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秋の訪れ
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季節は巡り秋になった。
風の都市に戻ったゼロは以前と同じように淡々と余りものの依頼を受ける日々を送っていた。
そんないつもと変わらぬ日のつもりでゼロは普段通りにギルドに顔を出したが、今日はいつもと違った。
ギルドのカウンターでシーナが手招きをしている。
「シーナさん、どうしました?」
ゼロがカウンター前に立つとシーナは普段の3割増しの営業スマイルを見せている。
ゼロの心の中の警鐘が鳴り響く。
シーナがこの笑顔を浮かべている時は何かを企んでいる時だ。
「ゼロさん、秋ですね!」
「はい、秋ですね」
「秋といえば秋祭りの季節です」
「はぁ、あまり興味はありませんが・・・。で、何ですか?」
「王都でも盛大な秋祭りが開催されるんですよ」
ゼロの脳裏に早急に撤退すべきとの指令が流れる。
「その秋祭りのイベントで国の各機関の腕自慢が集まって闘技大会が開催されるんです。各都市のギルドや衛士、軍の各隊の代表が集まって、それはもう大々的に。王都の秋祭りの一大イベントです」
ゼロは後ずさる。
「ゼロさん、風の都市のギルド代表として闘技大会に出場してください」
「嫌です」
ゼロはカウンターを離れようとするもその手をシーナが掴み、更に背後にはいつの間にかレナが立っていてその退路を断っている、見事な連携だ。
シーナの営業スマイルが更に2割程増した。
「嫌じゃありません。これはギルドからの指名依頼です」
「そんなっ!」
ゼロが助けを求めて周囲を見渡すと、事務室内のギルド職員はことごとく目を逸らした。
丁度執務室の前に立っていたギルド長の目も
「諦めろ」
と訴えている。
「訳を聞かせてください。私なんかが出場したら風の都市の評判を損ないますよ」
必死で訴えるゼロだが、例によって全てはシーナの想定の範囲内である。
「これはギルドのためでもあるんです。以前の聖務院の一件はどうにか事なきを得ましたが、ある意味ではうやむやになっただけです。今後、同様の事案を発生させないために風の都市のギルドには腕の立つネクロマンサーがいる、と広く知ってもらいましょう」
「お断りします」
「だめです。もうエントリーしてしまいました」
「そんな横暴です」
「いいですか?うやむやのままで放置するとギルドの運営に障害が出ます。組織力のある聖務院がまた何か手を打ってこないとも限りません。だからこそ、この際にゼロさんの存在を堂々と公表したほうが良いのです」
「だからといって闘技大会に出る必要はないでしょう」
「いえ、むしろゼロさんのネクロマンサーの実力を見せつけて風の都市のギルドの宣伝に役立ってもらいます」
「死霊術師が宣伝になるはずはないでしょう」
「そこは、宣伝の仕方ですよ。所謂ダークヒーロー的にすればね。一般的には怖い印象のネクロマンサーが所属する風の都市のギルドは凄いとか思ってもらえればいいですね」
「柄じゃありません」
無駄な足掻きを続けるゼロだが、それを聞いていたレナがとどめを刺す。
「ゼロ、貴方が聖務院に捕まったときにシーナさん達がどれだけ心配したと思うの?一応のお礼をしたから終わりなのかしら?今も貴方が断るとシーナさん達が困るのよ。それでも嫌と言うの?」
レナに睨まれてゼロは抵抗力を失い、聖務院の尋問にも折れなかったゼロの心が折れた。
「・・・はい。分かりました」
シーナとレナは笑顔で頷き合った。
「しかし、ギルドの冒険者や軍の実力者が集う闘技大会って、命がけの戦いになるんじゃないですか?」
ゼロが素朴な疑問を投げかけた。
ゼロの疑問も尤もである。
先の特務兵との戦いではないが、上位冒険者等の実力者同士の戦いとなれば、命がけの戦いになり、例え勝利したとしても無傷では済まない。
そのような状況で闘技大会など成立しないのではないか。
「ああ、それでしたら問題ありません。出場者は特殊な魔導具を着けて戦います。その魔導具を着けた者同士の戦いで致命傷を受けると命の代わりに魔導具が壊れるんです。ですので、闘技大会のルールでは相手を降参させるか、魔導具を破壊することで勝敗が決まります」
「随分と都合のいい魔導具があるんですね」
「でも別の魔導具に囲まれた範囲内でしか発動しないので訓練に使う位しか役に立たないそうです。ただ、その効果の範囲内では剣でも魔法でも、当事者の発する攻撃には全て発動します。これはゼロさんのアンデッドの攻撃も含まれますから大丈夫です、存分にやっちゃってください」
「はぁ、わかりました」
引き受けたもののゼロは全く乗り気ではない。
それを見抜いているレナが口を開いた。
「ゼロ、貴方出場はするけど適当にお茶を濁してわざと負ける気でしょう?」
「うっ!」
図星を突かれてゼロは言葉に詰まる。
「でも無駄よ。私がサポートで出場するんだから」
「サポートってなんですか?」
シーナが再び説明する。
「この大会はサポートとしてバックアップ要員の出場が認められています。お祭りのイベントですからね、その方が盛り上がるんですよ。サポートは闘技場の中には入れませんが外周に位置してそこから魔法や弓矢等での遠隔攻撃や支援で選手をバックアップします。サポートを付けるか否かは自由ですが、サポートに対しては攻撃ができませんから相手にサポートがいると厄介ですよ」
「なるほど」
「で、私がゼロのサポートになってあげるから、手を抜いても分かるわよ。無様な戦い方をしたら私の魔法が背中から狙っているわよ」
レナが悪戯っぽく笑った。
「それではサポートでなく監視じゃないですか!」
「大丈夫よ、貴方が本気で戦う限りは全力でサポートするから、風の都市のネクロマンサーの名を響き渡らせてあげるわ」
「監視ということであれば、私もギルド代表として随行します。ゼロさんの勇姿を楽しみにしています」
レナとシーナは祭りを楽しむ気満々である。
ゼロが頭の上がらない2人にここまで段取りされては自分には何の選択肢も無いことを理解した。
こうなっては闘技大会に出て全力で戦うしか道はないのである。
シーナとレナは声を揃えてゼロに通告した。
「「出発は明後日、逃げたら承知しませんよ!」」
風の都市に戻ったゼロは以前と同じように淡々と余りものの依頼を受ける日々を送っていた。
そんないつもと変わらぬ日のつもりでゼロは普段通りにギルドに顔を出したが、今日はいつもと違った。
ギルドのカウンターでシーナが手招きをしている。
「シーナさん、どうしました?」
ゼロがカウンター前に立つとシーナは普段の3割増しの営業スマイルを見せている。
ゼロの心の中の警鐘が鳴り響く。
シーナがこの笑顔を浮かべている時は何かを企んでいる時だ。
「ゼロさん、秋ですね!」
「はい、秋ですね」
「秋といえば秋祭りの季節です」
「はぁ、あまり興味はありませんが・・・。で、何ですか?」
「王都でも盛大な秋祭りが開催されるんですよ」
ゼロの脳裏に早急に撤退すべきとの指令が流れる。
「その秋祭りのイベントで国の各機関の腕自慢が集まって闘技大会が開催されるんです。各都市のギルドや衛士、軍の各隊の代表が集まって、それはもう大々的に。王都の秋祭りの一大イベントです」
ゼロは後ずさる。
「ゼロさん、風の都市のギルド代表として闘技大会に出場してください」
「嫌です」
ゼロはカウンターを離れようとするもその手をシーナが掴み、更に背後にはいつの間にかレナが立っていてその退路を断っている、見事な連携だ。
シーナの営業スマイルが更に2割程増した。
「嫌じゃありません。これはギルドからの指名依頼です」
「そんなっ!」
ゼロが助けを求めて周囲を見渡すと、事務室内のギルド職員はことごとく目を逸らした。
丁度執務室の前に立っていたギルド長の目も
「諦めろ」
と訴えている。
「訳を聞かせてください。私なんかが出場したら風の都市の評判を損ないますよ」
必死で訴えるゼロだが、例によって全てはシーナの想定の範囲内である。
「これはギルドのためでもあるんです。以前の聖務院の一件はどうにか事なきを得ましたが、ある意味ではうやむやになっただけです。今後、同様の事案を発生させないために風の都市のギルドには腕の立つネクロマンサーがいる、と広く知ってもらいましょう」
「お断りします」
「だめです。もうエントリーしてしまいました」
「そんな横暴です」
「いいですか?うやむやのままで放置するとギルドの運営に障害が出ます。組織力のある聖務院がまた何か手を打ってこないとも限りません。だからこそ、この際にゼロさんの存在を堂々と公表したほうが良いのです」
「だからといって闘技大会に出る必要はないでしょう」
「いえ、むしろゼロさんのネクロマンサーの実力を見せつけて風の都市のギルドの宣伝に役立ってもらいます」
「死霊術師が宣伝になるはずはないでしょう」
「そこは、宣伝の仕方ですよ。所謂ダークヒーロー的にすればね。一般的には怖い印象のネクロマンサーが所属する風の都市のギルドは凄いとか思ってもらえればいいですね」
「柄じゃありません」
無駄な足掻きを続けるゼロだが、それを聞いていたレナがとどめを刺す。
「ゼロ、貴方が聖務院に捕まったときにシーナさん達がどれだけ心配したと思うの?一応のお礼をしたから終わりなのかしら?今も貴方が断るとシーナさん達が困るのよ。それでも嫌と言うの?」
レナに睨まれてゼロは抵抗力を失い、聖務院の尋問にも折れなかったゼロの心が折れた。
「・・・はい。分かりました」
シーナとレナは笑顔で頷き合った。
「しかし、ギルドの冒険者や軍の実力者が集う闘技大会って、命がけの戦いになるんじゃないですか?」
ゼロが素朴な疑問を投げかけた。
ゼロの疑問も尤もである。
先の特務兵との戦いではないが、上位冒険者等の実力者同士の戦いとなれば、命がけの戦いになり、例え勝利したとしても無傷では済まない。
そのような状況で闘技大会など成立しないのではないか。
「ああ、それでしたら問題ありません。出場者は特殊な魔導具を着けて戦います。その魔導具を着けた者同士の戦いで致命傷を受けると命の代わりに魔導具が壊れるんです。ですので、闘技大会のルールでは相手を降参させるか、魔導具を破壊することで勝敗が決まります」
「随分と都合のいい魔導具があるんですね」
「でも別の魔導具に囲まれた範囲内でしか発動しないので訓練に使う位しか役に立たないそうです。ただ、その効果の範囲内では剣でも魔法でも、当事者の発する攻撃には全て発動します。これはゼロさんのアンデッドの攻撃も含まれますから大丈夫です、存分にやっちゃってください」
「はぁ、わかりました」
引き受けたもののゼロは全く乗り気ではない。
それを見抜いているレナが口を開いた。
「ゼロ、貴方出場はするけど適当にお茶を濁してわざと負ける気でしょう?」
「うっ!」
図星を突かれてゼロは言葉に詰まる。
「でも無駄よ。私がサポートで出場するんだから」
「サポートってなんですか?」
シーナが再び説明する。
「この大会はサポートとしてバックアップ要員の出場が認められています。お祭りのイベントですからね、その方が盛り上がるんですよ。サポートは闘技場の中には入れませんが外周に位置してそこから魔法や弓矢等での遠隔攻撃や支援で選手をバックアップします。サポートを付けるか否かは自由ですが、サポートに対しては攻撃ができませんから相手にサポートがいると厄介ですよ」
「なるほど」
「で、私がゼロのサポートになってあげるから、手を抜いても分かるわよ。無様な戦い方をしたら私の魔法が背中から狙っているわよ」
レナが悪戯っぽく笑った。
「それではサポートでなく監視じゃないですか!」
「大丈夫よ、貴方が本気で戦う限りは全力でサポートするから、風の都市のネクロマンサーの名を響き渡らせてあげるわ」
「監視ということであれば、私もギルド代表として随行します。ゼロさんの勇姿を楽しみにしています」
レナとシーナは祭りを楽しむ気満々である。
ゼロが頭の上がらない2人にここまで段取りされては自分には何の選択肢も無いことを理解した。
こうなっては闘技大会に出て全力で戦うしか道はないのである。
シーナとレナは声を揃えてゼロに通告した。
「「出発は明後日、逃げたら承知しませんよ!」」
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