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勝ち目のない戦い
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風の都市に戻ってから、というよりもオックス達と別れてからレナの機嫌がすこぶる悪い。
「何かありましたか?」
と聞いてみても帰ってくる返答は
「別に・・・」
だけである。
それでもゼロが仕事の依頼を受ければ当たり前のように付いて来るし、戦闘時のコンビネーションはより洗練されつつあると思う。
しかし、レナは元々饒舌な方ではないが、更に機嫌を損ねているとなるとゼロとしては息が詰まる思いなのだ。
2人の様子を窺うシーナにも
「ゼロさん、また何かやらかしましたか?」
と聞かれる始末である。
「また」と言われるのは些か心外ではあるのだが、今までのことを振り返れば、レナが機嫌を悪くするのはゼロが余計な一言を言うか、コミュニケーション不足からが原因なのでまんざら間違いでもなさそうだ。
レナのいないギルドのカウンターを挟んでゼロとシーナが向き合っている。
別に珍しい光景ではないが、今日の2人はいつになく神妙な面もちだ。
「機嫌を直してもらうにはどうしたらいいでしょうか?」
「そうですね。原因が分からないと何も始まりません。レナさんを食事にでも誘ってゆっくりと話してみてはどうですか?レナさんも話しが分かる方ですから、効果あると思いますよ」
「なるほど。誘ってみますか。シーナさんも一緒にどうですか?」
ゼロの言葉にシーナは目を細めた。
「・・・ヘタレ・・」
「なっ!」
シーナの思いがけない一言にゼロは絶句した。
「いいですか?これはゼロさんとレナさんの2人の問題です!そういうところですよ!それに、普段はちょくちょく2人で食事してるじゃないですか!何を臆することがありますか!」
シーナに叱られてゼロは肩を落とす。
「分かりました。レナさんと話してみます」
シーナは笑顔に戻ると
「私が機嫌を悪くした時はお洒落なお店に誘ってくださいね」
悪戯っぽく笑うシーナにゼロは冷や汗を流した。
そんなゼロがギルドから出て行くのを見送ったシーナは人知れず溜め息をつく。
「ライバルを援護するようでちょっと癪に障りますが、仕事に出るゼロさんを守れるのはレナさんしかいませんし、あの2人の仲が悪くなるのも問題ですからね。まあ、今はまだ付き合いの長さで私にアドバンテージがあると自信を持ちましょう」
シーナは気持ちを切り替えて自分の仕事に戻ることにした。
ゼロが食事に誘うとレナは意外なほどあっさりとそれに応じた。
早めのギルドの食堂で向かい合って座る。
ゼロの前にはエール、レナの前には果実酒が置かれていて、いくつかの料理も並べられている。
因みに、普段2人で食事をするときはレナの希望で自分の分は自分で払っているが、今日はゼロから食事に誘ったのでゼロの奢りである。
「レナさん」
「なに?」
「私とレナさんが出会ってから随分と経ちますし、パーティーとしてもある程度は経験を積んだと思います」
「そうね」
「その私から見ても最近のレナさんは何故か機嫌がよろしくないように感じます」
「そうかしら?」
「私は人の気持ちというものがよく理解できないところがありますので、レナさんが何故機嫌を損ねているのか分からないのです」
「人の気持ちが分からないということは嫌というほど知っているわ」
「・・・」
思うように会話が進まない。
(劣勢ですね。会話の主導権が握れません。聖務院で取り調べを受けた時のあの司祭達はこんな気持ちだったのでしょうか)
ゼロが攻め倦ねているのを見たレナは諦めた顔で口を開いた。
「貴方、私が何故怒っているのか本当に分からないのね?」
「はい」
レナは溜め息をついた。
「クロウシス家でのこと、貴方は早い段階でマクレインが怪しいと目処をつけていたわね?」
「はい」
「だったら何故直ぐに私に話さなかったの?」
「それは・・・あっ!」
「私が怒っている理由が分かった?」
「はい」
「貴方には貴方の考えがあったのでしょうが、せめて私には話していてもいいのではないの?」
「尤もです」
「私が怒っているのは未だに貴方が私をパートナーと認めていないことなの」
ゼロは慌てて首を振る。
「そんなことはありません。ただ、私も長く1人で戦っていたせいか、物事について自己完結しようとしてしまうのです」
「そういうところよ!そういうところがあるから自分から人を遠ざけてしまうのよ」
「すみません」
「貴方も上位冒険者としてあちこちで実績を積んで信用や信頼してくれている人が増えたのだから、そういうところを改めなければいけないの!」
「はい、返す言葉もありません」
「どうせ今日だってシーナさんに言われたんでしょう?」
「・・・はい」
「貴方は決して1人じゃないことを知りなさい。分かった?」
「はい」
結局、その夜は遅くまでレナの説教を受ける羽目になった。
その様子を遠巻きに見ている他の冒険者も
「おい、ネクロマンサーがレナさんに説教されてるぞ」
「意外な光景だわ」
「どうやら受付のシーナさんが一枚噛んでいるらしいぞ」
「そういえばあいつ、昼間はシーナ主任にも説教されていたな」
「あのネクロマンサーもレナさんとシーナさんには逆らえないらしいわよ」
と声を潜めていた。
たまたま通りかかったイズとリズですら
「兄さま・・」
「今は近づかないほうがいい。レナさんに叱られているということはゼロ様が何かやらかしてしまったのだろう」
と近づかなかったほどである。
ギルド内における上位冒険者ゼロの地位というのもその程度であった。
「最近負けが込んでいる」と気にしていたゼロだが、この夜はレナを相手に大敗を喫することになった。
「何かありましたか?」
と聞いてみても帰ってくる返答は
「別に・・・」
だけである。
それでもゼロが仕事の依頼を受ければ当たり前のように付いて来るし、戦闘時のコンビネーションはより洗練されつつあると思う。
しかし、レナは元々饒舌な方ではないが、更に機嫌を損ねているとなるとゼロとしては息が詰まる思いなのだ。
2人の様子を窺うシーナにも
「ゼロさん、また何かやらかしましたか?」
と聞かれる始末である。
「また」と言われるのは些か心外ではあるのだが、今までのことを振り返れば、レナが機嫌を悪くするのはゼロが余計な一言を言うか、コミュニケーション不足からが原因なのでまんざら間違いでもなさそうだ。
レナのいないギルドのカウンターを挟んでゼロとシーナが向き合っている。
別に珍しい光景ではないが、今日の2人はいつになく神妙な面もちだ。
「機嫌を直してもらうにはどうしたらいいでしょうか?」
「そうですね。原因が分からないと何も始まりません。レナさんを食事にでも誘ってゆっくりと話してみてはどうですか?レナさんも話しが分かる方ですから、効果あると思いますよ」
「なるほど。誘ってみますか。シーナさんも一緒にどうですか?」
ゼロの言葉にシーナは目を細めた。
「・・・ヘタレ・・」
「なっ!」
シーナの思いがけない一言にゼロは絶句した。
「いいですか?これはゼロさんとレナさんの2人の問題です!そういうところですよ!それに、普段はちょくちょく2人で食事してるじゃないですか!何を臆することがありますか!」
シーナに叱られてゼロは肩を落とす。
「分かりました。レナさんと話してみます」
シーナは笑顔に戻ると
「私が機嫌を悪くした時はお洒落なお店に誘ってくださいね」
悪戯っぽく笑うシーナにゼロは冷や汗を流した。
そんなゼロがギルドから出て行くのを見送ったシーナは人知れず溜め息をつく。
「ライバルを援護するようでちょっと癪に障りますが、仕事に出るゼロさんを守れるのはレナさんしかいませんし、あの2人の仲が悪くなるのも問題ですからね。まあ、今はまだ付き合いの長さで私にアドバンテージがあると自信を持ちましょう」
シーナは気持ちを切り替えて自分の仕事に戻ることにした。
ゼロが食事に誘うとレナは意外なほどあっさりとそれに応じた。
早めのギルドの食堂で向かい合って座る。
ゼロの前にはエール、レナの前には果実酒が置かれていて、いくつかの料理も並べられている。
因みに、普段2人で食事をするときはレナの希望で自分の分は自分で払っているが、今日はゼロから食事に誘ったのでゼロの奢りである。
「レナさん」
「なに?」
「私とレナさんが出会ってから随分と経ちますし、パーティーとしてもある程度は経験を積んだと思います」
「そうね」
「その私から見ても最近のレナさんは何故か機嫌がよろしくないように感じます」
「そうかしら?」
「私は人の気持ちというものがよく理解できないところがありますので、レナさんが何故機嫌を損ねているのか分からないのです」
「人の気持ちが分からないということは嫌というほど知っているわ」
「・・・」
思うように会話が進まない。
(劣勢ですね。会話の主導権が握れません。聖務院で取り調べを受けた時のあの司祭達はこんな気持ちだったのでしょうか)
ゼロが攻め倦ねているのを見たレナは諦めた顔で口を開いた。
「貴方、私が何故怒っているのか本当に分からないのね?」
「はい」
レナは溜め息をついた。
「クロウシス家でのこと、貴方は早い段階でマクレインが怪しいと目処をつけていたわね?」
「はい」
「だったら何故直ぐに私に話さなかったの?」
「それは・・・あっ!」
「私が怒っている理由が分かった?」
「はい」
「貴方には貴方の考えがあったのでしょうが、せめて私には話していてもいいのではないの?」
「尤もです」
「私が怒っているのは未だに貴方が私をパートナーと認めていないことなの」
ゼロは慌てて首を振る。
「そんなことはありません。ただ、私も長く1人で戦っていたせいか、物事について自己完結しようとしてしまうのです」
「そういうところよ!そういうところがあるから自分から人を遠ざけてしまうのよ」
「すみません」
「貴方も上位冒険者としてあちこちで実績を積んで信用や信頼してくれている人が増えたのだから、そういうところを改めなければいけないの!」
「はい、返す言葉もありません」
「どうせ今日だってシーナさんに言われたんでしょう?」
「・・・はい」
「貴方は決して1人じゃないことを知りなさい。分かった?」
「はい」
結局、その夜は遅くまでレナの説教を受ける羽目になった。
その様子を遠巻きに見ている他の冒険者も
「おい、ネクロマンサーがレナさんに説教されてるぞ」
「意外な光景だわ」
「どうやら受付のシーナさんが一枚噛んでいるらしいぞ」
「そういえばあいつ、昼間はシーナ主任にも説教されていたな」
「あのネクロマンサーもレナさんとシーナさんには逆らえないらしいわよ」
と声を潜めていた。
たまたま通りかかったイズとリズですら
「兄さま・・」
「今は近づかないほうがいい。レナさんに叱られているということはゼロ様が何かやらかしてしまったのだろう」
と近づかなかったほどである。
ギルド内における上位冒険者ゼロの地位というのもその程度であった。
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