職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

文字の大きさ
上 下
98 / 196

南へ、ヘルムントからの依頼

しおりを挟む
「こちらに所属するネクロマンサーのゼロ殿にこの依頼をお願いしたい」
「えっ?」

 ヘルムントの言葉にシーナは固まった。

「あっ、えっ・・と。あの、ネクロマンサーのゼロさんですか?」
「そのとおり、ゼロ殿に依頼したい」

 聞き間違いでなく、ゼロを指名した依頼だ。
 しかし、依頼主が聖務院、それも聖騎士団に所属する者であることからシーナは困惑した。

「あのっ、貴方様は聖務院の方ですよね?聖務院の方がネクロマンサーのゼロさんに依頼・・・ですか?」
「然り!」

 シーナの懸念など分かりきっているとの表情で頷いた。

「貴殿の心配は分かる。聖務院が何かを企んでゼロ殿に害をもたらすのではないかと懸念しているのだろう?」
「いえ、そこまでは・・・。でも、聖務院の方がゼロさんに依頼を出していいのかな?と思いまして」
「それには心配及ばん。此度の依頼は我が個人的に頼むのだ。多少は教義に反するが、教義に縛られて大局を見逃すのは本末転倒というものだ」
「はぁ・・・。わかりました」

 シーナは訝しげながらも依頼受理の手続きを進めた。

「それでは、依頼を受理します。ただ、ゼロさんは2、3日お休みすると言っていましたが、事案の概要からも急いだ方がいいと思いますので呼びに行ってきますのでこちらでお待ちください」

 シーナは説明するとゼロを呼びに行くためにギルドを出た。
 シーナが行かなければいけない理由はないのだが、ゼロの住む家の周辺の森の中はゼロのアンデッドが警戒という名目で野放しにされているため他の職員は訪問したがらないのである。
 シーナ自身も好き好んで立ち入るわけではないが、何度か訪問したことがあり、ある程度は慣れているので自分で呼びに行くことにしたのだった。

 シーナに呼び出されたゼロはヘルムントから依頼の詳細を聞いた。

「そうしますと、冒険者のパーティーが次々と行方不明になり、調査に向かったイザベラさん達まで行方不明になったと?」
「そのとおり。南の山奥にある古城に何者かが住み着いたとの依頼で調査に向かったのだ。依頼を出した貴族からの情報では城に至る山に大型の魔物がいるらしいとのことだが、そんなものに遅れを取るような連中ではない」
「なるほど。高位の司祭のみならず特務兵のイザベラさん達までとなると、尋常ではない事態が起きているのでしょう。依頼を引き受けることは構いませんが、イザベラさん達ですら対処出来なかった事態に私では力不足ではありませんか?」

 ゼロの心配をよそにヘルムントは自信がありそうだ。

「仰ることは分かる。ただ、イザベラ達でも対処できないとなると、我としてはイザベラと対等に渡り合ったゼロ殿ならばどうかと思い至った。それに、特務兵として得ている情報によれば、先のドラゴン・ゾンビの件、ゼロ殿がドラゴン・ゾンビを足止めしていたと聞き及んでいる。決して力不足ではないと判断したのだ」
「かいかぶり過ぎですよ」
「我はそうは思わん。それに此度は我が同行するだけではない。現地では王都の冒険者ギルドで我が依頼した他の冒険者が合流する予定だ。決して力不足にはなるまい」

 どちらにせよゼロは指名依頼を断るつもりはない。

「分かりました。直ぐに出発しましょう」

 ゼロは立ち上がって依頼受諾の手続きをすべくギルドのカウンターに向かった。

「ヘルムントさんからの依頼を受けます。直ぐに出発します」

 依頼受諾の手続きをしようとするゼロの言葉にシーナはいつもの笑顔を見せようとせずに憮然としている。

「ゼロさん!私達との約束を忘れたのですか?ゼロさんはレナさんとパーティーを組んだではありませんか!それなのに1人で行くんですか?」
「そうは言っても今回の依頼は私を指名しての依頼ですから。それに1人で行くわけではありません。依頼主のヘルムントさんが同行しますし、他の冒険者も合流してくるようですから」

 それでもシーナは納得していない様子だったが、突然表情を変えて笑顔を浮かべた。

「わかりました。それではゼロさんだけでの依頼受諾でいいのですね?」
「はい」
「本当にいいんですね?」

 念を押すシーナの表情にゼロは悪寒を感じた。
 いつの間にか背後に何者かが立っているが、今後ろを振り返ってはいけないと本能が訴えかけている。
 ゼロの右肩に手をかけられた。
 視線だけを右肩に向ければ、そこには細くしなやかな指がかけられているのが見える。

「ゼロ!何をしているの?」

 その声にゼロは自分が常に監視されているのではないかと思った。
 彼女からは逃れることはできないと悟ったのだった。

 結局ゼロはレナに押し切られただけでなく、イズとリズにまで見つかってしまった。
 レナだけでなくイズ達からも同行することを求められたヘルムントだが

「魔導師殿の実力は武闘大会で目の当たりにしたが、申し分ないから助力してくれるとありがたい。ダーク、いや、シルバーエルフの2人もかなりの手練れと見受けられる」

と申し立て、レナ達の同行について、追加依頼を出して承諾し、5人は南に向かって旅立つことになった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

処理中です...