職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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特務兵との戦い2

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 馬車の中から響くゼロの声を声を聞いても特務兵の2人は余裕の姿勢を崩さなかった。

「魔封じの枷をかけられていて何も手出しできないのですから余計な口出しをしないでくださいまし。そうでなくとも汚らわしい死霊術師の声なんて虫唾が走るのですから」

 イザベラは心底嫌そうな表情で吐き捨てる。
 アランはゼロの話など聞く必要もないといった態度で気にとめる様子もなくレナに対峙していた。

「もう一度言います。彼女は何も関係ありません。彼女に手出ししなければ私は今までどおり何も逆らいません。しかし、それが聞き入れられないならば、私は私の力を行使することに躊躇いません!」

 馬車の中からのゼロの「何も関係ない」との言葉にレナの表情が一層不機嫌になる。
 それを見逃さなかったイザベラが笑い声をあげた。

「そうは言っても彼女の方は関係大有りのようですわよ。それに、そこで何も出来ない貴方が何を言っても無駄ですわ。元々彼女も排除対象なのですから」

 イザベラの表情から笑みが消え、サーベルの切っ先をレナに向けた。
 レナは2人の攻撃に備えて杖の先端に魔力を集中する。
 目の前にいる特務兵の2人、例え1人だけでもレナの力では敵わないだろうと思う。
 通常の兵や聖騎士ならばどれほどの数がいようとも対処できると踏んでいたが、目の前の2人はレナの予想を大きく上回る力を持っている。
 その強さは想像すら出来なかった程だ。
 自分はここで命を落とすかもしれない、いや、きっと死ぬ。
 ならばゼロだけは助け出したい。
 それすらも叶わないならば、せめてゼロの拘束を解き放ち、共に相手に一矢報いてからにしたい。
 その思いがレナの心を奮い立たせた。
 先手必勝!

「プラズマランス!サンダーアローッ!」

 レナは得意の雷撃魔法を連続に解き放つ!
 杖からはレナの必殺魔法である電光の槍、左手の指先からは雷の矢を放つ。
 それぞれの魔法の標的にされたイザベラとアランだが、簡単にとはいかないまでもアランは雷の矢を受け止め、イザベラは電光の槍を躱した。
 プラズマランスの方が遥かに強力な魔法であったため、力を逸らし切れなかったイザベラの頬にほんの僅かな傷が刻まれ、長い髪の先を焦がした。
 レナの魔法をもってしても2人には歯が立たない。

「たいしたものですわね。私に傷をつけましたわ。こんなこと、初めてですのよ」

 傷付けられたことを何とも感じていない、それどころかイザベラは嬉しそうな表情を浮かべながらサーベルを構え直す。

「来るっ!」

 レナが感じたその刹那、イザベラが一気に間合いを詰め、レナの目前に迫る。
 裾が長いドレス姿とは思えない程のスピードだ。
 そしてイザベラのサーベルの刃が寸分違わずレナの首目掛けて走る。

シャリンッ!
     ドンッ!

 金属が擦れ合う音と鈍い音が響き渡り、その場にレナが倒れた。
 しかし、その首は切り飛ばされてはいない。

「まあ、素晴らしい。私の一撃を受けるなんて」

 倒れたレナを見下ろしながらイザベラが笑った。
 サーベルの刃がレナの首を捉える直前、レナは杖のレイピアを抜きサーベルの軌道を逸らすことに成功した。
 しかし、即座に体勢を変えたイザベラがレナの腹部に膝蹴りを食らわせ、それをまともに受けたレナが倒れたのだった。

「私の蹴り、なかなかのものでしょう?私、剣技だけでなく体術も嗜みますのよ」

 どうにか体を起こしたレナの口の端からは血が流れている。

「あら?無理して動かなくて宜しいのですのよ?」

 見下ろすイザベラの顔目掛けてレナが火球を投射するが、イザベラは僅かに首を傾げて避けるとレナの胸元に自らのつま先を食い込ませた。

「グッッ!」

 声を上げることもできずに吐き出されたレナの血がイザベラのドレスの裾を赤く染めた。
 イザベラは特に気にした様子もない。

「構いませんのよ。女性にとってドレスとは戦闘服。舞踏会でも戦場でもね。多少の汚れは気にしませんの」

 イザベラは倒れたレナの喉元に切っ先を向けた。

「ゼロ・・・ごめんなさい」

 圧倒的な実力差にレナの心が折れた。

「やめろ!」

 ゼロの声が響いたその時、イザベラの足元の土が盛り上がり、そこから現れた白骨化した人の手がイザベラの足首を掴んだ。

「クッ!」

 イザベラは咄嗟にその手を振り払い、後方に飛び退いた。
 その間に地中から重厚な大盾を携えた白骨が這い出してきてレナを守るように立つ。
 振り返れば馬車の周囲が異様な雰囲気に包まれている。
 アランがその異変に気付いた。

「待て、何故魔力が高まっている」

 イザベラもサーベルを引いて馬車を警戒する。
 馬車からは魔力の高まりが感じられている。
 やがて馬車の中から緑色のドレスを着た黒髪の女性が抜け出してきて頑丈な鍵を氷結魔法で凍り付かせた。
 続いて漆黒の亡者、スペクターが抜け出してきて凍り付いて脆くなった鍵に衝撃の魔法を叩きつけて粉砕する。
 馬車の扉が開かれた。
 スペクターが膝をつき、バンシーがカーテシーで迎える中、ゼロが馬車から降り立つ。
 その腕を拘束していた魔封じの枷は破壊されていた。

「理不尽に拘束されても私は何一つ抵抗しなかった。死霊術が貴方達の教義に反することは分かりますが、私は信仰する神を持ちませんので私には預かり知らぬことです。それでも市民の信仰に影響があるならば多少の刑罰ならば受けても構いませんでした。まあ、命まで取られることまでは受け入れられませんがね」

 静かに話すゼロの表情は全てを飲み込む闇のようだった。
 レナはそれがゼロの怒りであることを知っている。

「ただ、何よりも許せないのが、私に縁ある人達が私のことで危機に晒されること。今、レナさんがそのような目にあわされて我慢の限界です」

 ゼロの背後にはバンシーとスペクターが付き従い、更に大地からはスケルトンナイトが這い出してきてゼロの後に続く。
 レナの前に立つのもスケルトンナイトだ。

「何故ですの?魔封じの枷が掛けられていた筈ですわ」

 イザベラの問いにゼロは火傷した手首と壊れた手錠を見せる。

「死霊の気を纏う私には聖職者の祈りの類いが効かないんですよ。回復の祈りも効きませんが、それと同時にこのような聖なる器具や聖水等も私には効きません。軽く火傷するだけで煩わしいだけなんです」

 ゼロは壊れた手錠を放り投げ、そのままアランとイザベラには目もくれず、倒れているレナに歩み寄った。

「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」

 ゼロは膝をつくとレナを抱き起こす。
 意識の薄れていたレナだが、残された僅かな力で背負っていた剣をゼロに渡した。
 剣を受け取ったゼロは笑みを浮かべた。

「私も拘束されていたので薬の持ち合わせが無かったのですが、鎖鎌でなく剣を持ってきてくれて良かったです」

 話しながら剣の鞘の先の金具を外すと鞘の内側から液体の入った小さな容器を取り出し、その封を切ってレナの口に少しずつ注ぎ込んだ。

「非常用に隠しておいたものです。殆ど流通していない特級の回復薬ですよ」

 ゼロはモースに剣を依頼した際に鞘に細工をして非常用に薬を仕込んでいたのだ。
 そこに仕込んでいたのはゼロが普段雑嚢に入れている高級薬など比べ物にならない回復薬だった。
 命さえあればいかなる状態でもかなりの確率で回復するといわれる程で英雄や勇者が万が一に備えて持つような逸品だ。
 レナの呼吸が落ち着いたのを見届けたゼロは剣を手に立ち上がり背後に控えるバンシーと大盾を持つスケルトンナイトに命令を下す。

「貴女達はレナさんを守ってください。何があってもです。状況によっては私を捨て置いて彼女を連れて逃げなさい」

 ゼロの命令にスケルトンナイトは無言で従い、バンシーは笑顔を見せた。

「畏まりました。主様は何の心配もなさらずに戦いに集中してください」

 スケルトンナイトとバンシーがレナの守りに付いたのを確認したゼロはゆっくりと振り返った。

「さて、ここからは私が相手です」

 歩み出すゼロの背後にはスケルトンナイト2体とスペクターが続いた。
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