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ゼロ連隊の暗躍
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連合軍による反攻が行われている最中、ゼロ連隊は神出鬼没の遊撃戦を展開していた。
魔王軍の物資集積地を襲っての焼き討ちや、補給部隊を襲撃しての兵站の断絶。
中隊規模の小部隊を次々に襲撃して殲滅させる。
個別にしてみれば微々たるものではあるが、積み重ねれば大きな戦果となりつつある。
現にゼロ連隊が殲滅した魔王軍の総数は数千に及び、2個連隊規模の損害を与えている。
ゼロ連隊が遊撃戦を始めた当初は魔王軍が気にとめることもない小規模の損害であった。
しかし、その損害が拡大するにつれて魔王軍の支配地域内を好き勝手に行動している謎の部隊が暗躍していることが魔王軍内にも無視できぬこととなり、ゼロ達を見つけ出そうとする動きが始まっていた。
一度は支配地域奥深く魔王軍の物資集積地を焼き討ちしたゼロ達だが、現在は一気に国境付近まで後退して人身売買組織の拠点があった街に潜伏していた。
「貴方達の嫌がらせが効いてきたらしく、魔王軍内部では謎の部隊を見つけ出せと躍起になっていますよ」
屋敷の一室でクロウがお茶を飲みながら笑う。
このクロウと名乗る男はどこで情報を得るのか、ゼロの独断で動いている連隊の行く先々に現れては様々な情報を与えてくるのだ。
「まあ、目立たないようにしていたとはいえ、ここまで被害が拡大すれば目を付けられて当然ですよ」
クロウの対面に座っているゼロも肩を竦めた。
ゼロの背後に立つレナは黙ってクロウを睨んでいるが、それに気付いているクロウは特に気にしていない。
「しかし、ゼロさんも性格が悪いですね。せっかく私が魔王軍の薄い箇所の情報を伝えているのにその情報を全く生かしていませんね」
「当然です。不規則に行動している私達の行動を逐一把握している人の情報なんか鵜呑みにできませんよ。クロウさんの情報は参考程度に聞き流しています」
ゼロの返答を聞いたクロウは満足気に頷いた。
「流石は私が見込んだ方です。しかし、些か芳しくないことがあります」
そこまで飄々としていたクロウの表情が変わった。
「何です?」
「魔王軍の中でも数万の軍勢を率いる魔人、連邦国支配地域の司令官が貴方達に目を付けました。先だっての戦闘で討ち取った魔人2人よりも遥かに危険な魔人です。まだ貴方達の正体を掴むには至っていませんが、くれぐれも気をつけてください」
「なるほど、こちらも今後の行動計画を見直す必要がありますね」
「それが懸命ですよ。さて、そろそろお暇しましょうか。ゼロさん、またお会いしましょう」
そう言いながら部屋を出て行くクロウを見送ったゼロだが、傍らに立つレナは最後まで無言でクロウを睨んでいた。
「ゼロ、私はあの男のことがどうにも信用できないわ」
クロウが立ち去ったのを見届けたレナはゼロの隣に座った。
「私も信用はしていませんよ。クロウさんからの情報は真贋が入り混じった危険な情報ですから、良く見極める必要があります」
ゼロはレナのためにお茶を淹れながら話す。
「ただ、その真贋を正しく見極めることができると非常に良質な情報を得られるんですよ」
レナはお茶を一口飲んでため息をついた。
「そこまで分かっていながら彼の情報に従った動きをしないのね?」
「はい、良質な情報でも私は鵜呑みにはしません。その情報を基に最良と思われる策を考え、その策からパターンをずらした作戦を立案しています」
「貴方らしいといえばらしいけど、いつにも増して慎重ね?」
「彼は情報戦の専門家です。そのため私達の情報も少なからず魔王軍にリークしているはずです。その方法は分かりませんが」
「何ですって?」
「これまた真贋を入り混ぜた情報でしょうが、その情報を得た魔王軍がどのように動くかの反応を見極めて情報の精度を高めているのでしょう。とはいえ、このままだと私達の正体がバレるのも時間の問題です」
「それならばほとぼりが冷めるまで少しの間息を潜めてみる?」
「それは得策ではありません。こちらが動きを止めて敵の様子を見るということは敵に多くの選択肢を与えることになります。圧倒的不利に立つ私達は常にこちら側から手を打って戦いの主導権を持ち続ける必要があります」
「それならば、直ぐに次の行動に移る気なの?」
「そうですね。もう2、3日休息を取ろうと思いましたが。直ぐに動きましょう。ただ・・」
「ただ?」
「お茶くらいはゆっくり飲みましょう」
ゼロはレナのカップにお茶を注ぎ足した。
魔王軍の中でも最大規模の兵を有する軍団の長である魔人ベルベットは静かに策を練っていた。
彼女は連邦国支配地域の総司令官の立場にあり、連合軍の反攻に対して麾下の部隊を動かして逆撃の機会を狙っている。
今は連合軍が魔王軍部隊を次々と突破しながら順調に進軍しているように見えるが、それもこれも彼女の策の内である。
敵軍を自分の支配地域深く誘い込み、大攻勢をもって一気に敵を殲滅するつもりであった。
しかし、その策の中で無視できぬ想定外の事態が進行していたのだ。
ことの発端は国境線の警戒に当たっていた竜騎兵の部隊が行方不明になったことだ。
少部隊とはいえ精強なる竜騎兵が30騎もまとめて行方不明になるとは尋常ではない。
ただ、その時期が連合軍の反攻開始と一致したことから連合軍との遭遇戦で敗れたのだろうと推測され、それを裏付けるかのように半数程度が敵に捕らえられて捕虜になったとの情報を得た。
竜騎兵30を敗北に追い込むほどの敵だから油断はできぬと警戒したが、現に数万規模の敵が進軍してきたことからも通常戦闘による損害と判断していた。
しかし、その後にも不可解な小規模な損害が続発した。
いずれも中隊から大隊規模の部隊の行方不明や小規模な物資の焼き討ちや補給部隊の全滅であり、その損害の小ささからベルベットへの報告もされていなかったのだが、その損害が積み重なり、無視できぬ状況になったことからもベルベットの知るところとなった。
ベルベットが損害を分析した結果、実に的確に、目立たないように地味な損害を与えられていることが判明し、その原因は神出鬼没の謎の敵部隊が支配地域内を縦横無尽に動き回っていると結論づけた。
ただ、魔王軍の支配地域をその警戒網をすり抜けて大部隊が好き勝手に動き回っているとは考えられない。
こちらの損害状況からもよほど有能な者に指揮された中隊以下の小部隊だろう。
今、魔王軍司令官のベルベットより謎の敵の正体を暴き、追い込み、殲滅することが下命された。
魔王軍の物資集積地を襲っての焼き討ちや、補給部隊を襲撃しての兵站の断絶。
中隊規模の小部隊を次々に襲撃して殲滅させる。
個別にしてみれば微々たるものではあるが、積み重ねれば大きな戦果となりつつある。
現にゼロ連隊が殲滅した魔王軍の総数は数千に及び、2個連隊規模の損害を与えている。
ゼロ連隊が遊撃戦を始めた当初は魔王軍が気にとめることもない小規模の損害であった。
しかし、その損害が拡大するにつれて魔王軍の支配地域内を好き勝手に行動している謎の部隊が暗躍していることが魔王軍内にも無視できぬこととなり、ゼロ達を見つけ出そうとする動きが始まっていた。
一度は支配地域奥深く魔王軍の物資集積地を焼き討ちしたゼロ達だが、現在は一気に国境付近まで後退して人身売買組織の拠点があった街に潜伏していた。
「貴方達の嫌がらせが効いてきたらしく、魔王軍内部では謎の部隊を見つけ出せと躍起になっていますよ」
屋敷の一室でクロウがお茶を飲みながら笑う。
このクロウと名乗る男はどこで情報を得るのか、ゼロの独断で動いている連隊の行く先々に現れては様々な情報を与えてくるのだ。
「まあ、目立たないようにしていたとはいえ、ここまで被害が拡大すれば目を付けられて当然ですよ」
クロウの対面に座っているゼロも肩を竦めた。
ゼロの背後に立つレナは黙ってクロウを睨んでいるが、それに気付いているクロウは特に気にしていない。
「しかし、ゼロさんも性格が悪いですね。せっかく私が魔王軍の薄い箇所の情報を伝えているのにその情報を全く生かしていませんね」
「当然です。不規則に行動している私達の行動を逐一把握している人の情報なんか鵜呑みにできませんよ。クロウさんの情報は参考程度に聞き流しています」
ゼロの返答を聞いたクロウは満足気に頷いた。
「流石は私が見込んだ方です。しかし、些か芳しくないことがあります」
そこまで飄々としていたクロウの表情が変わった。
「何です?」
「魔王軍の中でも数万の軍勢を率いる魔人、連邦国支配地域の司令官が貴方達に目を付けました。先だっての戦闘で討ち取った魔人2人よりも遥かに危険な魔人です。まだ貴方達の正体を掴むには至っていませんが、くれぐれも気をつけてください」
「なるほど、こちらも今後の行動計画を見直す必要がありますね」
「それが懸命ですよ。さて、そろそろお暇しましょうか。ゼロさん、またお会いしましょう」
そう言いながら部屋を出て行くクロウを見送ったゼロだが、傍らに立つレナは最後まで無言でクロウを睨んでいた。
「ゼロ、私はあの男のことがどうにも信用できないわ」
クロウが立ち去ったのを見届けたレナはゼロの隣に座った。
「私も信用はしていませんよ。クロウさんからの情報は真贋が入り混じった危険な情報ですから、良く見極める必要があります」
ゼロはレナのためにお茶を淹れながら話す。
「ただ、その真贋を正しく見極めることができると非常に良質な情報を得られるんですよ」
レナはお茶を一口飲んでため息をついた。
「そこまで分かっていながら彼の情報に従った動きをしないのね?」
「はい、良質な情報でも私は鵜呑みにはしません。その情報を基に最良と思われる策を考え、その策からパターンをずらした作戦を立案しています」
「貴方らしいといえばらしいけど、いつにも増して慎重ね?」
「彼は情報戦の専門家です。そのため私達の情報も少なからず魔王軍にリークしているはずです。その方法は分かりませんが」
「何ですって?」
「これまた真贋を入り混ぜた情報でしょうが、その情報を得た魔王軍がどのように動くかの反応を見極めて情報の精度を高めているのでしょう。とはいえ、このままだと私達の正体がバレるのも時間の問題です」
「それならばほとぼりが冷めるまで少しの間息を潜めてみる?」
「それは得策ではありません。こちらが動きを止めて敵の様子を見るということは敵に多くの選択肢を与えることになります。圧倒的不利に立つ私達は常にこちら側から手を打って戦いの主導権を持ち続ける必要があります」
「それならば、直ぐに次の行動に移る気なの?」
「そうですね。もう2、3日休息を取ろうと思いましたが。直ぐに動きましょう。ただ・・」
「ただ?」
「お茶くらいはゆっくり飲みましょう」
ゼロはレナのカップにお茶を注ぎ足した。
魔王軍の中でも最大規模の兵を有する軍団の長である魔人ベルベットは静かに策を練っていた。
彼女は連邦国支配地域の総司令官の立場にあり、連合軍の反攻に対して麾下の部隊を動かして逆撃の機会を狙っている。
今は連合軍が魔王軍部隊を次々と突破しながら順調に進軍しているように見えるが、それもこれも彼女の策の内である。
敵軍を自分の支配地域深く誘い込み、大攻勢をもって一気に敵を殲滅するつもりであった。
しかし、その策の中で無視できぬ想定外の事態が進行していたのだ。
ことの発端は国境線の警戒に当たっていた竜騎兵の部隊が行方不明になったことだ。
少部隊とはいえ精強なる竜騎兵が30騎もまとめて行方不明になるとは尋常ではない。
ただ、その時期が連合軍の反攻開始と一致したことから連合軍との遭遇戦で敗れたのだろうと推測され、それを裏付けるかのように半数程度が敵に捕らえられて捕虜になったとの情報を得た。
竜騎兵30を敗北に追い込むほどの敵だから油断はできぬと警戒したが、現に数万規模の敵が進軍してきたことからも通常戦闘による損害と判断していた。
しかし、その後にも不可解な小規模な損害が続発した。
いずれも中隊から大隊規模の部隊の行方不明や小規模な物資の焼き討ちや補給部隊の全滅であり、その損害の小ささからベルベットへの報告もされていなかったのだが、その損害が積み重なり、無視できぬ状況になったことからもベルベットの知るところとなった。
ベルベットが損害を分析した結果、実に的確に、目立たないように地味な損害を与えられていることが判明し、その原因は神出鬼没の謎の敵部隊が支配地域内を縦横無尽に動き回っていると結論づけた。
ただ、魔王軍の支配地域をその警戒網をすり抜けて大部隊が好き勝手に動き回っているとは考えられない。
こちらの損害状況からもよほど有能な者に指揮された中隊以下の小部隊だろう。
今、魔王軍司令官のベルベットより謎の敵の正体を暴き、追い込み、殲滅することが下命された。
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