ママチャリってドラゴンですか!? ~最強のミスリルドラゴンとして転生した愛車のママチャリの力を借りて異世界で無双冒険者に~ 

たっすー

文字の大きさ
上 下
20 / 100

悪魔

しおりを挟む
「これって結局何をしようとしてたんだろうな」

 魔法陣の一部にされているトヨケの拘束を解きながらシルバーに話し掛ける。
 腕輪も造作なく外すことができたが、針が刺さったままだったので、それを抜いた痕からまた少し血が流れ出た。すぐに止まるだろうけど、これを外してからシルバーに回復させればよかったな。

「悪魔召喚とかだろうね。外にいる人たちに訊けば分かるだろけど」

 シルバーも向こうで他の冒険者の拘束を解いている。手は無いはずなんだけど、どうやってるんだろう。

「ああ、あっちの貴人は気絶してるだけだったな」

 この部屋の識人はシルバーがあっさり葬ってしまった。この魔法陣の目的を知る術がなくなったかと思ったが、言われてみればまだ外の貴人たちがいる。

「トヨケ、大丈夫か?」

 トヨケに手を貸して起こしてやる。

「カズ……さん?」

 いまだ状況が飲み込めないらしく、トヨケの猫目はしきりに瞬きを繰り返している。

「立てるか?」

 訊くとトヨケはこくこくと頷く。
 カノミとよく似た真っ直ぐな髪は高い位置でひと括りにされていて、それが頷く動きに合わせてぴょこぴょこと動いた。

「助けに来てくれたの?」

「ああ、いや、配達に来た」

「配達?」

「腹減ってるだろ」

「お腹……減ってる」

 トヨケが少し恥ずかしそうに答えた。

「美味い物持ってきたぞ」

「おねーさんたちも大丈夫かい?」

 シルバーが優しい声で他の女性冒険者たちに話し掛けている。
 身を起こした二人はシルバーの姿を認めると驚いた様子を見せつつも何度も礼の言葉を口にした。

「そんな恐縮しないで。僕たちはただ配達に来ただけだから」

 シルバーも配達などとオレの言葉を真似てやがる。
 ん? ということは……

「チーズバーガー。ちゃんと三人分あるからね」

 シルバーが言った。

「ちょっと待っ……」

 トヨケの分、オレの分、シルバーの分で三つだったのだが、流石にこの場でトヨケとオレたちだけで食べるわけにもいかない。クソッ、味見もしてなかったのに。

「でもまた血が出ちゃったから、先に回復するね」

 その声が聞こえた途端オレの体も暖かい光に包まれた。癒しの息吹ヒールブレスは範囲効果のスキルなのだろう。別にケガはしてなかったはずだが、少し元気になったような気がする。

「それにしても悪趣味な……」

 言いながら魔法陣を振り返ったところで、ゾクッときた。
 理由は分からないが恐怖がオレの背筋を駆け上がる。
 そして気付いた。

「識人の死体がない……」

「何言ってんの、死体なんて元々ないよ」

「そっちこそ何言ってるんだ。お前があっさり四人殺したじゃないか」

「人聞きの悪い。人をサイコパスみたいに言わないで欲しいな。むしろ相棒があっさり人を殺すって考えてるカズのその発想の方がサイコパスだよ」

「いや、だってドラゴンなんだから人の命なんて軽いモンなんだろ? 実際に胸撃ち抜いてたじゃねえか」

「先に癒しの息吹ヒールブレス使ったでしょ。あの息がまだ一帯に漂ってたから、爪に貫かれたと同時に胸は治癒してたんだよ。
 まあ癒しの息はすぐに霧散しちゃって、回復も少しだけだったから、瀕死には違いなかったと思うけどさ」

「あ、息は敵も治しちまうのか」

「当たり前じゃん。息吹きかけてるんだから、治す対象選んだりとかできるわけないでしょ」

「あ、あそこ!」

 冒険者の一人が部屋の端を指差した。
 皆の視線が集まる。
 床から黒い一抱えほどの太さの大木が生えていた。いや大木じゃない。その先端には大きなが付いていて、識人を二人わしづかみにしていた。

「腕だ!」

 手が識人をゆっくりと握りしめる。
 骨が砕ける鈍い音が響く。
 握り込むと次は指を緩め、そしてまた握り込む。

「手の平に口があるよ!」

 トヨケが叫んだ。
 手のひらに口がありその中にはビッシリと牙が生えていた。識人たちはただ握り潰されているわけではなかった。その口に食べられているのだ。
 
「あっちにも!」

 冒険者の一人が指さした方を見る。部屋の反対の端にも別の腕が生えていた。こちらも二人の識人を捕まえて咀嚼している。

「食ってるのか!? 何なんだ、コイツ」

「悪魔に決まってるじゃん。召喚してたんだからさ」

 オレの疑問に応えたのはシルバーだ。

「召喚は成功してたってことか」

「どうかな、途中で止められたから腕だけなのかも」

「シルバーなら勝てるか?」

「うーん、悪魔とケンカした事ないから分からないけど、女の子たちの安全を考えるなら、今のうちに逃げた方がいいかも」

 言われてみればそうだ。
 今のところ悪魔は識人に夢中だ。わざわざ戦う必要はない。

「チーズバーガーはお預け。乗って」

 シルバーがそう言ったのはオレに向かってではなかった。

「ペダルに一人立って、サドルと荷台に一人ずつ。三人なら何とか乗れるから」

「四人はムリか?」

「逆に訊くけど、四人乗りとか見たことある?」

「ないです。というか三人乗りもない」

「じゃあカズは走って」

「マジか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

処理中です...