職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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呪われた鉱山4

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 時刻は夜半過ぎ、夜明けまでもまだ時間がある。
 激しい地震に避難中の住民が混乱に陥り、避難誘導に当たっていた衛士や王国軍の兵士が混乱を鎮めようとして走り回っていたが人手が足りていない。
 緊急の知らせを受けて付近に駐屯していた王国軍の軽歩兵の中隊が駆けつけたといってもその数は数十名、町の衛士と協力しても避難誘導で手一杯だ。 
 いずれ増援やドラゴン・ゾンビに対応する部隊も来るだろうが、それまでは今ここにいる者達で対応しなければならないのだ。
 混乱の中、レオン達も北の街道に集まってきた。
 もはや彼等にどうこう出来る状況ではない。
 ゼロは彼等を前にして口を開いた。

「ドラゴン・ゾンビが動き始めました。こちらに来ず山奥に止まってくれればいいのですが、そうもいかないでしょう。あの周囲には餌がありません。間違いなくここを目指してきます。ここで自らの毒気で人間をゾンビにして餌にするために。幸いにして相手は翼を持たない地竜のようですから、ここに来るまではまだ少しは時間があるでしょう」

 ゼロの推測を全員が緊張の面持ちで聞いている。
 疑問を感じたり質問をする余裕すらない。

「まだ時間がかかると言っても早ければ夜明け前にはここに到達します。遅くとも本日中には来るでしょう。その時に例え住民の避難が完了していても安全な場所まで離れられず、追いつかれる可能性があります。北の街道のどこかで少なくとも夕刻までは何としてもドラゴン・ゾンビを足止めする必要があります」

 その言葉に全員が覚悟を決めた。

「よし!やってやる!まさかドラゴンを相手に戦う日がくるとはな。返り討ちにしてやるぜ!」

 そう強がるレオンだが、全身が小刻みに震えている。
 カイル達も同様だ。
 セイラもアイリアも互いに頷きあっている。
 しかしゼロの言葉が全員を驚かせた。

「皆さんは住民の避難誘導と護衛に当たってください。ドラゴン・ゾンビは私1人で足止めに向かいます」

 その一言でレナが殺気立った。

「ゼロ!1人で行くなんて貴方どういうつもり!バカなことを言わないでっ!」

 言いながらゼロの胸ぐらを掴む。

「そうですよ。俺達だって冒険者だ。俺達だけ逃げるわけにはいきませんよ!」
「私も聖職者の端くれです。少しはお役に立てるはずです」

 レオンやセイラ達もゼロに詰め寄る。
 それでもゼロは首を横に振り、レナ達を見た。

「無理なんですよ。ドラゴン・ゾンビの周囲は生物を死霊に変質させる毒気、というか邪気に満ちています。ここから先は生者が抗うことのできない死霊達の領域です。誰1人として連れて行くわけにはいかないのです」
「死霊達の領域って、そこに行こうとしている貴方は死霊なんかじゃない。生きているのよ」
「私は大丈夫です。前にも言いましたが私は死霊の気を纏っています。奴の邪気にも多少の耐性があります。加えて解毒薬を飲んでおけば何とかなるでしょう。ここから先は私の仕事場です」

 レナが腰に帯びた短剣を抜いてゼロの喉元に突きつけた。

「ふざけるんじゃないわよ!貴方1人では行かせない!」

 そして短剣の切っ先を返して自らの喉元にあてがう。

「どうしても1人で行く気ならば私を刺しなさい!私を刺し殺して私の骸を連れていきなさい!アンデッドになってどこまでも付いて行ってあげる」

 食い下がりながら身につけていたアミュレットを投げ捨てる。
 その鬼気迫る有り様にレオン達は声をかけることもできなかった。
 ここまでレナのされるがままになっていたゼロはレナが握る短剣を叩き落とすと逆にレナの胸ぐらを掴んだ。

「貴女こそ馬鹿なことを言うんじゃありません!レナさんを刺すなんてことできるわけないじゃないですか。それに、貴女がここに残らずして誰が住民を守るんですか?軍や衛士だけでは手が足りないんですよ。貴女達はここに残って住民の避難を見届け、その殿を守らなければいけません。その上でレナさんはここにいるレオンさん達を指揮しなければいけません。これは上位冒険者の責務ですよ!」

 レナが俯き、ゼロの胸ぐらを掴むその手が離れた。

「それに、レナさん達が住民を守るために残ってくれるからこそ私は北に向かえるんです」

 ゼロもレナから手を離し、レナはゼロから離れた。

「分かったわ。私達はここに残って住民を安全な場所まで護衛する」

 レナが他の皆に振り返る。
 レオン、カイル、ルシア、マッキそしてセイラとアイリアが決意の表情で頷いた。
 ゼロは足元に落ちていたアミュレットを拾ってレナに差し出す。
 レナはアミュレットごとゼロの手を握り締めた。

「ゼロ、1つだけ・・1つだけでいいから約束しなさい!必ず生きて帰ってくると!」

 ゼロは困ったような笑みを浮かべた。

「最善を尽くします」

 しかし、その言葉ではレナは納得しない。

「生きて帰ると約束しなさい!嘘でもいいからっ!」

 ゼロは真っ直ぐにレナの瞳を見た。

「死ぬつもりはありませんが、約束は・・・できません」

 ゼロの手が離れてレナの手にアミュレットだけが残った。
 ゼロは踵を返して街道を北に向かって歩き出す。

「夕暮れまでです。夕暮れまで時間を稼げば住民が町を離れてある程度は安全な場所まで避難できるでしょう。それまでは死霊術師の意地にかけて奴を止めてみせます」

 レナも振り返ってゼロに背を向ける。

「ゼロを死なせるわけにはいきません。一刻も早く避難を完了させましょう!」

 レナの声に他の6人が町中に散って行った。
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