職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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挟撃戦

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 砦に入ったマイルズは自分達が自らの意志で応援に来たことを告げると共に直ぐに戦闘態勢に入った。
 30人の弓隊と70人の槍隊に加えて5人の治療術士も同行している。
 マイルズは正面扉がもう持ちこたえられないと見るや弓隊30人を扉の前に配置、その背後と扉の左右に槍隊を配置した。

「その扉は持ちません!敵に破らせてしまいましょう」
「なんだと?そんなことをしたら敵が砦内に侵入するぞ!」

 マイルズの提案にリンツが驚きの声を上げる。

「扉を破られても侵入を許さなければいいのです。限られた空間に敵が殺到するならばこちらは包囲殲滅すればいいだけです。侵入口を押さえれば数に勝る敵を相手に包囲戦を行うことができます」

 リンツとミラーは顔を見合わせた。

「そんなに上手く運ぶか?」
「いや、やってみる価値はある。むしろ、他に手はないだろう」
「よし、分かった!野郎共、扉から離れろ!」

 リンツの号令に扉を押さえていた男達が一斉に後方に下がった。
 内側からの支えを失った正面扉は魔物達の打撃に耐えきれずにたちまち崩れ落ちる。
 破った扉から砦の中に殺到した魔物達の先鋒は内側で待ち構えていた弓隊の猛攻を受けて瞬く間に数十体が倒され、先鋒に続こうとした集団が怯んで足を止めたが、そこに混乱が生じた。
 足を止めたのは一部の集団のみで、その後方からは砦に侵入せんとする後続が押し寄せてくる。
 後続に押し込まれる形になった魔物達は正面からの弓隊の絶え間ない攻撃を受けて数を減らし、更に槍隊の3方向からの密集突撃を受けて砦の外まで押し戻された。

「敵の方が数が多い!砦の外に出てはいけません!」

 騎士隊は魔物を押し戻すと直ぐに引いて再び包囲体勢を整える。

「伝令!北側の通用口が破られそうです!」

 壁の上にいる弓兵が叫んだ。

「通用口は幅が狭い、破らせちまえ!入口が開けば奴らの目もそこに集中するだろう。俺が行く!囚人隊は続け!」

 走り出すリンツにリックスを始めとした囚人隊数十人が続いた。

「国境警備隊はエルフォード騎士隊と交代!長期戦に備えて疲労を蓄積するな」

 ミラーの指揮で国境警備隊がエルフォード騎士隊と交代して侵入する魔物の対処に当たる。

 エルフォード騎士隊の参戦により未だに数で劣る国境警備隊は優位に戦いを進め、魔物達の数を打ち減らしてゆく。

 部隊指揮を副官に任せたミラーは戦況を見渡せる櫓に登った。

「敵は3百超位か、戦力差が縮んでいるな。もう少し敵を減らせば攻勢に出られるか・・・いや、まずい!敵の後続部隊か!」

 戦況を分析するミラーが攻勢に出るタイミングを見計らっていたとき、東の山道から新たに6百から7百の軍勢が近づいてくるのを見て表情を強ばらせた。

「敵の後続部隊が接近!」

 櫓の上から叫ぶ。
 このまま敵が合流すれば戦力差が更に開いてしまい、攻勢に出ることは適わなくなる。
 敵が合流することは阻止したいが、それを成すべき手段がない。

「長期戦になるぞ!弓兵は敵が密集している場所に攻撃を集中!敵の数を減らせ!」

 ミラーは攻勢に出ることを諦めて長期戦に備えて地道に敵の数を減らすことに専念することにした。

「これは・・・敵の合流は阻止できませんな。エルフォードの弓隊も防護壁に登り、上から敵の部隊を攻撃。侵入してくる敵は槍隊で対応せよ!負傷者は即座に後退して治療を受けよ」

 マイルズも騎士隊に指示をして長期戦に備えた。

 この時、通用口に向かった囚人隊が一番の苦境に立たされていた。
 正面扉に比べれば遥かに狭い通用口から一度に侵入してくる魔物の数は少ないのだが、国境警備隊や騎士隊のように集団戦闘に慣れていない囚人隊は敵との交戦は自然と乱戦になってしまう。
 それでもどうにか魔物の侵入を阻止できているが、囚人隊にも徐々に犠牲が出始めていた。

「こりゃあキツいな!」
「このままじゃ長くは持たないぞ!」

 リンツは戦斧を振るい、リックスはシミターと短剣を両手に持ち戦う。
 他の隊員もそれぞれの武器を手に戦うが、個々の技量はそれなりでも連携に隙がある。
 その隙を突かれて戦死する者が出始めていた。

 やがて砦を攻めている先行部隊と後続部隊が合流してしまい、千程の軍勢になってしまう。
 砦側はエルフォード騎士隊を含めても2百程度、戦力差が更に開いてしまった。

「いよいよまずいな。こうなったら住民を避難させるしかない」

 戦況を見極めたミラーが町の住民の避難を決断しかけたその時

・・・ラ・ラ・・ララ・ラララ

 東の山の方角から不気味で悲しげな歌声が戦場に流れてきた。
 遠くから微かに聞こえてくるだけでも耳を塞ぎたくなるような歌声だ。
 その声に曝された魔物達に混乱が生じた。

「彼女の歌声、来ましたな」

 マイルズが耳を塞ぎ、顔をしかめながらも笑った。

「歌声・・バンシーの歌、ゼロか!」

 ミラーも何が起きているのかを理解した。
 戦場に響き渡る心を凍り付かせる歌声はゼロが戻ってきたことを意味している。
 現に集結した矢先に精神攻撃を受けて混乱する魔物達にジャック・オー・ランタンが火炎攻撃を浴びせかけて更なる混乱を招いていた。

「間違いない、ゼロだ!伝令!砦中にゼロが戻って来たことを伝えろ!」

 ミラーの指示を受けて伝令の兵士が戦闘中の各隊にゼロが戻って来たことを告げて回り、知らせを受けた兵士達は疲労を忘れて奮起した。

 やがて、東の山道にゼロが率いるアンデッドの集団が姿を見せた。
 その数5百、槍を構えたスケルトンウォリアーの軍勢が隊列を組んで近づいている。

 それに気づいた敵は砦への攻撃を中断して背後に現れたスケルトンウォリアーの軍勢に対処しようとするが、バンシーの歌に精神を凍らされて統率が取れていない。
 そもそも砦への攻撃を中断したのが悪手だった。

「敵に隙が出来た!ゼロのアンデッドと挟撃が出来るぞ!直ちに打って出る!隊列を整えろ!」

 ミラーはゼロのアンデッドに呼応して砦を出て戦うことを決断した。
 攻勢に出るのは今しかない、砦を守るための挟撃戦が始まった。
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