職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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特務兵との戦い4

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 ライズとイリーナはまるで偶然街中で友人に出会ったかのようにゼロに歩み寄った。
 特務兵など一瞥もしない。

「久しぶりね、ゼロ」
「イリーナさんにライズさん?どうしたんですか?」

 突然現れた2人に流石のゼロも面食らっている。

「いや、お前が連行されているのをたまたま見かけてな。何をやらかしたのかと思ってな」

 ライズは笑いながらゼロの背後に控えるスケルトンナイトに目を向けた。

「お?お前には見覚えがあるぞ。その目の傷、あの時のスケルトンだな?俺達のこと覚えてるか?」

 スケルトンナイトはライズに頭を垂れた。

「ハハッ、覚えていてくれたか」

 ライズは嬉しそうに笑った。

「それで私達は何があったのか調べてみたの。久しぶりに風の都市まで行ってみたりしてね。シーナやギルド長に貴方が拘束された経緯も聞いてきたのよ」
「結局ゼロはあの頃と何も変わってなく、拘束される理由もないことが分かったってワケだ。で、急いで戻ってきてみればこんな所で戦っているしな」

 そこで初めてライズは特務兵の2人を見た。

「見たところお前達は聖務院の奴らだな。噂で聞いたことがあるが、裏仕事をする奴らだろう?」

 イザベラとアランは何も答えない。

「ゼロに濡れ衣でも着せて抹殺しようって魂胆か? 悪いな、そんなことさせないぜ、俺達はゼロには世話になったからな」

 ライズは剣を抜き、イリーナは弓を構える。
 イザベラは呆れたように口を開いた。

「貴方達、よろしいんですの?聖務院を敵に回すことになるんですのよ?」

イリーナが笑う。

「そんなことを言っても無駄よ。正規兵でない貴方達が動いているんですもの、公にはできないことなんでしょう?」

 イリーナが不適に笑うが、それに慌てたのはゼロである。

「待ってくださいライズさん、イリーナさん!貴方達まで巻き込むわけにはいきません!」

 しかし、ライズ達はそんなことは気にかけていない。

「お前ならそう言うだろうと思っていたがな、もう遅いぜ。俺達が首を突っ込んだことが奴らに知られたんだ。このままじゃ終わらないぜ」

 ライズの言葉にアランが頷いた。

「その通りだ。そこの魔術師といい、お前等といい、そんな不浄な奴の為に命を賭けるなんて愚か者のすることだぞ」
「ふんっ、ゼロとは以前にパーティーを組んだことがあってな。その時に世話になったんだ。俺達は冒険者だ。一度でもパーティーを組んだ奴は仲間だ。真っ当な冒険者は仲間を見捨てないもんだぜ」

 ライズの言葉にイリーナとレナが強く頷いた。

「そんなわけだからお前等に気を使ってもらう必要はねえよ。それにお前等2人、相当な手練れだろうがな、俺達2人がゼロに加勢するんだ、お前等もただでは済まないぜ?」

 イザベラがため息をついた。

「仕方ありませんわね。貴方達全員神の御下に送って差し上げます。でも、ネクロマンサーだけは神も迎えてはくれないでしょうが」

 アランとイザベラも剣を構えた。
 もはやライズ達も戦いは避けられない状況だ。
 ゼロも覚悟を決めた。

「こうなったら皆で戦って生き残るしか道はありませんね」

 ゼロの言葉にライズ達が笑みを浮かべ、レナを見た。

「ライズ・サイファーだ」
「イリーナ・ルフトよ、よろしくね」

 名乗る2人にレナも微笑みながら答える。

「レナ・ルファードです」

 ライズは特務兵の2人に向き直った。

「さて、2人とも桁違いに強そうだな。ならば、俺とイリーナはそこの男の相手をするか。女の方はゼロ達に任せていいか?」

 ゼロは頷いてライズとイリーナの前に大盾を持つスケルトンナイトとスペクター2体、ウィル・オー・ザ・ウィスプを配置した。

「スケルトンナイトはイリーナさんの護衛に使ってください。スペクター達はライズさんの邪魔をしない程度に相手の邪魔をしてくれますよ」

 ライズは笑った。

「そりゃ心強いな」

 そしてゼロは自らの前にバンシーに攻撃型のスケルトンナイト2体、スケルトンウォリアー20体を召喚する。

「その前に、あの2人には死霊術師との戦いの厄介さを嫌というほど味わってもらいます。ライズさん達は暫く見ていてください。ただ、時期を見て飛び込んでくれて構いません」

 ゼロは剣を天に掲げた。
 それを合図にアンデッド達が一斉に動き出して特務兵の2人に殺到する。
 イザベラが2人の周囲に防壁の祈りを展開しようとしたその時、彼女の足下の地中から更に複数のスケルトンウォリアーが出現し、それに気を取られた僅かな隙に正面から殺到するスケルトンウォリアー達が襲いかかった。
 不意打ちに守りを固められなかったアランとイザベラはスケルトンウォリアーの集団を相手に接近戦に持ち込まれたが、そこは最精鋭の特務兵、多数のアンデッドに囲まれてもまるで危なげなく立ち回る。
 周囲のスケルトンウォリアーを剣戟で打ち砕いて数を減らす。
 しかし、ゼロは次々とスケルトンウォリアーを召喚して前線に投入していく。
 一見すると不毛な消耗戦に見えるがそうではない。
 スケルトンウォリアーの波状攻撃に加え、一瞬の間を突いてスケルトンナイトの強烈な一撃やバンシーやスペクター等の魔法攻撃が織り交ぜられてアラン達の体力と気力の消耗を誘う。
 その様子を見たレナがゼロに問いかけた。

「私が口出しすることではないのかもしれないけど、アンデッドの損失を無視したようなこんな消耗戦は貴方らしくないと思う」

 レナの問いにもゼロは表情を変えない。

「これが死霊術師の本来の戦いです。それに私はアンデッドを無駄に損耗したりはしてませんよ」

 その言葉にライズが興味を示した。

「どういうことだ?」
「はい、基本的に不死者たるアンデッドを倒すことはできません。滅するには浄化するしかないんです。確かに物理的にダメージを与えることもできますし、機能停止に追い込むこともできます。使役する者のいない野良ならばそれで倒したと判断しても良いでしょう。しかし、私の使役する彼等のように死霊術師の支配下にあるアンデッドは戦闘不能に陥ると冥界の狭間に還るだけで、魔力を回復して何度でも蘇ります。私達は今それを繰り返しているだけなんですよ。絶え間なく襲い来るアンデッドとの果てしない戦いは私の魔力が続く限り終わりません」

 現にアンデッドに囲まれたアランとイザベラは周囲のアンデッドを脅威とは見ておらず、淡々と撃退しているだけで、その動きに危うさは全く感じられない。
 アンデッドの攻撃が彼等に届くことは無く、ダメージを与えることはできない。
 しかし、延々と続く攻撃は否が応でも彼等の体力と精神力を削っていく。

「端から見れば卑怯この上ない戦いに見えるでしょう。でも、これが死霊術を相手に戦うということです。補給の必要も疲れも無い不死の軍勢を呼び出す死霊術師の脅威、権力者に利用され、闇に葬られてきた所以です」

 しかし、徐々にではあるが、撃退される数と戦線に投入される数のバランスが崩れ始めた。

「流石ですね。まだ余裕がありますが押され始めました」

 ゼロの表情は真剣だが、ライズは飛び出したくて仕方なく、ウズウズしている様子だ。
 イリーナも時期を見ているのか弓に矢をつがえてその時を待つ。

「そろそろ出番だな。俺のタイミングで飛び込むぞ。いいなゼロ?」

 剣を構えて戦いを見据えるライズは獰猛な笑みを浮かべていた。

「構いません。何時でもどうぞ」

 ゼロの言葉が終わる前にまるで飢えた狼のような勢いでライズが飛び出していった。
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