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ディーバー・ウーズのエースチーム

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 ギルドへの報告はほとんどトヨケたち任せだった。オレは横でただ突っ立っていただけだった。
 それなりの大事件だと思っていたのだが、冒険者ギルドの対応は淡々としたものだった。
 取り合わないわけではないし、訊くべきことは訊き、記録もきちんと取っていた。だがそれらを行った受け付けのタマガキとギルド長のコセは必要以上のリアクションを見せなかった。
 オレとしてはもう少し驚いたり慌てたりしても良いんじゃないかとは思うのだが、彼らの驚きのリソースは、ギルド内の変わり者が連れてきたミスリル自転車に全てもっていかれたようだった。

「これ、相棒のシルバーっす」

 隣のシルバーを示してそう言うと、二人とも数秒間硬直した。
 あまり気が進まなかったが、今後はギルドから紹介される仕事にシルバーが同行する事もあるだろうと一応紹介したのだ。

 コセは何か言おうとしたらしく口をパクパクさせていたが結局言葉が出て来なかった。このギルド長は冒険者としてのレベルも相当なものだと聞くが、その厳つさに似合わず考え過ぎるところがある。

 クールビューティを絵に描いたようなタマガキは、硬直しつつもギルドの受け付けとしての職務を思い出したようで、眼鏡の位置を直すと従魔に関しての事細かい注意事項を流暢に説明してくれた。おそらく口が憶えているのだろうが、喋りながらも手にしていたペンで机の天板にドクロマークを無意識に何個も描いてたからけっこうパニクっていたんだろう。あれ多分消えないだろうな。

 シルバーは扱いとしてはやはり従魔になるらしく、冒険者登録ではなくオレの従魔として登録をした。
 ギルドを訪れていた冒険者たちは皆シルバーを目にすると一様に色めき立った。
 オレはコセとタマガキにも他の冒険者たちにも「生き別れになっていた竜と再会をした。小さい頃に兄弟みたいに過ごしていた存在なんだ」との説明をしておいた。
 お陰でしつこく追求してくる者もいなかった。
 脛に傷を持つ者も少なくない冒険者ギルドでは、人の過去を詮索することは暗黙のうちにタブーとなっているのだ。

 ギルドを出たとこでハンガクとツルの二人と別れ、トメリア姉妹の店へ向かった。
「料理食わせてくれる約束忘れるなよ」去り際にハンガクが言うと、ツルが「そうじゃないですよ」とたしなめた。
 忘れるも何もすでに約束の内容が変わっている。
 まあその時にはしっかりと飲食の代金をいただく事にするが。

「さあ乗って。早いとこ戻らないとカノミちゃんが心配してるでしょ」

 シルバーが言った。
 シルバーに乗れば、ここからトヨケたちの店までほとんど時間はかからない。

「あんまり飛ばさず、安全運転で頼むぜ」

 そう言いながらオレがサドルに跨ると

「えー、カズも乗るの?」

 シルバーが苦情の声を上げた。

「当たり前だ。オレを置いてく気か」

 そのやり取りを聞いて、トヨケがくすくす笑う。

「シルバーさん、お願い。カノミもカズさんにお礼が言いたいと思うの」

「仕方ないなあ。トヨケちゃんがそう言うならカズも乗っていいよ」

 この自転車、いつかきっちり締めておく必要があるな。



□■


「おかえりなさい!」

 カノミは顔を見るなりトヨケに飛びついた。

「ごめんねカノミ」

 トヨケも妹をしっかりと抱き締めた。
 これでようやく一件落着だ。
 とはいえ、ダンジョンにいる悪魔はそのままだし、召喚を企てた貴人たちに関して、その目的や背後関係の調査が行われる事もおそらくないだろう。事件そのものの解決は全くしていない。
 それでも一介の日雇い冒険者にできることはここまでだし、この後の事はどこかの偉い人や強い人が何とかしてくれると信じたい。
 というか、実際のところこの件でオレは何もしていない。していないどころか悪魔に食われそうになった時には助けるはずのトヨケに助けられたのだから、情けないを通り越して出家でもしたくなる。

「カズさん、お姉ちゃんを助けてくれてありがとう」

 涙と笑顔で顔をくしゃくしゃにしたカノミにそう言われると、なおさらだ。ここはもう仏門に入って、悟りを開くしかない。この世界に仏教はないだろうけど。

「いや、オレはなんにもしてないんだ。ぜんぶこのシルバーが……」

 オレが言いかけたところで、当のシルバーがカノミの前に進み出た。

「別に助けたわけじゃないさ。
 カズが作った料理を、僕たちで配達しただけだよ。
 なんてったって僕らはディーバー・ウーズのエースチームだからね」

「ディーバー・ウーズ?」

 カノミが不思議そうな顔で首を傾げたが、シルバーはそれ以上は説明する気はないようだった。

「さあ帰ろうカズ。僕ももうお腹ぺこぺこだよ」

「そうか、シルバーはキャベツしか食ってないもんな……っていうかオレも今日何にも食ってねえ」

 ハンバーガーを食べ損ねたことを思い出すと、途端に胃が抗議の声をあげた。
 とりあえず、帰ったらキャベツたっぷりの野菜炒めでも作ろうか。
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