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祭りの後
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闘技場は異様な雰囲気に包まれていた。
イザベラに殺到したアンデッド達は動きを止めているが、機能停止しているわけではない。
その証拠に彼等はイザベラへの攻撃を止め、離れていき、倒れているゼロの周囲に集結した。
ゼロが敗れたことを理解し、自分達の意思で攻撃を止めたのだ。
「ゼロッ!ゼロッ!しっかりしなさい!」
「ゼロさん、大丈夫ですか?」
戦いが終わり、闘技場に駆け上がったレナがゼロを抱きかかえる。
シーナも観客席から降りてきてゼロの傍らに膝をついている。
ゼロは2人の呼びかけに答えることは無く、呼吸は浅いものの落ち着いてはいた。
気を失っているだけのようだ。
レナとシーナが抱き起こそうとするが、女2人の力では敵わない。
「魔導師様、私達にお任せください」
アンデッドの中で唯一言葉を発することができるバンシーがレナ達に声を掛けた。
「主様は私達がお運びします」
バンシーの指示でスケルトンナイト3体がゆっくりと恭しくゼロを持ち上げる。
そして左右をスペクターとウィル・オー・ザ・ウィスプが守り、殿にバンシーが付いて厳かに歩み出す。
闘技場を降りる際、それを見送るイザベラとヘルムントに振り向いたバンシーは優雅にカーテシーを披露した。
それは先程までの骨や臓器を露出した悍ましい姿ではなく、黒髪に燃えるような赤い瞳の美女の姿だった。
運び出されていくゼロを見送るイザベラが呟いた。
「何なんですの?あの男。ここまで追い詰められたのは初めてです。そら恐ろしいですわ」
「うむ、奴が自分の道をどう歩むのかは分からぬが、今は敵に回すべきではないだろう。今はな・・・」
ヘルムントも敗者に向けて祝福の祈りを送った。
ゼロが目を覚ましたのは控え室に備え付けられたベッドの上だった。
ゼロを控え室に運んだ後、アンデッド達は姿を消していた。
「気が付きましたか?体調はいかがですか?」
ベッドの傍らにはシーナがいた。
「大丈夫です。すみません、勝てませんでした」
身体を起こしたゼロはシーナに詫びた。
シーナが慌てて両手を振る。
「とんでもないっ!ゼロさんは頑張ってくれました。そして準優勝ですよ。十分過ぎる程の結果です。それに、私はゼロさんが無事だっただけでいいんです。ギルドからの指名依頼として大会に出て貰いましたけど、やっぱり心配でした」
ゼロは室内を見回すが、レナの姿がない。
「レナさんならば表彰式ですよ。ゼロさんは意識が戻ってなかったし、仮に戻っていたとしても式には出たがらないだろうからって、ゼロさんの代わりに出て貰っています」
ゼロは心底安心した。
シーナの言うとおり、表彰式への出席は願い下げだが、これほど大きな大会の表彰式に準優勝者が出ないわけにもいかないだろう。
ゼロの性格をよく知るレナがそれを予測して代わりに出てくれたようだ。
「まったく、シーナさんにもそうですが、レナさんには頭が上がりませんよ」
ゼロが呟いた時
「そう思うなら少しは感謝しなさい」
表彰式を終えたレナが戻ってきた。
その手には準優勝の勲章と賞金が抱えられていた。
その金額30万レト。
ゼロがギルドからの大会出場依頼で受けた報酬金は旅費や滞在費ギルド持ちで1万レトだが、そこで少し問題が発生した。
例によって頭が固く、融通の利かないゼロが
「私が契約した報酬金はギルドからの1万レトです。その賞金はギルドが受け取ってください」
と言い出して賞金を受け取ろうとしないのである。
因みにサポートのレナへの報酬金はゼロよりも少し安い7千レトだったが、彼女は何も言わない。
しかし、そこは抜け目のないシーナである。
契約書の中に小さな字で
大会で得た賞金はゼロとレナとギルドで等分する
と記載しておいた。
つまり、準優勝の賞金が30万レトならば10万レトずつの三等分である。
それを見せられてはゼロも賞金を受け取るしかなかった。
しかも、ギルドにしてみればゼロとレナに報酬金を支払っても黒字である。
非常に明るい笑顔で説明するシーナを見たゼロはシーナには逆らえないと実感した。
こうして闘技場を後にして宿泊に戻った3人だが、王都への滞在も今夜が最後、明日には風の都市に帰る予定である。
この夜、王都の冒険者ギルド本部に併設された酒場ではゼロとレナとシーナ、そしてライズとイリーナで酒を酌み交わしていた。
ゼロが以前からの約束を果たすべくライズとイリーナを誘っており、ゼロとレナの準優勝祝いを兼ねて5人で飲み始めたのだが、そこに準決勝で敗れたオックスとリリスが合流した。
更にマイルズがセシルとメイド長を伴い振る舞い酒を持参して参入、最後にはミラーやゲイル達までが乱入していつの間にか大宴会となっていた。
ゼロと戦った者達がゼロとの戦いについて語り合い、互いの健闘を称え合い、ゼロの準優勝を祝った。
宴は夜遅くまで続き、ゼロは自分のことを仲間、友、強敵等と呼ぶ人々に囲まれ酒を酌み交わしながら語り合った。
この夜ゼロは初めて人の輪の心地よさをしみじみと味わったのだった。
イザベラに殺到したアンデッド達は動きを止めているが、機能停止しているわけではない。
その証拠に彼等はイザベラへの攻撃を止め、離れていき、倒れているゼロの周囲に集結した。
ゼロが敗れたことを理解し、自分達の意思で攻撃を止めたのだ。
「ゼロッ!ゼロッ!しっかりしなさい!」
「ゼロさん、大丈夫ですか?」
戦いが終わり、闘技場に駆け上がったレナがゼロを抱きかかえる。
シーナも観客席から降りてきてゼロの傍らに膝をついている。
ゼロは2人の呼びかけに答えることは無く、呼吸は浅いものの落ち着いてはいた。
気を失っているだけのようだ。
レナとシーナが抱き起こそうとするが、女2人の力では敵わない。
「魔導師様、私達にお任せください」
アンデッドの中で唯一言葉を発することができるバンシーがレナ達に声を掛けた。
「主様は私達がお運びします」
バンシーの指示でスケルトンナイト3体がゆっくりと恭しくゼロを持ち上げる。
そして左右をスペクターとウィル・オー・ザ・ウィスプが守り、殿にバンシーが付いて厳かに歩み出す。
闘技場を降りる際、それを見送るイザベラとヘルムントに振り向いたバンシーは優雅にカーテシーを披露した。
それは先程までの骨や臓器を露出した悍ましい姿ではなく、黒髪に燃えるような赤い瞳の美女の姿だった。
運び出されていくゼロを見送るイザベラが呟いた。
「何なんですの?あの男。ここまで追い詰められたのは初めてです。そら恐ろしいですわ」
「うむ、奴が自分の道をどう歩むのかは分からぬが、今は敵に回すべきではないだろう。今はな・・・」
ヘルムントも敗者に向けて祝福の祈りを送った。
ゼロが目を覚ましたのは控え室に備え付けられたベッドの上だった。
ゼロを控え室に運んだ後、アンデッド達は姿を消していた。
「気が付きましたか?体調はいかがですか?」
ベッドの傍らにはシーナがいた。
「大丈夫です。すみません、勝てませんでした」
身体を起こしたゼロはシーナに詫びた。
シーナが慌てて両手を振る。
「とんでもないっ!ゼロさんは頑張ってくれました。そして準優勝ですよ。十分過ぎる程の結果です。それに、私はゼロさんが無事だっただけでいいんです。ギルドからの指名依頼として大会に出て貰いましたけど、やっぱり心配でした」
ゼロは室内を見回すが、レナの姿がない。
「レナさんならば表彰式ですよ。ゼロさんは意識が戻ってなかったし、仮に戻っていたとしても式には出たがらないだろうからって、ゼロさんの代わりに出て貰っています」
ゼロは心底安心した。
シーナの言うとおり、表彰式への出席は願い下げだが、これほど大きな大会の表彰式に準優勝者が出ないわけにもいかないだろう。
ゼロの性格をよく知るレナがそれを予測して代わりに出てくれたようだ。
「まったく、シーナさんにもそうですが、レナさんには頭が上がりませんよ」
ゼロが呟いた時
「そう思うなら少しは感謝しなさい」
表彰式を終えたレナが戻ってきた。
その手には準優勝の勲章と賞金が抱えられていた。
その金額30万レト。
ゼロがギルドからの大会出場依頼で受けた報酬金は旅費や滞在費ギルド持ちで1万レトだが、そこで少し問題が発生した。
例によって頭が固く、融通の利かないゼロが
「私が契約した報酬金はギルドからの1万レトです。その賞金はギルドが受け取ってください」
と言い出して賞金を受け取ろうとしないのである。
因みにサポートのレナへの報酬金はゼロよりも少し安い7千レトだったが、彼女は何も言わない。
しかし、そこは抜け目のないシーナである。
契約書の中に小さな字で
大会で得た賞金はゼロとレナとギルドで等分する
と記載しておいた。
つまり、準優勝の賞金が30万レトならば10万レトずつの三等分である。
それを見せられてはゼロも賞金を受け取るしかなかった。
しかも、ギルドにしてみればゼロとレナに報酬金を支払っても黒字である。
非常に明るい笑顔で説明するシーナを見たゼロはシーナには逆らえないと実感した。
こうして闘技場を後にして宿泊に戻った3人だが、王都への滞在も今夜が最後、明日には風の都市に帰る予定である。
この夜、王都の冒険者ギルド本部に併設された酒場ではゼロとレナとシーナ、そしてライズとイリーナで酒を酌み交わしていた。
ゼロが以前からの約束を果たすべくライズとイリーナを誘っており、ゼロとレナの準優勝祝いを兼ねて5人で飲み始めたのだが、そこに準決勝で敗れたオックスとリリスが合流した。
更にマイルズがセシルとメイド長を伴い振る舞い酒を持参して参入、最後にはミラーやゲイル達までが乱入していつの間にか大宴会となっていた。
ゼロと戦った者達がゼロとの戦いについて語り合い、互いの健闘を称え合い、ゼロの準優勝を祝った。
宴は夜遅くまで続き、ゼロは自分のことを仲間、友、強敵等と呼ぶ人々に囲まれ酒を酌み交わしながら語り合った。
この夜ゼロは初めて人の輪の心地よさをしみじみと味わったのだった。
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