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ゼロのために

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 オックス達とアンデッドの戦いは互いに相手を定めた決戦の様相を呈してきた。
 双方がゼロのために戦っている。

 イザベラ、ヘルムントはオメガを相手に渡り合う。
 ヘルムントの拘束の祈りでも捕らえることが出来ないオメガにイザベラがサーベルを振るう。

「まったく!のらりくらりと忌々しいですの!」
「気を抜くな、このヴァンパイアの力はゼロ殿のアンデッドでも一際違うぞ!」

 一方のオメガも手練れの聖騎士2人を相手にして全力戦闘を強いられている。

「聖騎士のお2人相手とは・・・ヴァンパイアの私と相性の悪い方々に目を付けられましたね・・・」

 オメガも爪だけでなく、隙あらば吸血によりイザベラ達を眷族化しようとするが、そんな手はイザベラ達には通用しない。

 オックス、リリス、ライズはサーベル達3体のデス・ナイトを相手にする。
 
「まさかお前と戦うなんて思ってもいなかったが、やっぱり剣筋はただ者じゃねえな!」

 ライズとサーベルは互角の剣撃を繰り広げている。

「やっぱり端から見ているのと実際にやり合うとではまるで違うな」

 オックスとスピアの戦いはオックスの戦鎚はスピアの速度に追いつかず、スピアの槍はオックスに軽々と弾かれる。
 こちらも互いに相性の悪い戦いだ。
 そして2人を援護するリリスの矢はシールドに止められてしまう。
 リリスは霊木より削りだした特製の矢に風の精霊シルフの力を宿らせて番えた。

「闘技大会の時は貴方の盾を貫くことは出来なかったけど!」

 リリスの渾身の一撃はシールドを大盾ごと吹き飛ばした。

 チェスターとカミーラの相手は2体のジャック・オー・ランタンだ。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプから進化したジャック・オー・ランタンは自在に飛び回る高い機動力と大鎌と火炎魔法による変幻自在の強さを誇る。
 対するチェスターも火炎魔法を得意とする魔法剣士だ。
 似た特性を持つ者同士の戦いで互いに決め手に欠けるが、その均衡を破るのはカミーラだ。

「2対2の戦いだが、俺達のコンビネーションの右に出る奴はいねえ!」
「はいっ!」

 弓矢並みに射程が長く、あらゆる効果を持つカミーラの符はジャック・オー・ランタンにとっても脅威となっている。

 イズとリズの兄妹はセイラ、アイリア、リックスと共にシャドウ、ミラージュ、リンツに対峙している。
 セイラはシャドウ、ミラージュを抑え込もうとするが、2体の力が強く思うようにいかない。
 アイリアもセイラの守りに専念しているため、イズ、リズ、リックスが矢面に立つ。

「魔法の援護があるリンツが相手じゃ分が悪いな」

 シミターと短剣を持つリックスと双剣で戦うイズ、2人共にスピード重視のスタイルだ。
 対するスケルトン・ナイトのリンツは大きな戦斧を持つパワーファイアーであるうえ、セイラの祈りをかいくぐるシャドウ達の援護もある。

「リズ、お前のアンデッドを呼べないか?」
「危険です。私の召喚するアンデッドは私だけのもので、如何に強力な死霊術師といえど干渉することは出来ません。でも、今のゼロ様の力は未知数です。万が一にもアンデッドを奪われてしまったら追い詰められるのは私達の方です」

 リズはアンデッドを指揮しているゼロを見た。
 それぞれがそれぞれの相手と死闘を繰り広げる中、ゼロと背後に控えるアルファだけは動こうとしていない。

「皆さん、アルファの動きに、泣き声や歌に警戒して下さい!」

 リズが恐れたのはバンシーであるアルファの精神攻撃だった。
 精神を凍りつかせたり精神崩壊を招くアルファの泣き声や歌は戦況を一変させるだけの威力を持つ。
 そんなアルファが前に出ようとしていないのだ。
 ゼロの弟子であるリズはイズ達を援護しながらも戦場を包む死霊の気を、ゼロの思惑を読もうと必死だった。

 更にもう1人、レナも戦いには参加していない。
 
「ゼロ・・・」

 頭では分かっている。
 今のゼロは闇に落ちたアンデッドであること。
 そのゼロを救うために仲間達が戦っていること。
 レナもゼロを救うためにゼロに立ち向かわなければならないことを。

「呼び戻してください」

 レナにゼロは言った。
 即ち、ゼロも生還を諦めてはおらず、レナの下に帰ろうとしているのだ。
 しかし、どうやってゼロを呼び戻すのか。
 レナの魔法ではゼロの身体に修復不可能なダメージを与えてしまう可能性があるし、威力を調節すればゼロには通用しないだろう。

 レナはゼロに向けて歩き出した。
 ゼロの虚ろな目がレナを捉え、剣を向けてくる。
 
「ゼロ、私よ。レナよ、レナ・ルファードよ・・・」

 優しく声を掛けながらゼロに近づくレナ。

「レナ止めろっ!今のゼロに近づくな!」

 オックスが制止するがレナは足を止めない。

「ゼロ、戻ってきなさい。全て終わったのよ。帰りましょう、風の都市に。シーナが待っている私達の家に」

 優しい笑顔で近づくレナに剣を構えたまま後ずさるゼロ。
 アルファはそれを赤い瞳で黙って見つめている。
 レナがゼロに手を差し出した。

「レナ・・シーナ・・・」

 虚ろなゼロが呟く。
 その手から剣が落ちた。

「レナ・レナ・・・」

 後ずさるゼロに更に手を伸ばすレナ。
 アルファが僅かに反応する。

「ゼロ、一緒に帰りましょう」
「レナ・シーナ・・カエリタイ・・フタタビアイタイ・・・欲しい・・2人が欲しい!喰らいたい!」

 ゼロがレナに飛び掛かって押し倒した。

「クッ!・・・ゼロ!目を覚まして!帰ってきて!」

 馬乗りになりレナに喰らいつこうとするゼロを杖で押し戻そうとするレナ。

「喰らいたい、レナの血肉を・・・カエリタイ・・レナサントイッショニ」
「ゼロッ!私の声を聞いて!」
「レナサンノコエ・・を・・レナを喰らいたい」

 力負けしたレナの首筋にゼロの歯が近づく。

「・・・主様・・・」

 その様子をアルファは涙が流れる瞳で見下ろしている。

「レナがヤバい!クソッ」

 チェスターもジャック・オー・ランタンの相手で手一杯だ。

「チェスター、行って!レナさんを助けて!」

 カミーラが叫ぶ。

「無茶だ!お前1人では此奴等を相手にはできねえ!」
「私のことは構わずに行って!言ったでしょう!この戦いで死ぬのなら私達!」
「しかし!お前を残して・・」
 
 躊躇するチェスター。
 そんなチェスターの一瞬の隙を突いたジャック・オー・ランタンが大鎌を振りかざして迫る。
 しかし、その鎌はワイバーンの蹴爪によって弾かれた。
 
「ここは私にお任せ下さい!連隊長を、副官殿をお願いします!」

 ドラグーンのコルツだ。

「カミーラを頼む!」

 チェスターはゼロに向かって駆け出した。

「レナが危ねえぞ!」
「しかし、此奴等も出鱈目に強い!どうにもならない。チェスターが行った。奴に任せるしかない!」

 サーベル達と戦うオックス達はどうすることも出来なかった。

「レナが!ゼロさん止めろ!リンツ、どけっ!戦友のよしみだ、どいてくれ!」

 リンツと戦うリックスもゼロに組み伏せられたレナに気付いた。

「シーグルの女神様!レナさんを、ゼロさんを救って!」

 セイラは残りの力を振り絞って救いを求めた。

「あのおバカ本気ですのっ?」
「ああ、マスターの力が際限なく強まってゆく・・・素晴らしい・・そして恐ろしい・・抗えない、私でもマスターには抗えない・・・」
「何を?」

 オメガと斬り結ぶイザベラがオメガの変化に気付く。

「迷っています?貴方、まさかゼロを救いたいと?」
「マスターに仕えるのは私の喜び・・素晴らしき主、あのマスターに戻って欲しい・・。しかし!私の魂はマスターと共にあります。マスターが闇に沈むならばお供するだけ!聖騎士様、私を止めてください!本気の私を力ずくでお止めください」

 オメガの爪をイザベラはサーベルで受け止めた。

 レナの力ではゼロを押し返せない。

「ゼロ!お願い、私の声を聞いて!」
 
 必死でゼロの魂に訴えるレナ。
 その抵抗虚しくゼロがレナの首筋に喰らいついた。

「グッ!あぁっ!」

 レナの首から飛び散った血飛沫がアルファの頬を濡らす。

「主様っ!」

 それまで動かなかったアルファが2人に飛び掛かった。
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