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希望なき後退戦
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ゼロは最初の接敵地点から約1キロ後退して開けた草原に再び防御線を張った。
今回は小部隊を分散して潜伏させて奇襲攻撃を仕掛けるつもりだ。
ゼロは草原の中を抜ける道の上に陣取っている。
背後に控えるのはバンシー、スペクターだ。
やがてゼロの前にドラゴン・ゾンビが到達した。
草原の真ん中でゼロとドラゴン・ゾンビが対峙するが、ドラゴン・ゾンビはゼロに向かって大きな咆哮を上げる。
「私を敵だと認識してくれましたか」
ゼロが右手を上げて合図をすると付近に潜伏していたアンデッド達が一斉に攻撃を始めた。
攻撃の中心はスペクターやレイスの衝撃魔法にウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎弾、スケルトンナイトの弓でドラゴン・ゾンビを四方から取り囲んで攻撃を加える。
個々の攻撃はドラゴン・ゾンビにダメージを与えるに至っていないが、ドラゴン・ゾンビは周囲のアンデッドに向かって反撃の素振りを見せる。
ゼロを敵として認識したせいか、たとえ小さな衝撃でも自分に向けられた攻撃だと理解したようだ。
「相変わらず効果は無に等しいですが、少しは戦いにはなってきましたか」
アンデッド達はドラゴン・ゾンビの脚や尾の間合いには入らずに攻撃を繰り返してドラゴン・ゾンビの注意を逸らす。
「やはり打撃力に欠けますね。ならば!」
ゼロが次の手を打つ。
ドラゴン・ゾンビの直下、腹の下から槍装備のスケルトンが這い出してきてドラゴン・ゾンビの腹に槍を突き立てる。
攻撃としてはやはり効果は無いが、真下からの突然の攻撃にドラゴン・ゾンビに混乱が見れた。
「直ぐに下がりなさい!」
槍を突き立てたスケルトン達は散り散りにその腹の下から離脱する。
地面に潜る者、後方に下がる者、脇に飛び出す者と様々だが、踏み潰されたり尾に吹き飛ばされたりとその数を減らす。
その中にはドラゴン・ゾンビの巨大な顎に捕らえられて噛み砕かれ、食われた者も複数いた。
「クッ!すみません・・・」
その様を見てゼロの表情が歪むが、それでも攻撃の手は緩めるわけにはいかない。
遠距離からの攻撃と直下からの奇襲を繰り返してドラゴン・ゾンビを翻弄するが、ゼロの攻勢もここまでだった。
アンデッド達に翻弄されていたドラゴン・ゾンビが周囲に毒のブレスを振り撒いたのだ。
当然ながらアンデッド達に毒は効かないが、それでも直撃を受けた多数のアンデッドが吹き飛ばされる。
そんな中で危険な程のダメージを受けたのは他ならぬゼロだった。
スペクターとバンシーがゼロの周囲に激しい気流を作り出して毒を拡散したが、それでも少なくない毒気がゼロを襲った。
「グッ!グッ・・・」
血の混ざった吐瀉物を吐き出しながら膝をついたゼロは用意しておいた解毒剤を飲み干した。
とりあえず死に至る程ではないが、ここでの戦闘継続は困難であると決断した。
「撤退します」
ゼロ達は更に後方に向けて後退した。
また後方に勝ち目のない防御陣を張らないといけない。
(・・・・・こそ・・に・・・与えて・・・・・スター)
後方に向かって駆けるゼロの脳裏にいつぞやの声が聞こえた。
レナとセイラは町の北側で警戒に当たっていた。
時折遥か北方から僅かな衝撃音が響いてくる。
ゼロが戦っている音なのだろうが2人は何も口にしなかった。
その背後では町民の退去は思いの外順調に進み、太陽が天頂に差しかかる前には退去は完了していた。
冷静に避難誘導に当たった衛士や駆けつけた王国軍、また、レナやレオン達の他にたまたま居合わせた冒険者達の尽力もさることながら、突然の事態に混乱を最小限に抑えて避難を決断した町民の行動力も大きな要因だった。
更に、早めの根回しにより国の対応も早かったので避難を迅速に進めることができたのだ。
町を退去する町民達はいち早く危険を知らせ、避難誘導に当たったレナ達に口々に感謝の言葉を告げて避難して行った。
確かに命は助かるだろうが、最低限の財産しか持ち出せない彼等にはこれから厳しい現実が待ち受けている筈だ。
それでも彼等は気丈に振る舞い、レナ達に感謝をしていた。
しかし、彼等の殆どは知らなかった。
彼等の避難誘導に当たっているレナ達の他に時間を稼ぐためにたった1人で北に向かった冒険者がいたことを知ることはなかった。
町の北の端で警戒に当たっていたレナの下にアイリアが駆けてきた。
「レナさん、セイラ、逃げ遅れの確認も終わり、住民の退去の最後の便が出発します。他の皆も南側に集まってます」
「わかりました。私達も行きましょう。住民の殿を守らなければいけませんからね」
アイリアの報告に頷くレナの背後でセイラは北に向かって跪いて祈りの言葉を紡いでいた。
それは小さな声の祈りであったが、何を祈っているのかは一目瞭然だった。
彼女が信仰するシーグルの女神が彼を守ってくれるかは分からない。
分からないが、たった1人で住民を守るために北に向かったゼロの無事をセイラは祈らずにはいられなかった。
祈りを終えたセイラはアイリアと共に走り出した。
最後に残ったレナは一度だけ北を振り返ると何も言わず、何も祈ることなく南に向かって駆け出した。
今回は小部隊を分散して潜伏させて奇襲攻撃を仕掛けるつもりだ。
ゼロは草原の中を抜ける道の上に陣取っている。
背後に控えるのはバンシー、スペクターだ。
やがてゼロの前にドラゴン・ゾンビが到達した。
草原の真ん中でゼロとドラゴン・ゾンビが対峙するが、ドラゴン・ゾンビはゼロに向かって大きな咆哮を上げる。
「私を敵だと認識してくれましたか」
ゼロが右手を上げて合図をすると付近に潜伏していたアンデッド達が一斉に攻撃を始めた。
攻撃の中心はスペクターやレイスの衝撃魔法にウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎弾、スケルトンナイトの弓でドラゴン・ゾンビを四方から取り囲んで攻撃を加える。
個々の攻撃はドラゴン・ゾンビにダメージを与えるに至っていないが、ドラゴン・ゾンビは周囲のアンデッドに向かって反撃の素振りを見せる。
ゼロを敵として認識したせいか、たとえ小さな衝撃でも自分に向けられた攻撃だと理解したようだ。
「相変わらず効果は無に等しいですが、少しは戦いにはなってきましたか」
アンデッド達はドラゴン・ゾンビの脚や尾の間合いには入らずに攻撃を繰り返してドラゴン・ゾンビの注意を逸らす。
「やはり打撃力に欠けますね。ならば!」
ゼロが次の手を打つ。
ドラゴン・ゾンビの直下、腹の下から槍装備のスケルトンが這い出してきてドラゴン・ゾンビの腹に槍を突き立てる。
攻撃としてはやはり効果は無いが、真下からの突然の攻撃にドラゴン・ゾンビに混乱が見れた。
「直ぐに下がりなさい!」
槍を突き立てたスケルトン達は散り散りにその腹の下から離脱する。
地面に潜る者、後方に下がる者、脇に飛び出す者と様々だが、踏み潰されたり尾に吹き飛ばされたりとその数を減らす。
その中にはドラゴン・ゾンビの巨大な顎に捕らえられて噛み砕かれ、食われた者も複数いた。
「クッ!すみません・・・」
その様を見てゼロの表情が歪むが、それでも攻撃の手は緩めるわけにはいかない。
遠距離からの攻撃と直下からの奇襲を繰り返してドラゴン・ゾンビを翻弄するが、ゼロの攻勢もここまでだった。
アンデッド達に翻弄されていたドラゴン・ゾンビが周囲に毒のブレスを振り撒いたのだ。
当然ながらアンデッド達に毒は効かないが、それでも直撃を受けた多数のアンデッドが吹き飛ばされる。
そんな中で危険な程のダメージを受けたのは他ならぬゼロだった。
スペクターとバンシーがゼロの周囲に激しい気流を作り出して毒を拡散したが、それでも少なくない毒気がゼロを襲った。
「グッ!グッ・・・」
血の混ざった吐瀉物を吐き出しながら膝をついたゼロは用意しておいた解毒剤を飲み干した。
とりあえず死に至る程ではないが、ここでの戦闘継続は困難であると決断した。
「撤退します」
ゼロ達は更に後方に向けて後退した。
また後方に勝ち目のない防御陣を張らないといけない。
(・・・・・こそ・・に・・・与えて・・・・・スター)
後方に向かって駆けるゼロの脳裏にいつぞやの声が聞こえた。
レナとセイラは町の北側で警戒に当たっていた。
時折遥か北方から僅かな衝撃音が響いてくる。
ゼロが戦っている音なのだろうが2人は何も口にしなかった。
その背後では町民の退去は思いの外順調に進み、太陽が天頂に差しかかる前には退去は完了していた。
冷静に避難誘導に当たった衛士や駆けつけた王国軍、また、レナやレオン達の他にたまたま居合わせた冒険者達の尽力もさることながら、突然の事態に混乱を最小限に抑えて避難を決断した町民の行動力も大きな要因だった。
更に、早めの根回しにより国の対応も早かったので避難を迅速に進めることができたのだ。
町を退去する町民達はいち早く危険を知らせ、避難誘導に当たったレナ達に口々に感謝の言葉を告げて避難して行った。
確かに命は助かるだろうが、最低限の財産しか持ち出せない彼等にはこれから厳しい現実が待ち受けている筈だ。
それでも彼等は気丈に振る舞い、レナ達に感謝をしていた。
しかし、彼等の殆どは知らなかった。
彼等の避難誘導に当たっているレナ達の他に時間を稼ぐためにたった1人で北に向かった冒険者がいたことを知ることはなかった。
町の北の端で警戒に当たっていたレナの下にアイリアが駆けてきた。
「レナさん、セイラ、逃げ遅れの確認も終わり、住民の退去の最後の便が出発します。他の皆も南側に集まってます」
「わかりました。私達も行きましょう。住民の殿を守らなければいけませんからね」
アイリアの報告に頷くレナの背後でセイラは北に向かって跪いて祈りの言葉を紡いでいた。
それは小さな声の祈りであったが、何を祈っているのかは一目瞭然だった。
彼女が信仰するシーグルの女神が彼を守ってくれるかは分からない。
分からないが、たった1人で住民を守るために北に向かったゼロの無事をセイラは祈らずにはいられなかった。
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