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職業選択の自由
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魔王軍との戦いの終結から3年が過ぎた。
魔王軍に占領された連邦国も立ち直りつつあり、帝国にも避難した人々が戻り、各国の支援を受けながら共和国として新たなスタートをきった。
アイラス王国においても損耗した軍や財政の立て直しの道半ばではあり、魔物達の脅威もある中で国王や貴族、各種機関の努力により人々の生活は一応は平穏に包まれていた。
風の都市の冒険者ギルドも魔王軍との戦いで多くの冒険者を失い、人手不足の中で後を絶つことのない依頼の処理に追われていた。
この日も受付主任のシーナは膨大な仕事を持ち前の処理能力の高さで難なく片付けて、定時を1刻ほど過ぎる残業の後に当直の職員に引き継ぎを済ませてギルドを出て、まだ日も暮れていない夕暮れの中を帰路につく。
明日は休みなので帰宅途中で買い物に寄り、今日の夕食や明日の食事のための食材を少し多めに買い込んだうえにちょっと奮発して果実酒も1本だけ買ってみた。
明日はリハビリがてら都市から少し歩いた場所にある湖にピクニックに行こうかと考えている。
シーナは都市の外れにある森の中に入っていく。
昼なお暗い森の中は日暮れ後ともなれば深い闇に包まれており、その闇の中からシーナの様子を窺っている何者かがいるが、シーナはそんなことはお構いなしに闇の中を鼻歌混じりに進んでいく。
森の奥に進むと1軒の小さな家の前に出た。
家の前にはまるで衛兵のように1体のスケルトンが佇んでいる。
「ただいま。今日はシールドが当番なのね。ご苦労様」
慣れた様子でにこやかにスケルトンロードであるシールドに挨拶をするシーナに対してシールドは軍隊式の敬礼で応えた。
シーナは当然であるかのように家の中に入る。
「ただいま帰りました」
「お疲れ様」
挨拶をしたシーナを出迎えたのは賢者のレナだった。
シーナはそこがまるで自宅であるかのように外套を脱いでハンガーに掛ける。
レナも室内のテーブルで魔導書を読んでいたが、シーナが帰宅したので魔導書を本棚に片付けた。
「今日は私が当番だから直ぐに食事の用意をしますね」
「私も手伝います」
シーナが買い込んできた食材を受け取って炊事場に向かうレナ。
「また後ろで訓練ですか?」
室内を見回しながらレナに訪ねる。
「夕方から剣を持ち出して外に出ましたから外に居ると思いますよ」
レナに聞いたシーナが家の裏手に回るとそこにいたのは死霊術師のゼロだ。
左手で剣を構えてオメガとアルファに対峙している。
「ゼロさん、ただいま帰りました」
シーナに声を掛けられてゼロは剣を下ろした。
「お帰りなさい、シーナさん」
オメガとアルファを下がらせて剣を収めたゼロ。
右手が思うように動かないらしく左手1本で剣を扱っている。
「まだ本調子ではないのですから無理をしてはダメですよ。直ぐに食事にしますから家に入ってくださいね」
言い残して家の中に戻るシーナ。
その姿を肩を竦めながら見送るゼロ。
シーナとレナの2人がゼロの家に押しかけてきて住み着いてから2ヶ月、3人の奇妙な共同生活が続いている。
ゼロが重傷を負ったまま風の都市に戻ってきたのが2ヶ月前。
フェイレスとプリシラの力をもってしても冥府の底に落ちたゼロを引き戻すのに2年以上を要した。
外の世界では2年以上の月日が流れたが、冥府の底を漂っていたゼロはゴッセルと共に落ちた時のまま、時の流れからも置き去りにされていた。
ゴッセルとの戦いで負った怪我もたった今受けた傷であるかのように生々しく残っており、ゼロも瀕死の状態であった。
しかし、ゼロを助け出したフェイレスとプリシラは意識もなく倒れているゼロを見て
「この程度ならば死にはすまい。妾の手助けもここまでだ」
「ゼロのことだ、目を覚ましたら自分で帰るべき場所に帰るであろうよ」
と言い残して地下墳墓にゼロを放置して姿を消した。
その後に目を覚ましたゼロは傷を負った体に鞭を打って必死の思いで風の都市に戻ってきたのである。
風の都市に帰り着いたゼロが冒険者ギルドに立ち入ったとき、カウンターの中にいたシーナは歓喜のあまりカウンターを飛び越えて泣きながらゼロに抱きつき、その場にいた者達を仰天させ、更に知らせを受けて駆けつけたレナまでもが加わり、ギルド内を更に混乱させた。
ゼロのことを知らない若い冒険者達にしてみれば、ギルドのエリート職員のシーナとギルド内でも最高位の冒険者のレナがこれほどまで取り乱したのを見たことが無く、その2人が胡散臭い黒ずくめの男に抱きついて泣いている理由が理解できなかったのである。
その後、落ち着きを取り戻したレナとシーナだが、ゼロが帰還した翌日にはそれぞれが住んでいた居室を引き払って荷物を抱えてゼロの家に押しかけてきて、家主であるゼロに有無をいわさずに住み着いてしまったのである。
それ以来2ヶ月、3人での生活が続いている。
ゼロは身体の傷が癒えていないため、本格的な依頼を受けることはできず、リハビリがてら週に2、3回の都市の地下水道の魔物駆除を引き受けるに留めている。
レナもゼロが帰ってきてからは長期に渡る依頼は受けず、基本的にはゼロについて回っていた。
加えてシーナは日勤のギルド職員であるため3人で夕食の食卓を囲むのが日課になっている。
ゼロも元々は1人暮らしをしていたのだから一通りのことはできるのだが、食事の用意を含めた家事の全てはレナとシーナが交代で担っていて、ゼロが手を出す暇を与えてくれない。
「ところでレナさんとシーナさんはいつまでここに住むつもりなんですか?」
シーナが作ったシチューを口にしながらゼロが2人に問いかけるが、それを聞いた2人は揃って首を傾げた。
「いつまでって?何を言っているの?」
「そうですよ?ずっと住むに決まっているじゃないですか」
2人の答えにゼロは目を丸くした。
「いや、私の怪我も大分良くなってきましたし、2人の手助けも必要が無くても大丈夫なのですが」
「ダメよ。私はもう借りていた部屋を解約しちゃったんですから、この家以外に帰る場所なんて無いわよ。それにあの時言ったでしょう?帰って来たならば片時たりとも側を離れないって」
「それは、私が冥府に落ちた後のレナさんの独り言のことを持ち出されても困るのですが」
「とにかく、私は貴方の側を離れないわよ」
レナが当然のことのように話せば、シーナも負けてはいない。
「私も宿舎を引き払ってしまいましたし、2年以上も待たされてすっかりお嫁に行き遅れてしまいました。私もレナさんも元々ゼロさんよりも2つも年上なのに、ゼロさんは2年間時間が止まっていたっていうじゃないですか。ゼロさんのせいで4つも年上になっちゃったんですよ。しかも、私は実家にも結婚はしない、貴族に匹敵する方の妾か愛人になるって宣言して実家を勘当されましたので責任を取ってもらいます。」
「そんな、責任を取れと言われましても・・・。それに私は貴族になんか匹敵することは何もありませんよ」
「何を言っているんですか。ゼロさんがギルドに預けているお金、無頓着だからどの位貯まっているか知らないでしょう?先の戦いでの軍務省からの報奨金を含めるとちょっとした貴族の領地を一括で買い取ってお釣りがくる程度の財産がありますよ。それに、私も待つだけではレナさんに遅れを取ってしまいますから、攻めに出ました」
更に反論の隙をゼロに与えないために2人がたたみかける。
「それに、ゼロはどうせ私ともシーナさんとも、それこそ誰とも結婚する気はないでしょう?」
「だったら私達2人共、押しかけ愛人にならせてもらいます」
ゼロはため息をついた。
「押しかけ愛人って・・・」
そんなゼロにシーナが諭すようにとどめを刺す。
「このアイラス王国は自由の国です。職業選択の自由は保証されていますし、恋愛も自由です。重婚は認められていませんが、相応の経済力と責任があるならば妾や愛人を持つことは慣習的に認められています。レナさんの言うとおりゼロさんは誰とも結婚するつもりはありませんよね?だったら私とレナさんを同時に愛人にすることは何ら問題ありません」
「そういうこと。ゼロ、今度は絶対に逃がしはしないわよ。ちなみに、リズも私達2人に遠慮しているけど、ゼロのことを諦めてはいないわよ。覚悟しなさい」
ギルド職員のシーナに仕事を管理され、依頼を受ければ洩れなくレナがついて来る。
私生活においてはレナとシーナ、2人に全てを絡め取られ、レナの言うとおり逃げ道を失ったゼロ。
職業「死霊術師」のゼロの悩みは尽きることはない。
魔王軍に占領された連邦国も立ち直りつつあり、帝国にも避難した人々が戻り、各国の支援を受けながら共和国として新たなスタートをきった。
アイラス王国においても損耗した軍や財政の立て直しの道半ばではあり、魔物達の脅威もある中で国王や貴族、各種機関の努力により人々の生活は一応は平穏に包まれていた。
風の都市の冒険者ギルドも魔王軍との戦いで多くの冒険者を失い、人手不足の中で後を絶つことのない依頼の処理に追われていた。
この日も受付主任のシーナは膨大な仕事を持ち前の処理能力の高さで難なく片付けて、定時を1刻ほど過ぎる残業の後に当直の職員に引き継ぎを済ませてギルドを出て、まだ日も暮れていない夕暮れの中を帰路につく。
明日は休みなので帰宅途中で買い物に寄り、今日の夕食や明日の食事のための食材を少し多めに買い込んだうえにちょっと奮発して果実酒も1本だけ買ってみた。
明日はリハビリがてら都市から少し歩いた場所にある湖にピクニックに行こうかと考えている。
シーナは都市の外れにある森の中に入っていく。
昼なお暗い森の中は日暮れ後ともなれば深い闇に包まれており、その闇の中からシーナの様子を窺っている何者かがいるが、シーナはそんなことはお構いなしに闇の中を鼻歌混じりに進んでいく。
森の奥に進むと1軒の小さな家の前に出た。
家の前にはまるで衛兵のように1体のスケルトンが佇んでいる。
「ただいま。今日はシールドが当番なのね。ご苦労様」
慣れた様子でにこやかにスケルトンロードであるシールドに挨拶をするシーナに対してシールドは軍隊式の敬礼で応えた。
シーナは当然であるかのように家の中に入る。
「ただいま帰りました」
「お疲れ様」
挨拶をしたシーナを出迎えたのは賢者のレナだった。
シーナはそこがまるで自宅であるかのように外套を脱いでハンガーに掛ける。
レナも室内のテーブルで魔導書を読んでいたが、シーナが帰宅したので魔導書を本棚に片付けた。
「今日は私が当番だから直ぐに食事の用意をしますね」
「私も手伝います」
シーナが買い込んできた食材を受け取って炊事場に向かうレナ。
「また後ろで訓練ですか?」
室内を見回しながらレナに訪ねる。
「夕方から剣を持ち出して外に出ましたから外に居ると思いますよ」
レナに聞いたシーナが家の裏手に回るとそこにいたのは死霊術師のゼロだ。
左手で剣を構えてオメガとアルファに対峙している。
「ゼロさん、ただいま帰りました」
シーナに声を掛けられてゼロは剣を下ろした。
「お帰りなさい、シーナさん」
オメガとアルファを下がらせて剣を収めたゼロ。
右手が思うように動かないらしく左手1本で剣を扱っている。
「まだ本調子ではないのですから無理をしてはダメですよ。直ぐに食事にしますから家に入ってくださいね」
言い残して家の中に戻るシーナ。
その姿を肩を竦めながら見送るゼロ。
シーナとレナの2人がゼロの家に押しかけてきて住み着いてから2ヶ月、3人の奇妙な共同生活が続いている。
ゼロが重傷を負ったまま風の都市に戻ってきたのが2ヶ月前。
フェイレスとプリシラの力をもってしても冥府の底に落ちたゼロを引き戻すのに2年以上を要した。
外の世界では2年以上の月日が流れたが、冥府の底を漂っていたゼロはゴッセルと共に落ちた時のまま、時の流れからも置き去りにされていた。
ゴッセルとの戦いで負った怪我もたった今受けた傷であるかのように生々しく残っており、ゼロも瀕死の状態であった。
しかし、ゼロを助け出したフェイレスとプリシラは意識もなく倒れているゼロを見て
「この程度ならば死にはすまい。妾の手助けもここまでだ」
「ゼロのことだ、目を覚ましたら自分で帰るべき場所に帰るであろうよ」
と言い残して地下墳墓にゼロを放置して姿を消した。
その後に目を覚ましたゼロは傷を負った体に鞭を打って必死の思いで風の都市に戻ってきたのである。
風の都市に帰り着いたゼロが冒険者ギルドに立ち入ったとき、カウンターの中にいたシーナは歓喜のあまりカウンターを飛び越えて泣きながらゼロに抱きつき、その場にいた者達を仰天させ、更に知らせを受けて駆けつけたレナまでもが加わり、ギルド内を更に混乱させた。
ゼロのことを知らない若い冒険者達にしてみれば、ギルドのエリート職員のシーナとギルド内でも最高位の冒険者のレナがこれほどまで取り乱したのを見たことが無く、その2人が胡散臭い黒ずくめの男に抱きついて泣いている理由が理解できなかったのである。
その後、落ち着きを取り戻したレナとシーナだが、ゼロが帰還した翌日にはそれぞれが住んでいた居室を引き払って荷物を抱えてゼロの家に押しかけてきて、家主であるゼロに有無をいわさずに住み着いてしまったのである。
それ以来2ヶ月、3人での生活が続いている。
ゼロは身体の傷が癒えていないため、本格的な依頼を受けることはできず、リハビリがてら週に2、3回の都市の地下水道の魔物駆除を引き受けるに留めている。
レナもゼロが帰ってきてからは長期に渡る依頼は受けず、基本的にはゼロについて回っていた。
加えてシーナは日勤のギルド職員であるため3人で夕食の食卓を囲むのが日課になっている。
ゼロも元々は1人暮らしをしていたのだから一通りのことはできるのだが、食事の用意を含めた家事の全てはレナとシーナが交代で担っていて、ゼロが手を出す暇を与えてくれない。
「ところでレナさんとシーナさんはいつまでここに住むつもりなんですか?」
シーナが作ったシチューを口にしながらゼロが2人に問いかけるが、それを聞いた2人は揃って首を傾げた。
「いつまでって?何を言っているの?」
「そうですよ?ずっと住むに決まっているじゃないですか」
2人の答えにゼロは目を丸くした。
「いや、私の怪我も大分良くなってきましたし、2人の手助けも必要が無くても大丈夫なのですが」
「ダメよ。私はもう借りていた部屋を解約しちゃったんですから、この家以外に帰る場所なんて無いわよ。それにあの時言ったでしょう?帰って来たならば片時たりとも側を離れないって」
「それは、私が冥府に落ちた後のレナさんの独り言のことを持ち出されても困るのですが」
「とにかく、私は貴方の側を離れないわよ」
レナが当然のことのように話せば、シーナも負けてはいない。
「私も宿舎を引き払ってしまいましたし、2年以上も待たされてすっかりお嫁に行き遅れてしまいました。私もレナさんも元々ゼロさんよりも2つも年上なのに、ゼロさんは2年間時間が止まっていたっていうじゃないですか。ゼロさんのせいで4つも年上になっちゃったんですよ。しかも、私は実家にも結婚はしない、貴族に匹敵する方の妾か愛人になるって宣言して実家を勘当されましたので責任を取ってもらいます。」
「そんな、責任を取れと言われましても・・・。それに私は貴族になんか匹敵することは何もありませんよ」
「何を言っているんですか。ゼロさんがギルドに預けているお金、無頓着だからどの位貯まっているか知らないでしょう?先の戦いでの軍務省からの報奨金を含めるとちょっとした貴族の領地を一括で買い取ってお釣りがくる程度の財産がありますよ。それに、私も待つだけではレナさんに遅れを取ってしまいますから、攻めに出ました」
更に反論の隙をゼロに与えないために2人がたたみかける。
「それに、ゼロはどうせ私ともシーナさんとも、それこそ誰とも結婚する気はないでしょう?」
「だったら私達2人共、押しかけ愛人にならせてもらいます」
ゼロはため息をついた。
「押しかけ愛人って・・・」
そんなゼロにシーナが諭すようにとどめを刺す。
「このアイラス王国は自由の国です。職業選択の自由は保証されていますし、恋愛も自由です。重婚は認められていませんが、相応の経済力と責任があるならば妾や愛人を持つことは慣習的に認められています。レナさんの言うとおりゼロさんは誰とも結婚するつもりはありませんよね?だったら私とレナさんを同時に愛人にすることは何ら問題ありません」
「そういうこと。ゼロ、今度は絶対に逃がしはしないわよ。ちなみに、リズも私達2人に遠慮しているけど、ゼロのことを諦めてはいないわよ。覚悟しなさい」
ギルド職員のシーナに仕事を管理され、依頼を受ければ洩れなくレナがついて来る。
私生活においてはレナとシーナ、2人に全てを絡め取られ、レナの言うとおり逃げ道を失ったゼロ。
職業「死霊術師」のゼロの悩みは尽きることはない。
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