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竜騎兵隊長ケルム
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竜騎兵隊長ケルムは誇り高い男である。
彼の人生は常に戦場にあり、どんな強敵とも全力で戦って生き残ってきた。
その誇り高い男が何故に魔王軍に組みしているのか?
その理由は単純であり、魔王軍が強者だったからである。
魔王ゴッセル・ローヴが降臨するまで彼等竜人族は帝国領の北方の山脈内の集落に住み、度重なる帝国や北方の辺境部族の侵攻を阻止し続け、独立を保っていた。
しかし、魔王ゴッセルが降臨して帝国を支配し、その侵略の手が彼等の集落に伸びたとき、彼等竜騎兵は魔王軍を相手に雄々しく戦い、そして敗れた。
敗れた彼等は魔王軍の軍門に降り、魔王軍に編入されたのだ。
自らを凌駕し、力でねじ伏せる程の実力を持つ強者には従う。
それは人間とは違う倫理観であるが、まぎれもなく彼等竜人の誇りであり、正義なのだ。
故にケルム達は部隊としてゼロ連隊との戦いでも降伏することに戸惑いは無かったが、隊長たるケルム自身の矜持のためにゼロ連隊長のゼロとの一騎打ちを望んだ。
間合いを取ったゼロとケルムはそれぞれが剣を構えている。
ケルムが構えているのはワイバーンの騎上で使用する長めのロングソードだ。
対するゼロは傍らにオメガを控えさせ、自らは剣を腰の位置で引いた刺突の構えを取った。
オメガも徒手の構えでケルムの隙を狙っている。
(アンデッドを1体だけ・・・どのタイミングで来る?)
ケルムはゼロのアンデッドがオメガだけであることを警戒している。
どのアンデッドをどこで召喚するか分からないため、対策の取りようがない。
その間にもゼロとオメガは徐々に左右に分かれて間合いを詰めてくる。
オメガの戦いは先程見ているが、十分に対処できる、ゼロの実力は未知数だ。
ケルムは先手を取った。
左側に回り込んだゼロに向かって飛び込みながら横薙ぎに剣を振り抜いた。
対するゼロは刺突の構えを解いてケルムの剣を受け止めるとその剣の勢いを頭上に逸らし、ケルムの剣の下を潜り抜け、即座にケルムの喉目掛けて剣を突き出した。
ゼロの突きをケルムは手甲で受け流すが、その隙を突いて死角からオメガが鋭い爪で切りかかってくる。
ケルムは咄嗟にその長い腕で目の前のゼロの襟首を掴むとオメガ目掛けて投げ飛ばした。
「うわっ、と!」
投げ飛ばされたゼロだが、オメガに衝突する直前に姿勢を立て直し、オメガの肩に手をかけてその頭上を飛び越えて着地し、再び剣を構えた。
不意を突かれて攻撃のタイミングを失したオメガも間合いを取り直す。
「流石に強いですね。イザベラさんと同等か、それ以上か・・・」
ゼロは剣を肩に担いで斬撃の構えを取るや否やケルムに向かって一気に間合いを詰めて袈裟斬りに剣を振り下ろす。
同時にオメガが飛びかかる。
ケルムがゼロの斬撃を受け流し、オメガの攻撃を躱すために後方に跳躍した瞬間、その着地点の地中からケルム目掛けて槍が突き出された。
体勢を崩しながらも地中からの奇襲を避けたケルムだが、バランスを崩して転倒する。
転倒したケルムを追って地中から這い出したスケルトンロードのスピアが槍を突き出した。
転がりながらスピアの刺突を躱したケルムはスピアの脚目掛けて剣を振った。
攻撃を避けたスピアが飛び退き、双方は再び睨み合う。
(徒手と剣と槍、間合いの違う3人か・・・。面白い)
目の前に立つ3人?を見てケルムは嬉しさを感じていた。
魔王軍に敗れたとき、それは圧倒的な武力に屈したのであり、今回のような機会は与えられなかった。
それはそれで不満は無いのだが、魔王軍の中には戦ってみたい強者が数多くいる。
その中で一部隊の隊長として満たされない日々を送ってきたのだ。
そして今、部隊間の衝突でなく、戦士として全力で戦うことのできる相手が目の前にいる。
ケルムは自分が根っからの戦士であることを実感した。
竜人の戦士ならば強い敵との戦いは望むところであり、何よりも誇らしいのだ。
背後で戦いを見届けている部下達はさぞかし羨ましいと思っているだろうが、これは隊長としての特権であると諦めてもらうしかない。
そして何よりも今は隊長としての責務を忘れて1人の戦士としての幸せを楽しみたいのだ。
今、ケルムの前に立つ3人、真ん中には実戦的な鎧を身に纏って槍を構えたスケルトンの上位種がいる。
当然ながらその暗い眼窩は視線や表情を読み取ることはできず、何時、どんな攻撃をしてくるか予想もできない。
右手には剣を構えたネクロマンサー。
僅かな剣撃の間にケルムの利き手を見抜いたのだろう、剣を振り出し難い右手に回り込んでいる。
そして左手には徒手のヴァンパイア。
昼日中から何の制限も受けずに活動していることからもこちらも上位種だろう、変幻自在の攻撃は油断禁物だ。
ケルムは冷静に判断する。
正面のスケルトンは強敵ではあるが脅威度は低い、右手のネクロマンサーか、左手のヴァンパイアを優先的に攻撃したいが、そうなれば迷うことはない。
ケルムは右手にいるゼロに向かって斬りかかった。
当然スケルトンとヴァンパイアも動くが、それよりも速く1撃、2撃、3撃と攻撃を繰り返しながら自分とネクロマンサーとヴァンパイアが直線上に位置するように巧みに位置取りをする。
この位置を維持すれば一度に相手にするのはネクロマンサーとスケルトンだ。
ネクロマンサーの鋭い剣撃やスケルトンの攻撃もそれぞれ目を見張るものがあるが、この2人相手ならば自分の実力の方が上だと判断した。
そして何よりも、目の前のネクロマンサーを倒せばこの勝負、決着するのだ。
ケルムはスピアの攻撃を捌きながらも目の前のゼロに攻撃を集中した。
一方のゼロも黙ってはいない。
ケルムの攻撃に対して斬撃、刺突だけでなく当て身や蹴りの体術を織り交ぜ、一歩も退かない戦いを繰り広げる。
そして、ゼロとオメガとスピアは一瞬の隙を狙っていた。
それはネクロマンサーと使役されるアンデッドの間にある強固な信頼関係に裏付けられた言葉を必要としない意志の疎通。
今、その一瞬の隙が生み出される。
ゼロがケルムの懐に飛び込んで逆袈裟に斬り上げた斬撃に続いて剣の柄を使用した打撃、何れもケルムに捌かれて後方に飛び退く。
即座にスピアが槍による刺突を連続で繰り出し、ほんの一瞬、ケルムの注意がスケルトンに注がれた。
本来ならば油断とは呼べない程の一瞬だけ逸らされた注意、これが致命的な一瞬になった。
後方に退いたゼロを飛び越えてオメガが襲いかかる。
不意を突かれはしたが、問題ない。
と思ったケルムがオメガに向き直ったとき、彼の目に飛び込んできたのは鎖鎌を持ち、分銅を投擲してくるオメガだった。
ゼロの背後にいたオメガはゼロを飛び越える瞬間にゼロの腰から鎖鎌を取り出していたのだ。
予想外の攻撃に対応が遅れ、分銅を払おうとした剣に鎖が絡みつき、ケルムの動きが止まった。
生み出された決定的な一瞬の隙、絡みついた鎖を引くオメガの顔に笑顔が浮かぶと同時にその姿が不自然に歪んだ。
霧に姿を変えたオメガの身体を突き抜けてゼロが一直線に飛び込んでくる。
ケルムの対応が完全に遅れた。
咄嗟にゼロの剣を受け止めようと鎖の絡んだままの剣を構えたケルムだが、ゼロは斬りかかることなく、渾身の力を込めてケルムに体当たりをした。
予想外の攻撃にケルムはバランスを崩して尻餅をつき、その首筋にゼロの剣が当てられた。
「参った。私の負けだ」
ケルムは満足した様子で負けを認めた。
彼の人生は常に戦場にあり、どんな強敵とも全力で戦って生き残ってきた。
その誇り高い男が何故に魔王軍に組みしているのか?
その理由は単純であり、魔王軍が強者だったからである。
魔王ゴッセル・ローヴが降臨するまで彼等竜人族は帝国領の北方の山脈内の集落に住み、度重なる帝国や北方の辺境部族の侵攻を阻止し続け、独立を保っていた。
しかし、魔王ゴッセルが降臨して帝国を支配し、その侵略の手が彼等の集落に伸びたとき、彼等竜騎兵は魔王軍を相手に雄々しく戦い、そして敗れた。
敗れた彼等は魔王軍の軍門に降り、魔王軍に編入されたのだ。
自らを凌駕し、力でねじ伏せる程の実力を持つ強者には従う。
それは人間とは違う倫理観であるが、まぎれもなく彼等竜人の誇りであり、正義なのだ。
故にケルム達は部隊としてゼロ連隊との戦いでも降伏することに戸惑いは無かったが、隊長たるケルム自身の矜持のためにゼロ連隊長のゼロとの一騎打ちを望んだ。
間合いを取ったゼロとケルムはそれぞれが剣を構えている。
ケルムが構えているのはワイバーンの騎上で使用する長めのロングソードだ。
対するゼロは傍らにオメガを控えさせ、自らは剣を腰の位置で引いた刺突の構えを取った。
オメガも徒手の構えでケルムの隙を狙っている。
(アンデッドを1体だけ・・・どのタイミングで来る?)
ケルムはゼロのアンデッドがオメガだけであることを警戒している。
どのアンデッドをどこで召喚するか分からないため、対策の取りようがない。
その間にもゼロとオメガは徐々に左右に分かれて間合いを詰めてくる。
オメガの戦いは先程見ているが、十分に対処できる、ゼロの実力は未知数だ。
ケルムは先手を取った。
左側に回り込んだゼロに向かって飛び込みながら横薙ぎに剣を振り抜いた。
対するゼロは刺突の構えを解いてケルムの剣を受け止めるとその剣の勢いを頭上に逸らし、ケルムの剣の下を潜り抜け、即座にケルムの喉目掛けて剣を突き出した。
ゼロの突きをケルムは手甲で受け流すが、その隙を突いて死角からオメガが鋭い爪で切りかかってくる。
ケルムは咄嗟にその長い腕で目の前のゼロの襟首を掴むとオメガ目掛けて投げ飛ばした。
「うわっ、と!」
投げ飛ばされたゼロだが、オメガに衝突する直前に姿勢を立て直し、オメガの肩に手をかけてその頭上を飛び越えて着地し、再び剣を構えた。
不意を突かれて攻撃のタイミングを失したオメガも間合いを取り直す。
「流石に強いですね。イザベラさんと同等か、それ以上か・・・」
ゼロは剣を肩に担いで斬撃の構えを取るや否やケルムに向かって一気に間合いを詰めて袈裟斬りに剣を振り下ろす。
同時にオメガが飛びかかる。
ケルムがゼロの斬撃を受け流し、オメガの攻撃を躱すために後方に跳躍した瞬間、その着地点の地中からケルム目掛けて槍が突き出された。
体勢を崩しながらも地中からの奇襲を避けたケルムだが、バランスを崩して転倒する。
転倒したケルムを追って地中から這い出したスケルトンロードのスピアが槍を突き出した。
転がりながらスピアの刺突を躱したケルムはスピアの脚目掛けて剣を振った。
攻撃を避けたスピアが飛び退き、双方は再び睨み合う。
(徒手と剣と槍、間合いの違う3人か・・・。面白い)
目の前に立つ3人?を見てケルムは嬉しさを感じていた。
魔王軍に敗れたとき、それは圧倒的な武力に屈したのであり、今回のような機会は与えられなかった。
それはそれで不満は無いのだが、魔王軍の中には戦ってみたい強者が数多くいる。
その中で一部隊の隊長として満たされない日々を送ってきたのだ。
そして今、部隊間の衝突でなく、戦士として全力で戦うことのできる相手が目の前にいる。
ケルムは自分が根っからの戦士であることを実感した。
竜人の戦士ならば強い敵との戦いは望むところであり、何よりも誇らしいのだ。
背後で戦いを見届けている部下達はさぞかし羨ましいと思っているだろうが、これは隊長としての特権であると諦めてもらうしかない。
そして何よりも今は隊長としての責務を忘れて1人の戦士としての幸せを楽しみたいのだ。
今、ケルムの前に立つ3人、真ん中には実戦的な鎧を身に纏って槍を構えたスケルトンの上位種がいる。
当然ながらその暗い眼窩は視線や表情を読み取ることはできず、何時、どんな攻撃をしてくるか予想もできない。
右手には剣を構えたネクロマンサー。
僅かな剣撃の間にケルムの利き手を見抜いたのだろう、剣を振り出し難い右手に回り込んでいる。
そして左手には徒手のヴァンパイア。
昼日中から何の制限も受けずに活動していることからもこちらも上位種だろう、変幻自在の攻撃は油断禁物だ。
ケルムは冷静に判断する。
正面のスケルトンは強敵ではあるが脅威度は低い、右手のネクロマンサーか、左手のヴァンパイアを優先的に攻撃したいが、そうなれば迷うことはない。
ケルムは右手にいるゼロに向かって斬りかかった。
当然スケルトンとヴァンパイアも動くが、それよりも速く1撃、2撃、3撃と攻撃を繰り返しながら自分とネクロマンサーとヴァンパイアが直線上に位置するように巧みに位置取りをする。
この位置を維持すれば一度に相手にするのはネクロマンサーとスケルトンだ。
ネクロマンサーの鋭い剣撃やスケルトンの攻撃もそれぞれ目を見張るものがあるが、この2人相手ならば自分の実力の方が上だと判断した。
そして何よりも、目の前のネクロマンサーを倒せばこの勝負、決着するのだ。
ケルムはスピアの攻撃を捌きながらも目の前のゼロに攻撃を集中した。
一方のゼロも黙ってはいない。
ケルムの攻撃に対して斬撃、刺突だけでなく当て身や蹴りの体術を織り交ぜ、一歩も退かない戦いを繰り広げる。
そして、ゼロとオメガとスピアは一瞬の隙を狙っていた。
それはネクロマンサーと使役されるアンデッドの間にある強固な信頼関係に裏付けられた言葉を必要としない意志の疎通。
今、その一瞬の隙が生み出される。
ゼロがケルムの懐に飛び込んで逆袈裟に斬り上げた斬撃に続いて剣の柄を使用した打撃、何れもケルムに捌かれて後方に飛び退く。
即座にスピアが槍による刺突を連続で繰り出し、ほんの一瞬、ケルムの注意がスケルトンに注がれた。
本来ならば油断とは呼べない程の一瞬だけ逸らされた注意、これが致命的な一瞬になった。
後方に退いたゼロを飛び越えてオメガが襲いかかる。
不意を突かれはしたが、問題ない。
と思ったケルムがオメガに向き直ったとき、彼の目に飛び込んできたのは鎖鎌を持ち、分銅を投擲してくるオメガだった。
ゼロの背後にいたオメガはゼロを飛び越える瞬間にゼロの腰から鎖鎌を取り出していたのだ。
予想外の攻撃に対応が遅れ、分銅を払おうとした剣に鎖が絡みつき、ケルムの動きが止まった。
生み出された決定的な一瞬の隙、絡みついた鎖を引くオメガの顔に笑顔が浮かぶと同時にその姿が不自然に歪んだ。
霧に姿を変えたオメガの身体を突き抜けてゼロが一直線に飛び込んでくる。
ケルムの対応が完全に遅れた。
咄嗟にゼロの剣を受け止めようと鎖の絡んだままの剣を構えたケルムだが、ゼロは斬りかかることなく、渾身の力を込めてケルムに体当たりをした。
予想外の攻撃にケルムはバランスを崩して尻餅をつき、その首筋にゼロの剣が当てられた。
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