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夜明けの時
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夜の闇が砦を包んだ。
魔王軍の2人の魔人は睡眠を取る必要はないが、兵達は別である。
いかに魔物とはいえ休息無しには活動することはできない。
第1防壁を取った今、本来ならば一気に攻め取りたいところだが、ここまでの損害が大き過ぎた。
しかも、その原因がタリクの先走りによるものとなればこれ以上の失策は許されない。
「クソッ!明日だ!明日になれば増援が来る!そうすればこんな砦叩き潰してやる」
さすがのタリクも自重している。
援軍を待ち、目の前の砦を落として王都まで進軍すれば今回の失策は挽回できる。
「そうだ。明日の夜明け、遅くとも日が天頂に登るまでには増援がくる。それからだ。」
(ここまでの失策はタリクが負うべき責であるし、タリクも少しは大人しくなるだろう。これで俺が主導権を取って勝利すれば功績は俺のものだ)
いい加減にタリクの先走りに嫌気が差していたゴルグはこれで軍の主導権を握れると目論んでいた。
2人の魔人は共闘しているとはいえ、決して互いに信頼しあっているわけではないのだ。
魔王という絶対的な支配者に従っているのみで、共に戦う戦友や仲間だという気持ちは持ち合わせていない。
「とにかく明日だ、明日まで待つのだ。そうすれば我々は勝てる」
「ああ、分かっているさ。誰1人として生かしちゃおかねえ」
2人の魔人は各部隊を再編しつつ静かに夜明けの時を待った。
その頃、砦の王国軍にも王都からの緊急伝令が届いていた。
「援軍が来るだと?王国軍にそのような余裕は無いはずだ!一体どの部隊だ?」
戦死した国境警備隊長に代わって指揮を執る第2軍団長が伝令の報告に驚きの声を上げた。
「はっ!各貴族が保有する騎士隊の混成部隊9百、そして王都の冒険者ギルド所属の冒険者が百、合わせて千程の援軍がこの砦に向かっています」
「馬鹿な!貴族の保有する騎士隊は所領の警備に従事するもので、領を出て戦うようなことはしないはずだ」
「いえ、間違いありません。北の砦に騎士隊を派遣したエルフォード家に倣い、各貴族が騎士隊を派遣したのです。冒険者については、詳細は極秘でありますが別の作戦の一環としてこの砦に向かっています」
「そうか。決して十分とは言えぬがありがたい。で、いつ頃到着する?」
「はっ!早ければ明後日の午後」
「・・・クッ、間に合わぬ」
この絶対的な状況下でたとえ少数でも援軍はありがたい。
しかし、魔王軍は明日にでも攻撃を仕掛けてくるはずだ。
敵の攻撃に対して現有戦力では籠城戦しか選択肢はないが、それでも明後日まで持ちこたえられるか否かは全く分からない。
むしろ、1日と持たずに陥落する可能性すらあるのだ。
こうなったら開戦の時期が少しでも遅くなるのを祈るしかない。
ただ、その決定権は魔王軍にあるのだ。
レナは第2防壁の上にいた。
周りを見渡せば見張りの兵以外は皆が疲れ果て、そこかしこに倒れて眠っている。
イズとリズですら壁に背を預けて眠っており、オックスに至っては大の字になり、いびきをかいて眠っている。
その傍らではリリスが座ったまま瞳を閉じていた。
現状を考えれば生きたまま眠ることができる最後の機会かもしれないのだ。
ふと見れば1人の英雄が鎧を着たまま槍を抱くように座り込んで眠っており、その仲間達が寄り添うようして眠っている。
英雄と祭り上げられたレオンだが、まだ年若く、その重圧に耐えるのも一苦労だろう。
そんなレオンを一生懸命支えようとするカイル、ルシア、マッキの3人の姿に自然と笑みがこぼれた。
彼等が初めての冒険に出た時に同行したのが数年前、その後、彼等は冒険者として生き延びて今や拙いながらも英雄と呼ばれるまでになった。
ここに至るまでに彼等は英雄とは真逆の道を進む冒険者に教えを請い、彼の指導を忠実に守ってきたのだ。
「英雄達の師、そんなことを言われたらゼロはどんな顔をするのかしら?きっと、そんなもの柄ではありません・・かしら?」
どちらにせよ、この戦いを生き延びなければ彼等にもレナにも未来は無いのだ。
レナ自身、相当な魔力を消費していたため休まなければいけないのだが、不思議とそんな気持ちになれない。
ただ、何もしないでいても徐々に魔力が回復しているのが分かる。
指にはめている指輪の効果だろう。
この様子ならば朝までには魔力も回復するはずだ。
東の空が白み始めて夜明けの時が来た。
王国軍は既に全軍が戦闘準備を整えている。
防壁の上には弓隊と魔法部隊、そして近接戦闘に備えた冒険者達。
回復系の祈りを持つ聖職者も砦の上に立つ。
防壁の内側には第1騎士団の残存部隊と聖騎士団が扉を破られた場合に備えて待機し、その背後に第2軍団が控える。
徹底的に防戦の構えだが、万が一扉を破られれば守るばかりでは数で劣る王国軍は戦線を維持できない。
その際には起死回生の策として一気に突撃を掛けて敵の指揮官を討ち取ることを狙う。
防壁の上の弓隊や魔法部隊にも敵の指揮官を射程に捕捉したならば全力でそれを狙うように指示が出されている。
王国軍は敵の動きを待つだけである。
魔王軍は夜明けと共に動いた。
未だに増援は到着していないが、何時でも攻撃を開始できるように準備を進めていた。
「帝国兵部隊を前面に出し、一気に正面の扉に取り付く。その後にトロル、オーガの部隊を突撃させて扉を破り、砦内に突入する。オークの弓隊とトロルの投石部隊は防壁に接近して下から攻撃、守備兵力を減らしたらコボルド、ゴブリン隊は防壁に取り付いて占拠しろ」
指揮を執るのはゴルグだ。
タリクの軍団は後詰めとして待機、増援が来たらその戦力を編入して軍団を立て直してから戦線参加する手筈になっている。
「クソッ、早く増援が来ないと手柄がゴルグの独り占めになっちまう!」
焦りを見せるタリクだが、損害の大きいタリクの軍団では最早優勢を保てないのも事実だ。
そんなタリクをよそ目にゴルグは徐々に部隊を前進させる。
先鋒は帝国兵だった者達の部隊だ。
帝国兵だった者、それはかっては人だった者、外見こそは人だが、その目は血走り、野獣のごとく吠え、魔人の命令に従って破壊欲を満たすだけの人あらざる存在で、オークやゴブリン等の雑兵よりも価値の無い存在だ。
その使い捨ての部隊の約2千を先頭に砦との距離を詰めていく。
冷静な思考を持つゴルグは攻撃開始のタイミングを見計らっていた。
東の山道に増援の姿が見えた時こそが開戦の時だと睨んでいた。
守備側の王国軍に緊張が張り詰める。
「敵軍約1万、並足で接近中!」
見張りの兵の声に砦内の緊張はピークに達した。
残る守りは第2防壁のみ、これを破られたらこの砦はおしまいである。
保護されていた避難民達は少しでも動ける者は夜陰に乗じて砦から避難し、それが出来ない者達は防壁内の兵舎等の建物内に退避している。
もしもこの砦が陥落したならば守備隊のみならず避難民の命運もここまでであり、更に王国自体の命運も風前の灯火と化す。
何としてもこの砦だけは死守しなければならないのだ。
防壁の上に立つ弓隊は弓を引き絞りそれぞれの目標に狙いを付ける。
魔法部隊も同様だ。
万が一に備えて突撃体勢を取る第1騎士団は敵軍に突入して聖騎士団のイザベラとアランが魔人を討ち取るための道を切り開く役目を担う。
第2軍団は最後の最後まで砦を守り抜く。
それぞれの決意を胸に秘めて開戦の時を待った。
レナも防壁の上で敵軍を見下ろしており、敵のどの位置に範囲攻撃魔法を打ち込むべきかを見極めていた。
その時、レナの横にいたイズが声を上げた。
「あれをっ!」
イズが指差すのは東の山道。
続いてリリスが叫ぶ。
「数千の軍勢が山道を抜けて近づいている!」
防壁の上にいたレオンも驚きの表情を見せた。
「なんてこった!ここにきて敵の増援だなんて・・・」
しかし、驚いてはいるものの、レオンの表情は諦めてはいなかった。
そんなレオンを見た他の仲間も決死の覚悟を決めた。
レオンが真の英雄の片鱗を見せ始めた時であった。
同じ時、魔王軍のタリクも山道に現れた軍勢を目の当たりにした。
「よしっ!やっと来やがった!」
タリクは自分の軍団に出撃待機を命じ、それを見たゴルグは前進を続ける自分の軍団に攻撃開始を命じた。
魔王軍の2人の魔人は睡眠を取る必要はないが、兵達は別である。
いかに魔物とはいえ休息無しには活動することはできない。
第1防壁を取った今、本来ならば一気に攻め取りたいところだが、ここまでの損害が大き過ぎた。
しかも、その原因がタリクの先走りによるものとなればこれ以上の失策は許されない。
「クソッ!明日だ!明日になれば増援が来る!そうすればこんな砦叩き潰してやる」
さすがのタリクも自重している。
援軍を待ち、目の前の砦を落として王都まで進軍すれば今回の失策は挽回できる。
「そうだ。明日の夜明け、遅くとも日が天頂に登るまでには増援がくる。それからだ。」
(ここまでの失策はタリクが負うべき責であるし、タリクも少しは大人しくなるだろう。これで俺が主導権を取って勝利すれば功績は俺のものだ)
いい加減にタリクの先走りに嫌気が差していたゴルグはこれで軍の主導権を握れると目論んでいた。
2人の魔人は共闘しているとはいえ、決して互いに信頼しあっているわけではないのだ。
魔王という絶対的な支配者に従っているのみで、共に戦う戦友や仲間だという気持ちは持ち合わせていない。
「とにかく明日だ、明日まで待つのだ。そうすれば我々は勝てる」
「ああ、分かっているさ。誰1人として生かしちゃおかねえ」
2人の魔人は各部隊を再編しつつ静かに夜明けの時を待った。
その頃、砦の王国軍にも王都からの緊急伝令が届いていた。
「援軍が来るだと?王国軍にそのような余裕は無いはずだ!一体どの部隊だ?」
戦死した国境警備隊長に代わって指揮を執る第2軍団長が伝令の報告に驚きの声を上げた。
「はっ!各貴族が保有する騎士隊の混成部隊9百、そして王都の冒険者ギルド所属の冒険者が百、合わせて千程の援軍がこの砦に向かっています」
「馬鹿な!貴族の保有する騎士隊は所領の警備に従事するもので、領を出て戦うようなことはしないはずだ」
「いえ、間違いありません。北の砦に騎士隊を派遣したエルフォード家に倣い、各貴族が騎士隊を派遣したのです。冒険者については、詳細は極秘でありますが別の作戦の一環としてこの砦に向かっています」
「そうか。決して十分とは言えぬがありがたい。で、いつ頃到着する?」
「はっ!早ければ明後日の午後」
「・・・クッ、間に合わぬ」
この絶対的な状況下でたとえ少数でも援軍はありがたい。
しかし、魔王軍は明日にでも攻撃を仕掛けてくるはずだ。
敵の攻撃に対して現有戦力では籠城戦しか選択肢はないが、それでも明後日まで持ちこたえられるか否かは全く分からない。
むしろ、1日と持たずに陥落する可能性すらあるのだ。
こうなったら開戦の時期が少しでも遅くなるのを祈るしかない。
ただ、その決定権は魔王軍にあるのだ。
レナは第2防壁の上にいた。
周りを見渡せば見張りの兵以外は皆が疲れ果て、そこかしこに倒れて眠っている。
イズとリズですら壁に背を預けて眠っており、オックスに至っては大の字になり、いびきをかいて眠っている。
その傍らではリリスが座ったまま瞳を閉じていた。
現状を考えれば生きたまま眠ることができる最後の機会かもしれないのだ。
ふと見れば1人の英雄が鎧を着たまま槍を抱くように座り込んで眠っており、その仲間達が寄り添うようして眠っている。
英雄と祭り上げられたレオンだが、まだ年若く、その重圧に耐えるのも一苦労だろう。
そんなレオンを一生懸命支えようとするカイル、ルシア、マッキの3人の姿に自然と笑みがこぼれた。
彼等が初めての冒険に出た時に同行したのが数年前、その後、彼等は冒険者として生き延びて今や拙いながらも英雄と呼ばれるまでになった。
ここに至るまでに彼等は英雄とは真逆の道を進む冒険者に教えを請い、彼の指導を忠実に守ってきたのだ。
「英雄達の師、そんなことを言われたらゼロはどんな顔をするのかしら?きっと、そんなもの柄ではありません・・かしら?」
どちらにせよ、この戦いを生き延びなければ彼等にもレナにも未来は無いのだ。
レナ自身、相当な魔力を消費していたため休まなければいけないのだが、不思議とそんな気持ちになれない。
ただ、何もしないでいても徐々に魔力が回復しているのが分かる。
指にはめている指輪の効果だろう。
この様子ならば朝までには魔力も回復するはずだ。
東の空が白み始めて夜明けの時が来た。
王国軍は既に全軍が戦闘準備を整えている。
防壁の上には弓隊と魔法部隊、そして近接戦闘に備えた冒険者達。
回復系の祈りを持つ聖職者も砦の上に立つ。
防壁の内側には第1騎士団の残存部隊と聖騎士団が扉を破られた場合に備えて待機し、その背後に第2軍団が控える。
徹底的に防戦の構えだが、万が一扉を破られれば守るばかりでは数で劣る王国軍は戦線を維持できない。
その際には起死回生の策として一気に突撃を掛けて敵の指揮官を討ち取ることを狙う。
防壁の上の弓隊や魔法部隊にも敵の指揮官を射程に捕捉したならば全力でそれを狙うように指示が出されている。
王国軍は敵の動きを待つだけである。
魔王軍は夜明けと共に動いた。
未だに増援は到着していないが、何時でも攻撃を開始できるように準備を進めていた。
「帝国兵部隊を前面に出し、一気に正面の扉に取り付く。その後にトロル、オーガの部隊を突撃させて扉を破り、砦内に突入する。オークの弓隊とトロルの投石部隊は防壁に接近して下から攻撃、守備兵力を減らしたらコボルド、ゴブリン隊は防壁に取り付いて占拠しろ」
指揮を執るのはゴルグだ。
タリクの軍団は後詰めとして待機、増援が来たらその戦力を編入して軍団を立て直してから戦線参加する手筈になっている。
「クソッ、早く増援が来ないと手柄がゴルグの独り占めになっちまう!」
焦りを見せるタリクだが、損害の大きいタリクの軍団では最早優勢を保てないのも事実だ。
そんなタリクをよそ目にゴルグは徐々に部隊を前進させる。
先鋒は帝国兵だった者達の部隊だ。
帝国兵だった者、それはかっては人だった者、外見こそは人だが、その目は血走り、野獣のごとく吠え、魔人の命令に従って破壊欲を満たすだけの人あらざる存在で、オークやゴブリン等の雑兵よりも価値の無い存在だ。
その使い捨ての部隊の約2千を先頭に砦との距離を詰めていく。
冷静な思考を持つゴルグは攻撃開始のタイミングを見計らっていた。
東の山道に増援の姿が見えた時こそが開戦の時だと睨んでいた。
守備側の王国軍に緊張が張り詰める。
「敵軍約1万、並足で接近中!」
見張りの兵の声に砦内の緊張はピークに達した。
残る守りは第2防壁のみ、これを破られたらこの砦はおしまいである。
保護されていた避難民達は少しでも動ける者は夜陰に乗じて砦から避難し、それが出来ない者達は防壁内の兵舎等の建物内に退避している。
もしもこの砦が陥落したならば守備隊のみならず避難民の命運もここまでであり、更に王国自体の命運も風前の灯火と化す。
何としてもこの砦だけは死守しなければならないのだ。
防壁の上に立つ弓隊は弓を引き絞りそれぞれの目標に狙いを付ける。
魔法部隊も同様だ。
万が一に備えて突撃体勢を取る第1騎士団は敵軍に突入して聖騎士団のイザベラとアランが魔人を討ち取るための道を切り開く役目を担う。
第2軍団は最後の最後まで砦を守り抜く。
それぞれの決意を胸に秘めて開戦の時を待った。
レナも防壁の上で敵軍を見下ろしており、敵のどの位置に範囲攻撃魔法を打ち込むべきかを見極めていた。
その時、レナの横にいたイズが声を上げた。
「あれをっ!」
イズが指差すのは東の山道。
続いてリリスが叫ぶ。
「数千の軍勢が山道を抜けて近づいている!」
防壁の上にいたレオンも驚きの表情を見せた。
「なんてこった!ここにきて敵の増援だなんて・・・」
しかし、驚いてはいるものの、レオンの表情は諦めてはいなかった。
そんなレオンを見た他の仲間も決死の覚悟を決めた。
レオンが真の英雄の片鱗を見せ始めた時であった。
同じ時、魔王軍のタリクも山道に現れた軍勢を目の当たりにした。
「よしっ!やっと来やがった!」
タリクは自分の軍団に出撃待機を命じ、それを見たゴルグは前進を続ける自分の軍団に攻撃開始を命じた。
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