97 / 196
ヘルムント・リッツ
しおりを挟む
ヘルムント・リッツはイフエールの神に仕える司祭であり、聖務院聖騎士団に所属する騎士の顔も持つ。
また、非正規任務を請け負う聖務院特務兵でもある。
厚い筋肉に包まれた巨漢の彼は果たしてどれが正職なのかといえば、本人に言わせると迷うことなくイフエール司祭だと答える。
現にヘルムントは王都の片隅に自らの教会を持ち、そこで司祭として勤める傍らで孤児院を運営して人種に囚われずに身寄りのない子供達を育てている。
彼の教会には人間だけでなく、獣人やシルバーエルフの子供もいる。
彼自身は独身であり、聖騎士団や特務兵の任務で王都を離れることも多いが、彼を慕い、共に孤児院を運営するシスターによって支えられていた。
彼が得る聖騎士の報酬の殆どが孤児院の運営に費やされ、身寄りのない子供達からは「お父さん」と慕われていた。
そのヘルムントは現在大きな問題を抱えていた。
ことの発端は数ヶ月前に遡るが、王都の冒険者ギルドで依頼を請け負った冒険者が行方不明になったことから始まった。
冒険者が帰還しないこと自体は珍しいことではないが、その後も同じ依頼を受けた冒険者のパーティーが3組続けて帰還せず、問題が大きくなってきた。
本来は聖務院が乗り出すような案件ではないが、行方不明になった冒険者の中に高位のシーグル司祭がいたことと依頼を出していたのが有力貴族だったこともあり、聖務院は事態の調査に特務兵を投入することを決めた。
その任務の白羽の矢が立ったのがイザベラとアランの2人、実績も実力も十分な2人だったが、調査に向かったその2人までもが行方不明となったのだ。
今回の事件でヘルムントには任務は下されていなかったが、義に厚い彼は知己のあるイザベラ達や冒険者の失踪について見過ごすことが出来なかった。
武骨な性格でありながら柔軟な思考の持ち主であるヘルムントは行動に移ることとした。
旅支度を整えた彼は見送る子供達を見下ろす。
「また暫くの間留守にするからシスターの言うことをよく聞くのだぞ。今回の旅先は風と水が綺麗で美味しい果物があると聞く。お土産を楽しみにしていなさい」
「はいっ!お父さん!」
子供達は満面の笑みでヘルムントを見送り、共に見送る若いシスターはヘルムントの無事を祈った。
王都を旅立ったヘルムントは西に向かって急いだのだった。
風の都市の冒険者ギルドは午後の落ち着いた時間を迎えていた。
ギルド内にいる冒険者も少なく、受付にいるシーナもお茶を飲みながら一息ついていた。
シーナもギルドに長く勤めていて今では受付の責任者である受付主任を任されている。
そうはいっても限られた人数で運営しているため主任といえど受付業務も担ううえ、カウンター全体に目を配らなければならないのだが、経験豊富な職員であるシーナにとっては難なくこなせる仕事である。
本日の業務も順調、今日はゼロは姿を見せていないが2、3日休むと言っていたので少し寂しいが問題はない。
最近はレナだけでなく双子のシルバーエルフと行動を共にすることが多いが、ゼロの交友関係が広がるのは良いことだと思う。
「でも、リズさん、エルフだけあって桁違いに綺麗なんですよね~。しかも、ゼロさんのこと・・・。ゼロさんの仲間が増えるのは良いのですが、ライバルが増えるのは困りますね・・・」
他に聞かれない程度にため息をつく。
そんなことを考えながらギルド内を見渡せば、入口から入ってくる人物を認めた。
高位の司祭服に身を包んだ巨漢の男。
シーナはその司祭に見覚えがあった。
「あの方は、たしか武闘会の決勝で。確かヘルムント・リッツさん。なぜ聖務院聖騎士団の方が?」
シーナが面食らっている間にヘルムントは彼女の前に立つ。
「風の都市冒険者ギルドにようこそ。ご用件を承ります」
シーナは鍛えあげて名人の域に達した必殺技の営業スマイルで先制した。
「仕事の依頼を出したいのだが」
「畏まりました。依頼内容をお伺いします」
シーナはヘルムントに椅子を勧めて受付の書類を取り出し、ペンを取る。
「依頼内容は行方不明になった冒険者や聖騎士の捜索、必要に応じて救出である」
シーナは聞き取りながら書類を作成する。
王都のギルドでとある依頼を受けた冒険者の行方不明が続発していることは風の都市のギルドにも通知が届いている。
(あの通知の件でしょうか?だとすれば上位の冒険者にお願いする必要がありますね。っていうか、何故この風の都市に依頼を?これって聖務院からの依頼なんでしょうか?)
色々と推察しながらペンを走らせる。
「そうしますと、南の山奥にある古城に向かった冒険者の捜索と救出ですね?」
シーナが依頼内容を確認する。
「うむ、そのとおりである。此度の依頼は我も同行させていただく。こう見えて多少は腕に自信がある」
ヘルムントの言葉に
(こう見えてって、見たまんまもの凄く強そうですけど)
とは思っても口には出さない。
「承りました。当ギルドに所属する高位の冒険者さんに打診してみます」
依頼受付の書類をまとめたシーナだが、ヘルムントは更に言葉を続けた。
「この依頼、こちらから冒険者を指名させていただきたい」
「指名依頼ですね。畏まりました。どの冒険者さんを?」
「こちらに所属するネクロマンサーのゼロ殿である」
「えっ?」
その指名にシーナは営業スマイルのままで固まった。
また、非正規任務を請け負う聖務院特務兵でもある。
厚い筋肉に包まれた巨漢の彼は果たしてどれが正職なのかといえば、本人に言わせると迷うことなくイフエール司祭だと答える。
現にヘルムントは王都の片隅に自らの教会を持ち、そこで司祭として勤める傍らで孤児院を運営して人種に囚われずに身寄りのない子供達を育てている。
彼の教会には人間だけでなく、獣人やシルバーエルフの子供もいる。
彼自身は独身であり、聖騎士団や特務兵の任務で王都を離れることも多いが、彼を慕い、共に孤児院を運営するシスターによって支えられていた。
彼が得る聖騎士の報酬の殆どが孤児院の運営に費やされ、身寄りのない子供達からは「お父さん」と慕われていた。
そのヘルムントは現在大きな問題を抱えていた。
ことの発端は数ヶ月前に遡るが、王都の冒険者ギルドで依頼を請け負った冒険者が行方不明になったことから始まった。
冒険者が帰還しないこと自体は珍しいことではないが、その後も同じ依頼を受けた冒険者のパーティーが3組続けて帰還せず、問題が大きくなってきた。
本来は聖務院が乗り出すような案件ではないが、行方不明になった冒険者の中に高位のシーグル司祭がいたことと依頼を出していたのが有力貴族だったこともあり、聖務院は事態の調査に特務兵を投入することを決めた。
その任務の白羽の矢が立ったのがイザベラとアランの2人、実績も実力も十分な2人だったが、調査に向かったその2人までもが行方不明となったのだ。
今回の事件でヘルムントには任務は下されていなかったが、義に厚い彼は知己のあるイザベラ達や冒険者の失踪について見過ごすことが出来なかった。
武骨な性格でありながら柔軟な思考の持ち主であるヘルムントは行動に移ることとした。
旅支度を整えた彼は見送る子供達を見下ろす。
「また暫くの間留守にするからシスターの言うことをよく聞くのだぞ。今回の旅先は風と水が綺麗で美味しい果物があると聞く。お土産を楽しみにしていなさい」
「はいっ!お父さん!」
子供達は満面の笑みでヘルムントを見送り、共に見送る若いシスターはヘルムントの無事を祈った。
王都を旅立ったヘルムントは西に向かって急いだのだった。
風の都市の冒険者ギルドは午後の落ち着いた時間を迎えていた。
ギルド内にいる冒険者も少なく、受付にいるシーナもお茶を飲みながら一息ついていた。
シーナもギルドに長く勤めていて今では受付の責任者である受付主任を任されている。
そうはいっても限られた人数で運営しているため主任といえど受付業務も担ううえ、カウンター全体に目を配らなければならないのだが、経験豊富な職員であるシーナにとっては難なくこなせる仕事である。
本日の業務も順調、今日はゼロは姿を見せていないが2、3日休むと言っていたので少し寂しいが問題はない。
最近はレナだけでなく双子のシルバーエルフと行動を共にすることが多いが、ゼロの交友関係が広がるのは良いことだと思う。
「でも、リズさん、エルフだけあって桁違いに綺麗なんですよね~。しかも、ゼロさんのこと・・・。ゼロさんの仲間が増えるのは良いのですが、ライバルが増えるのは困りますね・・・」
他に聞かれない程度にため息をつく。
そんなことを考えながらギルド内を見渡せば、入口から入ってくる人物を認めた。
高位の司祭服に身を包んだ巨漢の男。
シーナはその司祭に見覚えがあった。
「あの方は、たしか武闘会の決勝で。確かヘルムント・リッツさん。なぜ聖務院聖騎士団の方が?」
シーナが面食らっている間にヘルムントは彼女の前に立つ。
「風の都市冒険者ギルドにようこそ。ご用件を承ります」
シーナは鍛えあげて名人の域に達した必殺技の営業スマイルで先制した。
「仕事の依頼を出したいのだが」
「畏まりました。依頼内容をお伺いします」
シーナはヘルムントに椅子を勧めて受付の書類を取り出し、ペンを取る。
「依頼内容は行方不明になった冒険者や聖騎士の捜索、必要に応じて救出である」
シーナは聞き取りながら書類を作成する。
王都のギルドでとある依頼を受けた冒険者の行方不明が続発していることは風の都市のギルドにも通知が届いている。
(あの通知の件でしょうか?だとすれば上位の冒険者にお願いする必要がありますね。っていうか、何故この風の都市に依頼を?これって聖務院からの依頼なんでしょうか?)
色々と推察しながらペンを走らせる。
「そうしますと、南の山奥にある古城に向かった冒険者の捜索と救出ですね?」
シーナが依頼内容を確認する。
「うむ、そのとおりである。此度の依頼は我も同行させていただく。こう見えて多少は腕に自信がある」
ヘルムントの言葉に
(こう見えてって、見たまんまもの凄く強そうですけど)
とは思っても口には出さない。
「承りました。当ギルドに所属する高位の冒険者さんに打診してみます」
依頼受付の書類をまとめたシーナだが、ヘルムントは更に言葉を続けた。
「この依頼、こちらから冒険者を指名させていただきたい」
「指名依頼ですね。畏まりました。どの冒険者さんを?」
「こちらに所属するネクロマンサーのゼロ殿である」
「えっ?」
その指名にシーナは営業スマイルのままで固まった。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる