職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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究極の死霊術

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 ハーレイを倒したゼロはオックス達に囲まれて横たわっているレナに近づいた。
 瞳を閉じてまるで眠っているようなレナ、首筋に指を添えてみるが、脈拍は今にも止まりそうに弱い。
 今まさに命の灯火が消えつつあるところだ。

「ゼロ、どうだ?」

 オックスが問いかける。
 ゼロが顔を上げ、首を振った。

「薬が効かなかったようです。もう、治療することは叶いません・・・」

 ゼロの言葉を聞いて全員が言葉を失う。
 ゼロは再びレナを見下ろした。
 その目からは怒り、悲しみはおろか、何の感情も感じられない冷たい目だった。
 ゼロはレナの身体を抱き上げ、周囲を見渡し、地下墳墓の入口付近にある管理用の小屋に目を留めた。

「レナさんをあの小屋に運びます」

 レナを抱いて小屋に歩き出すゼロ、他の皆も顔を見合わせながら後に続いた。

 小屋の中は整然としていた。
 丁度小屋の中に大きな机があったため、レナを机の上に横たえた。
 その間にもレナの鼓動は弱くなってゆく。
 ゼロはレナの耳に口を寄せた。
 人間の感覚で最後まで残るのは聴覚だと言われている。
 今ならまだゼロの声が届くかもしれない。

「レナさん、聞こえますか?最早貴女の治療をすることは叶いません」

 ゆっくりと話すゼロ、次に放った言葉が仲間達を震撼させた。

「これから私が貴女を殺します」

 この一言に頭に血が上ったライズがゼロの胸ぐらを掴んだ。

「ゼロッ!お前、何てこと言いやがるっ!」

 今にもゼロに殴りかかりそうなライズをイリーナが止めた。

「ライズ、止めなさい!ゼロだって辛い筈よ!でも、これ以上レナを苦しめたくないのよ」
「だけどよ!レナを楽にしてやるにしても言い方ってのがあるだろうよ!」

 ライズがゼロを睨みつける。
 しかし、ゼロは表情を変えることなく再び口を開いた。

「私がレナさんを殺します。そうしないと彼女を救うことができません。これは死霊術師の私にしか出来ないことです」

 ライズは青ざめて後ずさる。

「ゼロ、お前、何を言っているんだ・・・まさか、レナをアンデッドにするつもりか・・・」

 ゼロは首を振った。

「詳しく説明している暇はありませんが、私に任せてください。皆さん、小屋から出ていてください」

 静かに、決意に満ちたゼロの様子に反論する者はいない。
 皆を代表してオックスがゼロに問うた。

「信じていいんだな?」
「助けられるかどうか分かりません。でも、私に任せてください」
「・・・分かった。みんな、ゼロを信じて外で待とう」

 オックスに促されて皆が外に出て、小屋の中にはゼロとレナだけが残された。
 ゼロは袖口に隠したナイフを取り出した。

「レナさん、私はいつも貴女に叱られてばかりです。きっと今も皆さんにちゃんと説明しなさい、と叱られそうですね。でも、説明して、理解してもらう暇がないのですよ。しかも、今から私が貴女に施すのは死霊術の究極を極めた、死霊術の根幹を為す非常に危険な術なのですから。まだ未熟な私がこれを使えば私自身ただでは済まないかもしれません。失敗すれば貴女を救えないどころか、私の命も尽きるでしょう。その時は一緒に冥界の門まで行きましょう。・・・その先は、貴女は輪廻の星に登り、私は冥府の底に落ちるでしょうが・・・」

 静かに語るゼロの声が届いているのか、レナの閉じた瞳から涙がこぼれる。

「私を信じて身を委ねてください」

  トシュッ・・・・・

 ゼロはレナの胸にナイフを突き刺した。
 レナの命の灯火が消える時、レナは僅かに微笑んでいるようだった。

 レナの鼓動が止まったのを確認したゼロはオメガとアルファを召喚した。

「2人共、私が今から何をしようとしているか分かっていますね」
「「はい」」
「アルファはレナさんのローブを脱がせてください」
「かしこまりました」
「オメガは流出したレナさんの血液を回収し、不純物を取り除きなさい」
「承知しました」

 アルファが丁寧にレナのローブを脱がせ、裸になったレナが机に横たえられる。
 その間にオメガはレナの身体から流れ出て、ローブや地面に吸い込まれた血液を集め、混ざった塵や埃を分離して純粋な血液を復元している。
 ゼロは机の上のレナの肢体を見下ろした。

「アルファ、オメガ、2人にしか頼めないことです」
「・・・・」
「私が術に失敗して、私の力が暴走を始めたならば、私の自我がある間に私を殺しなさい」
「主様・・・」
「マイマスター・・・」
「上位アンデッドでも卓越した力を有する2人ならば私に刃を向けることができる筈です。・・・これは命令です」
「「はい」」

 レナの傷口に手を翳した。

「反魂蘇生術を始めます」

 ゼロは自分の持つ魔力の全てを集中し、ゼロの周りに凄まじい程の魔力が渦巻き始めた。
 その魔力の渦を力ずくで押さえ込み、レナの全身を覆う。

「先ずは現状保存です。レナさんの魂を身体に止まらせます。加えてレナさんの消耗を防ぎます」

 レナの全身が穏やかな魔力の膜に包まれた。 
 次に魔力を針のように集束させ、レナの傷口に翳した指先からレナの体内に少しずつ流し込み臓器や神経、血管の修復を始めると共にオメガが集めたレナの血液を体内に戻す。
 無理矢理に押さえ込んだ魔力の制御が追いつかずにゼロに逆流を始め、体内のあちこちで血管が破れ始める。

「くっ・・・まだまだです」

 逆流する魔力を制御して再び魔力がゼロの周囲に渦を巻き始めた。

「ここからが本番です」

 レナの額と胸に手を翳す。

「生の呪縛から解放され、肉体から離れんとする魂よ、生と死の狭間の門は閉じられた。肉体に止まり、生の呪縛に降れ」

 ゼロとレナを周囲を魔力の渦が包んだ。

「持ちこたえてください・・・私の体と気力・・・彼女を救うまで・・・」

 ゼロの術は始まったばかり。
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