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男達の戦歌
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山道を抜けてくる数千の軍勢に呼応して魔王軍の先鋒部隊が速度を上げた。
更に後方に控えていた後詰めの部隊が増援部隊と合流すべく動き始める。
「ここにきて敵の増援!敵は合流して攻めて来る、総数は2万近くになるぞ!」
第2軍団長が叫ぶ。
仮に貴族の騎士隊が到着しても絶望的な戦力差だ。
第2軍団長は兵達の士気の崩壊を懸念したが、それでも正確な情報を末端まで伝えなければならない。
幸いにして兵達は緊張の表情であるものの、辛うじて士気は維持できている。
「敵の足を止める!一斉に射撃用意!」
防壁上の弓隊は狙いを付けて射撃の号令を待った。
増援と合流すべく自軍部隊の間隔を開いたタリクは近づいてくる部隊を見た。
「・・・何だ、あれは?」
その目は驚きに見開かれた。
その軍勢は盾や槍を構えて攻撃体勢を取りながら近づいてくる。
防壁の上で目を凝らして山道を見ていたレナは直感的に異変を感じていた。
レナよりも遥かに遠目の利くエルフのイズ、リズ、リリスはその異変をより強く感じている様子だ。
山道から近づいてくる軍勢は黒色の旗を掲げている。
遠すぎて未だに部隊の編成までは判別出来ないが、一糸乱れぬ行軍で前進を続けており、徐々に何かが聞こえてくる。
『・・・い・・・だけ。・・・・に進むだ・・・』
それは男達の歌声だった。
レナの耳にも確かに歌声が聞こえ、その胸が高鳴る。
イズとリズを見ればレナを見返して力強く頷いている。
「ちょっと待って!あれは敵じゃない!」
レナは叫んだ。
『俺達は退かない、ただ前に進むだけ。
俺達は退かない、退くべき大地などありはしない。
俺達は退かない、振り返るべき過去などありはしない。
俺達はただ仲間と共に死に進むだけ』
山道に現れた軍勢は数千のスケルトン、アンデッドの軍勢。
盾を並べ、槍をかざして魔王軍に向けて進軍している。
『・・・俺達は退かない・・』
・・ラ・ララ・ラ・ラ
しかも、聞こえてくる歌声には背筋が凍るような美しい歌声が被せてある。
そして、進軍を続けるアンデッドの後方に数十人の男達が声高らかに歌いながら続いている。
それを聞いた魔王軍の後詰め部隊に混乱が生じており、砦に接近していた部隊も足並みの乱れが生じて進軍の速度が鈍った。
『俺達には女神の微笑みなんて必要ない。
戦って戦って死ぬ時は、胸張って大笑いしながら地獄に落ちてやる。
それが俺達の贖罪だ。
これが俺達の戦歌』
レナは戦歌を雄々しく歌う男達の中に漆黒の戦士ゼロの姿を見た。
「あれは味方だ!風の都市の冒険者のゼロだ!ネクロマンサーのゼロが来たぞ!」
オックスが大声で叫ぶ。
「ネクロマンサーのゼロ様だ!聞いたことがあるだろう!黒等級のネクロマンサーの噂を!」
「たった1人で数多のアンデッドを操る方です!」
イズとリズも歓喜の声を上げ、更に
「ゼロさんは俺達の冒険者としての師だ!これほど強力な援軍はないぞ!」
レオン達も声を張り上げる。
それを聞き、ゼロを知る風の都市や森の都市の冒険者達が雄叫びを上げ、それにゼロの噂を知る他の者が続く。
やがてその雄叫びが全軍に移り渡り、砦を揺るがす程の雄叫びに変わった。
そんな中で
「バカ。酷い歌ね・・・」
レナだけが1人呟いていた。
戦歌に被せられたバンシーの歌声による精神攻撃を受けたタリクの部隊は混乱に包まれていた。
「ちくしょう!あれは増援なんかじゃねえ。敵だ!戦闘準備!」
混乱の最中でタリクは軍団の立て直しを図る。
バンシーの精神攻撃は簡単には破れないが、それでもタリクの恐怖による支配で徐々に統率を取り戻してゆくが、それまでに時間を掛け過ぎてしまい、先行したゴルグの部隊との連携は望めなくなった。
「まあいい、見たところ敵の数は3千程度、俺の軍団だけで十分だ。全軍、後背の敵に向かえ!」
タリクの軍団は背後から近づくゼロ達の部隊に向かった。
バンシーの歌声に足並みを乱したゴルグは反転したタリクの軍団を見てこのまま前進するか、反転して後背の敵に向かうか、2つの選択を迫られた。
「タリクめ、あのような小数の部隊に惑わされおって。まあいい、新手はタリクに任せてこちらは砦を攻めるとしよう」
既に砦の目前まで迫っていたゴルグは砦の攻略を優先することにする。
圧倒的優位に立っていた筈の魔王軍だが、ここにきて数で劣る敵軍相手に二正面戦闘を強いられることになった。
反転して向かってくる魔王軍を見てゼロはスケルトンの進軍を止めた。
「ここで敵を受け止める!防御体勢!」
ゼロの指示の下でスケルトンは盾を上下2段に構えて壁を作り、その隙間から槍を構えて敵の突撃を受け止める体勢を構築する。
ゼロの背後にはバンシーとオメガが控え、その周囲には戦歌を歌うリンツやリックス達、囚人部隊員が21人。
北の砦の戦いで最後の突撃を生き延びた中でその後もゼロと行動を共にすることを選んだ男達だ。
北の雪山を強行突破し、道無き山々を南進し、山道を進んでいた魔王軍増援部隊を側面から奇襲して全滅に至らしめ、砦を攻めている魔王軍の背後を取った。
ゼロに同行することを選んだ男達は32名いたが、雪山の強行軍と魔王軍増援部隊との戦いで幾人かの者が命を落とし、生き残りは21名だ。
そのゼロ達の前にスケルトン3千体が盾と槍を構えて防御体勢を敷いている。
「ゼロ、見込みはどうだ?」
リンツの問いかけにゼロは仮面に覆われた顔の表情を変えずに答える。
「正直いって厳しいです。敵の後方部隊だけでも我々よりも数が多いです。私達だけでは攻勢に出る余裕もありません。勝負は砦内の王国軍がどう動くかによりますね」
ゼロの厳しい見立てを聞いたリンツはそれを意に介さないかのように声を上げた。
「野郎共、ここまで来たぜ!死んでいった奴らのためにも俺達は戦い抜くぞ!」
リンツに続いてリックスも声を張り上げて仲間達を鼓舞する。
「俺達が背負うのは罪だけじゃない!後を託して逝った奴らの魂を背負っているんだ!」
リンツとリックスの声に男達の戦歌は更に大きく響き渡った。
更に後方に控えていた後詰めの部隊が増援部隊と合流すべく動き始める。
「ここにきて敵の増援!敵は合流して攻めて来る、総数は2万近くになるぞ!」
第2軍団長が叫ぶ。
仮に貴族の騎士隊が到着しても絶望的な戦力差だ。
第2軍団長は兵達の士気の崩壊を懸念したが、それでも正確な情報を末端まで伝えなければならない。
幸いにして兵達は緊張の表情であるものの、辛うじて士気は維持できている。
「敵の足を止める!一斉に射撃用意!」
防壁上の弓隊は狙いを付けて射撃の号令を待った。
増援と合流すべく自軍部隊の間隔を開いたタリクは近づいてくる部隊を見た。
「・・・何だ、あれは?」
その目は驚きに見開かれた。
その軍勢は盾や槍を構えて攻撃体勢を取りながら近づいてくる。
防壁の上で目を凝らして山道を見ていたレナは直感的に異変を感じていた。
レナよりも遥かに遠目の利くエルフのイズ、リズ、リリスはその異変をより強く感じている様子だ。
山道から近づいてくる軍勢は黒色の旗を掲げている。
遠すぎて未だに部隊の編成までは判別出来ないが、一糸乱れぬ行軍で前進を続けており、徐々に何かが聞こえてくる。
『・・・い・・・だけ。・・・・に進むだ・・・』
それは男達の歌声だった。
レナの耳にも確かに歌声が聞こえ、その胸が高鳴る。
イズとリズを見ればレナを見返して力強く頷いている。
「ちょっと待って!あれは敵じゃない!」
レナは叫んだ。
『俺達は退かない、ただ前に進むだけ。
俺達は退かない、退くべき大地などありはしない。
俺達は退かない、振り返るべき過去などありはしない。
俺達はただ仲間と共に死に進むだけ』
山道に現れた軍勢は数千のスケルトン、アンデッドの軍勢。
盾を並べ、槍をかざして魔王軍に向けて進軍している。
『・・・俺達は退かない・・』
・・ラ・ララ・ラ・ラ
しかも、聞こえてくる歌声には背筋が凍るような美しい歌声が被せてある。
そして、進軍を続けるアンデッドの後方に数十人の男達が声高らかに歌いながら続いている。
それを聞いた魔王軍の後詰め部隊に混乱が生じており、砦に接近していた部隊も足並みの乱れが生じて進軍の速度が鈍った。
『俺達には女神の微笑みなんて必要ない。
戦って戦って死ぬ時は、胸張って大笑いしながら地獄に落ちてやる。
それが俺達の贖罪だ。
これが俺達の戦歌』
レナは戦歌を雄々しく歌う男達の中に漆黒の戦士ゼロの姿を見た。
「あれは味方だ!風の都市の冒険者のゼロだ!ネクロマンサーのゼロが来たぞ!」
オックスが大声で叫ぶ。
「ネクロマンサーのゼロ様だ!聞いたことがあるだろう!黒等級のネクロマンサーの噂を!」
「たった1人で数多のアンデッドを操る方です!」
イズとリズも歓喜の声を上げ、更に
「ゼロさんは俺達の冒険者としての師だ!これほど強力な援軍はないぞ!」
レオン達も声を張り上げる。
それを聞き、ゼロを知る風の都市や森の都市の冒険者達が雄叫びを上げ、それにゼロの噂を知る他の者が続く。
やがてその雄叫びが全軍に移り渡り、砦を揺るがす程の雄叫びに変わった。
そんな中で
「バカ。酷い歌ね・・・」
レナだけが1人呟いていた。
戦歌に被せられたバンシーの歌声による精神攻撃を受けたタリクの部隊は混乱に包まれていた。
「ちくしょう!あれは増援なんかじゃねえ。敵だ!戦闘準備!」
混乱の最中でタリクは軍団の立て直しを図る。
バンシーの精神攻撃は簡単には破れないが、それでもタリクの恐怖による支配で徐々に統率を取り戻してゆくが、それまでに時間を掛け過ぎてしまい、先行したゴルグの部隊との連携は望めなくなった。
「まあいい、見たところ敵の数は3千程度、俺の軍団だけで十分だ。全軍、後背の敵に向かえ!」
タリクの軍団は背後から近づくゼロ達の部隊に向かった。
バンシーの歌声に足並みを乱したゴルグは反転したタリクの軍団を見てこのまま前進するか、反転して後背の敵に向かうか、2つの選択を迫られた。
「タリクめ、あのような小数の部隊に惑わされおって。まあいい、新手はタリクに任せてこちらは砦を攻めるとしよう」
既に砦の目前まで迫っていたゴルグは砦の攻略を優先することにする。
圧倒的優位に立っていた筈の魔王軍だが、ここにきて数で劣る敵軍相手に二正面戦闘を強いられることになった。
反転して向かってくる魔王軍を見てゼロはスケルトンの進軍を止めた。
「ここで敵を受け止める!防御体勢!」
ゼロの指示の下でスケルトンは盾を上下2段に構えて壁を作り、その隙間から槍を構えて敵の突撃を受け止める体勢を構築する。
ゼロの背後にはバンシーとオメガが控え、その周囲には戦歌を歌うリンツやリックス達、囚人部隊員が21人。
北の砦の戦いで最後の突撃を生き延びた中でその後もゼロと行動を共にすることを選んだ男達だ。
北の雪山を強行突破し、道無き山々を南進し、山道を進んでいた魔王軍増援部隊を側面から奇襲して全滅に至らしめ、砦を攻めている魔王軍の背後を取った。
ゼロに同行することを選んだ男達は32名いたが、雪山の強行軍と魔王軍増援部隊との戦いで幾人かの者が命を落とし、生き残りは21名だ。
そのゼロ達の前にスケルトン3千体が盾と槍を構えて防御体勢を敷いている。
「ゼロ、見込みはどうだ?」
リンツの問いかけにゼロは仮面に覆われた顔の表情を変えずに答える。
「正直いって厳しいです。敵の後方部隊だけでも我々よりも数が多いです。私達だけでは攻勢に出る余裕もありません。勝負は砦内の王国軍がどう動くかによりますね」
ゼロの厳しい見立てを聞いたリンツはそれを意に介さないかのように声を上げた。
「野郎共、ここまで来たぜ!死んでいった奴らのためにも俺達は戦い抜くぞ!」
リンツに続いてリックスも声を張り上げて仲間達を鼓舞する。
「俺達が背負うのは罪だけじゃない!後を託して逝った奴らの魂を背負っているんだ!」
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