 ヤムトは指をさしながらそう答えた。
 崖沿いを少し行くと、崖下へと降りていく道が現れた。まあ、道というよりもほぼただの岩場で、なんとか足を置ける場所が下へと続いているだけなのだが。
 流石にシルバーから降りようとしたのだが、

『面倒くさいから、そのまま乗ってて』

 と言われて、けっきょく乗ったまま岩場を下った。
 トレイルライドのマウンテンバイクのように、シルバーはトントンと器用かつスピーディーに岩場を下りていく。
 ただ乗っているだけのオレは、落とされないように必死でハンドルにしがみつく。
 先行しているヤムトは、まるで忍者のような身のこなしで、軽やかに岩場を下っていた。

 少し広い岩棚に降りた。
 川まではまだ遠いが、この岩棚に吊り橋があった。
 いや、正確には吊り橋の残骸があった。

「吊り橋、落ちてるな」

「ああ」

 吊り橋と聞いた時から嫌な予感はあった。
 許された敵は背後からナイフを投げるものだし、救助に来たヘリコプターと吊り橋は落ちる物だ。
 敵に追われている時でないのがまだ救いか。

「他に渡れるところはないのか?」

 鉱石採集で来た時には、向こうへ渡るつもりはなかったのでこことは違うルートで最初から谷底へ降りた。
 曖昧な記憶にはなるが、川は幅もそこそこに広く、深い場所もあったので泳いで渡るのは苦労することになりそうだ。

「もっと上流の方に行けば、浅くなっている所がある」

 ヤムトが言った。

 下まで降りるのにも時間がかかるが、それしか方法がないのならば仕方ない。
 この峡谷に生息するコボルトにエンカウントする可能性も高いが、それはヤムトとシルバーがいればなんら問題はないだろう。
  一応、二人にコボルトのことを伝えておくか。

「ここいらはコボルトが住んでるんだ」

 言いながら気づいたが、狼の獣人も、犬の頭部を持つ魔物であるコボルトも犬系の亜人だ。
 ヤムトはコボルトに対してはどんな感じなんだろうか?

「ああ、そうだったな。まあコボルトなど、なんら問題ではない」

「あのさ、同じイヌ人間的に戦ったりするのは抵抗ないのか?」

 そう訊くと、ヤムトは大きなため息を吐いた。

「お前、デリカシーがないとか、失礼だとかいわれて揉めること多くないか?」

「どうかな。そんなことはなかったと思うけど」

「いちおう答えてやるが、それは前提からして間違いだ。
 人間は二足歩行の種族を見ると亜人だなどと呼ぶが、コボルトからすれば人間がコボルトに似ているのだろうし、ゴブリンからすれば人間がゴブリンに似ているのだ。
エルフやドワーフにしても同じだろう。
 彼らからすれば人間の事を亜エルフや亜ドワーフと呼びたいところなのではないか」

 言われてみればそうだ。
 ゴブリンもコボルトも人間を改造して作られたワケではないし、エルフやドワーフに至ってはどちらも彼らの伝承に人間よりも古い種族であるとハッキリ語られているのだ。

「すまない、たしかにあんたの言うとおりだな」

「だが我々獣人はそうではない」

「え?」

「遥かな昔、魔術によって栄えた魔術国家があった。
 そこでは魔術に関する様々な研究が行われていて、その中には魔術によって人と獣の特徴を併せ持つ生物を創りだす研究も行われた」

「ってことは、獣人ってのは魔法生物なのか?」

 魔法によって生み出された生物や魔物は今でもけっこう残っている。
 身近なところではスライムなんかがそうだ。

「数百、数千というおびただしい種類の動物や魔物と人の合成が行われたという。
 だがその中で、ある程度以上の寿命を持ち、子をすことができたのはほんのひと握りだけだったようだ。
 さらに種族として生き残っているのは今では我ら狼系獣人を含めてたった五種族のみだ」

「たった五種族……」

「つまり我ら獣人だけは、お前らのいう亜人にあたるということだ。
 従って、全く類似点のないコボルトに対してはなんら特別な感情は持ち合わせてはいない」

「まあコボルトも犬のように見えるだけで、実際は竜の系譜に連なる魔物なんだけどね。
 あの頭もよく見たらモフモフしてなくて、ウロコだし」

 シルバーの声が突然割って入った。

「ああ、そういえばそう聞いたことがあるな」

 ヤムトはそう答えた。

「あれ」

 ヤムトに聞こえているという事は、シルバーの発言は囁き声ウィスパーではない。
 話せることは秘密にしておきたいと言ってたクセにどういうつもりなのか。

「おいシルバー、いいのか?」

「ん? まあいいよ。このモフモフさん悪い人じゃなさそうだし」

 悪い人じゃない? いや、なにを言ってるんだこの自転車野郎は。
 たぶんオレの命を狙ってるんだぞ、ヤムトは。
 ところがヤムトは特に驚いた様子も見せずに、普通にシルバーに話し掛けた。

「鉱竜殿は川は大丈夫かな? それほど深くはないが」

「まだ僕をただのトカゲだと思ってるの?」

「いや、仲間のドワーフから鉱竜殿の事は聞いている。
 非礼を詫びたかったのだが、どうやら話せることを伏せておきたいようだったので、我らからは話しかけないでおいたのだ」

 バナバは「よく言っておく」と言っていたのだから、ヤムトが知っているのも当然だ。
 意外だったのはルシッドのパーティのやつらがそんな風に気を効かせていた事だ。

「いい心がけだね。あ、もしかして僕が金属だから水に沈むと思ってる?」

「竜のことはよく分からないが、金属の体ならば水は苦手かと」

「得意不得意でいえば、水竜や海竜ほどには得意じゃないけど、一応泳げるよ。でも……」

 シルバーはぴょんと小さく跳ねて方向転換をした後、くいっとハンドルを切って切り立った岩山の一部をそのカゴで指し示した。

「今はそんな悠長なことをせずに、さっさと谷を越えちゃおうよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!

黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。 ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。 観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中… ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。 それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。 帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく… さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!

処理中です...