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反魂蘇生術

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 レナは微かな意識の中でゼロの声を聞いていた。

「これから私が貴女を殺します」

 このゼロの言葉に心安らいでいた。
 即死こそしなかったが、到底助かるような負傷ではないことは自分でも分かっている。
 ゼロについて行くことが出来ないのは心残りだが、それでもゼロが手を下してくれるならば安らかに旅立てる。

 しかし、ゼロはまだレナを救おうとしている。

「・・失敗すれば・・・一緒に冥界の門まで行きましょう・・・」

 耳元で囁くゼロの言葉に自然と涙が流れる。

「私を信じて身を委ねてください」

 直後、レナの胸に衝撃が走り、彼女の意識が途切れた。

 こと切れたレナは虚ろな感覚に包まれ、視覚ではない感覚で周囲を見渡していた。
 自分の体内にゼロの魔力が注ぎ込まれてくるのが分かる。
 魂は直ぐにでも肉体を離れたい欲求に駆られているのだが、ゼロの魔力により捕縛されて体内に留められていた。

(ゼロ・・また無茶をして・・・目が覚めたらとっちめてやるわ・・・目が覚めたら・・・)

 レナの魂は深い安らぎの闇の中に沈んでいった。
 
 ゼロは必死に魔力の制御を行っていた。    
 ゼロが行っているのは反魂蘇生術である。
 今でこそ死霊術などと蔑まされているが、その究極は死者を蘇生することを目的として研究された蘇生術を源流としている。
 医学的に一般的な蘇生法は確立されているが、ゼロの行っている反魂蘇生術は全く別物の魔導学の一種である。
 一度死を迎えた者の肉体を再生し、更に肉体から解き放たれようとする魂を捕らえて再び肉体に融合させる。
 肉体の再生と魂の融合を成し、生命を取り戻すことが反魂蘇生術の根幹である。
 これを追い求め、その過程において数多の失敗の中で不完全な死者の復活により生まれたのが死霊術だ。
 いつしか死霊術を生業とする死霊術師、いわゆるネクロマンサーが現れ、魔導学の一端でありながら、死者を使役するその行為から忌み嫌われる存在とされてきたのである。
 
 ゼロが今行っているのは反魂蘇生術の第二段階、死せる肉体の再生を終え、肉体から離れようとする魂を捕らえて縛り付ける。
 この段階で一度でも魂が肉体から離れてしまうと魂を捕らえて肉体に戻しても、完全に融合することはできない。
 いわばレナの魂とゼロの術の勝負である。

「生と死の狭間の門は閉じられた。レナ・ルファードの魂よ、生の呪縛に降れ」

 ゼロの体内の血管が破れて鼻や口から血が流れだす。
 それでもゼロはレナに術をかけ続けた。
 少しでも気を抜くとレナの魂を取り逃がすばかりか自分も逆流した魔力に押し潰され、自分はおろか、レナのことを助けることもできない。
 ゼロは感覚と魔力を研ぎ澄ませ、レナの魂を肉体に縛り付け、再び融合させていく。
 ほんの少しでも肉体と魂にズレが生じれば蘇生は不完全なものとなり、仮に蘇生したとしても長くは持たない。
 それは図柄のない真っ白なパズルを目隠しで行うようなものであり、一瞬たりとも気を抜くことができなかった。

「レナ・ルファードの魂よ肉体の呪縛に降れ」

 ゼロは再びレナの魂に命じた。
 流し込む魔力が多すぎても少なすぎても、早すぎても、遅すぎても術は失敗する。
 ゼロは少しずつ、慎重に、確実にレナの魂を肉体にはめ込んでゆく。
 魔力の逆流を抑えきれず、ゼロ自身の精神が崩壊しそうになる。

「主様、お気を確かに」
「マイマスター、私達の力をお使いください」

 アルファとオメガがゼロの肩に手をかけて魔力制御の手助けをする。
 魔力の逆流を抑えることができ、ゼロの神経がレナに集中する。
 今、1人の死霊術師と2体のアンデッドがレナを死の淵から引きずり戻そうとしていた。

 やがて、レナの魂を肉体に融合させることに成功した。

「よし、最終段階です」

 ゼロは針のように鋭く集束させていた魔力を薄く広げてレナの全身に浸透させた。

「レナさん、貴女に死の安らぎは早すぎます。戻ってきなさい」

 レナの体内に浸透させた魔力に力を送り込み、停止していた脳や臓器を再び目覚めさせる。
 そもそも脳や臓器が活動を始めなければ元も子もないし、その順序やタイミングを一瞬でも間違えただけで失敗する最後の仕上げである。
 魔力で血液を循環させて全身に酸素を行き渡らせながら徐々に心臓を動かす。
 心臓の鼓動が始まったら他の臓器を目覚めさせる。

「戻ってきなさい、レナさん!」

 ゼロは残りの魔力をレナに流し込んだ。
 レナの身体に生気が宿り、浅いながらも呼吸が戻る。
 
「成功しました・・・」

 レナの蘇生を見届けたゼロはその場に崩れ落ちた。
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