職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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捕らわれた人々を救え2

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「そんなことを聞くためにわざわざ呼んだのか?」

 核心を突いた男の問いかけにもゼロは表情を変えなかった。
 しかし、目の前の男は更に確証を得たような表情を浮かべた。

「質問に質問で答える。確かにセオリーではありますが、このような腹の探り合いはあまりお得意ではないようですね」

 男は次々と真実を突いてくるがゼロは動揺もしなければ引きもしない。

「勝手にそう思うがいい」
「殊更に怒りを表に出さず、敢えて否定しないのも悪い手ではありません」

 どうやら目の前の男はゼロよりも一枚も二枚も上手のようだ。

「一体何が言いたいのだ?」
「ああ、すみません。貴方に興味を抱きまして、ちょっと楽しませてもらいました。ご安心ください、既にお気づきのとおり、この部屋での私達の会話は外に漏れることはありません」

 それでもゼロは警戒を解かなかった。

「何を言っているのか知らんが、そのようなことを言って取引きを阻害するつもりか?我々は何としても明日には人間共を連れて行くぞ。力ずくでもだ」
「力ずくでも・・・ね?」
「邪魔だてするならば容赦はしない。刃向かうならば皆殺しにする」

 ゼロの答えに男は満足気に頷いた。

「分かりました。貴方を試すようなことをして申し訳ありません。是非とも明日はいい取引きにしたいものです。最後にこれだけはお伝えします。貴方が言う力ずくの手段を取られると私達の組織は再生が出来なくなります。よしなに願いますよ」
「明朝だ。取引きのためにまた来る。妙な考えは起こすなよ。お互いのためにな・・・」

 ゼロは無表情のままアルファを伴って部屋を出て行った。
 ゼロを見送った男は誰もいない部屋で笑みを浮かべた。

「なかなかのものです。自分の素性を明かさないままで一切の嘘をつくことなく私の期待以上の答えをくれました。あの時よりも手強くなりましたね」

 男は明日に起きるであろう波乱のために万全の備えをすることとした。

 ゼロは屋敷を出ると宿には向かわずに近くの広場、今は水を蓄えていない噴水の脇にあるベンチに腰かけた。
 ゼロの横にはアルファが座る。

「主様、あの男は・・・」
「はい、あの声には聞き覚えがあります。こんなところまで手を伸ばしているとは、本当に油断ができませんね」

 見通しの良い広場の真ん中、2人を見張る者がいることは分かっているが、ネクロマンサーとアンデッドであるゼロとアルファの会話を聞くことは出来ない。

「金で解決できるならば捕らわれの人々を買い取ってしまう手も考えましたが、そうもいきませんね。明日は荒れそうです。貴女達にも存分に働いてもらいますよ」
「畏まりました。主様のお役に立ってみせます」

 アルファはゼロを見上げて笑顔を見せた。
 アンデッドである彼女に感情というものは殆ど無い。
 あるのは彼女の武器となる悲しみと嘆きだけである。
 今、ゼロに向けている笑顔も彼女が学習した作られた表情だ。
 ただ、その笑顔はとても美しかった。

「アルファ、組織の首領の居場所を突き止めなさい。夜明けまでにです」
「畏まりました」

 アルファは姿を消した。

 ゼロは広場のベンチに腰かけたまま朝を迎えた。
 町に大きな変化はなく、全てがひっそりと息を潜めているようだ。
 そんなゼロの下にイズとリズが合流する。

「少しは休めましたか?」

 ゼロの問いに2人は頷いた。

「監視者の目が些か煩わしかったですが・・・」
「私はゼロ様が気がかりでした」

 リズが拗ねたように言い、ゼロは肩を竦めた。

「どちらに転んでも手を抜いてはくれないということですね。でも、それはこちらも同じ。今日でけりを着けます」

 立ち上がったゼロの前にオメガとアルファが戻ってきた。

「首尾はどうですか?」
「オックス様達は既に待機しております。何時でも大丈夫とのこと」
「獲物の居場所は突き止めました。事が始まればご案内します」

 ゼロは頷いた。

「それでは取引に向かいましょう」

 屋敷に向かって歩き出すゼロの後にイズとリズ、オメガ、アルファが続いた。

 ゼロ達が屋敷を訪れると、屋敷の前にはあの男と武装した複数の男達が立っていた。
 それだけではない、周辺には姿を隠している多数の気配がする。
 周囲にはピリピリとした殺気が満ちていた。

「お待ちしていました」

 男が恭しく頭を下げる。

「この物々しさ、一体どういうことですか?」

 ゼロは既に演技を止めていた。

「誠に申し訳ありません。貴方は何事かを企んでいるようです。取引は決裂とさせていただきます」

 男が合図をすると背後に控えていた男達が一斉に剣を抜いた。
 更に周辺に潜んでいた者達が姿を現し、ゼロ達を包囲する。

「取引は決裂、残念ながら皆さんにはこの町を出ていただくことも叶いません」

 ゼロは周囲を見渡して敵の数を確認した。
 敵の全戦力ではなさそうだ。

「本当にいいのですね?このまま素直に取引に応じた方がいいのではありませんか?」
「白々しいですね。くだらない茶番はここまでにしましょう」

 男の言葉にゼロは頷いた。

「そうしましょう」

 次の瞬間、町の至る所にスケルトンウォリアーの軍勢が姿を現した。
 それぞれがスケルトンロード、スケルトンナイトに指揮されて人々が捕らわれた倉庫を包囲して守りに就く。
 ゼロの周囲にはアルファ、オメガの他に複数のジャック・オー・ランタン、ウィル・オー・ザ・ウィスプとスペクターが出現した。

「降伏するならばよし。でなければ皆殺しです!」

 ゼロは警告する。
 それでも男は余裕の表情だ。

「降伏などあり得ません。やれっ!生かして帰すな!」

 男の合図に配下の男達が一斉に向かってきた。
 イズ、リズとアンデッド達と交戦状態に入るが、当の男は脱兎の如く駆け出した。
 後を追おうとするオメガをゼロが止める。

「捨て置きなさい。町の中にはスケルトンの軍勢がいます。彼等がどうにかするでしょうし、それでどうにかなるような男でもないでしょう」

 ゼロはリズを振り返る。

「リズさん、今です!合図を」

 リズは頷いて煙玉を付けた矢を空高く射た。
 赤い煙を引いた矢が空に弧を描く。
 町の外で待機するオックス達への合図だ。
 更にゼロはアルファに命令する。

「首領のいる場所に案内しなさい!」

 アルファは頷いて駆け出した。
 ゼロはアルファに続いて走り出す。

「イズさんとリズさんはここに残って敵を殲滅してください。その後はオックスさん達と合流して捕らわれた人々の救出です。オメガは私と一緒に来なさい」

 イズ、リズ、オメガはゼロの命令に従って行動を開始した。

 町から少し離れた場所に潜んでいたオックス達は町の中から上がった赤い煙を見た。

「合図だ、色は赤!殲滅だ!」

 オックスが叫ぶと待機していた皆が町に向かって駆け出した。
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