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死霊術師フェイレス
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突如として現れた数万のアンデッド。
スケルトンナイト等の上位アンデッドの他にマミー、ドラウグル、ワイト等ゼロが使役していない強力なアンデッドの軍勢はベルベットの軍勢を受け止めて瞬く間に押し戻してしまった。
そしてゼロの前に現れたのは、ハイエルフの美しい女性に見えるが、ただのハイエルフではない。
全身に薄い光を纏い、神々しさすら感じられる。
一説によると、悠久の時を生きるハイエルフが生死の呪縛を離れて聖霊になるといわれているが、彼女の風貌はまさに聖霊と呼ぶのが相応しかった。
白銀のローブを纏い、その肌はハイエルフよりも白く、その長い髪も白銀に輝いている。
その背後にはオメガをも凌駕する程の力を秘めた上位ヴァンパイアが控えている。
神々のような威厳を持ちながら、彼女は紛うことなく死霊術師だった。
それも、ゼロが足下にも及ばない程の力の持ち主だ。
「師匠・・・」
ゼロの記憶から消されていた師匠の姿。
しかしながら、彼女の圧倒的な存在感を前にゼロの記憶が呼び覚まされた。
「師匠、お久しぶりです」
レナを始め、他の者が呆気に取られている中でゼロは深々と頭を下げた。
ハイエルフの死霊術師はゼロを睨み付ける。
「フンッ、未熟者め!如何に強力な敵だとしても、あの程度の敵、幾らでもやりようはあろう」
「あの程度・・ですか」
師匠のゼロに対する評価はほとほと厳しいものであった。
ゼロの仲間にしてみれば連隊編成からここに至るまでゼロは遊撃戦を繰り広げ、数万の魔王軍を翻弄してきたのだ。
レナに言わせれば、ネクロマンサーという不遇職にありながら地道に実績を積み重ねてきたゼロは絶対数が少ないとはいえ、王国一のネクロマンサーであることは間違いない。
世界中を探してもゼロ程のネクロマンサーはそうはいない筈だ。
ただ、目の前にいる桁違いの力を有するゼロの師匠のネクロマンサーを前にして、その迫力に気圧されて言葉を発することもできない。
その間にも師匠のゼロに対する説教は続いていたが、やがて背後にいたヴァンパイアが肩を竦めながら口を挟んだ。
「お弟子様、立派になられましたな」
「バルツァーも元気そうで何よりです」
「ハハハッ、ヴァンパイアの私に向かって元気そうとは。相変わらずですな。フェイレス様もお弟子様の成長をことのほかお喜びになられていましたよ」
バルツァーと呼ばれたヴァンパイアを死霊術師フェイレスは睨み付けた。
「余計なことを申すな!だが、まあ定命の人の身でありながらここまでの高みにたどり着いことは褒めてやろう」
ゼロは再び深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。また、窮地を救っていただきまして、重ねてお礼申し上げます」
「なにも貴様を救いに来たわけではない。貴様とて、窮地と思いながらも生き延びる策の1つや2つは腹に抱えていただろうよ。我がここに来たのは友の頼みがあってこそだ」
フェイレスは上空に飛来したワイバーンやグリフォンを指示した。
戦場に到着したそれらは上空から急降下して魔王軍に襲いかかっている。
フェイレスのアンデッドの攻撃と相まって魔王軍の陣形は瞬く間に崩壊し、後退を開始している。
そして飛来したワイバーンの背に乗って近づいてくる少女の姿があった。
魔王プリシラだ。
「プリシラがどうしてもとゴネおってな」
「プリシラさんがですか?」
「ああ、プリシラは貴様にも興味があるようだが、何よりも魔王ゴッセルを救いたいようだ」
「魔王を救う?」
「詳しいことはプリシラ本人に聞け」
魔物達と静かに暮らしたいと話していたプリシラが魔物を率いてここまで来たのだ、余程の考えがあるはずだ。
ゼロはワイバーンに乗って降りてきたプリシラに歩み寄った。
「お久しぶりです。プリシラさん」
「久しいの、ゼロ。其方等も息災のようで何よりだ」
プリシラはゼロとその背後に立つ仲間を見て微笑んだ。
オックスとリリス、コルツ以外の者はゼロと共にプリシラの城に乗り込んだ顔見知りだ。
「あれ以来、お茶を飲みに来ないから寂しかったぞ」
戯れ言を言うプリシラだが、肩を竦めたゼロ以外の誰も笑うことはできない。
「ゼロは妾に膝を屈することのない希有な存在なのだから、たまにはお茶を飲みに来い」
「プリシラさんの城はお茶を飲みに行くには遠すぎますよ」
ゼロも魔王プリシラを前に全く臆する様子を見せない。
「プリシラさんが師匠の友人だったとは、驚きました」
「うむ、フェイレスは大切な友人だ。それに魔王ゴッセルも妾の古い友人だ」
プリシラはゼロと仲間達を見回した。
「魔王ゴッセルは自らも抗うことのできぬ狂気と支配欲の化身だ。そのゴッセルを救ってやって欲しいのだ」
「救う、ですか?」
「ああ、分かりやすく言えば奴を倒してやってほしい。奴を倒し、魔界に引き戻してやれば奴は安らかな眠りにつくことができる。そういう意味で奴を救ってやってほしいのだ」
「そういうことならば、今、大勢の勇者や英雄が魔王の城に向かっています。うまく行けば魔王を討ち取ることもできると思いますよ」
ゼロの言葉にプリシラは首を振った。
「確かにそうかもしれん。だが、それだけでは不十分なのだ。ゴッセルが降臨する度に奴は破壊と殺戮を繰り返し、その都度勇者や英雄に敗北して短い眠りについてきた。しかし、愚かな奴らはゴッセルを倒すとそれに満足し、ことの真相を突き止めることもしなかった。ゴッセルを救うためには真に奴を倒して魔界に返してやる必要があるのだ」
「真に倒す?どういうことですか?魔王城にいるゴッセルを倒すだけでは不十分というと、まさか、他にも・・・」
「察しがよいな。魔王ゴッセルは静と動、表裏一体の存在。今貴様等が狙うのは動の存在だが、動のゴッセルを倒しただけでは何も変わらぬ。しかも、静のゴッセルは狡猾だ。妾やフェイレス程の力の持ち主では近づいただけで姿を眩まして捕まえることができぬ。なればこそお前達に頼みたいのだ」
「もう1人のゴッセルを倒す。それを私達に成せと?」
「そうだ。静のゴッセルは常に身を隠し、息を潜めて動のゴッセルを操っている言わば脳と身体のような関係だ。だからこそどちらか一方を倒せば残された方も眠りにつく。だから、完全に奴を倒すにはその両方を倒す必要があるのだ。」
ゼロは仲間達を顧みた。
皆が頷いている。
「分かりました。やってみます」
「頼む。代わりと言ってはなんだが、あのベルベットは妾とフェイレスで引き受けよう。魔王に匹敵する程の力を持つ奴を倒すことは容易ではないが、奴の軍勢はこれ以上前には進ませぬ」
ゼロは頷いた。
「このまま東に進め。そこに地下墳墓がある。奴はそこに潜んでいる。周囲を守る者も居ないから辿り着くのは容易な筈だ。だが甘く見るな。守る者が居ないのは奴が絶対的な力を持つからだ。忘れるな、お前達が挑むのは紛うことなき魔王であるということを!」
プリシラの言葉に力強く頷いたゼロは師であるフェイレスに頭を下げた。
フェイレスは優しさに満ちた目をゼロに向ける。
「貴様は人の身では到底困難であった死霊術の極みにまで辿り着くことができた。今の貴様ならば死霊術の根源を理解できる筈だ。貴様・・いや、ゼロよ。今こそ自らの死霊術を極めてみせよ」
「はい!師匠の弟子として恥じることのなきように、死霊術師として私の道を進んでみせます」
ゼロは仲間と共に東に向かって駆け出した。
フェイレスとプリシラはその後ろ姿を見送った。
「其方の弟子もなかなかのものではないか」
「うむ、死霊術師として技を極め、それでいながら人々との縁も紡いできた。それこそがゼロの本質なのであろう。もう我がゼロに教えることは何一つ残っていない」
フェイレスの言葉にプリシラは笑うと正面を見据えた。
魔王軍とアンデッド、プリシラの魔物達が激しい戦いを繰り広げている。
「さて、妾達も大言壮語を吐いた手前、奴等を先に進ませるわけにはいかんな。あのベルベット相手に骨の折れることだ」
「何を言っておるプリシラ。我を連れてきたのは其方ではないか。友の頼みだからこそ我も立ったのだぞ」
「それもそうよの。どれ、ひと暴れしてみるか?」
2人はベルベットの軍勢に向かって歩き出した。
スケルトンナイト等の上位アンデッドの他にマミー、ドラウグル、ワイト等ゼロが使役していない強力なアンデッドの軍勢はベルベットの軍勢を受け止めて瞬く間に押し戻してしまった。
そしてゼロの前に現れたのは、ハイエルフの美しい女性に見えるが、ただのハイエルフではない。
全身に薄い光を纏い、神々しさすら感じられる。
一説によると、悠久の時を生きるハイエルフが生死の呪縛を離れて聖霊になるといわれているが、彼女の風貌はまさに聖霊と呼ぶのが相応しかった。
白銀のローブを纏い、その肌はハイエルフよりも白く、その長い髪も白銀に輝いている。
その背後にはオメガをも凌駕する程の力を秘めた上位ヴァンパイアが控えている。
神々のような威厳を持ちながら、彼女は紛うことなく死霊術師だった。
それも、ゼロが足下にも及ばない程の力の持ち主だ。
「師匠・・・」
ゼロの記憶から消されていた師匠の姿。
しかしながら、彼女の圧倒的な存在感を前にゼロの記憶が呼び覚まされた。
「師匠、お久しぶりです」
レナを始め、他の者が呆気に取られている中でゼロは深々と頭を下げた。
ハイエルフの死霊術師はゼロを睨み付ける。
「フンッ、未熟者め!如何に強力な敵だとしても、あの程度の敵、幾らでもやりようはあろう」
「あの程度・・ですか」
師匠のゼロに対する評価はほとほと厳しいものであった。
ゼロの仲間にしてみれば連隊編成からここに至るまでゼロは遊撃戦を繰り広げ、数万の魔王軍を翻弄してきたのだ。
レナに言わせれば、ネクロマンサーという不遇職にありながら地道に実績を積み重ねてきたゼロは絶対数が少ないとはいえ、王国一のネクロマンサーであることは間違いない。
世界中を探してもゼロ程のネクロマンサーはそうはいない筈だ。
ただ、目の前にいる桁違いの力を有するゼロの師匠のネクロマンサーを前にして、その迫力に気圧されて言葉を発することもできない。
その間にも師匠のゼロに対する説教は続いていたが、やがて背後にいたヴァンパイアが肩を竦めながら口を挟んだ。
「お弟子様、立派になられましたな」
「バルツァーも元気そうで何よりです」
「ハハハッ、ヴァンパイアの私に向かって元気そうとは。相変わらずですな。フェイレス様もお弟子様の成長をことのほかお喜びになられていましたよ」
バルツァーと呼ばれたヴァンパイアを死霊術師フェイレスは睨み付けた。
「余計なことを申すな!だが、まあ定命の人の身でありながらここまでの高みにたどり着いことは褒めてやろう」
ゼロは再び深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。また、窮地を救っていただきまして、重ねてお礼申し上げます」
「なにも貴様を救いに来たわけではない。貴様とて、窮地と思いながらも生き延びる策の1つや2つは腹に抱えていただろうよ。我がここに来たのは友の頼みがあってこそだ」
フェイレスは上空に飛来したワイバーンやグリフォンを指示した。
戦場に到着したそれらは上空から急降下して魔王軍に襲いかかっている。
フェイレスのアンデッドの攻撃と相まって魔王軍の陣形は瞬く間に崩壊し、後退を開始している。
そして飛来したワイバーンの背に乗って近づいてくる少女の姿があった。
魔王プリシラだ。
「プリシラがどうしてもとゴネおってな」
「プリシラさんがですか?」
「ああ、プリシラは貴様にも興味があるようだが、何よりも魔王ゴッセルを救いたいようだ」
「魔王を救う?」
「詳しいことはプリシラ本人に聞け」
魔物達と静かに暮らしたいと話していたプリシラが魔物を率いてここまで来たのだ、余程の考えがあるはずだ。
ゼロはワイバーンに乗って降りてきたプリシラに歩み寄った。
「お久しぶりです。プリシラさん」
「久しいの、ゼロ。其方等も息災のようで何よりだ」
プリシラはゼロとその背後に立つ仲間を見て微笑んだ。
オックスとリリス、コルツ以外の者はゼロと共にプリシラの城に乗り込んだ顔見知りだ。
「あれ以来、お茶を飲みに来ないから寂しかったぞ」
戯れ言を言うプリシラだが、肩を竦めたゼロ以外の誰も笑うことはできない。
「ゼロは妾に膝を屈することのない希有な存在なのだから、たまにはお茶を飲みに来い」
「プリシラさんの城はお茶を飲みに行くには遠すぎますよ」
ゼロも魔王プリシラを前に全く臆する様子を見せない。
「プリシラさんが師匠の友人だったとは、驚きました」
「うむ、フェイレスは大切な友人だ。それに魔王ゴッセルも妾の古い友人だ」
プリシラはゼロと仲間達を見回した。
「魔王ゴッセルは自らも抗うことのできぬ狂気と支配欲の化身だ。そのゴッセルを救ってやって欲しいのだ」
「救う、ですか?」
「ああ、分かりやすく言えば奴を倒してやってほしい。奴を倒し、魔界に引き戻してやれば奴は安らかな眠りにつくことができる。そういう意味で奴を救ってやってほしいのだ」
「そういうことならば、今、大勢の勇者や英雄が魔王の城に向かっています。うまく行けば魔王を討ち取ることもできると思いますよ」
ゼロの言葉にプリシラは首を振った。
「確かにそうかもしれん。だが、それだけでは不十分なのだ。ゴッセルが降臨する度に奴は破壊と殺戮を繰り返し、その都度勇者や英雄に敗北して短い眠りについてきた。しかし、愚かな奴らはゴッセルを倒すとそれに満足し、ことの真相を突き止めることもしなかった。ゴッセルを救うためには真に奴を倒して魔界に返してやる必要があるのだ」
「真に倒す?どういうことですか?魔王城にいるゴッセルを倒すだけでは不十分というと、まさか、他にも・・・」
「察しがよいな。魔王ゴッセルは静と動、表裏一体の存在。今貴様等が狙うのは動の存在だが、動のゴッセルを倒しただけでは何も変わらぬ。しかも、静のゴッセルは狡猾だ。妾やフェイレス程の力の持ち主では近づいただけで姿を眩まして捕まえることができぬ。なればこそお前達に頼みたいのだ」
「もう1人のゴッセルを倒す。それを私達に成せと?」
「そうだ。静のゴッセルは常に身を隠し、息を潜めて動のゴッセルを操っている言わば脳と身体のような関係だ。だからこそどちらか一方を倒せば残された方も眠りにつく。だから、完全に奴を倒すにはその両方を倒す必要があるのだ。」
ゼロは仲間達を顧みた。
皆が頷いている。
「分かりました。やってみます」
「頼む。代わりと言ってはなんだが、あのベルベットは妾とフェイレスで引き受けよう。魔王に匹敵する程の力を持つ奴を倒すことは容易ではないが、奴の軍勢はこれ以上前には進ませぬ」
ゼロは頷いた。
「このまま東に進め。そこに地下墳墓がある。奴はそこに潜んでいる。周囲を守る者も居ないから辿り着くのは容易な筈だ。だが甘く見るな。守る者が居ないのは奴が絶対的な力を持つからだ。忘れるな、お前達が挑むのは紛うことなき魔王であるということを!」
プリシラの言葉に力強く頷いたゼロは師であるフェイレスに頭を下げた。
フェイレスは優しさに満ちた目をゼロに向ける。
「貴様は人の身では到底困難であった死霊術の極みにまで辿り着くことができた。今の貴様ならば死霊術の根源を理解できる筈だ。貴様・・いや、ゼロよ。今こそ自らの死霊術を極めてみせよ」
「はい!師匠の弟子として恥じることのなきように、死霊術師として私の道を進んでみせます」
ゼロは仲間と共に東に向かって駆け出した。
フェイレスとプリシラはその後ろ姿を見送った。
「其方の弟子もなかなかのものではないか」
「うむ、死霊術師として技を極め、それでいながら人々との縁も紡いできた。それこそがゼロの本質なのであろう。もう我がゼロに教えることは何一つ残っていない」
フェイレスの言葉にプリシラは笑うと正面を見据えた。
魔王軍とアンデッド、プリシラの魔物達が激しい戦いを繰り広げている。
「さて、妾達も大言壮語を吐いた手前、奴等を先に進ませるわけにはいかんな。あのベルベット相手に骨の折れることだ」
「何を言っておるプリシラ。我を連れてきたのは其方ではないか。友の頼みだからこそ我も立ったのだぞ」
「それもそうよの。どれ、ひと暴れしてみるか?」
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