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異端審問1
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ゼロは護送用の馬車で王都に連行された。
護送用馬車といっても荷台が格子で囲まれているだけのもので外部からは丸見えになっている。
王都の中心を貫く大通りをゼロを乗せた馬車が通れば道行く人々が足を止めてその様子を見ており、完全に晒し者、見せしめであった。
そんな注目を浴びる中で後ろ手に拘束されて床に転がされたまま身動きも満足に取れないゼロだが、その表情は落ち着き払っていた。
初めて見る王都を物珍しげに見回している。
道行く人々の中に2人の冒険者が護送用の馬車に気が付いて足を止めた。
剣士とレンジャーの2人組、レンジャーはエルフの女性、2人とも銀等級の高位冒険者だった。
「おい、今の馬車に拘束されていたのゼロじゃないか?」
剣士ライズ・サイファーが傍らにいたレンジャーのイリーナ・ルフトに声をかける。
「ええ、間違いないわ。風の都市のゼロよ。噂では黒等級に上がったとは聞いたけど」
「聖監察兵団に拘束されるなんざ尋常じゃないぞ」
かつて一度だけ共に戦っただけの仲だが、その時の記憶のゼロの人となりからは目の前のゼロの境遇が信じられなかった。
「あの時から時間が経っているから分からないわ。でも、私達の知っているゼロのままならば考えられな・・いえ、1つだけ考えられるとすれば」
「ネクロマンサーか?」
「ええ、死霊術を使う上位冒険者なんて聖務院にしてみれば看過できない存在でしょうね」
「ちょっと調べてみるか?」
「バレたら聖務院に目を付けられるわよ?」
「ちょっと調べてみるだけだ。もしもゼロが変わっちまっていて拘束される理由があるならばそれまでさ。まぁ付き合えよ」
ライズの誘いにイリーナはため息をつきながらも頷いた。
「まあ今は依頼も受けていないしね。いいわ、調べてみましょう。私もゼロが捕まるようなことをしたなんて信じたくないしね」
2人は馬車の去った方向に向けて歩き出した。
馬車は聖務院本庁舎の敷地内に入った。
庁舎の裏口で馬車から降ろされたゼロは厳重な監視下で後ろ手の拘束を解かれ、体の前に手錠を掛けなおされてそのまま独房に入れられた。
しかし、独房とはいえ中は清潔が保たれて置かれている寝具も質素ながら清潔である。
格子がはめられているが小さな窓があり、日の光も差し込むようになっていた。
「さすがは聖務院ですね。割と快適ではありませんか」
ゼロは体をほぐしながら独房に置かれている椅子に腰掛けた。
「しかし、この何の意味もない手錠、なんとかなりませんかね?」
ゼロは手首に嵌められたら手錠を眺めながら呟く。
魔術封じの聖気が込められた手錠だが、ゼロが纏っている死霊の気に反応して手首に軽い火傷を負ってしまっている。
それが煩わしくて仕方がない。
結局、ゼロが聖務院に連行されたその日は取り調べ等は行われず、ゼロは手錠を掛けられたままではあるが、清潔なベッドでゆっくりと休むことができた。
翌日、看守に囲まれて独房から出されたゼロは取り調べのための部屋に連れてこられた。
部屋に入ると中央に質素な椅子が置いてあり、その椅子を三方から囲むように机と椅子が置かれ、それぞれの席に座る人物がゼロのことを冷たい視線で見ていた。
看守に促されてゼロが椅子の前に立つとちょうど正面に座っていた中年の男性が口を開いて宣言した。
「これより風の都市冒険者であるゼロに対する異端審問を開始する」
ゼロに対する審問がついに始まった。
その頃、ゼロが王都に連行されてから遅れること1日、ゼロを追ってきたレナが王都に到着した。
レナはゼロが連れ込まれた聖務院には向かわず、魔導院に向かい知己のある魔導院幹部に面会を求めた。
魔導院とは聖務院と同じ聖魔省傘下の組織であり、魔法使いの教育、国のための魔導研究、宮廷魔術師の排出とその権限は聖務院とほぼ同じで政治にも強く関係している。
そんな魔導院だが、魔導の知識を究めんとする魔導師は聖職者と違って呪術や死霊術にも寛容であり、魔導院においても少数ではあるがそれらを探求する魔導師が所属して王国の法に触れない範囲での研究を行っている。
因みにこの世界での魔法使いは大まかに3つの名称に分けられている。
魔法使いの大半を占める魔術師、魔術師が経験を積み魔導師となり、魔導を究めて賢者となる。
魔導院でレナは自らの師である老賢者と中年の魔導師に面会してことの成り行きを説明した上で助言を求めた。
レナの報告を聞いた老賢者と魔導師は揃って瞑目して考え込んだ。
「なるほど、ルファード君の報告が確かならば今回の聖務院の所業は強行策に過ぎると言わざるをえないな」
「確かに、ネクロマンサーを疎ましく思うのは聖職者として真っ当な考えではある。しかし、何の嫌疑もない者に対して嫌疑をでっち上げてまで拘束するとは国の機関の所業とは思えない」
2人の言葉にレナも頷く。
「はい、ゼロは確かにネクロマンサーとして多くの死霊を使役しています。でもその行動は何ら非難されるものではありません。人に理解されなくても、避けられても、軽蔑されても冒険者として人々の為に働いていました」
「うむ、その結果黒等級まで登りつめたネクロマンサーか。むしろ魔導院に欲しい位だな。そのネクロマンサーの出自を知っているか?」
老賢者の問にレナは首を振る。
「いえ、ゼロという名も冒険者登録に必要だから自分で適当につけたもので、本名ではないそうです。どうやら彼自身も自分の出自を知らないようです。ただ、彼はネクロマンサーであることに誇りを持っていて、その一点については一歩も譲ることはありません。なのに、死霊術は倫理に反するからと他人からは軽蔑されることを当然だとも思っています。しかし!だからといって、そんなバカな彼でも、今回のように不当に拘束されるいわれはありません!」
徐々に声を上げて語るレナの様子を見た賢者達は顔を見合わせて笑った。
「なんですか?」
2人の表情に気が付いたレナは怪訝な顔をする。
「いや、ルファード君がこんなにも夢中になるとはね」
「本当に、魔導学院やここで研究に打ち込んでいたころは他者に興味を示さない雰囲気だったからね。今の君を見てとても新鮮な気持ちだよ」
レナは顔を赤くした。
「そっ!そんなことは!」
抗議の声を上げるレナを笑いながら制した賢者は腰を上げた。
「まあ、かわいい教え子の頼みだ。私達も協力しよう」
「そうですね。何より国を支える中枢機関の過ちは正さなければなりません。ただ、我々はあまり表立っては動けないよ。聖務院にチクチクと圧力をかける程度だ」
レナは立ち上がって頭を下げた。
「よろしくお願いします。後は自分でなんとかします」
言い残して退室しようとしたレナを賢者が呼び止めた。
「あまり無理はしないように。聖務院は本来は真っ当な組織ではあるが、強大な組織故に必ず裏もある。気をつけるのだぞ?」
「わかりました。」
今一度頭を下げて退室したレナを見送った2人は再び顔を見合わせて笑った。
「あの氷のような娘があそこまで入れ込むとはな」
「本当です。さて、私は早速聖務院に対する圧力に取りかかりますよ」
「うむ。聖務院の過ちを正すにしても組織に対する被害は最小限に抑えるようにな。国の基盤を揺らぐようなことのないように、慎重にことを運べよ。」
「心得ております」
魔導師が退室して1人残った賢者は再び笑みを浮かべた。
「本当にあの娘が、変わるものだ。ますますその男に興味が出たわ。何よりも高位のネクロマンサーか、この国に取って大きな力になるだろうよ。なればこそ敵にしてはいけない」
老賢者は1人呟いた。
護送用馬車といっても荷台が格子で囲まれているだけのもので外部からは丸見えになっている。
王都の中心を貫く大通りをゼロを乗せた馬車が通れば道行く人々が足を止めてその様子を見ており、完全に晒し者、見せしめであった。
そんな注目を浴びる中で後ろ手に拘束されて床に転がされたまま身動きも満足に取れないゼロだが、その表情は落ち着き払っていた。
初めて見る王都を物珍しげに見回している。
道行く人々の中に2人の冒険者が護送用の馬車に気が付いて足を止めた。
剣士とレンジャーの2人組、レンジャーはエルフの女性、2人とも銀等級の高位冒険者だった。
「おい、今の馬車に拘束されていたのゼロじゃないか?」
剣士ライズ・サイファーが傍らにいたレンジャーのイリーナ・ルフトに声をかける。
「ええ、間違いないわ。風の都市のゼロよ。噂では黒等級に上がったとは聞いたけど」
「聖監察兵団に拘束されるなんざ尋常じゃないぞ」
かつて一度だけ共に戦っただけの仲だが、その時の記憶のゼロの人となりからは目の前のゼロの境遇が信じられなかった。
「あの時から時間が経っているから分からないわ。でも、私達の知っているゼロのままならば考えられな・・いえ、1つだけ考えられるとすれば」
「ネクロマンサーか?」
「ええ、死霊術を使う上位冒険者なんて聖務院にしてみれば看過できない存在でしょうね」
「ちょっと調べてみるか?」
「バレたら聖務院に目を付けられるわよ?」
「ちょっと調べてみるだけだ。もしもゼロが変わっちまっていて拘束される理由があるならばそれまでさ。まぁ付き合えよ」
ライズの誘いにイリーナはため息をつきながらも頷いた。
「まあ今は依頼も受けていないしね。いいわ、調べてみましょう。私もゼロが捕まるようなことをしたなんて信じたくないしね」
2人は馬車の去った方向に向けて歩き出した。
馬車は聖務院本庁舎の敷地内に入った。
庁舎の裏口で馬車から降ろされたゼロは厳重な監視下で後ろ手の拘束を解かれ、体の前に手錠を掛けなおされてそのまま独房に入れられた。
しかし、独房とはいえ中は清潔が保たれて置かれている寝具も質素ながら清潔である。
格子がはめられているが小さな窓があり、日の光も差し込むようになっていた。
「さすがは聖務院ですね。割と快適ではありませんか」
ゼロは体をほぐしながら独房に置かれている椅子に腰掛けた。
「しかし、この何の意味もない手錠、なんとかなりませんかね?」
ゼロは手首に嵌められたら手錠を眺めながら呟く。
魔術封じの聖気が込められた手錠だが、ゼロが纏っている死霊の気に反応して手首に軽い火傷を負ってしまっている。
それが煩わしくて仕方がない。
結局、ゼロが聖務院に連行されたその日は取り調べ等は行われず、ゼロは手錠を掛けられたままではあるが、清潔なベッドでゆっくりと休むことができた。
翌日、看守に囲まれて独房から出されたゼロは取り調べのための部屋に連れてこられた。
部屋に入ると中央に質素な椅子が置いてあり、その椅子を三方から囲むように机と椅子が置かれ、それぞれの席に座る人物がゼロのことを冷たい視線で見ていた。
看守に促されてゼロが椅子の前に立つとちょうど正面に座っていた中年の男性が口を開いて宣言した。
「これより風の都市冒険者であるゼロに対する異端審問を開始する」
ゼロに対する審問がついに始まった。
その頃、ゼロが王都に連行されてから遅れること1日、ゼロを追ってきたレナが王都に到着した。
レナはゼロが連れ込まれた聖務院には向かわず、魔導院に向かい知己のある魔導院幹部に面会を求めた。
魔導院とは聖務院と同じ聖魔省傘下の組織であり、魔法使いの教育、国のための魔導研究、宮廷魔術師の排出とその権限は聖務院とほぼ同じで政治にも強く関係している。
そんな魔導院だが、魔導の知識を究めんとする魔導師は聖職者と違って呪術や死霊術にも寛容であり、魔導院においても少数ではあるがそれらを探求する魔導師が所属して王国の法に触れない範囲での研究を行っている。
因みにこの世界での魔法使いは大まかに3つの名称に分けられている。
魔法使いの大半を占める魔術師、魔術師が経験を積み魔導師となり、魔導を究めて賢者となる。
魔導院でレナは自らの師である老賢者と中年の魔導師に面会してことの成り行きを説明した上で助言を求めた。
レナの報告を聞いた老賢者と魔導師は揃って瞑目して考え込んだ。
「なるほど、ルファード君の報告が確かならば今回の聖務院の所業は強行策に過ぎると言わざるをえないな」
「確かに、ネクロマンサーを疎ましく思うのは聖職者として真っ当な考えではある。しかし、何の嫌疑もない者に対して嫌疑をでっち上げてまで拘束するとは国の機関の所業とは思えない」
2人の言葉にレナも頷く。
「はい、ゼロは確かにネクロマンサーとして多くの死霊を使役しています。でもその行動は何ら非難されるものではありません。人に理解されなくても、避けられても、軽蔑されても冒険者として人々の為に働いていました」
「うむ、その結果黒等級まで登りつめたネクロマンサーか。むしろ魔導院に欲しい位だな。そのネクロマンサーの出自を知っているか?」
老賢者の問にレナは首を振る。
「いえ、ゼロという名も冒険者登録に必要だから自分で適当につけたもので、本名ではないそうです。どうやら彼自身も自分の出自を知らないようです。ただ、彼はネクロマンサーであることに誇りを持っていて、その一点については一歩も譲ることはありません。なのに、死霊術は倫理に反するからと他人からは軽蔑されることを当然だとも思っています。しかし!だからといって、そんなバカな彼でも、今回のように不当に拘束されるいわれはありません!」
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「なんですか?」
2人の表情に気が付いたレナは怪訝な顔をする。
「いや、ルファード君がこんなにも夢中になるとはね」
「本当に、魔導学院やここで研究に打ち込んでいたころは他者に興味を示さない雰囲気だったからね。今の君を見てとても新鮮な気持ちだよ」
レナは顔を赤くした。
「そっ!そんなことは!」
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「まあ、かわいい教え子の頼みだ。私達も協力しよう」
「そうですね。何より国を支える中枢機関の過ちは正さなければなりません。ただ、我々はあまり表立っては動けないよ。聖務院にチクチクと圧力をかける程度だ」
レナは立ち上がって頭を下げた。
「よろしくお願いします。後は自分でなんとかします」
言い残して退室しようとしたレナを賢者が呼び止めた。
「あまり無理はしないように。聖務院は本来は真っ当な組織ではあるが、強大な組織故に必ず裏もある。気をつけるのだぞ?」
「わかりました。」
今一度頭を下げて退室したレナを見送った2人は再び顔を見合わせて笑った。
「あの氷のような娘があそこまで入れ込むとはな」
「本当です。さて、私は早速聖務院に対する圧力に取りかかりますよ」
「うむ。聖務院の過ちを正すにしても組織に対する被害は最小限に抑えるようにな。国の基盤を揺らぐようなことのないように、慎重にことを運べよ。」
「心得ております」
魔導師が退室して1人残った賢者は再び笑みを浮かべた。
「本当にあの娘が、変わるものだ。ますますその男に興味が出たわ。何よりも高位のネクロマンサーか、この国に取って大きな力になるだろうよ。なればこそ敵にしてはいけない」
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