46 / 100
4人の冒険者
しおりを挟む
ゼロはオックス達が潜む森へと急いだ。
率いているのは付近警戒のための3体のスペクターのみ、とにかく敵に察知されないように努める。
先行させたスペクターからの報告によればオックス達の潜む森へと百を超えるアンデッドが向かっているらしい。
「敵の方が早いですか」
それぞれの位置関係からもゼロが到着するよりも早くアンデッドの集団がオックス達に接触してしまう。
「向かっているのは下位から中位アンデッド。普段のオックスさんとリリスさんならば持ちこたえることもできるでしょうが、避難民を連れているとなると、厳しいかもしれません」
ゼロは森の中を駆け抜けていった。
その頃、森の奥地の自然の洞窟において、オックスとリリスは決断を迫られていた。
「気づかれたか?」
「ええ、精霊達が騒いでいるわ。さすがにこれだけの人々が密集して隠れていれば死霊達に気付かれるのは時間の問題だったのよ」
オックス達は保護した避難民達を連れて逃げ回っていたが、老人子供もいる集団の体力が限界となり、この森の洞窟に潜んでいた。
携行食や周囲で採れる山菜や木の実、小動物や魚等を節約しながら持ちこたえていたが、敵に察知されたとなると戦うか、脱出かを決断しなければならない。
戦うといっても戦力はオックスとリリス、そして、パーティーからはぐれた中位冒険者が2人だけ。
ライラとシルビア、剣士と魔術師の2人は上位冒険者のパーティーメンバーとしてイバンス王国の潜入調査の任務に当たっていたが、その最中にアンデッドに襲われている避難民を発見し、彼等を救助しようとしたが、その戦闘の中で他のパーティーメンバーとはぐれ、助けた避難民と共に当てもなくさ迷っていたところをオックスとリリスに出会ったのだ。
オックスはライラとシルビアを見た。
「2人共、聞いたとおりだ」
オックスの言葉に2人は覚悟を決めた表情で頷いた。
「戦うか逃げるかを選択せねばならんが、現実的に俺達には選択肢は無い」
シルビアが口を開いた。
「戦う・・・ですね」
「そうだ。年寄りと子供の体力を考えても現時点での脱出は現実的ではない。ここで敵を撃退し、皆の体力の回復を待ってから脱出する他に手段はない」
説明しながらオックスは2人の状態を確認した。
避難民を連れた2人と出会ってからは極力戦闘を避けて逃げ回っていたため、2人共に大きな怪我はなく、体力やシルビアの魔力もまだ余裕はある。
問題は装備で、シルビアは問題ないが、ライラの剣は刃こぼれが酷い。
中位冒険者とはいえ剣技が未熟なのか、戦闘で余計な力が加わっていて剣に負担が掛かっていたのだろう。
オックスは荷物の中から武器の手入れ道具を取り出した。
「鍛冶場でもあれば火を起こして打ち直しもできるが余裕がない。無理矢理に矯正するが構わんか?ただ、剣の寿命は著しく縮める。長くはもたん」
オックスの問いにライラは頷いた。
「お願いします。この場だけでも十分に戦えないと皆を守れません。大切に使ってきた剣ですから、最後まで精一杯、この剣と一緒に戦いたいです」
「よく言った!」
オックスは早速ライラの剣を矯正した。
刃こぼれを削り、刃を研ぎ直す。
急拵えの強引な矯正で剣はやや細く薄くなったが、そこは名鍛冶師としても名を馳せるオックスだ、剣の切れ味を取り戻し当面の間戦うには十分な強度は残してある。
「互いにこの戦いに生き残れたら俺が新しい剣を打ってやる。だから今はこの剣でしっかりと戦え!ただ、戦いでは少し力を抜け。力任せに振らずともこの剣はお前の技に応えてくれる」
オックスに剣を返されたライラは頷きながら剣を納めた。
そうこうしている間にも敵は近づいてきている。
避難民を洞窟内に隠し、洞窟の前にはシルビアが陣取った。
前衛に立つのはオックスとライラの2人、リリスは木の上で弓を構える。
「来るわよ!数は百以上、スケルトンとグール」
叫びながらリリスが弓を放ち始めた。
オックス達にはまだ敵の姿は見えないが、リリスのことだ、1射ごとに敵を仕留めている筈だ。
「何体か仕留めたけど再召喚されないわ。指揮者がいない、はぐれの集団よ!」
リリスの言葉にオックスは頷いた。
「よし!再召喚されないならば望みはある!敵が百体ならば百体を倒せばいいだけだ!」
「はっ、はいっ!」
オックスとライラもそれぞれの武器を構えた。
アンデッドの唸り声が聞こえて来る、敵は目前まで迫っている。
「ライラ!俺の近くを離れるな。敵は数で押してくる。数に飲まれたら最後だ。俺達はリリスとシルビアを信じて目の前の敵を倒すことに専念するぞ!」
「はいっ!」
いよいよ敵の姿が見えた。
錆びた剣や槍を持つグールが約20体、その後方にスケルトンが数十体。
オックスは足下にあった拳大の石を拾うと槍を持つグールに投げつけてその頭部を粉砕した。
「リリス!槍を持つ奴を優先的に仕留めろ!弓を持つのがいたら最優先だ」
「分かったわ!」
「シルビアはライラの背後に回り込む敵がいたら其奴を倒せ!俺の背後は気にしなくていい!」
「わっ、分かりましたっ!」
ライラの実力を見極めて敵を倒す優先順位をつけるオックス。
決して突出せず、間合いに入った敵を戦鎚を振るって次々と叩き潰してゆく。
その傍らで目の前の敵1体ずつを慎重に対処するライラ。
オックスとリリスは常にライラの様子に気を配りながら戦っているため、思うように戦うことができないが、敵の数の多さと避難民を守るという状況ではライラとシルビアの力は必要だ。
多少時間を掛けても今は無理をする状況ではないのだ。
4人の冒険者は死力を尽くして戦った。
率いているのは付近警戒のための3体のスペクターのみ、とにかく敵に察知されないように努める。
先行させたスペクターからの報告によればオックス達の潜む森へと百を超えるアンデッドが向かっているらしい。
「敵の方が早いですか」
それぞれの位置関係からもゼロが到着するよりも早くアンデッドの集団がオックス達に接触してしまう。
「向かっているのは下位から中位アンデッド。普段のオックスさんとリリスさんならば持ちこたえることもできるでしょうが、避難民を連れているとなると、厳しいかもしれません」
ゼロは森の中を駆け抜けていった。
その頃、森の奥地の自然の洞窟において、オックスとリリスは決断を迫られていた。
「気づかれたか?」
「ええ、精霊達が騒いでいるわ。さすがにこれだけの人々が密集して隠れていれば死霊達に気付かれるのは時間の問題だったのよ」
オックス達は保護した避難民達を連れて逃げ回っていたが、老人子供もいる集団の体力が限界となり、この森の洞窟に潜んでいた。
携行食や周囲で採れる山菜や木の実、小動物や魚等を節約しながら持ちこたえていたが、敵に察知されたとなると戦うか、脱出かを決断しなければならない。
戦うといっても戦力はオックスとリリス、そして、パーティーからはぐれた中位冒険者が2人だけ。
ライラとシルビア、剣士と魔術師の2人は上位冒険者のパーティーメンバーとしてイバンス王国の潜入調査の任務に当たっていたが、その最中にアンデッドに襲われている避難民を発見し、彼等を救助しようとしたが、その戦闘の中で他のパーティーメンバーとはぐれ、助けた避難民と共に当てもなくさ迷っていたところをオックスとリリスに出会ったのだ。
オックスはライラとシルビアを見た。
「2人共、聞いたとおりだ」
オックスの言葉に2人は覚悟を決めた表情で頷いた。
「戦うか逃げるかを選択せねばならんが、現実的に俺達には選択肢は無い」
シルビアが口を開いた。
「戦う・・・ですね」
「そうだ。年寄りと子供の体力を考えても現時点での脱出は現実的ではない。ここで敵を撃退し、皆の体力の回復を待ってから脱出する他に手段はない」
説明しながらオックスは2人の状態を確認した。
避難民を連れた2人と出会ってからは極力戦闘を避けて逃げ回っていたため、2人共に大きな怪我はなく、体力やシルビアの魔力もまだ余裕はある。
問題は装備で、シルビアは問題ないが、ライラの剣は刃こぼれが酷い。
中位冒険者とはいえ剣技が未熟なのか、戦闘で余計な力が加わっていて剣に負担が掛かっていたのだろう。
オックスは荷物の中から武器の手入れ道具を取り出した。
「鍛冶場でもあれば火を起こして打ち直しもできるが余裕がない。無理矢理に矯正するが構わんか?ただ、剣の寿命は著しく縮める。長くはもたん」
オックスの問いにライラは頷いた。
「お願いします。この場だけでも十分に戦えないと皆を守れません。大切に使ってきた剣ですから、最後まで精一杯、この剣と一緒に戦いたいです」
「よく言った!」
オックスは早速ライラの剣を矯正した。
刃こぼれを削り、刃を研ぎ直す。
急拵えの強引な矯正で剣はやや細く薄くなったが、そこは名鍛冶師としても名を馳せるオックスだ、剣の切れ味を取り戻し当面の間戦うには十分な強度は残してある。
「互いにこの戦いに生き残れたら俺が新しい剣を打ってやる。だから今はこの剣でしっかりと戦え!ただ、戦いでは少し力を抜け。力任せに振らずともこの剣はお前の技に応えてくれる」
オックスに剣を返されたライラは頷きながら剣を納めた。
そうこうしている間にも敵は近づいてきている。
避難民を洞窟内に隠し、洞窟の前にはシルビアが陣取った。
前衛に立つのはオックスとライラの2人、リリスは木の上で弓を構える。
「来るわよ!数は百以上、スケルトンとグール」
叫びながらリリスが弓を放ち始めた。
オックス達にはまだ敵の姿は見えないが、リリスのことだ、1射ごとに敵を仕留めている筈だ。
「何体か仕留めたけど再召喚されないわ。指揮者がいない、はぐれの集団よ!」
リリスの言葉にオックスは頷いた。
「よし!再召喚されないならば望みはある!敵が百体ならば百体を倒せばいいだけだ!」
「はっ、はいっ!」
オックスとライラもそれぞれの武器を構えた。
アンデッドの唸り声が聞こえて来る、敵は目前まで迫っている。
「ライラ!俺の近くを離れるな。敵は数で押してくる。数に飲まれたら最後だ。俺達はリリスとシルビアを信じて目の前の敵を倒すことに専念するぞ!」
「はいっ!」
いよいよ敵の姿が見えた。
錆びた剣や槍を持つグールが約20体、その後方にスケルトンが数十体。
オックスは足下にあった拳大の石を拾うと槍を持つグールに投げつけてその頭部を粉砕した。
「リリス!槍を持つ奴を優先的に仕留めろ!弓を持つのがいたら最優先だ」
「分かったわ!」
「シルビアはライラの背後に回り込む敵がいたら其奴を倒せ!俺の背後は気にしなくていい!」
「わっ、分かりましたっ!」
ライラの実力を見極めて敵を倒す優先順位をつけるオックス。
決して突出せず、間合いに入った敵を戦鎚を振るって次々と叩き潰してゆく。
その傍らで目の前の敵1体ずつを慎重に対処するライラ。
オックスとリリスは常にライラの様子に気を配りながら戦っているため、思うように戦うことができないが、敵の数の多さと避難民を守るという状況ではライラとシルビアの力は必要だ。
多少時間を掛けても今は無理をする状況ではないのだ。
4人の冒険者は死力を尽くして戦った。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる