職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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捕らわれた人々を救え3

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 オックス達は町の中に突入した。
 町の中のそこかしこでは人身売買組織の男達とアンデッドの戦いが繰り広げられていた。
 戦いといっても組織の男達はアンデッドの軍勢に恐慌状態に陥っており、一方的な展開になっている。
 町中に入ってきたオックス達に向かって来る者は殆どいない。
 それどころか助けを求める者すらいるほどだ。

「殲滅とはいえ無闇な殺戮の必要はない!降伏する者は拘束するに留めろ!」

 オックスの指示に従ってライズ達は動く。
 攻撃を仕掛けてくる者には容赦はしないが、抵抗を諦めている者は即座に拘束する。
 驚いたことにその場にゼロが居ないのにアンデッド達までがオックスの指示に従って動いていた。

「凄いな、自分から俺の指示に従っているのか?」

 オックスが呆気にとられている。
 実際にはスケルトンウォリアーにはそこまでの判断はできない。
 指揮者であるスケルトンロードとスケルトンナイトがオックスの指示を聞き、自ら判断してウォリアーを指揮しているのだ。
 オックス達は戦闘をアンデッド達に任せて人々が捕らわれている倉庫を駆け回った。

「助けにきた!周囲にいるスケルトンは敵ではない。冷静に待っていてくれ!必ず助け出す」

 突然倉庫の周りに現れたアンデッドに恐れおののいている人々を落ち着かせる。

 やがてオックス達にイズとリズが合流した。

「ゼロ様からの伝言です。救出した人々の移送に備えて馬車と食料の確保を頼むとのことです」

 オックスは頷いた。

「よし!ゼロの言うとおりにするぞ」

 オックス達は行動を開始するが、レナがイズにゼロのことを問う。

「ゼロはどうしました?」
「ゼロ様は組織の首領を討ち取るべく動いています。アルファとオメガが一緒です」

 イズの報告を聞いたレナはオックスに向かって叫ぶ。

「オックスさん、私はゼロに合流します!」
「分かった、こっちは任せろ!気をつけろよ!」

 レナは町の中心に向かって走り出した。

 その頃、ゼロは先を行くアルファの後を追って町中を駆け抜けていた。
 目標の気を辿るアルファは真っ直ぐに組織の首領に向かう。
 後を追うゼロは混乱の最中にいる男達には目もくれないが、稀に剣を向けてくる者がいれば容赦なく斬り捨てて走り続ける。
 そのゼロの前に慌てた様子で馬車に荷物を運び込んでいる集団がいる。
 その中に荷物を運び込む男達にあれこれと指示を出しているでっぷりと太った男がいた。
 ゼロ達の姿に気付いた男達は太った男を守るように各々が武器を手に壁を作った。
 ゼロの前に飛び出したオメガが男達に襲いかかり血祭りにあげる。
 オメガが切り開いた道を抜けたゼロが太った男の首を斬り飛ばした。
 驚いた表情のままの男の頭が転がり落ちるが、アルファとゼロは足を止めず、そのまま男の背後にある民家に飛び込んだ。
 民家の中には中年の男が今まさに地下通路に逃げ込もうとしていたところだ。

「主様!この男です」

 アルファが氷弾の魔法を男に叩き込む。
 氷弾をまともに受けた男は吹き飛ばされて床の上に転がった。
 倒れた男に向かってゼロが剣を振り下ろそうとしたその時

「止めなさいゼロ!殺す必要はないわ!」

ゼロを追って飛び込んできたレナがゼロを止めた。
 ゼロの剣の切っ先が男の喉元で止まった。

「レナさん・・・何故止めたのですか?この男、別に生かしておく理由も無いと思いますが?」

 振り返ったゼロの瞳には何の感情の色も無かった。
 目の前にいる男を、人を殺すことに何の抵抗も罪悪感も感じていない。
 いうなれば、道を歩いていて目の前にあった邪魔な石を横にどかす、その程度の感覚で人を殺そうとしているのだ。

「ゼロ、ダメよ。そんな1か0の感覚で人を殺しては駄目。その男は生かしておく理由は無いかもしれないけれど、今直ぐに殺さなければいけない理由も無いわ」

 レナはゆっくりとゼロに近づいて剣を握るゼロの手に自分の手を重ねた。

「貴女の言っていることがよく分かりません」
「今は分からなくてもいいの。少しずつ分かればいいのよ」

 レナはゼロの手を引く。
 まだゼロの剣の切っ先は男の命を容易く刈り取ることができる。
 その距離を少しずつ遠ざけようとした。

「それに、その男を生かしておく理由はありますよ」

 背後から突然声を掛けられてレナは反射的にゼロの手を離して杖を構えた。
 その声を聞いてもゼロは振り向きもしない。

「おっ、お前は!」

 ゼロに剣を向けられている男は腰を抜かしておきながらもやっとのことで声を発するが、剣の切っ先を喉元に突きつけられてそれ以上は口をつぐむ。

「貴方は誰?」

 詰問するレナにゼロが代わりに答える。

「その方は聖務院の方ですよ。おそらくは特務兵か聖務監督官」

 現れた男は目の前で腰を抜かしている首領の腹心の男だった。
 その男はゼロの言葉に肩を竦めた。

「私の素性は明かすことはできませんが、まあそんなところです。仮にクロウと呼んでください。当然ながら本名ではありませんが。呼び名が無いと会話も不便ですからね」

 クロウと名乗った男、かつてゼロが聖務院に異端審問を受けた際に民衆を煽動してゼロを窮地に陥れた男の声によく似ている。

「あの後に別の命令を受けましてね。教義に反し、民の安全を脅かす人身売買組織の全貌を明かせと」
「それで潜入していたと?」
「はい、その男も私が潜入した当初は小さな組織の首領に過ぎませんでした。その組織を潰すのは簡単ですが、そんな末端の組織を1つ潰しても国中に広がる人身売買の全貌を明かすことはできません。そこで私はこの男を手助けして組織を拡大し、他の組織を飲み込んで組織を一本化することにしたのですよ。これには時間を要しました」

 クロウの話を聞いて全てを悟ったレナが殺気立った。

「そのために貴方は大勢の人々を見殺しにしたの?」
「より多くの人々を守るためにあえてそうしました。そうすることによって商品、被害者の数をコントロールできますから」
「でも、その中には子供もいたでしょう!」
「はい、辛い選択でしたが。でもそのおかげで組織を拡大し、こうして一網打尽にできました。これで今存在する人身売買組織は壊滅し、再生は不可能になります」
「人の命はそんな天秤に掛けるようなものではないわ!」 

 更に詰め寄ろうとするレナをゼロが止めた。

「レナさん、止めなさい。クロウさんの判断は正しくはないでしょうが、決して間違ってはいません。それに、クロウさんは私達がこの町を攻めることを知って組織の主だった者をこの町に集めておいてくれました。確かに一般的にも道義的にも許されないことかもしれませんが、それこそ1か0かで論ずることができない問題です」

 ゼロの言葉を聞いたレナはクロウに向けていた杖を引いた。

「クロウさん、この首領の男を引き渡します」

 ゼロは首領の男に剣を向けたままでクロウに伝えた。

「助かります。私の配下の者も近くに待機していますから、直ちに本国に移送して後は聖務院が処理しますよ」

 クロウは男を縛り上げて建物から出て行った。
 町の中での戦闘は既に終結していた。
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