90 / 196
背負うべき宿命
しおりを挟む
「そんなことは私にはできない!できるわけないじゃない!」
レナは座り込み、頭を抱えながら横に振る。
「時間が無いのです。このままでは主様はアンデッドに、いえドラゴン・ゾンビの餌に成り下がってしまいます。主様をお助けするには他に手がありません。左目を犠牲にして命を繋ぐしかないのです」
バンシーに詰め寄られ、レナは救いを求めて周囲を見渡すが、そこに居るのは自分よりも位が低い冒険者とゼロのアンデッドだけ。
しかも、まがりなりにもゼロとの付き合いが一番長く、ゼロのことを一番よく理解しているのも自分だろうと思う。
決断するのは自分しかいない。
倒れているゼロに目を向ける。
一刻の猶予もないことは明らかだが
「ゼロの目を抉るなんて、私には・・・」
レナは俯いて拒絶の言葉を言いかける。
(私がやらなければゼロが死ぬ?いえ、死よりも悲惨なことになる。皆のために戦ったゼロを見殺しにする?そんなことが私にできるの?)
震える拳を握り締め、迷いを振り切ろうとする。
そして決断し、顔を上げた。
「私がやるわ」
ゼロを助けることができるならば自分がやらなければいけない。
ゼロの光の半分を奪い、消えることのない傷跡を刻むのは自分でなければならないのだ。
震える手でゼロの左目に刺さった木片を抜き捨て、腰のショートソードを抜いた。
刃を手持ちの聖水で清めるべきだが、ゼロに対してそれはできない。
代わりに毒消しと傷薬を刃に塗りつけてゼロの左目にあてがう。
しかし、手の震えが収まらない。
「しっかりしなさい、レナ」
自分自身に言い聞かせるが、どうしても刃を進めることができないのだ。
見かねたレオンが口を開く。
「レナさん!俺が代わりにやります」
しかし、レナは首を振る。
他の者にさせるわけにはいかない。
いや、自分以外の誰にもやらせはしない。
両手で柄を握り締める。
その時、ゼロの右目が僅かに開いた。
「・・大・夫・す。貴女にそ・な宿命を背負わせ・わけ・はいきま・・。自分のことは・・自分で・・」
絶え絶えに話しながら袖口のナイフを取り出そうとするが、虚ろな意識の中でナイフを取り落としてしまう。
(私が背負う宿命・・)
レナは今度こそ決心した。
「聞こえるゼロ?今から貴方の左目を潰して、毒に犯された皮膚を削ぎ落とすわよ。貴方に傷を刻む宿命を私が背負ってあげる」
レナは再び刃をゼロの左目にあてがった。
覚悟を決めたせいか不思議と手の震えは収まっている。
「・・すみま・ん」
ゼロは薄く笑った。
「左目を開きなさい。まだ光を感じるならば私を見なさいゼロ」
レナの声にゼロが左目の瞼を開く。
毒に犯されて変色した瞳がレナを見る。
ズグッ!
その目にレナは刃を突き立てた。
「グッ!・・・」
ゼロは僅かに声を漏らし、そのまま意識を失った。
レナはゼロの左目を抉り、顔面の毒に犯された箇所や左肩や右脚に突き刺さった礫を抜いてその周囲の皮膚を削ぎ落として焼き払った。
その結果、ゼロは左目を失い、顔の左半分に酷い傷が残った。
肩や脚も毒に犯されていたため、どのような後遺症が残るかは分からない。
それどころかまだ命の危機すら脱していないのだ。
「終わったわ。でも直ぐに治療院に連れて行かないと」
レナの言葉を聞いて全てを見守っていたバンシーが立ち上がり北の方角を見た。
「向こうも終わったようですね。ドラゴン・ゾンビを倒すには至らずとも足止めには成功したようです。彼等も狭間に帰ったようですね。私達も帰りましょう」
バンシーはレナに向き直った。
「魔導師様、主様をお救いくださり感謝申し上げます。私達は狭間に帰りますので主様のことをお願いします」
そう言い残し、カーテシーを見せるとスペクターやスケルトンと共に姿を消した。
残されたレナ達は直ぐに行動に移った。
この近辺で今のゼロの治療に対応できる治療院は風の都市にしかない。
一刻も早く風の都市に戻る必要があるため、足の速いアイリアが先にいる王国軍の兵士の下に走って馬車を呼んできて、ゼロを乗せて搬送することにした。
ゼロの搬送の途中で北に向かう聖騎士団と魔導部隊の集団とすれ違う。
その数は合わせて優に100人を超える。
それ程の聖騎士と魔導師をもって対処に当たるドラゴン・ゾンビにゼロは立ち向かい、見事に足止めに成功したのだ。
しかし、そのゼロは今生死の境にいる。
レナ達は風の都市へと急いだ。
レナは座り込み、頭を抱えながら横に振る。
「時間が無いのです。このままでは主様はアンデッドに、いえドラゴン・ゾンビの餌に成り下がってしまいます。主様をお助けするには他に手がありません。左目を犠牲にして命を繋ぐしかないのです」
バンシーに詰め寄られ、レナは救いを求めて周囲を見渡すが、そこに居るのは自分よりも位が低い冒険者とゼロのアンデッドだけ。
しかも、まがりなりにもゼロとの付き合いが一番長く、ゼロのことを一番よく理解しているのも自分だろうと思う。
決断するのは自分しかいない。
倒れているゼロに目を向ける。
一刻の猶予もないことは明らかだが
「ゼロの目を抉るなんて、私には・・・」
レナは俯いて拒絶の言葉を言いかける。
(私がやらなければゼロが死ぬ?いえ、死よりも悲惨なことになる。皆のために戦ったゼロを見殺しにする?そんなことが私にできるの?)
震える拳を握り締め、迷いを振り切ろうとする。
そして決断し、顔を上げた。
「私がやるわ」
ゼロを助けることができるならば自分がやらなければいけない。
ゼロの光の半分を奪い、消えることのない傷跡を刻むのは自分でなければならないのだ。
震える手でゼロの左目に刺さった木片を抜き捨て、腰のショートソードを抜いた。
刃を手持ちの聖水で清めるべきだが、ゼロに対してそれはできない。
代わりに毒消しと傷薬を刃に塗りつけてゼロの左目にあてがう。
しかし、手の震えが収まらない。
「しっかりしなさい、レナ」
自分自身に言い聞かせるが、どうしても刃を進めることができないのだ。
見かねたレオンが口を開く。
「レナさん!俺が代わりにやります」
しかし、レナは首を振る。
他の者にさせるわけにはいかない。
いや、自分以外の誰にもやらせはしない。
両手で柄を握り締める。
その時、ゼロの右目が僅かに開いた。
「・・大・夫・す。貴女にそ・な宿命を背負わせ・わけ・はいきま・・。自分のことは・・自分で・・」
絶え絶えに話しながら袖口のナイフを取り出そうとするが、虚ろな意識の中でナイフを取り落としてしまう。
(私が背負う宿命・・)
レナは今度こそ決心した。
「聞こえるゼロ?今から貴方の左目を潰して、毒に犯された皮膚を削ぎ落とすわよ。貴方に傷を刻む宿命を私が背負ってあげる」
レナは再び刃をゼロの左目にあてがった。
覚悟を決めたせいか不思議と手の震えは収まっている。
「・・すみま・ん」
ゼロは薄く笑った。
「左目を開きなさい。まだ光を感じるならば私を見なさいゼロ」
レナの声にゼロが左目の瞼を開く。
毒に犯されて変色した瞳がレナを見る。
ズグッ!
その目にレナは刃を突き立てた。
「グッ!・・・」
ゼロは僅かに声を漏らし、そのまま意識を失った。
レナはゼロの左目を抉り、顔面の毒に犯された箇所や左肩や右脚に突き刺さった礫を抜いてその周囲の皮膚を削ぎ落として焼き払った。
その結果、ゼロは左目を失い、顔の左半分に酷い傷が残った。
肩や脚も毒に犯されていたため、どのような後遺症が残るかは分からない。
それどころかまだ命の危機すら脱していないのだ。
「終わったわ。でも直ぐに治療院に連れて行かないと」
レナの言葉を聞いて全てを見守っていたバンシーが立ち上がり北の方角を見た。
「向こうも終わったようですね。ドラゴン・ゾンビを倒すには至らずとも足止めには成功したようです。彼等も狭間に帰ったようですね。私達も帰りましょう」
バンシーはレナに向き直った。
「魔導師様、主様をお救いくださり感謝申し上げます。私達は狭間に帰りますので主様のことをお願いします」
そう言い残し、カーテシーを見せるとスペクターやスケルトンと共に姿を消した。
残されたレナ達は直ぐに行動に移った。
この近辺で今のゼロの治療に対応できる治療院は風の都市にしかない。
一刻も早く風の都市に戻る必要があるため、足の速いアイリアが先にいる王国軍の兵士の下に走って馬車を呼んできて、ゼロを乗せて搬送することにした。
ゼロの搬送の途中で北に向かう聖騎士団と魔導部隊の集団とすれ違う。
その数は合わせて優に100人を超える。
それ程の聖騎士と魔導師をもって対処に当たるドラゴン・ゾンビにゼロは立ち向かい、見事に足止めに成功したのだ。
しかし、そのゼロは今生死の境にいる。
レナ達は風の都市へと急いだ。
0
お気に入りに追加
286
あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい
新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。
国家錬金術師となって帰ってきた。
村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて……
そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。
「私に貴方の子種をちょうだい!」
「嫌です」
恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。
※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる