職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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呪われた鉱山3

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 ドラゴンとはこの世界に生きる生物の頂点に君臨する覇者であり、長い年月を生きた古生竜と呼ばれる個体はその怒りに触れれば国が滅ぶとまで言われている。
 また、その絶対的な存在であるドラゴンが呪い等の原因でアンデッド化したものがドラゴン・ゾンビである。
 絶対的な邪悪なる存在であり、一度現れたならば天の災害と同じで人間が抗うことができないと言い伝えられている。

「鉱山にドラゴン・ゾンビがいるって確かなの?」
「はい、間違いありません。元は地竜だったものがアンデッド化したのだと思います。今はまだ休眠していますが、遠からず活動を始めるでしょう」

 ゼロの説明にレナ達は途方に暮れる。
 とてもではないが自分達では手に負えない。

「この鉱山は呪われています。その呪いの毒性が休眠していた地竜をドラゴン・ゾンビに変えたんです。ドラゴン・ゾンビは生物を食べません。ゾンビなどのアンデッドを補食します。鉱山の呪いでゾンビ化した人々は奴の餌としてここで彷徨っているんです。今はまだ微睡みの中にいるのであまり餌を食べませんが、目を覚まして活動を始めれば間違いなく人里を襲います。その前に手を打たねばなりません」

 ゼロ達は急いで鉱山を離れて北の町に戻った。
 そして町の人々にドラゴン・ゾンビの存在を明らかにして住民の避難を開始した。
 事前に根回しをしていたこと、リックスの証言、ゼロ達の報告、そして何よりも鉱山宿舎が全滅したという事実により人々は避難することを受け入れ、知らせを受けて駆けつけた王国軍の中隊の護衛の下、大きな混乱もなく避難が開始された。
 だが、全ての住民が町を離れるまではまだまだ時間がかかる。
 ゼロ達は町に止まり鉱山の監視を続けたが、その傍らでゼロはバンシーを召喚して風の都市まで伝令を出すことにした。
 ゼロは手紙をしたためてバンシーに託す。

「この手紙を一刻も早く風の都市のギルドに届けてください」

 バンシーは手紙を受け取ってしっかりと胸に抱いた。

「承りました主様、必ずやお届けして直ぐに主様の下に戻ってまいります」

 言い残してバンシーは姿を消した。

「ゼロさん、住民の避難は明日の午後までかかるそうです」

 セイラとアイリアが避難の進捗状況を知らせに来た。
 間もなく夕暮れの時間だが、避難は夜通し続けられる予定だ。

「明日の午後ですか。間に合えばよいのですが。今夜は長い夜になりますね」

 ゼロは北の鉱山を見上げた。

 その頃、風の都市の冒険者ギルドにゼロの伝令のバンシーが到着した。
 彼女も下位アンデッドのレイスだった頃はゼロの使いで来る度に大騒ぎになったが、今は黒髪に赤い瞳の美女の姿である。
 ギルドに立ち入っても混乱は起きない。
 澄まし顔でギルドのカウンターの前に立つ。

「あら?ゼロさんの。またお使いですか?」

 バンシーに気付いたシーナが笑顔を見せる。
 シーナの営業スマイルもここまで来ると名人芸である。
 かつて、ゼロの使いのレイスを見る度に腰を抜かしていた頃とは大違いだ。

「主様からです」

 バンシーはシーナにゼロの手紙を手渡した。
 笑顔で手紙を受け取ったシーナだが、その内容を読んだ彼女からみるみるうちに笑顔が消えた。

「ドラゴン・ゾンビ、そんな・・」

 血の気が引いた表情で立ち上がったシーナはそれでも自分の仕事を全うすべくギルド長に報告に向かう。
 それを見届けたバンシーは北の町で待つ主の下に戻るべくその場から姿を消した。

 北の町に夜の帳が下りた。
 それでも住民の避難は続いている。
 ゼロは北の街道に立ち警戒に当たっていた。
 日が暮れた頃から小さな地震が繰り返し起きている。

「時間がありません。なんとか避難が完了するまで持ってください」

 ゼロは鉱山を睨んだ。

「ゼロ、少しは休んだら?」

 背後から声をかけられてゼロは振り返った。
 そこにはレナが佇んでいた。

「町の人が軽い食事を用意してくれたわ。持ってきたから食べましょう」

 レナにサンドイッチを手渡され、ゼロは立ったまま食べ始めた。

「皆さん避難で大変なのに、ありがたいですね」

 手の中のサンドイッチをしみじみと見つめる。

「なんとしても、彼等を守らなければいけませんね」

 再びゼロは鉱山に目を向けた。
 そんなゼロの背後にレナが寄り添う。

「またゼロを巻き込んでしまったわね」
「そんなことはありません。貴女に呼ばれなくても私はここに来たでしょう。ただ、その場合はドラゴン・ゾンビが暴れ出してからになったはずです。そうしたら間違いなく被害は大きくなりました。だから、レナさんに呼んでもらって良かったんですよ」

 ゼロは振り返ることなく話す。
 そんなゼロの背中にレナは額を当てた。

「本当にバカね。少しは迷惑だって言ってみたらどうなの?」
「いつもレナさんには馬鹿だと言われますね」
「だって、本当にバカなんだもの。いつも何の報いもないのに他人のために働いて、それで傷ついて。バカ以外の何者でもないわ」
「そういう性分ですから」

 ゼロの背中に額を当てたままレナの手がゼロの手に伸びる。
 その指先が触れる直前

・・ゴゴゴゴゴ!

これまでに無い程の大きな地震が起きる。
 レナは咄嗟にゼロから離れた。
 鉱山を睨んでいたゼロの表情が険しさを増した。

「・・・来た!間に合わなかった」

 ゼロの言葉は勝ち目の無い戦いの幕開けを示していた。
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