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癒やしの息吹
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ちらちらと好奇の目を向けられる中、オレとシルバーチャリオッツ号は通りを進む。
猥雑な商業区に貴人が来ることはあまりないとは思うが、悪目立ちしている事が気が気でない。
「注目集めちまってるな」
「僕だけの時の方がもっと見られてたけどね」
「ドラゴン放し飼い状態ならそうなるわな」
「ボク悪いドラゴンじゃないよ」
「そもそもドラゴンかどうかが怪しいけどな」
シルバーチャリオッツ号とくだらない事をボソボソと話しているうちに商業区の端の方まで来ていた。
もう通りを二つも越えれば市民の居住区だ。
先ほどの親子はまだオレたちの後ろを歩いている。
おそらく買い物はもう済ませていて居住区に戻るところなのだろう。
ドラゴンライダーだなどと詐称してしまったことが後ろめたくて、あれ以降はコミュニケーションをとっていなかった。
だが女の子の方は相変わらず好奇心で目を輝かせているらしく、オレやシルバーチャリオッツ号の一挙手一投足について母親にひそひそとコメントしている声が漏れ聞こえてくる。
「んで、シルバーはどうしてこんなトコに来たんだよ」
今更ながらに思い付いて訊いてみた。
「それはもちろんカズを追いかけてきたんだよ」
「どうやってオレが商店街に来てるって分かったんだ?」
「それもスキルだよ、広範囲探査っていう」
「なんでお前ばっかり色々とスキルがあるんだ」
「転生ギフトだからね、世界もきっと人を選ぶんだよ。あとたぶん、ギフトって転生前の特質とか願望とかが影響するんじゃないのかな」
「特質って、自転車なんだから速く走れるとかそういうんじゃないのか」
「僕の場合はハンドルのホルダーに入ってたスマホや、デバッグも僕の一部とみなされたんだと思う」
「なるほど、今のお前にはディーバー三種の神器が含まれてるわけか。
あーそうか、その広範囲探査ってスキルはグルグルマップとGPS機能なのか」
「察しがよろしい。君も少しは見込みあるね」
「自転車に見込まれても別に嬉しかねえけど」
「カズはこんなトコに何をしに来てたの?」
「明日から始まる仕事で必要な物を買い揃えるためにだよ」
その時、後ろで「きゃっ」という小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると女の子が道端に座り込んでいた。
フリルのついたスカートから伸びた可愛らしい膝に擦り傷ができている。大きな目にみるみる涙が溜まっていく。
「転んだんだな。かわいそうに」
オレがそういうとシルバーチャリオッツ号は何も応えずに、くるりと方向転換をして親子の方へと行った。
おいおい、いきなりドラゴンが近寄ってきたら二人ともおびえるんじゃないか。
それとも転生して本能までドラゴン化して、人間の血を見た途端食欲が湧いてきたとかいうんじゃないだろうな。
とりあえずオレもあっちに行くべきだな。
「おいシルバー、いきなり行ったら驚かせてしまうだろう」
あえて明るい声でそう呼びかける。
だけどオレの心配は杞憂だったようだ。
オレが行った時には、もう女の子は笑顔になっていた。膝小僧の怪我もなくなっている。
「ありがとうございました!」
母親が頭をさげた。シルバーチャリオッツ号に向かって。
それに倣って女の子もぴょこんと頭をさげた。
親子ともども金髪で綺麗な顔立ちをしている。母親はオレと近い年齢だろう。女の子は四、五歳といったところだろうか。
シルバーチャリオッツ号が頷いた(ように見えた)。
「お話ができるなんて、すごいドラゴンさんなんだね」
女の子が抱き着くように自転車のハンドルを抱え込んだ。
「あの、お連れの方は上位種のドラゴン様なのでしょうか?」
母親の方はオレに向かってそう尋ねる。
質問の意味が分からずオレは首をかしげてみせた。
上位種とは何だろうか。
だけど親子の様子からしてシルバーチャリオッツ号が思念伝達で二人に何かを話しかけていることは間違いなさそうだ。
「シルバー、何をしゃべっているのかオレにも分かるようにしてくれ」
そう言った途端、シルバーの声がオレにも聞こえるようになった。
「我の癒しの息吹の施しだ。この少女の傷を治した」
おい、一人称変わってるぞ。まったくカッコつけやがって。
「畏れ多いことでございます」
母親が深々と頭をさげた。その言葉の割にはシルバーチャリオッツ号をぺたぺた触っている娘を咎めようともしていないが。
ドラゴンはこの世界ではやはりすごい存在なのだろうか。
母親の態度はただのでかいトカゲとかに対するそれではないように感じる。まあトカゲではなく自転車だけど。
あとでシルバーにそのあたりのこと聞いてみるか。
「回復魔法を使ったのか?」
シルバーに訊く。
ママチャリが魔法を使えるとは思ってもみなかった。
色々とスキルを獲得したみたいなことを言っていたから、そのうちに回復魔法があったとしてもおかしくはないのか。
「魔法ではない。癒しの息吹だ。無尽蔵の魔素を蓄えるミスリルの体を持つ我は、あえて魔法などを使用しなくとも、魔素に特定の性質を与えつつ息という形で放出するだけで大抵の魔法と同じことは行えるのだ」
ふむふむ。正直いってよく分からないのだが、無尽蔵だとか大抵の魔法だとか、なんだかすごいことをサラッと言われたような気がする。
だけど追及するのは面倒なので、今度の休みにでももう一回じっくり説明をしてもらおう。
猥雑な商業区に貴人が来ることはあまりないとは思うが、悪目立ちしている事が気が気でない。
「注目集めちまってるな」
「僕だけの時の方がもっと見られてたけどね」
「ドラゴン放し飼い状態ならそうなるわな」
「ボク悪いドラゴンじゃないよ」
「そもそもドラゴンかどうかが怪しいけどな」
シルバーチャリオッツ号とくだらない事をボソボソと話しているうちに商業区の端の方まで来ていた。
もう通りを二つも越えれば市民の居住区だ。
先ほどの親子はまだオレたちの後ろを歩いている。
おそらく買い物はもう済ませていて居住区に戻るところなのだろう。
ドラゴンライダーだなどと詐称してしまったことが後ろめたくて、あれ以降はコミュニケーションをとっていなかった。
だが女の子の方は相変わらず好奇心で目を輝かせているらしく、オレやシルバーチャリオッツ号の一挙手一投足について母親にひそひそとコメントしている声が漏れ聞こえてくる。
「んで、シルバーはどうしてこんなトコに来たんだよ」
今更ながらに思い付いて訊いてみた。
「それはもちろんカズを追いかけてきたんだよ」
「どうやってオレが商店街に来てるって分かったんだ?」
「それもスキルだよ、広範囲探査っていう」
「なんでお前ばっかり色々とスキルがあるんだ」
「転生ギフトだからね、世界もきっと人を選ぶんだよ。あとたぶん、ギフトって転生前の特質とか願望とかが影響するんじゃないのかな」
「特質って、自転車なんだから速く走れるとかそういうんじゃないのか」
「僕の場合はハンドルのホルダーに入ってたスマホや、デバッグも僕の一部とみなされたんだと思う」
「なるほど、今のお前にはディーバー三種の神器が含まれてるわけか。
あーそうか、その広範囲探査ってスキルはグルグルマップとGPS機能なのか」
「察しがよろしい。君も少しは見込みあるね」
「自転車に見込まれても別に嬉しかねえけど」
「カズはこんなトコに何をしに来てたの?」
「明日から始まる仕事で必要な物を買い揃えるためにだよ」
その時、後ろで「きゃっ」という小さな悲鳴が聞こえた。
振り返ると女の子が道端に座り込んでいた。
フリルのついたスカートから伸びた可愛らしい膝に擦り傷ができている。大きな目にみるみる涙が溜まっていく。
「転んだんだな。かわいそうに」
オレがそういうとシルバーチャリオッツ号は何も応えずに、くるりと方向転換をして親子の方へと行った。
おいおい、いきなりドラゴンが近寄ってきたら二人ともおびえるんじゃないか。
それとも転生して本能までドラゴン化して、人間の血を見た途端食欲が湧いてきたとかいうんじゃないだろうな。
とりあえずオレもあっちに行くべきだな。
「おいシルバー、いきなり行ったら驚かせてしまうだろう」
あえて明るい声でそう呼びかける。
だけどオレの心配は杞憂だったようだ。
オレが行った時には、もう女の子は笑顔になっていた。膝小僧の怪我もなくなっている。
「ありがとうございました!」
母親が頭をさげた。シルバーチャリオッツ号に向かって。
それに倣って女の子もぴょこんと頭をさげた。
親子ともども金髪で綺麗な顔立ちをしている。母親はオレと近い年齢だろう。女の子は四、五歳といったところだろうか。
シルバーチャリオッツ号が頷いた(ように見えた)。
「お話ができるなんて、すごいドラゴンさんなんだね」
女の子が抱き着くように自転車のハンドルを抱え込んだ。
「あの、お連れの方は上位種のドラゴン様なのでしょうか?」
母親の方はオレに向かってそう尋ねる。
質問の意味が分からずオレは首をかしげてみせた。
上位種とは何だろうか。
だけど親子の様子からしてシルバーチャリオッツ号が思念伝達で二人に何かを話しかけていることは間違いなさそうだ。
「シルバー、何をしゃべっているのかオレにも分かるようにしてくれ」
そう言った途端、シルバーの声がオレにも聞こえるようになった。
「我の癒しの息吹の施しだ。この少女の傷を治した」
おい、一人称変わってるぞ。まったくカッコつけやがって。
「畏れ多いことでございます」
母親が深々と頭をさげた。その言葉の割にはシルバーチャリオッツ号をぺたぺた触っている娘を咎めようともしていないが。
ドラゴンはこの世界ではやはりすごい存在なのだろうか。
母親の態度はただのでかいトカゲとかに対するそれではないように感じる。まあトカゲではなく自転車だけど。
あとでシルバーにそのあたりのこと聞いてみるか。
「回復魔法を使ったのか?」
シルバーに訊く。
ママチャリが魔法を使えるとは思ってもみなかった。
色々とスキルを獲得したみたいなことを言っていたから、そのうちに回復魔法があったとしてもおかしくはないのか。
「魔法ではない。癒しの息吹だ。無尽蔵の魔素を蓄えるミスリルの体を持つ我は、あえて魔法などを使用しなくとも、魔素に特定の性質を与えつつ息という形で放出するだけで大抵の魔法と同じことは行えるのだ」
ふむふむ。正直いってよく分からないのだが、無尽蔵だとか大抵の魔法だとか、なんだかすごいことをサラッと言われたような気がする。
だけど追及するのは面倒なので、今度の休みにでももう一回じっくり説明をしてもらおう。
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