44 / 100
月の光教団
しおりを挟む
渓谷の都市に向かう途中の夜営地。
ゼロのアンデッドが付近の警戒をしているので見張りは必要なく、腰を据えて休息を取れることをチェスターとカミーラは驚くが、ゼロにしてみれば毎度のことだ。
ただし、念には念を入れて周辺警戒はシャドウとミラージュ、ジャック・オー・ランタン、スペクターに加え、少数ながらサーベル率いるスケルトン部隊を配置し、夜営地にはアルファが待機する。
そんな中でどういうわけか戦斧を装備したスケルトンウォリアーが夜営地の警戒に当たっている。
「どうにもリン・・彼は自我が強い個体ですね」
「・・・ああ。アンデッドになっても変わらないな」
ゼロとリックスが苦笑する。
あえてスケルトンウォリアーの名を呼ばないゼロ。
アンデッドを名で呼ぶとアルファ達のように更に強い自我と力を得て上位種へと進化してしまう。
この戦いをもって輪廻の波に旅立つ約束の彼に必要以上の力を与えないためだ。
アンデッドに警戒を任せたゼロは情報を整理して行動計画を考えていた。
「渓谷の都市自体はその地形と土地の狭さから他の都市に比べて遥かに小さい。まあ、ちょっとした街程度だな。ただ、都市の周辺に多くの村などの小規模集落があり、それらをまとめて都市を形成しているんだ。それでも鉱山の都市にも及ばないが、国の西端にあるから規模は小さいが城塞都市の一面もある」
チェスターが都市の概要について説明するとリックスとコルツが頷く。
「確かに、都市の周りに村が多かったな。村自体は全てアンデッドに占領されていたんだ」
「都市に潜入しようとした小官等でしたが、セイラ殿とレナ殿が敵の手に落ち、撤退する先々でアンデッドに囲まれました。その中でライズ殿やオックス殿達とはぐれてしまいました。都市周辺の村がまるで敵の前線陣地のようでした」
「更に周辺の森なんかに災禍を逃れた人々がいてな。そいつ等を守りながら戦っていたが、そのせいで脱出ができなかった。何とかしてゼロに知らせようと思って、俺とコルツだけで逃げ出してきたんだ」
それぞれの話を聞いたゼロは頷いた。
「1つ確認なんですが、渓谷の都市やその周辺に遺跡のようなものはありますかね?」
ゼロの質問にカミーラが首を振る。
「・・・それは無い。渓谷の都市は西の守りのために作られた比較的新しい都市。都市開拓の際にもそういった遺跡が発見されたという記録はない」
カミーラの説明を聞いたゼロは懐から紙束を取り出すと空を見上げながらサラサラと何かを書き始めた、月の位置を確認しながら何かの計算をしているようだ。
「なるほど・・・。少しずつですが状況が見えてきました。リックスさん達だけでも逃れてくれて助かりました」
計算を終えたゼロは皆を見渡した。
「これまでの調査や様々な資料から推測していたのですが、私の読みどおり、月の光教団の復活を目論む者がいます。そしてそのための生贄がセイラさんということです」
リックスが首を傾げる。
「セイラが生贄?どういうことだ?それに、奴等はレナのことも狙っていたぞ?」
「レナさん・・・というか魔法使いの力が必要だったのでしょう。セイラさんを生贄に捧げる役割を担わせるために、です」
誰もゼロの説明を理解できない。
「月の光教団は太陽の光を駆逐し、夜の闇に包まれた世界を月の光で照らす、という教義を掲げた集団です。その中で現在の主たる宗教を太陽として、その中のシーグル教の聖女としての資質を持つセイラさんを太陽の象徴とし、彼女を生贄として殺すことで太陽を駆逐するというわけです。そして、レナさんは聖女の対局にいる魔法使い、つまり、月の象徴としてセイラさんに手を下す役割を負うということです」
ゼロの説明を聞いてもやはり納得がいかない。
理解し難い邪教の考えであることを考慮して、セイラが生贄として狙われるということはこじつけられなくもない。
しかし、教団自らが手を下すのでなく、わざわざ魔法使いを捕らえてその役割を担わせることが理解できない。
「そもそも、捕らえられたレナがそんな役を引き受ける筈もないだろう。洗脳等の手を取るにしても、あまりにも回りくどい」
リックスの疑問にゼロも頷く。
「古い文献に生贄となる者を夜の魔法の業火によって焼き尽くすという儀式の記録がありました。なぜわざわざレナさんを狙ったのかは分かりませんが、神の使徒的な役割なのかもしれません。多分、セイラさんを殺害した後で神の使徒は月に帰る、なんて処理されるのかもしれません。ただ、あまり時間はありません。私の推測ですが、これから7日後か22日後に何らかの儀式、多分セイラさんが生贄にされるのだと思いますが、それが行われます」
ゼロの言葉に全員が顔を見合わせ、チェスターが口を開いた。
「さっきの計算か?何があるんだ?」
ゼロは先程計算に使った紙を見せた。
訳の分からない計算式が書かれていて、チェスター達にはその内容が理解できないが、カミーラは顔色を青くした。
「月が太陽を蝕む日・・・」
「なんだそりゃあ?」
首を傾げるチェスター達のためにゼロが絵を書いて説明する。
「約百年に1度、この国で太陽と月の周回軌道が重なり、太陽が月に隠れる現象が起きます。これは単なる自然現象なのですが、時の人々は不吉なことと考えていたのです。そして、今回はその現象が短期間に2回発生しますが、それが7日後と22日後です。不吉なことが起きるとは根拠の無い迷信の筈ですが、この時期に月の光教団が復活しようとしているのは単なる偶然ではないでしょう。現実的に彼等が目覚め、この国の大半を支配した。そのことからも、このまま放置するわけにもいきません」
ゼロの言葉に全員が息を飲んだ。
「彼等が何時、どんな行動を起こすか分かりませんが、我々も迅速に行動しましょう。この先にいるのは今までの急拵えのリッチとはわけが違います。明らかに自らの意志を持って行動している者がいる筈です」
リックスとコルツが顔を見合わせた。
「黒いネクロマンサーだ」
2人の説明によれば、セイラとレナを襲ったのは漆黒のローブを纏ったネクロマンサーだったとのことだ。
ゼロも漆黒の装備に身を包んでいるものの、リックス達にしてみればゼロとは似ても似つかないが、セイラやレナはゼロの魔力の波動に似ていると感じたようで、2人に一瞬の迷いが生じ、その隙を突かれたらしい。
そして、セイラ達が捕らわれる際に口走ったのは、そのネクロマンサーはアンデッド、所謂リッチではなく、命ある死霊術師であるという事実だった。
ゼロのアンデッドが付近の警戒をしているので見張りは必要なく、腰を据えて休息を取れることをチェスターとカミーラは驚くが、ゼロにしてみれば毎度のことだ。
ただし、念には念を入れて周辺警戒はシャドウとミラージュ、ジャック・オー・ランタン、スペクターに加え、少数ながらサーベル率いるスケルトン部隊を配置し、夜営地にはアルファが待機する。
そんな中でどういうわけか戦斧を装備したスケルトンウォリアーが夜営地の警戒に当たっている。
「どうにもリン・・彼は自我が強い個体ですね」
「・・・ああ。アンデッドになっても変わらないな」
ゼロとリックスが苦笑する。
あえてスケルトンウォリアーの名を呼ばないゼロ。
アンデッドを名で呼ぶとアルファ達のように更に強い自我と力を得て上位種へと進化してしまう。
この戦いをもって輪廻の波に旅立つ約束の彼に必要以上の力を与えないためだ。
アンデッドに警戒を任せたゼロは情報を整理して行動計画を考えていた。
「渓谷の都市自体はその地形と土地の狭さから他の都市に比べて遥かに小さい。まあ、ちょっとした街程度だな。ただ、都市の周辺に多くの村などの小規模集落があり、それらをまとめて都市を形成しているんだ。それでも鉱山の都市にも及ばないが、国の西端にあるから規模は小さいが城塞都市の一面もある」
チェスターが都市の概要について説明するとリックスとコルツが頷く。
「確かに、都市の周りに村が多かったな。村自体は全てアンデッドに占領されていたんだ」
「都市に潜入しようとした小官等でしたが、セイラ殿とレナ殿が敵の手に落ち、撤退する先々でアンデッドに囲まれました。その中でライズ殿やオックス殿達とはぐれてしまいました。都市周辺の村がまるで敵の前線陣地のようでした」
「更に周辺の森なんかに災禍を逃れた人々がいてな。そいつ等を守りながら戦っていたが、そのせいで脱出ができなかった。何とかしてゼロに知らせようと思って、俺とコルツだけで逃げ出してきたんだ」
それぞれの話を聞いたゼロは頷いた。
「1つ確認なんですが、渓谷の都市やその周辺に遺跡のようなものはありますかね?」
ゼロの質問にカミーラが首を振る。
「・・・それは無い。渓谷の都市は西の守りのために作られた比較的新しい都市。都市開拓の際にもそういった遺跡が発見されたという記録はない」
カミーラの説明を聞いたゼロは懐から紙束を取り出すと空を見上げながらサラサラと何かを書き始めた、月の位置を確認しながら何かの計算をしているようだ。
「なるほど・・・。少しずつですが状況が見えてきました。リックスさん達だけでも逃れてくれて助かりました」
計算を終えたゼロは皆を見渡した。
「これまでの調査や様々な資料から推測していたのですが、私の読みどおり、月の光教団の復活を目論む者がいます。そしてそのための生贄がセイラさんということです」
リックスが首を傾げる。
「セイラが生贄?どういうことだ?それに、奴等はレナのことも狙っていたぞ?」
「レナさん・・・というか魔法使いの力が必要だったのでしょう。セイラさんを生贄に捧げる役割を担わせるために、です」
誰もゼロの説明を理解できない。
「月の光教団は太陽の光を駆逐し、夜の闇に包まれた世界を月の光で照らす、という教義を掲げた集団です。その中で現在の主たる宗教を太陽として、その中のシーグル教の聖女としての資質を持つセイラさんを太陽の象徴とし、彼女を生贄として殺すことで太陽を駆逐するというわけです。そして、レナさんは聖女の対局にいる魔法使い、つまり、月の象徴としてセイラさんに手を下す役割を負うということです」
ゼロの説明を聞いてもやはり納得がいかない。
理解し難い邪教の考えであることを考慮して、セイラが生贄として狙われるということはこじつけられなくもない。
しかし、教団自らが手を下すのでなく、わざわざ魔法使いを捕らえてその役割を担わせることが理解できない。
「そもそも、捕らえられたレナがそんな役を引き受ける筈もないだろう。洗脳等の手を取るにしても、あまりにも回りくどい」
リックスの疑問にゼロも頷く。
「古い文献に生贄となる者を夜の魔法の業火によって焼き尽くすという儀式の記録がありました。なぜわざわざレナさんを狙ったのかは分かりませんが、神の使徒的な役割なのかもしれません。多分、セイラさんを殺害した後で神の使徒は月に帰る、なんて処理されるのかもしれません。ただ、あまり時間はありません。私の推測ですが、これから7日後か22日後に何らかの儀式、多分セイラさんが生贄にされるのだと思いますが、それが行われます」
ゼロの言葉に全員が顔を見合わせ、チェスターが口を開いた。
「さっきの計算か?何があるんだ?」
ゼロは先程計算に使った紙を見せた。
訳の分からない計算式が書かれていて、チェスター達にはその内容が理解できないが、カミーラは顔色を青くした。
「月が太陽を蝕む日・・・」
「なんだそりゃあ?」
首を傾げるチェスター達のためにゼロが絵を書いて説明する。
「約百年に1度、この国で太陽と月の周回軌道が重なり、太陽が月に隠れる現象が起きます。これは単なる自然現象なのですが、時の人々は不吉なことと考えていたのです。そして、今回はその現象が短期間に2回発生しますが、それが7日後と22日後です。不吉なことが起きるとは根拠の無い迷信の筈ですが、この時期に月の光教団が復活しようとしているのは単なる偶然ではないでしょう。現実的に彼等が目覚め、この国の大半を支配した。そのことからも、このまま放置するわけにもいきません」
ゼロの言葉に全員が息を飲んだ。
「彼等が何時、どんな行動を起こすか分かりませんが、我々も迅速に行動しましょう。この先にいるのは今までの急拵えのリッチとはわけが違います。明らかに自らの意志を持って行動している者がいる筈です」
リックスとコルツが顔を見合わせた。
「黒いネクロマンサーだ」
2人の説明によれば、セイラとレナを襲ったのは漆黒のローブを纏ったネクロマンサーだったとのことだ。
ゼロも漆黒の装備に身を包んでいるものの、リックス達にしてみればゼロとは似ても似つかないが、セイラやレナはゼロの魔力の波動に似ていると感じたようで、2人に一瞬の迷いが生じ、その隙を突かれたらしい。
そして、セイラ達が捕らわれる際に口走ったのは、そのネクロマンサーはアンデッド、所謂リッチではなく、命ある死霊術師であるという事実だった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
職業選択の自由~神を信じない神官戦士~
新米少尉
ファンタジー
その男は神を信じていない。この世界に神が存在していることは事実であり、彼もその事実は知っている。しかし、彼にとって神が実在している事実など興味のないことだった。そもそも彼は神の救いを求めたり、神の加護を受けようなどという考えがない。神に縋るのではなく、自分の人生は自分で切り開いていこうと心に決め、軍隊に入り戦いの日々に明け暮れていた。そんな彼が突然の転属命令で配属されたのは国民の信仰を守るべき部隊であった。これは神を信じていない神官戦士の物語。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~の外伝です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる