職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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破滅の始まり

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 魔王プリシラの居城ジーングロス城のバルコニーではプリシラが午後のお茶を優雅に楽しんでいた。
 そんなプリシラの前のテーブルには水鏡が置かれており、その鏡面にはゼロ達が戦っている様子が映っている。
 プリシラが放ったハーピーの視覚情報が水鏡に映し出されているのだ。

 今まさにゼロとアンデッドが敵の背後を取り、突撃を仕掛けたところであり、それに呼応した国境警備隊と囚人部隊が砦を出て攻勢に転じたところだ。
 魔物達はアンデッドの突撃で後方の陣形が崩されて混乱したところに前面に攻勢を仕掛けられて乱戦に陥っていた。

「なかなかにやりおる。死霊術だけでなく拙いながらも戦術眼も持ち合わせているようだ」

 まるでゲームでも観戦しているかのような様子で目の前に置かれた焼き菓子を食べながらゼロ達の生死をかけた戦いを楽しんで見ている。

 乱戦に陥り、国境警備隊や囚人部隊にも少なからず損害が出ており、ゼロのアンデッドも少しずつ数を減らしている。
 そうでありながら戦況はゼロ達に有利になりつつあった。

「数の不利を死霊術で補い、敵に対してアンデッドの個々の力不足を集団戦闘に持ち込んで補う。なかなかのネクロマンサーぶりではないか?」

 プリシラは面白そうに対面に座る客人に問いかける。

「まだ死霊術師としては未熟。未だに死霊との付き合い方に迷いがある。死霊を隣人とするが故に死霊の損害を防ごうとして戦略に消極さが見え隠れしている」

 客人の言葉にプリシラは苦笑する。

「相変わらず厳しいの。其方に比べれば他のどんな死霊術師も未熟者であろうよ」
「我と比べる必要はない。そもそも人である彼奴とは生きる時間がまるで違う。そういう目でみれば、彼奴の技量はそれなりではあろう。我の足元程度には及んでいると評価してやってもよいがな」
「ククッ、今の言葉を彼奴に聞かせてみたいものだ」
「それで自惚れて自分を見失うような奴ではないよ。彼奴は昔からそうだ。他者からの評価を何とも思っておらぬ」

 プリシラはお茶を口に含み、その香りを楽しむ。

「先行きが楽しみな奴だが・・・そうもいかないかもな。ゴッセルの奴め、性懲りもなくこの世界に戦乱を振りまきおって。奴に支配された魔物達の哀れなことよ。狂気に取り付かれて妾の加護も及ばん。その戦乱の濁流に彼奴も飲み込まれてしまうかもしれぬな」

 寂しそうな表情を浮かべたプリシラは眼下に広がる魔物達の楽園を眺めた。

「其方が魔王として魔物への慈愛に満ちているように、ゴッセルの奴は狂気と支配欲の化身の魔王よ。その欲望は奴自身でも抑えられまい」

 彼女の言葉にプリシラはため息をつく。

「其方が魔王になってくれれば妾と共に奴を抑えられるものだが」
「止めてくれ、我は魔王などに興味はない」
「相変わらずだの、友よ」

 言いながらプリシラは水鏡の端を指で弾いた。
 鏡面に波紋が広がりゼロ達が戦っている様子が歪み、別の場所の状況が映し出された。

「こちらは・・・駄目だろうな」

 鏡面を見たプリシラは諦めているかのように呟いた。
 鏡面には堅牢な砦の様子が映し出されていた。

 東の山道の出口を守る砦は砦と呼ぶにも強固に過ぎ、城塞都市と呼ぶに相応しい規模だった。
 その砦に常駐していた国境警備隊の連隊千名に加えて第1騎士団の8百騎、聖務院聖騎士団7百騎、第2軍団の6千名が配備されたと共に国中から集められた冒険者5百人が派遣されていた。
 この砦を拠点にして山道を抜けて来るであろう魔王の軍勢を迎え撃つ構えだ。
 軍上層部の案は砦を拠点とし、第1騎士団、聖騎士団、第2軍団の総勢7千5百が山道出口に展開して、狭い山道を抜けてくる魔王軍を包囲して殲滅する。
 地の利を生かして数の不利を覆す策であり、既に各隊は配置個所に展開を済ませていた。
 山道正面では数が多く防衛戦闘に向いている第2軍団が斜形陣で待ち構え、その右翼に機動力と突撃力に定評がある第1騎士団が控える。
 第1騎士団は第2軍団が受け止めて足を止めた敵の側面を突く役割を担う。
 聖騎士団は後詰めとして待機して戦況に応じて柔軟に対応する遊撃隊だ。
 1万を超える魔王軍に対する最良の策であると考えられていた。
 国境警備隊と冒険者達は砦の守りに付き、万が一包囲を突破した敵への対処と連邦国から逃れてくる避難民の保護に当たっていた。

 風の都市から派遣されたレナ達も砦にいた。
 山道を抜けた連邦国から数千に及ぶ避難民が到着していた。
 その数は更に増え続けており、レナ達はそれら避難民の保護と避難誘導に当たっていた。
 砦内に避難させ、体力に余裕のある者は周辺の各都市に分散させ、これ以上の移動が困難な体力のない老人、子供等は砦内に匿う。
 怪我人等は砦に配属されていた治療術師の他にセイラ達聖職者が治療に当たっている。
 レナはイズ、リズの兄妹や他の風の都市から派遣された冒険者と共に砦内を駆け回りながら任務に当たる最中、砦の外壁の上に登って次々と到着する避難民の様子を見ていた。

「避難民が途切れない。嫌な予感がする・・・」

 レナは呟くが、その呟きは直ぐに現実のものとなった。
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