職業選択の自由~死霊に支配された王国~

新米少尉

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ライズ・サイファー

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 ネクロマンサーはセイラを飲み込んだドラゴン・ゾンビと信者達と共に姿を消した。

「逃げられたか・・・」

 オックスが呟くがゼロは無表情で周囲を見回している。

「逃げただけでなく、しっかりと置きみやげを残してくれましたよ」

 ゼロ達はアンデッドの軍勢に囲まれていた。

「なんだ!あの野郎アンデッドを片付けていかなかったのか?」

 オックスは呆れ顔だ。
 アンデッドの数は数百から千程度、この数に囲まれると分散するのは危険だ。
 ゼロは皆を集結させた。

「既に死霊術師の支配から離れているようですが、奴は最後に死霊達に我々を始末するように命令したようですね。その目的のためだけに活動しています。こうなっては彼等を殲滅するしかありません。やれやれ、手間が掛かることです。・・・ところで、チェスターさん、大丈夫ですか?」
 
 ゼロは振り返って背後に立つチェスターを見た。
 左目に痣をこしらえて、鼻血を流している。

「レナが暴れただけだ、問題ない。身体は拘束していたし、魔術師だと思って甘く見ていたが、足癖が悪いな。後でよく言っておいてくれ」

 聞けば暴れるレナに蹴飛ばされたらしい。
 当のレナはカミーラの術で眠らされていた。

「・・・チェスターはレナの脚に見とれて油断しただけ・・・。レナの精神支配を解くには少し手間がかかる。アンデッドを倒して落ち着いてからの方が安全」

 ゼロは肩を竦めた。

「それならば、先ずは死霊達を殲滅しましょう。ただ、私達は取り囲まれています。私の死霊達を大量に召喚すると乱戦になって面倒です」

 そう言うと数百のスケルトンウォリアーをゼロ達を取り囲むアンデッドの更に外側に召喚した。
 ゼロの直近にはサーベル、アルファ、シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタンが3体だけ。
 
「スケルトン隊は外側から攻めてもらいます。我々は包囲の内側からです。敵の数は多いですが、皆さんならば問題ありません。あまり突出しなければ好きに戦ってもらって結構です」

 ゼロの指示でオックスは正面、コルツは右側、チェスターは左側、サーベルは背後の敵に備える。
 カミーラはレナを守り、リリスとアルファはゼロの傍らで全周に対する援護。
 シャドウ、ミラージュ、ジャック・オー・ランタンはそれぞれ敵中に切り込んで撹乱する。
 多少時間は掛かるが、各人が踏みとどまれば外側から攻めるゼロのアンデッドと連携して敵を殲滅できる筈だ。

「無理をする必要はありません」

 四方の敵に対峙しているが、指揮に専念するゼロを中心に各々が即座に連携できる距離を保つ。
 オックスが戦鎚を、コルツが槍を振るい、チェスターが魔法を乗せた剣でアンデッドを焼き斬る。
 サーベルは背後の敵に対処しつつもゼロからは離れようとしない。
 ゼロを守るというよりも、レナを守るカミーラを守るべきと判断したようだ。
 サーベルが守りに転じているために背後の敵が思うように減少しないが、ゼロはサーベルの判断を尊重する。

(ジャック・オー・ランタンを回すか、あと2、3体スケルトンナイトを出しますか・・・)

 ゼロが考えた時、後方の敵アンデッドの軍勢が突如として崩れた。
 アンデッドを蹴散らして一直線に向かってくるのは1人の剣士。

「久しぶりだなゼロ。すまねえ、遅れちまったぜ」

 ロングソードを手に駆け寄ってきたのはライズ・サイファーだった。
 
 ゼロはライズを見て一瞬だけ右目を細めたが、直ぐに表情を戻す。

「ライズさん、後方をお任せできますか?」

 ゼロの言葉にライズは笑みを浮かべて頷いた。

「任せろよ。サーベルだったか?こいつとも付き合いが長いからな、上手く連携してやるぜ」

 ライズはサーベルに肩を並べて剣を構えた。

 こうなると指揮者のいない敵アンデッドを殲滅するのもさほど時間を要しなかった。
 月が太陽の軌道から離れ、太陽が完全に姿を現した頃には全ての敵を倒していた。
 こうして、渓谷の都市は解放されたのである。

 敵がいなくなったのを確認したゼロ達もそれぞれの武器を収めた。
 
「助かりましたライズさん」

 ゼロが礼を言うとライズは照れくさそうに笑う。

「礼なんかよしてくれよ。主役は最後に登場しようと思っていたら出遅れちまった」

 いつも通りの軽口をたたくライズ。
 オックスも呆れ顔だ。

「相変わらずだな。しかし、無事で良かったぞ。ところで、イリーナは・・・」

 オックスの言葉を遮るようにゼロが手を挙げて、静かに首を振った。
 その様子を見たライズの表情が曇る。

「・・・ゼロには分かるか?イリーナは・・・逝っちまったよ」
「何だと!」
「皆とはぐれた後だった。俺達はえらい数のアンデッドに囲まれたんだが、あいつの矢が尽きた一瞬の隙を突かれた。致命傷になるほどの深手を負ってな、そうしたらイリーナの奴、アンデッドになるくらいならと、俺が止める間もなく、自ら命を絶ちやがった」

 寂しそうに笑いながら語るライズ。
 
 ライズが現れた時からゼロには見えていた。
 ライズに寄り添うイリーナの魂の姿を。
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