職業選択の自由~死霊に支配された王国~

新米少尉

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邪教の儀式を食い止めろ3

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 ゼロ達が見下ろしている中央広場に集まる信者達の数は百人を軽く超えた。

「信者の数が多いですが、それ自体は問題ありません。一番の脅威は敵死霊術師よりもレナさんです」

 チェスターとカミーラが首を傾げる。

「レナとセイラの救出が目的だろう?何故レナが脅威なんだ?」
「今回の儀式はレナさんにセイラさんを殺害させるものですが、レナさんがそんなことを引き受けるなんてあり得ません」
「あっ!なるほど、そういうことか!」
「方法は分かりませんが、レナさんを精神支配しているのでしょう。そうならば、儀式を阻止せんとする我々にはレナさんの杖が向きますよ。レナさんは炎撃魔法や雷撃魔法が得意ですが、その威力が桁違いです。しかも、それらの魔法を無詠唱で撃ち込んできます」
「そいつはおっかねえな」

 ゼロはカミーラを見た。

「だからこそカミーラさんの力が必要だということです」

 ゼロの言わんとすることを理解したカミーラは真剣な表情で頷いた。

 その間にも信者の数は増え、アンデッド達も広場周辺に集まってくる。
 太陽は天頂に差し掛かり、軌道が重なる月が太陽の端を遮り始めた。
 日蝕が始まったのである。
 そして、集まっている信者やアンデッドの前に黒いローブに身を包んだ人物が現れた。
 件のネクロマンサーだ。

「そろそろですね。オックスさん達も都市に潜入している筈です。私達も移動しましょう」

 ゼロ達は高台を下り、渓谷の都市に向かった。

 都市の周辺にはアンデッドが彷徨いており、一応の警戒をしているようだが、そんなものはゼロにしてみれば無いに等しく、都市への潜入は容易に行われ、ゼロ達は広場を見通すことができる物陰に身を隠して様子を見る。
 広場では信者達により木の柱が立てられ、薪が置かれている。
 この場で何が行われようとしているのか一目瞭然だ。

「突入のタイミングは私が見極めます。突入したらカミーラさんはレナさんを無力化してください。カミーラさんならばそれが可能です。チェスターさんはカミーラさんの護衛です」

 ゼロの指示にチェスターとカミーラは頷いた。

 やがて信者達の手によりセイラが運ばれてきた。
 眠らされているのか、意識が無い様子で身動きしないまま、柱に縛り付けられている。
 天頂に昇った太陽はその半分以上が月に隠れつつある。
 それらの様子を厳しい表情で見続けているゼロだが、まだ動かない。

「ゼロ?」

 チェスターが伺うが、ゼロは首を振る。
 その間にも儀式の準備が整いつつあり、集まった信者達が何やら祈りを捧げ始めた。
 ゼロは中央広場の群衆に目を凝らす。
 敵に気付かれないためにアンデッドを召喚していないため、レナの所在が分からないのだ。
 その時

「あそこっ!」

カミーラが信者達の中心を指示する。
 カミーラの指差した先、信者達の中に白いローブを身に纏った者がいるが、その人物がネクロマンサーの前に歩み出た。
 手にはゼロが見慣れた杖。
 その杖がセイラに向けられる。

「居ました!行きます」
 
 ゼロは天に向けて光熱魔法を放った。
 ゼロの合図に呼応してゼロ達の位置とは反対側からオックスとコルツがアンデッドの中に突入した。
 ネクロマンサーと信者達の注意がオックス達に向けられる。
 その瞬間を狙ってゼロは信者達を蹴散らしながら一直線にレナに向かって走った。
 後に続くのはカミーラとチェスター。
 ネクロマンサーがゼロに気付くが、レナは目前だ。
 レナが焦点の合っていない虚ろな目でゼロを見た。
 ゼロは鎖鎌を取り出して分銅を回しながら走る。
 レナの杖の先がゼロに向けられた。

「ほらっ!こっちを狙ってます」

 ゼロの背後ではカミーラとチェスターが横に飛び、レナの魔法の射線から逃れる。
 ゼロが分銅から切り離したボーラを投擲した。
 普段のレナならばそんな仕掛けに騙される筈はないが、精神支配下にあるレナは投げつけられたボーラに対応出来ずに杖を絡め取られた。
 間髪入れず、ゼロは鎖分銅を投擲してレナの身体を拘束する。
 レナは杖を奪われ鎖に絡め取られながらも魔力を高めてゼロを見た。

「今です!」

 ゼロの合図に回り込んでいたカミーラが符の束をレナに投げつけた。
 レナの全身に符が張り付く。

「魔法を禁ずる!」

 カミーラの声に反応して符が光を放ってレナの魔法を無力化する。
 レナの魔力を抑えきれずに何枚もの符が焼き切れるが、レナの魔法の封じ込めには成功した。
 ゼロはレナを抱き上げてチェスターに向かって放り投げた。

「まだ精神支配は解けていません!拘束しておいてください」
「任せろ!」

 拘束から逃れようと暴れるレナを担ぎ上げながらもカミーラの周りに集まる信者やアンデッドを撃退するチェスター。

 ゼロは即座にセイラに向かうが、その行く手を敵アンデッドに阻まれた。
 数十のスケルトンナイトとグールがゼロを取り囲む。
 その間に信者達は松明に火を灯してセイラに向かう。
 太陽は完全に月に遮られて周囲が暗くなり、数々の松明の灯りが不気味にセイラを取り囲む。
 信者達の手で儀式を続行するつもりだ。

 カミーラが再び符の束を投げた。

「炎を禁ずる!」

 カミーラの投げた符が信者達の持つ松明に張り付いて炎を消し去った。

 チャンスは今。
 ゼロはセイラの周囲にサーベルとアルファ、シャドウとミラージュを召喚した。
 オックス達も敵を突破してセイラに迫る。

「セイラさんを救出しなさい!」

 ゼロの命令にサーベルがセイラを助け出そうとしたその時

「クククッ、愚かなことを・・・」

 それまで無言だったネクロマンサーのローブの奥から低い笑い声に続いて異常な程の魔力の高まり。
 
・・・ゴゴゴゴゴ

 地鳴りが響き渡り、セイラを中心に地面に魔法陣が現れた。

「下がりなさい!」

 ゼロが叫ぶと同時だった。
 魔法陣から這い出してきたのは巨大なドラゴン・ゾンビ。
 セイラが縛られる柱ごとセイラを飲み込んだ。
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