職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

文字の大きさ
上 下
166 / 196

宣戦布告

しおりを挟む
「敵の偵察兵を捕まえてきてください」

 潜伏中の屋敷でゼロはイズとリズを呼び出して下命した。

「偵察兵ですか?」
「はい、殲滅したダークエルフのように私達を探している者がいる筈です。それを1人、生きたまま連れてきて欲しいのです。2日以内に」

 イズとリズは顔を見合わせた。

「それは造作もないことですが・・・」
「捕虜にでもするのですか?」

 2人の問いにゼロは首を振った。

「違います。ちょっと頼み事がありますので、あまり痛めつけずにお願いします。それから、連行する際には私達の居場所を知られないように配慮してください」
「「おまかせ下さい」」

 双子のシルバーエルフは部屋を出ていった。

「偵察兵ってそんなに簡単に捕まえられるものなの?」

 横で話しを聞いていたレナは首を傾げた。

「普通は捕まりませんね。簡単に捕まるようでは偵察なんか務まりませんよ。ただ、あの2人ならば大丈夫です。あの兄妹は森を出てただ単に冒険者としての経験を積んだだけではありません。シルバーエルフとしてあらゆる状況に対応できるように自己を高めてきたんですよ」
「ゼロの役に立てるようにね」

 悪戯っぽく笑うレナの言葉にゼロは苦笑した。

「それだけでは困るんですよね・・・」

 ゼロはクロウが差し入れで持ってきた焼き菓子を口に放り込んだ。

 翌日にはイズとリズは目的の敵兵を捕縛してきた。
 意識を失っているのか、袋に入れられてイズの肩に担がれている敵兵は微動だにしない。

「ダークエルフの女です。単独行動をしていましたのである程度は上位の偵察兵だと思います」

 聞けば、潜伏中の村から数キロ離れた軍の駐屯地跡を調べているところをリズが吹き矢で眠らせて捕まえたので怪我一つしていないとのことだ。
 それでも一流の諜報員は意識を失ったふりをして周囲の音だけを頼りに情報を集めることもあるので細心の注意を払う。
 捕まえたダークエルフは屋敷の地下にあった窓も無い部屋に連れ込み、その場にはゼロとレナとイズとリズしかいない。
 袋から出されたダークエルフが意識を取り戻す前に手足を拘束し、咄嗟の自殺防止に猿ぐつわを噛ませる。
 準備が整ったところでリズが覚醒の香を嗅がせた。

「・・・っ!!」

 目を覚ましたダークエルフは驚愕の表情を見せるが直ぐに周囲を見回して自分の置かれた状況を把握しようとする。
 間違いなく偵察兵のようだ。
 ゼロは冷徹な目でダークエルフを見下ろした。

「荒々しいことをしたうえ、驚かせて申し訳ありません。最初に言っておきますが、貴女が余計な抵抗をしなければこれ以上危害を加えません」

 簡単な説明をしたうえでゼロはリズに目配せして猿ぐつわを外させた。

「貴女に協力して欲しいことがあります。そのために用件が済んだら解放することを約束しますよ」
「・・・クッ、殺せ!」
「ああ、どこかで聞いたような台詞は結構です。その前に1つだけ質問させてください」
「私は何も答えない!」

 ダークエルフは真っ直ぐにゼロを見据えた。

「尋問するわけではありませんよ。簡単な質問です。この状況下で貴女の視覚と聴覚の情報がそちらの主に届いているのか教えてください」
「?」
「上位の魔族は離れた場所にいる配下の視覚や聴覚の情報を得ることができる筈です。貴女は主にその情報を送っているのか?そのことを聞いているのです」
「・・・」

 ダークエルフは答えない。
 ただ、ゼロを観察する目、しきりに動くエルフ特有の長い耳がゼロの質問の答えが是であることを物語っているが、確証が欲しい。

「答えてくれませんか?そうでないと不本意ながら貴女の身体に聞くことになりますが?」
「・・・」
「仕方ありません」

 ゼロは立ち上がってリズを見た。

「彼女の衣服を剥いでください。上半身だけで構いません」

 ゼロの言葉に驚いたのはダークエルフの女ではなくその場にいたレナとリズだった。
 ゼロがそんなことを言い出すなんて夢にも思っていなかったのだ。
 戸惑いながらもリズは従ってダークエルフのボディスーツを胸元まではだけさせ、その豊かな胸が露わになる。
 ゼロは表情を変えずに女の胸元を見た。
 ダークエルフの女は恥辱に駆られて初めてゼロから視線を外した。
 何故かレナとリズの視線が痛い。
 ゼロはその視線に耐えながら女の首に魔導具のネックレスがあることを確認した。
 装備した者の情報を伝達する魔導具だ。

「やはり、ちゃんと情報を送っていますね」

 ゼロはリズに合図してダークエルフの衣服を整えさせ、用意しておいた椅子に座らせるとその正面に立った。

「もう既に見て、聞いているでしょうが、貴女の主、つまり連邦国方面軍の司令官にメッセージを伝えてもらいます」

 ゼロは目の前に座るダークエルフの女を、延いてはその先にいる魔王軍の司令官を見据えた。

「魔王軍司令官に告げる!私の名はゼロ。貴官の配下の部隊や兵站を襲い、貴官が捜していた遊撃隊を率いている者です。貴官は今、この戦争の状況下において数万の軍勢を有して連合軍を待ち構えていることでしょうが、そうはさせません。私は今から3日後に貴官が軍を展開している国境線よりも北を進み、帝国領に、そして魔王の座する居城まで攻め込み、魔王の首を討ち取ります。まあ、当然に気付いているでしょうが、私の行動は連合軍本隊の陽動です。しかし、陽動だからといって無視できないことは今までの私の戦果を知っていれば理解できる筈です。それでも私を軽視するならば、私は本気で魔王の首を取りに出ます。私を止めたいならば軍をもって止めて見せなさい。ただ、千や二千の軍勢で私を止められるとは思わないでいただきたい。私を倒すならば万の軍勢を差し向けてきなさい。これは連合軍遊撃隊としてではなく、私自身から魔王ゴッセルと全ての魔王軍に対する宣戦布告です!」

 ゼロは魔王と魔王軍に対して声高らかに宣戦布告した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。 国家錬金術師となって帰ってきた。 村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて…… そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。 「私に貴方の子種をちょうだい!」 「嫌です」 恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。 ※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

処理中です...