93 / 196
目覚めと帰還
しおりを挟む
治療院に入院して6日目の早朝、ゼロが目を覚ました。
まだ日が登っていないのか、元々室内が暗いのか、残された右目を開いてみても視界がぼやけて周囲の様子がよく見えない。
それでも、ベッドの右側に誰かがいる気配を感じる。
うっすらと見えるのは、濃い紫色のローブ、椅子に腰掛けて本を読んでいるらしく、目を覚ましたゼロに気づいていない。
「・・・うっ・・あ」
声を掛けようとするが、舌が喉に張り付いたような感覚で呻き声を出すのが精一杯だった。
「・・・ゼロ?」
ベッドの傍らにいたレナがゼロの声に気が付いて振り向いた。
「・・うっ・・」
返事をしようとするも声が出ない。
身体も自由に動かないのだ。
レナは吸い飲みでゼロの口内を潤した。
「・・・すみ・せん」
やっとの思いで言葉を発したころには徐々に目が慣れてきてレナの表情が見えてくる。
「私のことが分かる?見えている?」
そう言って覗き込むレナの顔を残された右目で真っ直ぐに見る。
眠っていないのか、レナの目はわずかに赤らんでいた。
「どの位、意識を?ドラゴン・ゾンビは?」
ゼロの問いにレナは北の鉱山での結末を伝えた。
避難民は無事に避難できたこと、ドラゴン・ゾンビは聖騎士団等によって撃退されたことを聞いたゼロはほっとした様子だった。
「多少の被害は出ましたが、結果として、よかった、でいいですよね」
ゼロの言葉をレナは憮然として聞いていた。
「よかったって、貴方は左目を失ったのよ。それに、身体だって元どおりになるかどうか分からないのよ。そのことを理解しているの?」
「まあ、仕方ないですよ。命を拾えただけで良しとします」
一瞬だけ、レナは怒りと悲しみが混ざったような表情を浮かべたが、直ぐに諦めたような顔をした。
「貴方には言いたいことが山ほどあったけど、止めておくわ。約束どおり生きて帰ってきたのだから許してあげる」
「それはどうも。レナさんのおかげで命が助かりました。命の恩人です」
レナはゼロの左目付近に手を添えた。
「私は貴方の左目を潰した。一生癒えることのない傷を刻んだのよ」
「そうして貰わなければ私はドラゴン・ゾンビの餌になっていました。だから命の恩人です」
「・・・もういいわ。今はもう少し休みなさい。目を覚ますまでそばにいてあげるわ」
レナの言葉を聞いたゼロは再び眠りについた。
ゼロが再び目を覚ましたのはその日の夕刻だった。
眠りにつく前に告げられたとおり、ベッドの傍らにはレナが寄り添っていたが、もう1人、仕事を終えて駆けつけたシーナもゼロを覗き込んでいた。
「・・・ゼロさん、わかりますか?」
「すみません、シーナさん。ご迷惑をおかけしました」
シーナの瞳が潤んだが、涙がこぼれることはなかった。
涙を流すかわりに精一杯の笑顔を見せた。
そしてレナと目配せをして2人で声を揃えて口を開いた。
「「おかえり」なさい」
ゼロが意識を失っている間、交代でゼロに寄り添っていた2人はこの迎えの言葉だけは抜け駆けせず、一緒に伝えると決めていたのだ。
ゼロはゆっくりと身体を起こした。
「ただいま戻りました」
ゼロは多大な代償を払いながらもドラゴン・ゾンビとの戦いから帰還した。
これからのことはこれから考えなければいけない。
まだ日が登っていないのか、元々室内が暗いのか、残された右目を開いてみても視界がぼやけて周囲の様子がよく見えない。
それでも、ベッドの右側に誰かがいる気配を感じる。
うっすらと見えるのは、濃い紫色のローブ、椅子に腰掛けて本を読んでいるらしく、目を覚ましたゼロに気づいていない。
「・・・うっ・・あ」
声を掛けようとするが、舌が喉に張り付いたような感覚で呻き声を出すのが精一杯だった。
「・・・ゼロ?」
ベッドの傍らにいたレナがゼロの声に気が付いて振り向いた。
「・・うっ・・」
返事をしようとするも声が出ない。
身体も自由に動かないのだ。
レナは吸い飲みでゼロの口内を潤した。
「・・・すみ・せん」
やっとの思いで言葉を発したころには徐々に目が慣れてきてレナの表情が見えてくる。
「私のことが分かる?見えている?」
そう言って覗き込むレナの顔を残された右目で真っ直ぐに見る。
眠っていないのか、レナの目はわずかに赤らんでいた。
「どの位、意識を?ドラゴン・ゾンビは?」
ゼロの問いにレナは北の鉱山での結末を伝えた。
避難民は無事に避難できたこと、ドラゴン・ゾンビは聖騎士団等によって撃退されたことを聞いたゼロはほっとした様子だった。
「多少の被害は出ましたが、結果として、よかった、でいいですよね」
ゼロの言葉をレナは憮然として聞いていた。
「よかったって、貴方は左目を失ったのよ。それに、身体だって元どおりになるかどうか分からないのよ。そのことを理解しているの?」
「まあ、仕方ないですよ。命を拾えただけで良しとします」
一瞬だけ、レナは怒りと悲しみが混ざったような表情を浮かべたが、直ぐに諦めたような顔をした。
「貴方には言いたいことが山ほどあったけど、止めておくわ。約束どおり生きて帰ってきたのだから許してあげる」
「それはどうも。レナさんのおかげで命が助かりました。命の恩人です」
レナはゼロの左目付近に手を添えた。
「私は貴方の左目を潰した。一生癒えることのない傷を刻んだのよ」
「そうして貰わなければ私はドラゴン・ゾンビの餌になっていました。だから命の恩人です」
「・・・もういいわ。今はもう少し休みなさい。目を覚ますまでそばにいてあげるわ」
レナの言葉を聞いたゼロは再び眠りについた。
ゼロが再び目を覚ましたのはその日の夕刻だった。
眠りにつく前に告げられたとおり、ベッドの傍らにはレナが寄り添っていたが、もう1人、仕事を終えて駆けつけたシーナもゼロを覗き込んでいた。
「・・・ゼロさん、わかりますか?」
「すみません、シーナさん。ご迷惑をおかけしました」
シーナの瞳が潤んだが、涙がこぼれることはなかった。
涙を流すかわりに精一杯の笑顔を見せた。
そしてレナと目配せをして2人で声を揃えて口を開いた。
「「おかえり」なさい」
ゼロが意識を失っている間、交代でゼロに寄り添っていた2人はこの迎えの言葉だけは抜け駆けせず、一緒に伝えると決めていたのだ。
ゼロはゆっくりと身体を起こした。
「ただいま戻りました」
ゼロは多大な代償を払いながらもドラゴン・ゾンビとの戦いから帰還した。
これからのことはこれから考えなければいけない。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい
新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。
国家錬金術師となって帰ってきた。
村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて……
そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。
「私に貴方の子種をちょうだい!」
「嫌です」
恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。
※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる