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雪山の戦い1
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ゼロとリックスは雪洞を掘って敵が来るのを待った。
周囲の警戒にはスペクターを放ってあるので2人はただ敵が姿を見せるのを待つだけである。
2人は雪洞の中で火を炊き、温かいお茶を飲みながら暖を取っていた。
その間にリックスは自分の身の上話から犯罪に手を染めた経緯、ゼロに捕まってからのことを聞きもしないのに話し続けている。
貧しい村の農家の長男であったが、弟に田畑を継がせるために自分は村を出て冒険者になった。
元々の臆病な性格がシーフとしての才能に生かされ、その危険察知能力と手先の器用さから地道に実績を積んでいたが、心が弱い一面を持ち、徐々に易きに流されて、気が付いた時には仲間と共に犯罪行為を繰り返していた。
レナを騙して仲間にした頃には自分の心は腐りきっていて、新米の冒険者を襲うことに何の躊躇いもなくなっていた。
ゼロに捕縛された時の強烈な体験が狂っていた自分の心を叩き直すきっかけとなり、死罪を覚悟のうえで全ての罪を自白した。
裁判では反省の気持ちが汲み取られ、長期労役とされた。
その後は何時の日か自由の身になってやり直せる日がくると自分に言い聞かせて労役に励んできた。
ドラゴン・ゾンビが出現した時も自分1人ならば逃げ延びることができたかもしれないが、共に労役に就いていた仲間を見捨てることができなかった。
結論として自分しか生き残らなかったが、その後も別の鉱山で労役に就いていたところに今回の囚人部隊の候補者に選ばれた。
志願しなくても残り4、5年で労役が明けたかもしれないが、自分が手に掛けた若い冒険者達の代わりに戦おうと決意して志願した。
そんなことを1人で話している。
「・・・なんかすまないな。俺ばっかり喋りまくって。あんたに付いて来たが、やっぱり怖くてな。話しでもしていなきゃ落ち着かねえんだ」
「構いませんよ。ただ、申し訳ありませんが、正直言ってあまり興味がないので聞き流しています」
「ハハハッ、まあ、情けない話しだからな、そうして貰えればありがてえや・・・っ!」
リックスが乾いた笑いを浮かべた時、急にその表情を変えた。
「空気が変わったぞ!近づいているんじゃねえか?」
リックスは雪洞を出て丘の下の様子を窺った。
ゼロもスペクターからの報告を受けて敵接近の情報を得ていたが、空気の変化を嗅ぎ取るリックスの危険察知能力もたいしたものである。
「流石ですね。確かに敵が近づいていますよ。敵はオークとトロルの混成ですね。5百程度の部隊が先行しています。残りは2個隊に分かれていますね」
ゼロはスペクターからの情報をリックスにも伝える。
「やっぱり3千からの魔物の軍勢か。どうするんだ?」
リックスは不安と恐怖が入り混じった表情を見せるが、逃げるつもりは無いらしい。
「まず先行部隊はそのままやり過ごします。その後に続く2個隊のうち、先に来た方に攻撃を仕掛けましょう。うまくいけば最後尾の部隊も足止めできます」
ゼロの説明を聞いたリックスは無言で頷いて剣を抜いた。
リックスは短めのシミターと短剣を両手に持つ。
シーフらしく攻撃力よりもスピード重視なのだろう。
やがて稜線を越えて敵が姿を見せた。
オークの集団が5百体程、ゆっくりと斜面を下って行く。
スペクターの報告どおり、先行部隊なのだろう。
士気は高いように見えるが、周囲の警戒をまるでしていない。
自分達が山の麓の砦を奇襲する側だと信じて疑わず、油断しているようだ。
「思ったよりも進軍速度が早いですね。この様子だと4日程で砦に到達しそうです」
当初の予定どおり、ゼロは5百体からなる先行部隊には手を出さずに見送った。
「あれだけでも砦を攻め落とせるんじゃねえか?」
リックスが心配を口にすると、意外なことにその敵をやり過ごしたゼロも同意する。
「そうですね。かなり危険ですよね。でも、まあ大丈夫でしょう。それよりも次の部隊です」
ただ、言いながらもゼロの注意は後続部隊に注がれていた。
先行部隊が通過してから1刻程、いよいよ敵の後続部隊が現れた。
その数は軽く千を超える。
「よし、一番数が多い。これが本隊ですね。好都合です」
ゼロはバンシーを召喚した。
その美貌にリックスが目を丸くした。
「なあ、この美人もあんたのアンデッドなのか?」
そう言いながら目を奪われているリックスを無表情のまま見たバンシーは口を開いた。
「お久しぶりです」
アンデッドが言葉を発しただけでなく、身に覚えの無い言葉にリックスは唖然とした。
「いや、俺はあんたとは初対面だが?」
「分からないかもしれませんが、リックスさんは彼女に会ったことはありますよ」
「そんなはずはねえよ。俺が知っているあんたのアンデッドはスケルトンと亡霊、レイスってやつだ」
「そのレイスが彼女ですよ。リックスさんを捕まえたレイスがバンシーに変化したんです。見た目が大分変わりましたからね」
「いや、変わりすぎだろ・・・」
呆気に取られているリックスをよそにバンシーは丘の上から敵本隊を見下ろす。
ゼロはリックスに耳を塞ぐように指示するとバンシーに命令を下した。
「始めましょう」
・・ララ・・ラ・ラララ・ララ
ゼロの命令に応じてバンシーは歌を歌い始める。
精神を凍りつかせるバンシーの歌に魔物達が混乱した。
しかし、ゼロの狙いはこれだけではない。
・・・ゴゴゴゴゴ!
バンシーの歌に共鳴した山肌の雪が崩れ、巨大な雪崩を引き起こす。
凄まじい速度で迫る雪崩に魔物達は瞬く間に飲み込まれ、押し潰された。
「すげえ、あんたこれを狙ってたのか?」
一瞬で敵の軍勢を飲み込んだ様子を見ていたリックスは愕然とする。
「はい、彼女の歌は強烈ですからね、雪崩を引き起こすなんて雑作もないことです」
ゼロは答えながら次の手順に入る。
雪崩が魔物達を飲み込んだ場所に移動すると3百体のスケルトンウォリアーが姿を現す。
「今から生き残りの掃討を行います。雪から這い出して来る奴を殲滅しなさい」
ゼロの命令を受けたスケルトンウォリアーは雪原に散り、雪から這い出してくる魔物を剣や槍で次々と仕留めていく。
リックスもスケルトンウォリアーに混じって雪から這い出してくるオークを待ち構えて始末している。
初戦はゼロの思惑どおりにことが運び、敵の3割程度を打ち減らすことができた。
周囲の警戒にはスペクターを放ってあるので2人はただ敵が姿を見せるのを待つだけである。
2人は雪洞の中で火を炊き、温かいお茶を飲みながら暖を取っていた。
その間にリックスは自分の身の上話から犯罪に手を染めた経緯、ゼロに捕まってからのことを聞きもしないのに話し続けている。
貧しい村の農家の長男であったが、弟に田畑を継がせるために自分は村を出て冒険者になった。
元々の臆病な性格がシーフとしての才能に生かされ、その危険察知能力と手先の器用さから地道に実績を積んでいたが、心が弱い一面を持ち、徐々に易きに流されて、気が付いた時には仲間と共に犯罪行為を繰り返していた。
レナを騙して仲間にした頃には自分の心は腐りきっていて、新米の冒険者を襲うことに何の躊躇いもなくなっていた。
ゼロに捕縛された時の強烈な体験が狂っていた自分の心を叩き直すきっかけとなり、死罪を覚悟のうえで全ての罪を自白した。
裁判では反省の気持ちが汲み取られ、長期労役とされた。
その後は何時の日か自由の身になってやり直せる日がくると自分に言い聞かせて労役に励んできた。
ドラゴン・ゾンビが出現した時も自分1人ならば逃げ延びることができたかもしれないが、共に労役に就いていた仲間を見捨てることができなかった。
結論として自分しか生き残らなかったが、その後も別の鉱山で労役に就いていたところに今回の囚人部隊の候補者に選ばれた。
志願しなくても残り4、5年で労役が明けたかもしれないが、自分が手に掛けた若い冒険者達の代わりに戦おうと決意して志願した。
そんなことを1人で話している。
「・・・なんかすまないな。俺ばっかり喋りまくって。あんたに付いて来たが、やっぱり怖くてな。話しでもしていなきゃ落ち着かねえんだ」
「構いませんよ。ただ、申し訳ありませんが、正直言ってあまり興味がないので聞き流しています」
「ハハハッ、まあ、情けない話しだからな、そうして貰えればありがてえや・・・っ!」
リックスが乾いた笑いを浮かべた時、急にその表情を変えた。
「空気が変わったぞ!近づいているんじゃねえか?」
リックスは雪洞を出て丘の下の様子を窺った。
ゼロもスペクターからの報告を受けて敵接近の情報を得ていたが、空気の変化を嗅ぎ取るリックスの危険察知能力もたいしたものである。
「流石ですね。確かに敵が近づいていますよ。敵はオークとトロルの混成ですね。5百程度の部隊が先行しています。残りは2個隊に分かれていますね」
ゼロはスペクターからの情報をリックスにも伝える。
「やっぱり3千からの魔物の軍勢か。どうするんだ?」
リックスは不安と恐怖が入り混じった表情を見せるが、逃げるつもりは無いらしい。
「まず先行部隊はそのままやり過ごします。その後に続く2個隊のうち、先に来た方に攻撃を仕掛けましょう。うまくいけば最後尾の部隊も足止めできます」
ゼロの説明を聞いたリックスは無言で頷いて剣を抜いた。
リックスは短めのシミターと短剣を両手に持つ。
シーフらしく攻撃力よりもスピード重視なのだろう。
やがて稜線を越えて敵が姿を見せた。
オークの集団が5百体程、ゆっくりと斜面を下って行く。
スペクターの報告どおり、先行部隊なのだろう。
士気は高いように見えるが、周囲の警戒をまるでしていない。
自分達が山の麓の砦を奇襲する側だと信じて疑わず、油断しているようだ。
「思ったよりも進軍速度が早いですね。この様子だと4日程で砦に到達しそうです」
当初の予定どおり、ゼロは5百体からなる先行部隊には手を出さずに見送った。
「あれだけでも砦を攻め落とせるんじゃねえか?」
リックスが心配を口にすると、意外なことにその敵をやり過ごしたゼロも同意する。
「そうですね。かなり危険ですよね。でも、まあ大丈夫でしょう。それよりも次の部隊です」
ただ、言いながらもゼロの注意は後続部隊に注がれていた。
先行部隊が通過してから1刻程、いよいよ敵の後続部隊が現れた。
その数は軽く千を超える。
「よし、一番数が多い。これが本隊ですね。好都合です」
ゼロはバンシーを召喚した。
その美貌にリックスが目を丸くした。
「なあ、この美人もあんたのアンデッドなのか?」
そう言いながら目を奪われているリックスを無表情のまま見たバンシーは口を開いた。
「お久しぶりです」
アンデッドが言葉を発しただけでなく、身に覚えの無い言葉にリックスは唖然とした。
「いや、俺はあんたとは初対面だが?」
「分からないかもしれませんが、リックスさんは彼女に会ったことはありますよ」
「そんなはずはねえよ。俺が知っているあんたのアンデッドはスケルトンと亡霊、レイスってやつだ」
「そのレイスが彼女ですよ。リックスさんを捕まえたレイスがバンシーに変化したんです。見た目が大分変わりましたからね」
「いや、変わりすぎだろ・・・」
呆気に取られているリックスをよそにバンシーは丘の上から敵本隊を見下ろす。
ゼロはリックスに耳を塞ぐように指示するとバンシーに命令を下した。
「始めましょう」
・・ララ・・ラ・ラララ・ララ
ゼロの命令に応じてバンシーは歌を歌い始める。
精神を凍りつかせるバンシーの歌に魔物達が混乱した。
しかし、ゼロの狙いはこれだけではない。
・・・ゴゴゴゴゴ!
バンシーの歌に共鳴した山肌の雪が崩れ、巨大な雪崩を引き起こす。
凄まじい速度で迫る雪崩に魔物達は瞬く間に飲み込まれ、押し潰された。
「すげえ、あんたこれを狙ってたのか?」
一瞬で敵の軍勢を飲み込んだ様子を見ていたリックスは愕然とする。
「はい、彼女の歌は強烈ですからね、雪崩を引き起こすなんて雑作もないことです」
ゼロは答えながら次の手順に入る。
雪崩が魔物達を飲み込んだ場所に移動すると3百体のスケルトンウォリアーが姿を現す。
「今から生き残りの掃討を行います。雪から這い出して来る奴を殲滅しなさい」
ゼロの命令を受けたスケルトンウォリアーは雪原に散り、雪から這い出してくる魔物を剣や槍で次々と仕留めていく。
リックスもスケルトンウォリアーに混じって雪から這い出してくるオークを待ち構えて始末している。
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