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ネクロマンサーの真髄
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「こちらから攻める?」
「そりゃあ無茶だ!」
砦を出て敵の先手を打つというゼロの策にミラーとリンツは驚きの声を上げた。
「ゼロのアンデッドを入れても戦力差がありすぎる。守りに徹するならばそれなりのことができるが、打って出るのは得策ではないぞ」
砦の防御責任者でもあるミラーは特に反対する。
深い雪に包まれた山を抜けると砦の町までの間に僅かな平原がある。
敵はそこに布陣して攻め寄せるだろう。
対して砦の周囲には簡易的な掘と木製の防壁があるだけだ。
守備陣地としては脆弱に過ぎるが、3千の敵を相手に砦に籠もって守りに徹すればかなりの時間を戦い抜くことができる。
しかし、砦を出て野戦を挑むとなると勝ち目は殆どないのだ。
「ゼロ、ここは守りの一手だ。そうして敵の戦力を削る方がいい」
あくまでも防戦を主張するミラーだが、ゼロは首を縦に振らない。
「ミラーさんのおっしゃることも尤もです。しかし、どれほどの時間を守り抜いても我々には援軍は期待できません。敵を削る中でこちらも削られますが、時間が経つにつれ、不利になるのは私達です」
「それはそうだが・・・」
「それにこちらから仕掛けるといっても皆さんの部隊を出すわけではありません。私が敵の侵攻してくる山の途中で敵に奇襲をかけて敵を損耗させてきます」
そういうとゼロは自分が考えた策の詳細を2人に説明した。
「なるほど」
「やってみる価値はあるな」
ミラーとリンツは難しい表情のままだが、ゼロの策に光明を見いだした。
「しかし、この策はゼロだけがリスクを背負うんだぜ?大丈夫か?」
リンツがゼロに問うがゼロは涼しい顔だ。
「大丈夫、勝算はあります。うまくいけば敵の3割程度を減らせるかもしれません。そして残りの敵をここで迎え撃ちましょう」
リンツはミラーを見た。
「ミラー隊長、どうせ俺達は最悪の状況にいるんだ。これ以上悪くなることもないだろうよ。少しでも可能性があるならば札を切ってみるべきだ!」
ミラーも頷く。
「そうだな。ゼロ、やってくれるか?」
「おまかせください」
早速3人は行動を開始した。
ミラーとリンツの指示の下で国境警備隊と囚人部隊が臨戦態勢に入り、砦の守りを固めると共に万が一敵が砦内に進入した場合に住民を避難させる段取りを整える。
ゼロは防寒マントを身に纏い、数日分の食料を背負う。
「それだけで行くのか?」
ゼロの準備を見守っていたミラーが聞く。
とてもではないが今から3千の敵を相手に戦いに向かうとは思えない。
「アンデッドには寒さも空腹もありませんからね。私が生きる分の物資だけでいいんですよ」
「まあ、そうだろうな」
「これが死霊術師の恐ろしさですよ。普通ならばある程度の規模の部隊が進軍するには時間も掛かるし、膨大な物資とそれを輸送する輸送線が必要です。まして、そんな部隊が動けば嫌でも目立ちます。しかし、死霊術師ならばたった1人の移動速度と糧秣で数百から数千の軍勢が移動するんです」
ミラーは戦場におけるネクロマンサーの恐ろしさを理解した。
戦闘においてゼロに行動の自由を許すと戦場を大隊から連隊規模の軍勢が好きに動き回ることと同じだ。
しかも、1人で動き回るので敵の哨戒網にも補足されにくいのだ。
「これが古より権力者に利用され、闇に葬られてきた死霊術師の真髄です」
ゼロは準備を整えると砦の門に立った。
「それでは、行ってきます」
「待ってくれ!俺も連れて行ってくれ!」
ゼロが振り返ると、ゼロと同じように防寒装備のリックスが真剣な表情で立っていた。
その姿を見たゼロは首を振った。
「必要ありません。手伝いが必要な状況でもありませんから。それに、アンデッドに戦わせるとはいえ、私も前線指揮をしなければならないので戦闘に巻き込まれますよ」
しかしリックスも引き下がらない。
「そんなことは承知のうえだ!自分の身は自分で守る」
「それだけの覚悟があるならば、ここに残って防衛戦に全力を掛ければいいのではありませんか?」
「それじゃあ俺が納得できねえんだ!俺はあんたに救われた。あんたはただ単に犯罪者の俺を捕まえただけだろうが、俺は違う。あの当時には犯罪に手を染めて腐りきっていた俺の冒険者としてのプライドを思い出させてくれたんだ。あの一件がなければ俺は悪党としてどこかでくたばっていた筈だ。俺はそんなあんたに恩を返したいんだ。足手まといなのは十分承知だが、俺にあんたの手伝いをさせてくれ!」
必死で食い下がるリックスにゼロは困り果てた。
「返してもらうような恩なんてありませんよ。私は私の仕事をしただけです。それにあの時、貴方を捕縛したのは全くの偶然で、もしかするとあの格闘家でなく貴方を斬っていたかもしれませんし」
「それでもだ。小便を垂らしながら腰を抜かした俺を助けてくれたのはあんただ。だからこそ心を入れ替えて今まで生きてこれたんだ。ここであんたについていかなければ俺は俺の一歩を踏み出せないんだ」
その様子を見ていたリンツが笑いながら助け船を出した。
「連れて行ってやってくれゼロ。リックスとは一緒に労役で働いたが口だけの男じゃねえのは確かだ。それにシーフだっただけあって身の軽さと危険察知の能力は高い。少なくとも自分の身は守れるさ。それにリックスにゼロとアンデッドの戦い方を見てきてもらえば今後共闘するのに役に立つからな」
そこまで言われるとゼロも断るに断れない。
結局ゼロはリックスの同行を許すことになり、2人は雪山へと旅立った。
2日後、ゼロとリックスは敵が進むであろう山の下り斜面を見下ろせる丘の上にいた。
ゼロの言うとおり仮に数百の部隊がここまで移動するとなると2日では足りない。
少なくとも5日以上ははかかるだろう。
「ここならば大丈夫ですね」
「ここで敵に奇襲をかけるのか?」
「奇襲といえば奇襲ですね。どちらかというと、敵に強烈な打撃を加えようとしているんですよ」
ゼロは自分の策をリックスに説明した。
「効果的だが、えげつないな」
「別に私は騎士ではありませんからね。仕事を全うするためには手段は選びません」
リックスの言葉にゼロは飄々と答えた。
ゼロが説明を終えると2人は夜営の準備を始めた。
場所を決めたら後は敵が来るまでその場でひたすら待つしかないのだ。
結局、ゼロとリックスはその場で2日間、敵が来るのを待ち続けることになった。
「そりゃあ無茶だ!」
砦を出て敵の先手を打つというゼロの策にミラーとリンツは驚きの声を上げた。
「ゼロのアンデッドを入れても戦力差がありすぎる。守りに徹するならばそれなりのことができるが、打って出るのは得策ではないぞ」
砦の防御責任者でもあるミラーは特に反対する。
深い雪に包まれた山を抜けると砦の町までの間に僅かな平原がある。
敵はそこに布陣して攻め寄せるだろう。
対して砦の周囲には簡易的な掘と木製の防壁があるだけだ。
守備陣地としては脆弱に過ぎるが、3千の敵を相手に砦に籠もって守りに徹すればかなりの時間を戦い抜くことができる。
しかし、砦を出て野戦を挑むとなると勝ち目は殆どないのだ。
「ゼロ、ここは守りの一手だ。そうして敵の戦力を削る方がいい」
あくまでも防戦を主張するミラーだが、ゼロは首を縦に振らない。
「ミラーさんのおっしゃることも尤もです。しかし、どれほどの時間を守り抜いても我々には援軍は期待できません。敵を削る中でこちらも削られますが、時間が経つにつれ、不利になるのは私達です」
「それはそうだが・・・」
「それにこちらから仕掛けるといっても皆さんの部隊を出すわけではありません。私が敵の侵攻してくる山の途中で敵に奇襲をかけて敵を損耗させてきます」
そういうとゼロは自分が考えた策の詳細を2人に説明した。
「なるほど」
「やってみる価値はあるな」
ミラーとリンツは難しい表情のままだが、ゼロの策に光明を見いだした。
「しかし、この策はゼロだけがリスクを背負うんだぜ?大丈夫か?」
リンツがゼロに問うがゼロは涼しい顔だ。
「大丈夫、勝算はあります。うまくいけば敵の3割程度を減らせるかもしれません。そして残りの敵をここで迎え撃ちましょう」
リンツはミラーを見た。
「ミラー隊長、どうせ俺達は最悪の状況にいるんだ。これ以上悪くなることもないだろうよ。少しでも可能性があるならば札を切ってみるべきだ!」
ミラーも頷く。
「そうだな。ゼロ、やってくれるか?」
「おまかせください」
早速3人は行動を開始した。
ミラーとリンツの指示の下で国境警備隊と囚人部隊が臨戦態勢に入り、砦の守りを固めると共に万が一敵が砦内に進入した場合に住民を避難させる段取りを整える。
ゼロは防寒マントを身に纏い、数日分の食料を背負う。
「それだけで行くのか?」
ゼロの準備を見守っていたミラーが聞く。
とてもではないが今から3千の敵を相手に戦いに向かうとは思えない。
「アンデッドには寒さも空腹もありませんからね。私が生きる分の物資だけでいいんですよ」
「まあ、そうだろうな」
「これが死霊術師の恐ろしさですよ。普通ならばある程度の規模の部隊が進軍するには時間も掛かるし、膨大な物資とそれを輸送する輸送線が必要です。まして、そんな部隊が動けば嫌でも目立ちます。しかし、死霊術師ならばたった1人の移動速度と糧秣で数百から数千の軍勢が移動するんです」
ミラーは戦場におけるネクロマンサーの恐ろしさを理解した。
戦闘においてゼロに行動の自由を許すと戦場を大隊から連隊規模の軍勢が好きに動き回ることと同じだ。
しかも、1人で動き回るので敵の哨戒網にも補足されにくいのだ。
「これが古より権力者に利用され、闇に葬られてきた死霊術師の真髄です」
ゼロは準備を整えると砦の門に立った。
「それでは、行ってきます」
「待ってくれ!俺も連れて行ってくれ!」
ゼロが振り返ると、ゼロと同じように防寒装備のリックスが真剣な表情で立っていた。
その姿を見たゼロは首を振った。
「必要ありません。手伝いが必要な状況でもありませんから。それに、アンデッドに戦わせるとはいえ、私も前線指揮をしなければならないので戦闘に巻き込まれますよ」
しかしリックスも引き下がらない。
「そんなことは承知のうえだ!自分の身は自分で守る」
「それだけの覚悟があるならば、ここに残って防衛戦に全力を掛ければいいのではありませんか?」
「それじゃあ俺が納得できねえんだ!俺はあんたに救われた。あんたはただ単に犯罪者の俺を捕まえただけだろうが、俺は違う。あの当時には犯罪に手を染めて腐りきっていた俺の冒険者としてのプライドを思い出させてくれたんだ。あの一件がなければ俺は悪党としてどこかでくたばっていた筈だ。俺はそんなあんたに恩を返したいんだ。足手まといなのは十分承知だが、俺にあんたの手伝いをさせてくれ!」
必死で食い下がるリックスにゼロは困り果てた。
「返してもらうような恩なんてありませんよ。私は私の仕事をしただけです。それにあの時、貴方を捕縛したのは全くの偶然で、もしかするとあの格闘家でなく貴方を斬っていたかもしれませんし」
「それでもだ。小便を垂らしながら腰を抜かした俺を助けてくれたのはあんただ。だからこそ心を入れ替えて今まで生きてこれたんだ。ここであんたについていかなければ俺は俺の一歩を踏み出せないんだ」
その様子を見ていたリンツが笑いながら助け船を出した。
「連れて行ってやってくれゼロ。リックスとは一緒に労役で働いたが口だけの男じゃねえのは確かだ。それにシーフだっただけあって身の軽さと危険察知の能力は高い。少なくとも自分の身は守れるさ。それにリックスにゼロとアンデッドの戦い方を見てきてもらえば今後共闘するのに役に立つからな」
そこまで言われるとゼロも断るに断れない。
結局ゼロはリックスの同行を許すことになり、2人は雪山へと旅立った。
2日後、ゼロとリックスは敵が進むであろう山の下り斜面を見下ろせる丘の上にいた。
ゼロの言うとおり仮に数百の部隊がここまで移動するとなると2日では足りない。
少なくとも5日以上ははかかるだろう。
「ここならば大丈夫ですね」
「ここで敵に奇襲をかけるのか?」
「奇襲といえば奇襲ですね。どちらかというと、敵に強烈な打撃を加えようとしているんですよ」
ゼロは自分の策をリックスに説明した。
「効果的だが、えげつないな」
「別に私は騎士ではありませんからね。仕事を全うするためには手段は選びません」
リックスの言葉にゼロは飄々と答えた。
ゼロが説明を終えると2人は夜営の準備を始めた。
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