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西へ

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 風の都市を出発したゼロ達は西へと進んだ。
 風の都市がアイラス王国の西に位置しているとはいえ国境を越えるまでは数日を要する。

「ちょっと寄り道をしていきましょう」

 西に向かいながらゼロが立ち寄ったのはエルフォードの屋敷だった。
 事前の連絡無しの突然の訪問だったのだが、ゼロ達が屋敷に到着するとエルフォード家の執事であるマイルズが屋敷の前でゼロ達を出迎えた。

「お待ちしておりました、ゼロ殿」

 隙のない礼をするマイルズは執事でありながらエルフォード騎士隊を束ねる指揮官でもある。
 闘技大会でゼロと激戦を繰り広げ、先の戦争ではエルフォード騎士隊を率いて戦ったこの老紳士は年齢を感じさせない佇まいだ。

「お待ちしていましたって、失礼ながら私達は連絡も無しに訪問したのですが?」
「いやいや、ゼロ殿達が当家の領内に入った時点で衛士から逐一報告を受けており、歓迎の準備を整えておりました。セシル様も皆様の到着を心待ちにしております」

 屋敷内に案内されると、待っていたのはエルフォード家当主のセシル・エルフォードだった。
 セシルの横にはメイド長も控えている。

「ゼロ様、お久しぶりです。それと、お初にお目にかかる方も、ようこそおいでくださいました」

 優雅なカーテシーでゼロ達を迎えたセシル。
 かつてのセシルにはまだあどけなさが残っていたが、時を経て可憐な少女へと成長していた。 
 そんなセシルにゼロが頭を下げ、レナ達もそれに倣った。

「急な訪問のご無礼をお許しください。久しぶりですが、皆さんお変わりなく嬉しく思います。旅の途中ですが、こちらに用件があり、お邪魔させていただきました」
「ご無礼なんてとんでもない。我がエルフォード家はゼロ様に閉ざす扉を持ち合わせておりません。近くまで来たのに素通りしようとするゼロ様を足止めする柵や壁はいくらでもありますけど。それに・・・旅の途中でのわざわざのご訪問、徒ならぬことが起きていると推察します。その件に当家がお役に立てるならば何なりとお申し付けください。ただ、もう夕暮れです。今宵は当家にご滞在くださいませ。用件は夕食の折りに伺います」

 悪戯っぽく笑いながら話すセシル。
 成長しても相変わらずのようだ。

 セシル、マイルズを交えて夕食の席にてゼロが本題を切り出した。

「実は私達は西のイバンス王国に向かっています。鉱山から溢れ出したアンデッドに対する調査と対策のためです。エルフォード家は外交貿易も盛んに行っているとお聞きしていますのでお伺いしたいのですが、最近のイバンス王国の鉱石等の品質等で変わったことや気づいたことはありませんか?」

 ゼロの質問にセシルとマイルズは顔を見合わせて真剣な顔で頷いた。
 マイルズが口を開く。

「最近のイバンス王国から買い入れる鉱石、魔石、宝石についてですが、鉱石、魔石については確かに品質の低下が認められます。流通量というか、産出量については、鉱石は変化はありませんが、魔石については明らかに減っております。先方でも原因は分からないようですが、その辺も隠さずに示しておりますので、価格の方で調整して取り引きを継続しております。宝石については先方が情報統制を行っているらしく、詳細は分かりませんが、当家で得た情報では逆に品質が向上して産出量も増えているようですね。その上で価格の急落を防ぐために流通量を調整しているらしいのですが・・・」

 マイルズの言葉が濁る。
 ここまではゼロの予想どおりだが、この先までゼロの予想どおりだとすると些か厄介だ。

「価格調整だけでなく、宝石が変質して訳の分からない魔力を得ていたり、呪いが付加されていて流通させること自体ができない」

 ゼロの言葉にマイルズは頷いた。
 
「イバンス王国は豊富な鉱山資源を後ろ盾に貿易により国を維持しています。その信頼性の高さに定評がありますが、その根底が崩れてしまいかねない事態でありますな」

 ゼロは腕組みして考え込む。
 その様子を見ていたレナが首を傾げる。

「でも、産出量や品質に変化があるとしても、産出はされているのよね?ということは私達が向かう鉱山のようにアンデッドや魔物達が溢れ出したとかの異常が出た鉱山は他に無いのかしら?」
 
 レナの疑問にマイルズが答える。

「どの程度の数の鉱山に異常が出ているのかの情報は掴めておりませんが、イバンス王国は多数の産出地を保有していますので、その内のいくつかを閉鎖してもそれほど影響はありませんでしょうな。ただ、鉱脈が繋がっている鉱山は連鎖的に影響が出る可能性もあります」

 ゼロの悪い予感が的中してしまうことは今でも健在であった。

「どうせゼロの予想していた答えでしょう?まったく、ゼロは余計なことを考えたらダメよ。貴方が何かを考えると悪いことばかり現実になるのだから」
「確かに、先の戦争ではそのおかげで散々な目に遭いました」
「そんなっ!兄様ったら・・・」

 レナの言葉にイズが同調し、そんな兄をリズが呆れ顔で見る。
 その場の空気が和み、残された時間を皆が楽しんだ。

 翌早朝、ゼロ達は夜明けと共に西のイバンス王国に向けて出立する。

「ゼロ様、お帰りの際には必ずまたお立ち寄りください。楽しみにしています」
「そうですな。昨夜は酒を酌み交わすことができませんでしたから、お付き合いいただきたいですな」

 セシルとマイルズ、メイド長に見送られたゼロ達。
 聞くところによれば、セシルの縁談の話が進んでいるらしい。
 セシルよりも少し年下の小貴族の当主で、政略結婚の色合いが強いが、当の本人達もお互いを気に入り、双方が望んでの縁談らしい。

 ゼロ達が国境にたどり着いたのは2日後の夕刻だった。
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