職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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砦攻防戦

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 リックスは砦に向かって死に物狂いで山の斜面を駆け下りた。
 砦の見張り櫓にいたリンツが砦に向かって駆けてくるリックスに気付いたが、その背後にはスペクターとジャック・オー・ランタンがリックスを追うように迫ってくる。

「おい!リックスが戻ってきた!魔物に追われてるぞ!」

 リンツの声に砦の防護壁の上で警戒に当たっていた国境警備隊員に緊張が走り、弓兵が矢をつがえた弓を引き絞り狙いを定めるが、それに気付いたリックスが慌てて何かを叫びながら手を振っている。
 助けを求めている様子には見えないため隊員が困惑して顔を見合わせていると、そこに知らせを受けて駆けつけたミラーが叫んだ。

「待て待てっ!あれはネクロマンサー、ゼロのアンデッドだ!敵じゃない!」

 ミラーが止めると同時にリックスはアンデッドを従えたまま砦内に駆け込んだ。
 力尽きて倒れ込んだリックスをリンツが受け止めた。

「大丈夫か?一体どうした?」
「・・っつ!・・・敵が来る。魔物の軍勢だ。・・少なくとも5百体がこっちに向かっていた。ゼロさんが本隊に攻撃を仕掛けて千体以上は倒した」
「そうすると、ここに来るのは5百か?」
「いや、まだ千体近くの後続がいる!ゼロさんが残ったが流石にゼロさんでも難しい。ゼロさんを突破した敵が先行する5百と合流するかどうか分からんが、迎え撃つ準備をしてくれ。敵の大半はオークだが、トロルも混ざっているぞ。ただ、雪山越えを強行してきたやつらだから攻城兵器は持ってない。扉を固めれば多少は持ちこたえられるぞ」

 リックスの報告を聞いたリンツとミラーは直ぐに自らの部隊に指示を出しつつ行動を開始した。

「国境警備隊の弓隊と魔術師は防護壁の上で待機!槍隊と剣士隊は砦の出入口を固めろ!」
「俺達も弓を持つ者は防護壁に上がれ!他に投石隊もだ!他の連中は警備隊と一緒に出入口の備えだ!敵を砦内に入れさせるな!」

 2人の号令を受けて国境警備隊と囚人部隊は砦の守りを固めた。
 防護壁の上には弓を装備した者が20人と投石隊が15人、そして国境警備隊の魔術師3人が配置につく。
 砦の各出入口を閉ざし、その内側に残りの者達が分散して待機する。 
 剣も弓も扱うことが出来るリックスは警備隊の予備の弓を借りて壁の上に陣取った。

「やっぱり数が少ないな。敵を防護壁に取り付かせたくねえが、弓隊と投石隊、魔術師を合わせて40弱では敵を止めきれねえ」

 リックスの横に立つリンツが不満げに話す。
 確かに5百から千を超える敵が殺到するとなると現有の弓と投石では明らかに力不足である。
 魔術師に至っては経験が十分でない若い魔術師が3人だ。
 これだけでは敵の足を止めきれず、防護壁に取り付いたり出入口の扉を破られたりする可能性が高い。

「ところでリックス、そいつ等はいつまでここにいるんだ?」
「えっ?」

 リンツに言われたリックスが振り返ると、そこには自分の背後を漂うスペクターとジャック・オー・ランタンの姿があった。

「い、いや、分からねえ。ゼロさんからは何も聞いてないし」

 リックス達だけでなく他の兵達も2体のアンデッドを気にしているが、誰も何故ここに残っているのか理解できない。

「まあ、ゼロさんが戻ってくればゼロさんの下に帰るんじゃねえかな?」

 そういうリックスも自信はないが、ゼロの命令には忠実なようなので気にしないことにした。

 やがて、砦からも接近してくる敵の姿が確認できた。
 その数5百程。

「とりあえず敵の先行部隊だけだ。後続部隊はゼロさんが足止めしたんだろう」

 その数を見たリックスはリンツに説明する。
 リンツは力強く頷いた。

「よし!野郎共、敵が来たぞ!弓隊と投石隊は射程距離に近づいたら攻撃を開始しろ!」
「国境警備隊弓隊も攻撃準備!射程距離に入ったら順次攻撃開始!」

 リンツとミラーの指揮を受けて弓隊と投石隊が狙いを定め、弓隊の射程に入った時点で攻撃を開始した。
 遠距離からの弓と魔法による火炎攻撃は迫り来る魔物を着実に仕留めはするものの、やはり数が足りない。
 リックスも次々と矢を放つが、元々皮膚の厚いオークやトロルであり、一撃では倒すことができない。
 2発3発4発と急所に攻撃を受けてようやく倒すことができる有り様だ。
 リックスに付いて来た2体のアンデッドもいつの間にか参戦しているが、多勢に無勢である。
 直ぐに投石の距離まで迫られ、投石隊も攻撃を開始するが敵の勢いを止めることはできない。

「やっぱり数が足りねえ」

 状況を見たリンツが唸る。
 砦の正面に敵が迫る、取り付かれるのはもう避けられない。

「突っ込んでくるぞ!扉を固めろ!」

 次の瞬間、魔物達の先頭が砦の正面扉にぶち当たった。
 扉の内側では国境警備隊と囚人部隊の男達が扉を破られまいと必死で扉を押さえる。

「しっかり押さえろ!絶対に中に入れるな!」
「押し負けるな!」

 ミラーとリンツが叫ぶが、オークやトロルの激しい当たりに徐々に木製の扉が歪み始めた。

「だめだ!破られるのも時間の問題だ」

 リンツとリックスは壁から飛び降りて扉を押さえる加勢に入った。
 その様子を見ていたミラーだが、ふと西の方角を見た時にその表情を凍り付かせた。
 砦の西側には町があり、その先には小高い丘がある。
 今、その丘の上に数にして百程度の部隊がこちらに向かって進軍してくるのが見える。

「援軍か?いや、そんな話は聞いていない。まさか、敵の別働隊が回り込んだのか!」

 ミラーは愕然とした。
 近づいてくる部隊は2個中隊程度だが、西側の守りに割く兵力の余裕が無いため西の守りは手薄だ。
 今そこを攻められると戦線は一気に瓦解してしまう。

「リンツ隊長!西から新たな部隊が近づいてくるぞ!」

 ミラーに言われてリンツも西の方向に振り向いた。

「冗談じゃねえぞ!おい、囚人部隊でも国境警備隊でも誰でもいい!10人ばかし俺に付いて来い!」

 リンツが西に向かって駆け出そうとした時、壁の上にいた魔術師が叫んだ。

「待ってください!旗印を掲げています!・・・あの紋章は、エルフォード!エルフォード家の紋章です」

 西の丘の上に姿を見せたのはガストン・マイルズが率いるエルフォード騎士隊だった。

「どうやら持ちこたえているようですね。ゼロ殿の姿が見えませんが、あの方のことですからまた無茶をなさっているのでしょう」

 プレイトメイルを着用して騎士隊を率いているマイルズは呆れたように笑った。

 何故このタイミングでマイルズ達がこの地に来たのか、それはマイルズやセシルのエルフォード家一同がゼロがこの砦の守備に送られたことを知ったからだ。
 エルフォード家は世界の魔物の分布の変化等に伴い、魔物の生息域に変化が生じていることをいち早く察知し、それに備えるためにエルフォード領内の衛士の増強を行った。
 集まった衛士達は、衛士としてではなくエルフォード家騎士隊としての訓練を受け、いつの間にかエルフォード騎士隊を再編してしまったからだ。
 そしてゼロがこの砦に送り込まれたことを知ると共に砦の置かれた情報を把握して騎士隊を派遣してきたのである。

 この局面において砦に心強い戦力が加わることになった。
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